ベルギー国鉄で導入されている低床型の車両、AM08電車。その車内に入ることができましたので、その電車の車内を観察しました。
写真1. ナミュール駅に停車中のAM08系電車
復習:ベルギー国鉄とAM08系(MS08系)電車の概要
いきなりAM08系(MS08系)電車の内装を取り上げると、戸惑う人も多いでしょう。そこで、ベルギー国鉄とAM08系(MS08系)電車の概要を簡単に紹介します。
ベルギー国鉄の概要
まず、ベルギー国鉄とその路線網について簡単に紹介します。
ベルギーはフランス語(南側で使われる)とオランダ語(北側で使われる)を主流とする多言語国家です。逆にいうとベルギー語はありません。首都ブリュッセルはオランダ語通用地区に位置しますが、例外的にフランス語とオランダ語が併記されます。
ベルギー国鉄は一般にSNCB(Société Nationale des Chemins de fer Belges)と称されます。これはフランス語表記です。あまり使われませんが、NMBS(Nationale Maatschappij der Belgische Spoorwegen)というオランダ語表記も使われます。
図1. ベルギーの鉄道網(SNCBの公式サイトより引用)
ベルギー国鉄の路線図を示しました(図1)。九州程度の面積でありながら、鉄道網は非常に発達しています。列車種別は基本的にIC(通過駅あり)、R(日本でいう普通列車に相当)、S(日本でいう都市近郊の都市圏電車)の3通りです。いずれも全車自由席です。私が見た限り、ICでもRでもSでも車両の区別はありません。ICだからといっても、特別の車両が使われるということもないのです。
非常に雑に例えると、日本の大手民鉄の急行と普通が走り、車両が共通運用されているようなものです。もちろん、日本と異なり、4ドアオールロング車はなく、着席前提の混雑率と車内です。
補足国際列車はこれとは別です。オランダ方面のICこそ全車自由席ですが、フランス、イギリス方面のユーロスター(タリスでなくユーロスターというのは常識と思いますが、念のため補足しました)とTGVは全車指定席です。ドイツ方面のユーロスターは全車指定席、ICEは任意指定制です。
車両もベルギー国内完結運用とは毛色の異なる車両が使われます。
AM08系(MS08系)電車の概要
写真2. ディナン駅に停車中のAM08系電車(車端部の床が高いことがわかります)
では、AM08系(MS08系)電車とはどのような車両でしょうか。
AM/MS08系は、ベルギー国鉄(SNCB/NMBS)の地域旅客輸送と地方旅客輸送のための低床区間を持つ、いわゆる軽量列車であるシーメンス製の3両編成の電車です。もともとはブリュッセル地域エクスプレスネットワークを対象としていましたが、ベルギー全土のL(ローカル)、Sトレイン、IC(インターシティ)の列車サービスに導入されています。
AM08系の概要(wikipedia英語ページ)より引用後翻訳
簡単にいうと、ベルギー国鉄の電車です。日本でいう500番台が交流対応、そのほかは直流のみの対応です。日本だと直流電車と交直流電車で番台をわけるので、その点は新鮮です。AM08というのがフランス語表記、MS08というのがオランダ語表記です。基本的にフランス語圏で見かけたのでAM08系と表記します。
図3. ベルギー国鉄の電化方式(OpenRailWayMapより引用後加工)
参考にベルギー国鉄の電化方式を示しました(図3)。青が直流電化区間、赤が交流電化区間とご認識ください。南部に交流電化区間があり、こちらに乗り入れる場合は交流電車が必要です。そのほかの交流電化区間は高速列車に対応した区間です。
2011年~2016年に導入された車両で、ドア部分の床が低いことが特徴です。最高速度は160km/hであり、ベルギー国鉄の在来線に使うには必要十分な性能ではないでしょうか。
AM08系電車の車内
今回、私はフランス語圏のナミュール地区でこの車両を最初に見かけました。
写真3. 乗車したAM08系電車(ディナンで撮影)
乗車したAM08系電車です(写真3)。ここはフランス語圏ですので、AM08系電車というと適切でしょう。大きく見える車両は515番ということで交流区間に対応しています。奥の電車は209番で、交流区間に対応していません。ブリュッセル方面直通がディナン発着なのは需要もあると思いますが、ディナン以南に入るには交流対応車が必要です。ディナン発着であれば高価な交直流電車を使うこともなく、経済的です。常磐線の取手のようなイメージです。
写真4. 1等車の様子
「いつでも座れる」ことを期待し、1等車に乗りました。しかし、後述の2等車と比較し、いすが凝っていることもなく、言われなければ1等室とわからない内装でした(写真4)。
夏の暑い日であっても冷房はちゃんと効き、古豪のような暑さは感じませんでした。
写真5. 1等車から2等を眺めた様子
1等室から2等部分を眺めました(写真5)。ドイツ鉄道であれば、「何ら変わらない」1等車であっても、仕切ドアはあるのですが、ドアさえもありません。
写真6. 仕切部分に液晶表示がある
仕切部分に液晶表示もありました(写真6)。
写真7. 電源は確保される
電源は確保されていました(写真7)。網棚に電源というとても斬新は配置です。
写真8. 電源を拡大
その電源を拡大しました(写真8)。配置こそ疑問がわきますが、通勤電車に電源が確保されているのはサービス水準の高さを感じます。
写真9. 2等の入口を眺める
2等の入口を眺めます(写真9)。さき(写真5)と雰囲気が異なりますが、こちらはナミュール基準で東よりの車両で、さきはナミュール基準で西よりの車両という違いがあります。
写真10. 人がいないときの状態
人がいないときの状態です(写真10)。クロスシートが並び、長距離利用であってもそれなりに快適そうです。
写真11. クロスシートが並ぶ
クロスシートが並びます(写真11)。クロスシートが固定式なのはこの車両に限ったことでなく、欧州ではごく一般的なことです。もっとも、通過式ターミナルがほとんどのベルギーなので、転換式クロスシートを採用したほうがサービス水準は高まる気がします。
写真12. 2等車の車内
2等車の車内です(写真12)。座席の色さえも同じであり、設備上は1等車に乗る必要は皆無です。車端部は座席が高い場所にあります。台車上は機器があるので、床を低くできないのでしょう。
写真13. トイレ前の様子
トイレ前の様子です(写真13)。ここには折り畳み方式のロングシートが設けられています。
AM08系(MS08系)電車の車内を観察してみて
写真14. オランダ語圏のクノックでも活躍していたMS08系電車
今回、AM08系(MS08系)電車で移動する機会に恵まれました。通勤電車にしては豪華な印象でした。座席の向きが固定であり、約半数の座席は進行方向と反対を向いています。これはこの車両だけなく欧州ではごく一般的です。
バリアフリー化が達成されており、そのような意味では乗客にやさしい車両です。ただし、デッキ部分のドアがないなど、ややチープな印象もあります。したがって、都市間電車としては力不足な感じも否めません。
通勤電車と都市間電車の双方を完璧に満たすことは難しく、ブリュッセルから地方都市まで2時間程度の乗車であれば許容範囲内の内装です。通勤電車然とした車両でも通用するのは、このようなベルギー特有の事情があり、内装1つとってみてもその国の事情が反映されるのです。
この印象はその後くつがえされることもありませんでした。言いかえると、ベルギーの鉄道は全国で統一したサービスを広く提供しているということです。さっそく、道具としてよく考えられているベルギーの鉄道らしさに触れたのです。
果たして前後はどこに行ったのでしょうか?
ベルギー国鉄AM08系(MS08系)電車の車内:現在地