ドイツの高速列車といえばICEです。そのICEにもいくつかの種類の車両がありますが、その先駆けはICE 1です。ICE 1は古豪といえる車両ですが、リニューアル工事を受けている車両もあります。そのリニューアル車の車内を観察しました。
写真1. 古豪ともいえるICE 1がボン中央駅に停車中
復習:ICEとICE1とは?
いきなりICE 1の車内と言われてもピンとこないでしょう。ICEとはドイツの高速列車のことを指します。ここでのポイントは「高速列車」ということです。「高速列車が走る線路」ではありません。日本では新幹線と在来線が厳然と分けられ、新幹線の線路を走るのは新幹線列車と決まっています(いわゆるミニ新幹線は別)。一方、欧州の高速列車は、一部区間のみ高速新線を走り、ほかの区間は通勤列車の走る線路を通ります。
日本でいうと、東海道新幹線が武蔵小杉-名古屋で建設され、そこを走る東京発大阪行きや、千葉発天王寺行きが走っている格好です。
欧州の高速列車は在来線との直通が可能なので路線ネットワークが充実します。一方、全国(場合によっては国外)に直通する以上、車両は汎用性を重視した仕様になります。したがって、日本の東北新幹線と東海道新幹線のように、路線によって専用の車両を投入されるということもありません。
国によって高速列車にはブランドが付けられ、ドイツはICE、フランスはTGV、スペインはAVEというように高速列車グループに名称があります。細かいこと(※)を抜きにすると、「ドイツで高速列車に乗る」とは、「ICEに乗る」ことに相当します。
※ドイツ国内であってもオーストリアのレイルジェットやフランスのTGVが乗り入れるので、話は難しいです。
そのICEにはいくつかタイプがあります。
- ICE 1:最も初期のICE車両。機関車けん引方式の14両編成(両端が機関車、客車は12両)。最高速度280km/h
- ICE 2:分割併合可能なICE車両。機関車けん引方式の8両編成(片側が機関車、客車は7両)。最高速度280km/h
- ICE 3:電車方式を採用したICE車両。基本は8両編成。最高速度320km/h(ドイツ国内では300km/h、320km/hを出すのはフランス国内)。多くの種類がある
- ICE T:振り子方式を採用したICE車両。7両編成と5両編成が存在し、線形の悪い路線に重点を置いた設計。最高速度230km/h(320km/hの誤植でないよ!)
- ICE 4:電車方式を採用したICE車両。最高速度250km/h(一部249km/hもあり)。12両編成と13両編成が存在。経済性を重視し、ICE 3より最高速度が抑えられた
2024年現在の現役形式を並べました。ICE4は2017年12月から営業運転を開始しています。このときのダイヤ改正でベルリンとミュンヘンの間で高速新線がある程度完成し、最短で4時間足らずで結び始めました。当面はICE 4とICE 3で置き換えを進めつつ、客車タイプのICE-Lも導入すると聞きます。
現在、ICをICEに取り替えることもなされており、ICEの勢力は増すことでしょう(無理に例えると新幹線開業により、特急車を取り替えているJR九州のようなものです)。
ICE 1は当初14両編成としてデビューしましたが、リニューアル車は11両編成(客車は9両)に減車されています。実態に合った輸送力というお触れ込みです。
実際にICE 1リニューアル車の車内を眺める
実際にリニューアル車の車内を眺めましょう!
写真2. ICE 1のデッキ部分
デッキ部分を外から眺めました(写真2)。黄色の飾り帯がないから、2等車かな?
写真3. デッキの様子
デッキの様子です(写真3)。デッキの雰囲気はなかなかのものです。ただし、ここにずっといることはしんどいです(意外と混んでいて立ちを強いられるシナリオもあります)。
写真4. 1等車の車内
1等車の車内です(写真4)。欧州の車両らしく、座席の向きは変えられません。デッキから撮影しましたが、ガラス張りの壁で、開放感を演出しています。
写真5. デッキ部分の様子
デッキ部分の様子です(写真5)。
写真6. 着座時からの視点
着座時の視点です(写真6)。
写真7. 開放室内の様子
開放室内の様子を少し異なる角度から撮影しました(写真7)。
写真8. 2+1列の横3列が展開する
1等車は2+1列の横3列配列です(写真8)。新幹線に対比するとグランクラス並みに感じますが、実際のところは車体幅は日本の在来線並みなので、グリーン車並みというところです。
彩度が低く、明度のメリハリが強く、モダンなイメージです。座席や床はわずかに青系の色相、テーブルは赤黄系の色相、かつテーブルの明度の高いので、ナチュラルハーモニーといわれる、ある意味配色のセオリーにかなった色づかいです。
色彩検定2級を満点で取得した私が、色彩について鉄道趣味に結びつけるかたちで解説しています。本記事の配色に関する記述の補足にご活用ください。
シリーズ:鉄道と色彩
写真9. コンパートメントに続く様子
コンパートメントに続く区画です(写真9)。図面(後述)を眺めると、コンパートメントは片側通路式の6人向かい合わせですが、中央通路式にしたほうがデッドスペースも減る気がしますが、ヨーロッパのコンパートメントはかたくなに片側通路式なのでしょうか?
写真10. 当たり前のように座席割と窓割は一致していない
向かい合わせの当たり前のように座席割と窓割は一致していません。
写真11. 向かい合わせの席にはテーブルがある
向かい合わせの席にはテーブルがあります(写真11)。
写真12. テーブルを展開
テーブルを展開しました(写真12)。このようにテーブルが広がるのは良いですね!
写真13. 照明も凝っている
照明も凝っています(写真13)。日本の特急車と異なり、通路部分に照明がないことが新鮮さを感じます。
(参考)写真14. 日本の特急車の例
日本の特急車の例として近鉄アーバンライナーを取り上げました(写真14)。通路部分に照明が設置されていることがわかります。
写真15. 液晶表示がフルカラー
液晶表示がフルカラーになり、案内がわかりやすくなっています(写真15)。
写真16. 予約済区間も表示される
予約済区間も表示されます(写真16)。
写真17. 窓側の席はケルンからベルリンまで予約済
拡大しました。写真にしたためか予約済区間がきちんと表示されていませんが、実際にはもう少しわかりやすかったです。地名がわかっていればですが…。JR東日本のようにランプの色も補助情報で示すと良いかもしれません。
窓側の席はケルンからベルリンまで予約済です(写真17)。このとき私はボンからケルンまで乗りましたので、この席に座っても良いことになります。これが座席を有効活用するシステムです。このあたりの合理性はドイツ人の国らしいです。
写真18. 食堂車も連結される
欧州の特急列車には食堂車が連結されることもあり、特にICEは全列車に連結されています(どの程度営業しているのかはまた別問題)。スイスのIC、オーストリアのレイルジェットも連結されています。
ICE 1の食堂車は天窓が特徴的で、この天窓はリニューアル車でも残されていました。新幹線にも欲しいと思いますが、日本の場合は「人件費がかかる」「自由席代わりに利用される」などの事情でなかなか連結されません。個人的に欲しいのは、「特別なフルコースが出る食堂列車」ではなく、「それなりの料理が出され、気分転換の場になる」空間です。何なら、ドリンクのみでも構いませんよ!
この点は欧州の列車にあこがれますね!
ICE 1(リニューアル車)の図面
本文で「ICE 4の図面」と述べましたが、ドイツ鉄道サイトに掲載されていた図面の一部を紹介します(図1)。
図1. ICE 1の図面
7号車と11号車が隣り合っていることから、8~10号車を抜いたことがわかります。この図面から確認すると、Avmz810.0/4に乗ったことになります。
ICE 1に乗ってみて
写真19. 食堂車の断面はわかりやすい
今回、わずか20分ですが、ICE 1に乗りました。末端部分とあり、空いており高速列車の優雅さを堪能できました(高速運転するわけでもありませんでしたが)。願わくば、主要系統の毎時2本以上を実現し、ある程度空いている列車旅を維持いただきたいものです。
ICの取り換えという事情もあり(2018年にはICが運転されていた、ライン川左岸線がことごとくICEに変わっていたことに驚きました)、ICEの活躍の舞台が大きくなるでしょう。他方でICはREに毛の生えた車両に置き換わっていることもあり、快適性をある程度重視したICEシリーズが活躍する系統と、コストミニマムなICが両立する世界線に変わりつつあります。
そのような状況で、「速達性があり快適な長距離列車」の一員としてICE 1はそれなりに活躍するのでしょう。
そして、改めて日本の特急車の特長(座席割と窓割が合致した回転可能な座席)に気づかされ、(同じ政治的価値観を有するといっても)欧州と日本では人々の価値観が異なる(=日本の特急車の特長に対するニーズが小さく、鉄道会社側がこのニーズに応えていない)ことを実感した瞬間でもありました。
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