アーバンライナー。名古屋と大阪を結ぶイメージの車両です。しかし、意外と伊勢方面の特急にも使われ、その快適性を広げています。そんな伊勢方面でのアーバンライナーを堪能しました。
写真1. 宇治山田に到着するアーバンライナー
復習:伊勢方面への近鉄特急
簡単に伊勢方面の近鉄特急と伊勢志摩ライナーについてまとめます。
復習1. 近鉄の伊勢方面の特急列車
伊勢方面の特急は多くの車両が充当されます。汎用特急車、伊勢志摩ライナー、アーバンライナー、しまかぜです。特急車両が単一でないことに注意が必要です。
写真群1. 汎用特急車(これは比較的新しいほう)
写真群2. 2階建て車両を連結したビスタカー
写真群3. しまかぜの補完ともいえる伊勢志摩ライナー
写真群4. たまに乗り入れるアーバンライナー
写真群5. 大人気のしまかぜ
実はいちばん本数の多いのは汎用特急車です。汎用特急車には古い車両や新しい車両がありますが、両者は共通運用であり、古豪による移動を楽しめるか、新しい車両によるこぎれいな移動かは運です。
汎用特急車に混ざり、(団体向け以外では)近鉄唯一の2階建て車両のビスタカーも運用されています。ビスタカーの4両編成のうち半数は通常の平屋型のレイアウトですので、その場合は古豪の汎用特急車に乗るようなイメージです。
大阪-名古屋の速達型の特急(甲特急と表現もなされる)がひのとりに変わったこともあり、(従来充当されていた)アーバンライナーも伊勢方面に充当されます。ひのとりは伊勢方面にはやってきません。ひのとりは全列車津に停車しますので、名古屋→津をひのとりで移動、後続の特急で津→伊勢方面を移動というのは理論上は可能ですが、そのようなことをするくらいなら最初から後続の特急に乗るでしょう!
しまかぜが登場するまでの伊勢方面のイメージリーダーは伊勢志摩ライナーでした。サロン席を備えるなど、リゾートを意識した車内が特徴です。ただし、通常の特急に混ざって運転されるので、伊勢に向かわないビジネス向けの乗客や通勤通学客を意識した「スタンダード」な設備もあります。しまかぜの登場後も伊勢志摩ライナーが引退することもなく、元気に活躍しています。
人気なのはしまかぜです。名古屋、大阪、京都から賢島まで1日1往復運転され、豪華な車内が特徴です。人件費はかかりそうですが、1日1往復として人件費の増加を最小限に抑えている印象です。車両が限られているので、名古屋系統は木曜運休、京都系統は水曜運休、大阪系統は火曜運休です。運休日を分散させ、しまかぜへの乗車チャンスを毎日確保する近鉄の気遣い、商売精神を感じます。
復習2. アーバンライナーの概要
アーバンライナーの概要を示します。近鉄では下記の通り表現しています。
大阪難波⇔近鉄名古屋を中心に運行
“ネクスト(next)”と“プラス(plus)”は「ゆりかご式シート」をはじめ、バリアフリー化などにより、快適な乗り心地と移動時間をお楽しみいただけます。
アーバンライナー(近鉄公式サイトより引用)
快適性を前面に押し出している特急車両です。ここでは大阪難波と近鉄名古屋を「中心に」運行していることがポイントです。それ以外の運転系統もあるということです。
写真2. アーバンライナーの車内(賢島で撮影)
アーバンライナーのレギュラーシートの車内です(写真2)。間接照明や荷棚下の照明など、落ち着いて高級な雰囲気を演出しています。
写真3. デラックス席の車内(近鉄名古屋で車外から撮影)
横3列配列のデラックス席もあります(写真3)。乗ったことはないので車外からの撮影です。
アーバンライナーは洗練された車両ですが、新幹線という強い競争相手の存在する環境下ではさらなる差別化が必要という判断か、さらに新しい車両が投入されました。
(参考)写真4. ひのとりのレギュラーシートの車内
ひのとりに実際に乗っています。
このような快適な車両が投入され、従来の名阪特急を担っていたアーバンライナーは職を追われました。具体的には、下記のイメージです。
- (従来)速達型にアーバンライナー、主要駅停車型に汎用特急車とアーバンライナー
- (現在)速達型にひのとり、主要駅停車型にアーバンライナー
すなわち、従来の主要駅停車型に運用されていたアーバンライナーが余ったということです。とはいっても、主要駅停車型に使われていたアーバンライナーの本数は多くなく、大量に余ったわけではありません。ともあれ、名阪特急以外にもアーバンライナーが使われる余地が生まれたということです。
2024年現在は名古屋と伊勢を結ぶ特急に充当されています(このほか朝夕の間合い運用で大阪難波-奈良や名張以西完結の運用あり)。
表1. アーバンライナー充当の伊勢方面の列車一覧
区間 | 充当列車 |
近鉄名古屋→伊勢方面 | (平日)6:50、9:10、15:10、18:02、21:10、21:45 (土曜・休日)8:10、8:50、12:10、13:50、14:50、16:50、17:10、21:10、22:25 |
伊勢方面→近鉄名古屋 | (平日)6:17、6:37、10:14、13:14、18:14、19:52 (土曜・休日)6:22、7:48、10:52、11:15、15:23、15:52、16:52、18:52、20:14 |
- 伊勢方面からの時刻は宇治山田駅基準
- 下線部で示した時刻の列車は賢島発着でない、鳥羽か五十鈴川発着便
- 灰色で示した時刻は松阪行き
平日、土曜・休日ともに伊勢志摩ライナーは5往復運転されていますので、アーバンライナー含めそれなりの本数です。土曜・休日は宇治山田では伊勢志摩ライナーよりもアーバンライナーのほうが本数が多いくらいです。
この程度の本数を汎用特急車からアーバンライナーに変えることにより、汎用特急車の運用範囲を狭め、そのぶん古豪の汎用特急車を置き換えたという側面が強いのでしょう。
復習3. 伊勢志摩チケレス割
宇治山田-賢島は普通電車が1時間間隔、特急が30分~1時間間隔の時間帯があり、特急のほうが本数が多いです。そのため、特急に乗らざるを得ない部分もあります。
また、特急が1時間間隔(あるいは30分間隔)で運転されているといっても、実態は名古屋や大阪から宇治山田までに下車する割合が多く、宇治山田から賢島までは空いています。だからといって2時間間隔に減便すると賢島へのアクセスに近鉄が使われなくなります。そんなこともあり、1時間間隔を確保しています。
1時間間隔で運転せざるを得ない特急。そしてその利用率は悪く、普通電車がわりにも使ってもらいたい、そんな近鉄が編み出した秘策は伊勢志摩チケレス割です。簡単にいうと、乗客が少ない伊勢市-賢島をインターネットで特急券を買うと320円で済むというものです。駅の券売機の維持費用や駅窓口の人件費がかからないので、そのぶんを乗客に還元しようという意図も見えます。
近鉄特急は定期券での乗車が認められており(=特急列車車内で乗車券を確認する必要がない)、当該の特急の座席指定券を買うだけのシステムですので、このような乗車の場合は駅で特急券を引き換える必要もありません。(会員登録のほうがポイントサービスがありますが、それを承知であれば)会員登録も不要です。非常にシンプルでわかりやすいシステムです。民鉄有料特急の多くに共通するチケットレスサービスです。JRもこうすれば良いのに…。
余談ですが、このときはデジタルまわりゃんせを使っていたので、駅の窓口や券売機を使わない、まさにDX化の進んだ顧客としてふるまっていました。
アーバンライナーに実際に乗車
御託はこの程度にして、実際に乗ってみましょう!
写真5. 宇治山田に到着するアーバンライナー
宇治山田にアーバンライナーがやってきました(写真5)。どうせならと思い、先頭車を選択しました。
写真6. 車内はガラガラ
車内はガラガラです(写真6)。名古屋からの毎時2本が過剰であり、伊勢市や宇治山田からは割り引いて空席を埋めるのが求められると感じる瞬間です。
写真7. 住宅が広がる
宇治山田から鳥羽までは比較的新しい路線です。その区間にも住宅が建っており、都市圏鉄道の雰囲気を感じます(写真7)。
写真8. 五十鈴川に停車!
五十鈴川に停車します(写真8)。伊勢神宮の内宮の最寄駅とされており、上級者はここから向かうのでしょうか。それもあり、近鉄名古屋発着の急行と特急がそれぞれ1時間間隔でここで折り返します。名古屋からの五十鈴川行き特急はここで普通電車に接続し、名古屋から賢島までの乗車チャンスを確保しています。上りについては賢島発の大阪方面の特急が発車し、その直後に五十鈴川始発の名古屋行き特急に連絡します。
写真9. 高架区間を走る
高架区間を走ります(写真9)。
写真10. 山あいを走る
山あいを走ります(写真10)。家が古いように見え、多少の歴史を感じます。
写真11. 山あいを走る
山あいを走ります(写真11)。
写真12. 海沿いを走る
海沿いを走ります(写真12)。
写真13. 海沿いを走る
海沿いを走ります(写真13)。近鉄鳥羽線は「とば」すために山間部をトンネルで貫通し、海沿いを走るイメージはありませんでしたのでこの光景は意外でした。
写真14. 鳥羽の市街地に入る
鳥羽の市街地に入ります(写真14)。
写真15. 鳥羽に停車!
鳥羽に停車します(写真15)。ここもそれなりの観光地であり、鳥羽までは名古屋方面と大阪方面からそれぞれ1時間間隔が約束されています。また、普通電車も毎時2本が約束され、ここまでは比較的利用が多いことが読み取れます。ここからは名古屋-賢島の特急が2時間間隔になる時間帯があり(名古屋発9:10~11:10と賢島発10:30~12:30~14:30、ただし名古屋発10:25のしまかぜがその穴を埋める)、賢島から鳥羽まで普通電車に揺られるか、宇治山田で特急の乗りかえを選択することになります。
乗客も少ないので、気分転換に最前部に行きましょう!
写真16. 鳥羽を発車!
鳥羽を発車しました(写真16)。
写真17. 鳥羽の港町を走る
鳥羽の港町を走ります(写真17)。水族館やミキモト真珠島があり、観光客が行く場所でしょう。逆にいうと、伊勢神宮と鳥羽エリアを目的地として、賢島まで向かわない人もいて、鳥羽以南の本数の少なさにつながるのでしょう。
写真18. 中之郷を通過!
中之郷を通過します(写真18)。鳥羽水族館に最も近い駅ですが、日中の普通電車は毎時1本であり、観光客向けのダイヤではありません。特急を停車させ、小金稼ぎをすれば良いと感じますが、しない理由はあるのでしょうか。名古屋から続いた複線区間はいったん終了です。
写真19. 志摩赤崎が見えてきた
志摩赤崎が見えてきました。鳥羽から賢島までは志摩線で、単線が基本でカーブの多い線形でした。鳥羽線開業までは飛び地的な路線でした。現在は改良が進んでいますが、改良前の面影が残る印象です。
写真20. ポイントを通過!
ポイントを通過します(写真20)。上りの場合、通過列車でも40km/hに減速せざるを得ず、スピードアップの障壁です。
写真21. 上りの特急がやってきた
単線区間なので、特急といえど交換待ちから逃れられません。上り名古屋行き特急とすれ違います(写真21)。ここで気分転換の前面展望を終了しました。
写真22. うねうね走る
うねうね走ります(写真22)。志摩線はもともとカーブが多く、速度はそこまで出ません。もともとの速度が低いということは同じ10km/hのスピードアップでも効果は高く、何とかならないかと感じます。
写真23. 加茂川沿いを走る
加茂川沿いを走ります(写真23)。
写真24. 民家が減ってきた
民家も減ってきました(写真24)。普通電車が毎時1本なことも納得の風景です。
写真25. 複線区間に入った
複線区間に入りました(写真25)。比較的長い複線区間です。さきほどの名古屋行き特急とここですれ違うと効率が良さそうですが、この複線区間以外の制約もありましょう。
写真26. 白木を通過!
白木を通過します(写真26)。志摩線内に通過線のある駅が存在するとは思いませんでしたので、驚きました。現在は普通電車が特急を待つことはあまりありませんが(有効列車を増やすため)、特別枠のしまかぜはここで普通電車を追い抜きます。
写真27. 山間部を走る
山間部を走ります(写真27)。
写真28. 町が見えてきた
町が見えてきました(写真28)。
写真29. 志摩磯部に停車!
志摩磯部に停車します(写真29)。スペイン風の駅舎で志摩スペイン村の最寄駅として整備されました。もっとも現在は志摩スペイン村へのアクセス駅は鵜方とされており、スペイン風の雰囲気を感じて降りると、志摩スペイン村へのアクセスで苦労します。
写真30. 志摩スペイン村が見える
志摩スペイン村が見えます(写真30)。スペイン村というからにはAVE(スペインの高速列車)も展示されているのでしょうか。
写真31. スペイン村があれど純和風の風景が続く
スペイン村があっても純和風の風景は続きます(写真31)。スペイン村は欧州の光景、ここは和風の光景とコントラストが激しいです。中国とロシアの国境はアジアとヨーロッパの境界という雰囲気がある、ということをふと思い出しました。
写真32. 鵜方付近の風景
再び町に入りました(写真32)。鵜方付近です。現在は志摩スペイン村の最寄駅は鵜方です。
写真33. 複線区間を走る
複線区間を走ります(写真33)。志摩線は単線区間が主体という先入観がありましたが、現実には複線化が進んでいます。
写真34. 賢島に近づいた
賢島に近づきました(写真34)。
写真35. 本州から離れる
本州から離れます(写真35)。ここは川に見えますが、海であり、賢島駅は本州島ではなく賢島にある駅なのです。
写真36. 賢島駅構内に入る
賢島駅構内に入ります(写真36)。
写真37. 賢島に到着!
賢島に到着しました(写真37)。
写真38. 若干名が降りる
若干名が降りてきました(写真38)。平日でしたが、夕方でもこの程度の利用しかありませんでした。このあとに宿泊したホテルの繁盛ぶりを考えると、鉄道利用客の割合が少ないことがわかります。
アーバンライナーに乗ってみて
写真39. 前面展望は良好!(良い遊び心と思います)
伊勢地区を走るアーバンライナー。それなりに高品質な客室や遊び心ある造りという空間を楽しめました。また、山や海を眺められ、風景も変化に富んでいました。それだけに利用の少なさがもったいなく感じました。確かに賢島のホテルにチェックインするには遅い時間帯であり、賢島まで向かう乗客が少ないというハンディキャップはありましょう。
それでも利用の少なさが気になりました。それを解消する1つの策がインターネットを使った割引施策(しかも利用が多そうな時期は適用外と商売を感じました)でしょう。また、低速で通過せざるを得ない駅についてポイントを交換し、多少でもスピードアップするなどの小改良で「遅さ」を感じさせないようにすることも自動車交通への対応策として有効でしょう。
そんなことを考えながら賢島の駅を後にしたのでした。
果たして前後はどこに行ったのでしょうか?
(←前)宇治山田駅を観察する
アーバンライナーでの伊勢旅(宇治山田→賢島):現在地
★今回の旅行の全体像は24年伊勢・京都旅行の振り返りに記載しています。