ドイツ西部、ベルギー、オランダを訪問した夏の旅行。その全体像をまとめるとともに、良い点や悪い点、気づきをまとめます。
写真群1. 多様な列車や目的地に触れられた
重要本旅行については、旅のマトリックス図という非常に新しい概念を導入しています。
この概念はかなり新しく、解説なしでは本旅行の工夫がわかりにくいかもしれません。そこで、そのような新しい概念を解説しています。
なお、旅のマトリックス図の根幹となる考えかたは下記の一文で示されます。
周遊旅行の全体最適をねらい、目的地ごとにめぐる観光施設の種類を分散させる
旅のマトリックス図の提案より引用
旅程一覧
写真1. グランプラス周辺はある意味ハイライト!
今回の旅程の一覧を示します。
図1. 今回の旅程の目安(欧州内のみ記載、OpenRailwaymapより引用後加工、オレンジの線が今回の移動経路)
1日目:東京→シンガポール発の航空機
この日は航空機で東京を出発、シンガポールでちょっぴり観光をした後、アジアからヨーロッパへの本格的な移動を開始しました。空港の出発案内を確認したとき、シンガポールからフランクフルトへの航空便を見つけられませんでした。そのトラップも4つ目の記事に記しています。
- 羽田からシンガポールへの航空便
- シンガポールのマーライオンの観光(空港からのアクセスも紹介!)
- シンガポールの空港近くのシャワー施設の長所と短所
- シンガポールからフランクフルトへの航空便(経由便への搭乗)
主な移動手段の時刻をまとめます。
SQ0631 | 東京(羽田)9:15→シンガポール15:15 |
SQ0026 | シンガポール23:55→フランクフルト6:45 |
2日目:フランクフルトからボンへの移動
この日は早朝にフランクフルトに到着。そこからライン川右岸線でリューデスハイムを経由しながらボンまで向かいました。ボンでは主に登山鉄道を堪能しました。
- フランクフルト空港からフランクフルト中央駅への移動(24年夏)
- フランクフルト中央駅に親しむ(構内図も収録!)
- ライン川右岸線の列車旅(フランクフルト-ヴィースバーデン-コブレンツ)
- リューデスハイムの観光(アクセスも紹介、24年夏)
- コブレンツとボンの移動(ライン川左岸線のICE)
- アハト シターンホテル ボン(ACHAT Sternhotel Bonn)の宿泊記(ボン中心部のホテル)
- ドイツ最古の登山鉄道(ドラッヘンフェルス鉄道)とその周辺
主な移動手段の時刻をまとめます。
Sバーン | フランクフルト空港8:00→フランクフルト中央8:13 |
RB | フランクフルト8:53→リューデスハイム10:05 |
RB | リューデスハイム13:06→コブレンツ14:06 |
ICE2408 | コブレンツ14:11→ボン14:41 |
3日目:ボンからディナンへの移動
この日は午前中はボンを観光、4時間足らずでディナンに移動する予定でした。理論上はそのようなスケジュールでしたが…。この日で今回のドイツ旅行は幕を閉じ、旅行の舞台はベルギーに移ります(ケルンからリエージュの移動で国境越えです)。
- ドイツ連邦共和国歴史博物館への訪問
- ボンの街歩き観光(24年夏)
- ボンの市内交通(都市交通)に親しむ(運賃制度や路線図も詳細に解説)
- ICE 1リニューアル車(1等車)の車内
- ボンとケルンの間のICEでの移動
- ケルン大聖堂と周辺散策
- ケルン中央駅を楽しむ(路線図や構内図を収録、24年夏)
- ケルンからリエージュまでの列車旅(トラブルとその対処法も収録、24年夏)
- リエージュ=ギユマン駅(Gare de Liège-Guillemins)に親しむ
- リエージュからナミュールまでの列車旅
- ベルギー国鉄AM08系(MS08系)電車の車内
- ナミュールからディナンの列車旅(24年夏)
- Les Gîtes Du Palais(ベルギー、ディナンのホテル)の宿泊記
主な移動手段の時刻をまとめます。
ICE559 | ボン12:23→ケルン中央12:42 |
Sバーン | ケルン中央15:00→ケルン-エーレンフェルド15:05 |
ICE14 | ケルン-エーレンフェルド15:47→リエージュ=ギユマン16:44 |
IC | リエージュ=ギユマン17:51→ナミュール18:41 |
R | ナミュール18:52→ディナン19:22 |
4日目:ディナンからブリュッセルへの移動
この日は午前中はディナン観光、午後はブリュッセルへの移動でした。
主な移動手段の時刻をまとめます。
R | ディナン14:38→ナミュール15:08 |
IC | ナミュール15:15→ブリュッセル中央16:22 |
6日目:ブリュッセル市内観光
この日はブリュッセル市内観光を楽しみました(ここではあえて5日目と6日目を逆に記載しています)。
- グランプラスとその周辺の観光(フラワーカーペットも収録!)
- ギャルリー・サン・チュベールとその周囲を歩く
- ブリュッセル中心部の街歩き(証券取引所周辺)
- ブリュッセルの山の手地区(芸術の丘付近)の街歩き
- ブリュッセルのアトミウムを楽しむ
- ブリュッセルの市内交通に親しむ
- ブリュッセル中央駅の表情を探る
- ブリュッセル南駅の断面(構内図も収録)
5日目:ブリュッセルからベルギーの海岸線への旅
この日はブリュッセルから抜け出し、ベルギーの海岸線付近まで行きました。本記事や旅行記では5日目と6日目の順番を入れ替えていますが、これは旅行記を読む人にとっては、中心部から徐々に周辺に外れたほうが読みやすいと思ったためです。
また、個人的にも6日目と5日目は交換可能と考えており(天気の良いほうを海岸に充当した)、この順になったのは大きな意味はないためです。
- ブリュッセルからブルージュ(ブルッヘ)への列車旅
- ブルージュ(ブルッヘ)からクノックまでの列車旅
- ベルギーの海岸トラム(ベルギー沿岸軌道)に乗る
- オステンドの街歩き観光(24年夏)
- オステンドからブリュッセルへの列車旅
- ブリュッセルの街歩き観光のまとめ(気温も記載)
主な移動手段の時刻をまとめます。
IC | ブリュッセル南9:26→ブルッヘ10:26 |
R | ブルッヘ10:34→クノック10:54 |
KT | クノック11:10→オステンド12:24 |
IC | オステンド15:09→ヘント=シント=ピーテルス15:49 |
R | ヘント=シント=ピーテルス16:03→ブリュッセル南16:31 |
7日目:ブリュッセルからアムステルダムへの移動
この日はベルギー旅行を終了させ、最終ステージのオランダに足を踏み入れました。もう少しブリュッセルにいても良かったのですが、ユーロスターの価格と時刻からこのようなスケジュールとしました。最終日は観光は不可能でしたので、この日にアムステルダムを満喫する時間を増やせたことは幸運だったかもしれません。
この日は午前中に到着し、アムステルダム観光にも充てたのですが、8日目に記します。
主な移動手段の時刻をまとめます。
ユーロスター | ブリュッセル南8:55→アムステルダム中央10:44 |
8日目:アムステルダム市内観光
この日はアムステルダムの市内観光に充当しました(ピトン橋は7日目に観光していますが)。
- アムステルダムの王宮を楽しむ(24年夏)
- アムステルダムの写真美術館に親しむ
- アムステルダムの運河クルーズ
- アムステルダムのピトン橋を楽しむ
- アムステルダムの都市交通(市内交通)
- アムステルダム中央駅を楽しむ
- アムステルダムの街歩き観光(気温も記載)
9日目~10日目:日本への帰宅
往路と同じくシンガポール航空で日本の自宅に帰宅しました。往路ではシンガポールで観光しましたが、復路は観光なしです。
主な移動手段の時刻をまとめます。
SQ323 | スキポール空港11:15→シンガポール空港(翌)5:55 |
SQ632 | シンガポール空港8:00→羽田空港15:55 |
旅行の目的
写真2. ベルギー初訪問のディナンはインパクトが強かった
今回の旅行の目的は、ヨーロッパのへそといわれるベルギーに焦点を当てました。ベルギーは意外な鉄道大国ということもあり、鉄道好きの私にも合致するというもくろみもありました。そう!全国的なパターンダイヤが形成されており、旅行するにも不便はありません。
上で「ヨーロッパのへそ」と表現しましたが、どのような旅程を設計すれば「ヨーロッパのへそ」を感じることができるのでしょうか。首都ブリュッセルで多様な文化に触れる?それも1つのシナリオでしょう。しかし、それだけでは不足です。ベルギーは北のオランダ語圏と南のフランス語圏が国内に共存しています。言語が異なるだけでなく、オランダ語圏はゲルマン系、フランス語圏はラテン系という違いもあります。これを感じることが「ヨーロッパのへそ」を実感するほかありません。
そのような狙いもあり、それぞれの文化圏から1つずつ都市を選択し、訪問しました。フランス語圏からはディナン(山沿いの観光地)、オランダ語圏からは海沿いのオステンドを選択しました。旅のマトリックス図という概念を使い、それぞれの目的地の性格を変化させています。
ディナンは村よりの雰囲気、オステンドは小都市といずれもブリュッセルと雰囲気の異なる場所を選択し、旅に変化を持たせています(表1)。
表1. 旅のマトリックス図を活用したベルギーの訪問地選び
ディナン | オステンド | ブリュッセル | |
村 | 〇 | ||
小都市 | 〇 | ||
大都市 | 〇 | ||
フランス語圏 | 〇 | ||
オランダ語圏 | 〇 | ||
2言語混在地区 | 〇 | ||
山沿い | 〇 | ||
海沿い | 〇 | ||
盆地 | 〇 |
そのベルギーだけでは、ベルギーが体質に合わないと感じた際の旅程リスクが増加してしまいます。そこで、すでに実績があり、安定感のあるドイツを組み込み、旅程のリスクマネジメントを考慮しました(ベルギーが不発であってもドイツで旅行の満足度を満たすという戦略)。さらに、ユーロスターに乗ることでベルギーから移動することも肝要と感じ、フランスかオランダに向かうことも考えました。
これは航空券の価格で選択しました。たまたまオランダから帰国するほうがフランスから帰国するよりも安くなったためです。このあたりは簡単に表を作成し、総合的に検討しました(表2)。
表2. 航空券購入検討用資料
これを見ると、20万円切りの候補が下の2つしかないことがわかります。この価格でオランダと付き合うことを決めました(笑)。
したがって、オランダは「別に…」という気持ちだったのです。これは2019年の旅行でハンガリーからフランスへの中継地点にスイスを選択し、中継ぎスイスという位置づけだったことと同様です(スイスは期待以上でした!)
旅費の確認
写真3. ホテルに宿泊するにも費用が掛かる
今回の旅行に使った費用を確認します。
旅費の定義と集計結果
本記事では、日本の空港でセキュリティチェックを受けてから、日本の空港で入国審査を受けるまでを旅費と定義します(図2、図3)。
図2. 出国時の旅費対象外の定義(羽田空港の出発手続き(国際線)より引用後加工)
図3. 入国時の旅費対象外の定義(羽田空港の到着手続き(国際線)より引用後加工)
なお、自宅は東京都区内にあり(最寄もJR駅)、往路はJR線と東京モノレールの乗車券、復路はモノレール&山手線内割引きっぷを別途負担しています。しかし、海外旅行旅費の厳密さを重視し、これらの費用については除外しています。
まず、私の負担した項目別の金額一覧を示します(表3)。
表3. 私の負担した金額一覧
項目 | 金額 [円] | 割合[%] | 割合累計[%] |
移動(航空機) | 176,830 | 42.0 | 42.0 |
移動(欧州内) | 88,216 | 20.9 | 62.9 |
ホテル | 77,274 | 18.3 | 81.2 |
食事 | 45,130 | 10.7 | 91.9 |
観光 | 17,435 | 4.1 | 96.1 |
物品 | 10,578 | 1.9 | 98.0 |
都市税 | 4,183 | 1.0 | 99.0 |
食料 | 3,666 | 0.9 | 99.9 |
移動(シンガポール) | 545 | 0.1 | 100.0 |
総合計 | 423,856 | 100.0 | 100.0 |
各項目の定義は以下の通りです。
- 移動:旅行中に移動に費やした費用のこと。夜行便で移動した場合は宿泊費も兼ねているが、簡単のため全額を「移動」に算入した。
- ホテル:宿泊費用のこと。食事つきの場合、厳密には食費と宿泊に分割する必要があるが、簡単のため全額を「ホテル」に算入した。ここでは宿泊施設の種類は問わず、不動産のベッドや布団類で過ごすための費用を合計した。
- 食事:宿泊施設類の食事付きプラン以外のレストランで消費した費用。今回の旅行では航空機で食事をしたが、航空機の標準的なサービスなので、移動に算入した。
- 休憩:街歩きなどの合間に喫茶店等で休憩した際に生じた費用。
- 観光:いわゆる入場料。この項目には不動産等への入場料を算入し、動産への入場料を算入していない。すなわち、観光列車の類は「移動」としており、本項目には算入していない。
- 食料:小売店で購入した食料。飲み物と特に区別していない。
- 物品:上記項目に外れる消耗品類の費用の合計。本旅行では海外旅行保険、レンタルWi-Fi、コインランドリー、会社へのみやげが当てはまった。
- 都市税:宿泊先で支払った税金。
図4. 旅費の割合
図5. 旅費の金額
7泊10日(機中泊2泊)で欧州の周遊旅行で、総合計金額は423,856円でした。これには現地の食費も含まれており、旅行によって追加で発生した費用ではありません(※)。日常生活でも食費がかかるので、旅行によって追加で発生した費用はこれより少なくなります。これを考慮すると、旅行で追加で発生した費用は40万円程度と考えるのが妥当でしょう。
※旅行によって生じた費用を算出するには、平均的な休日の生活費を算出し、その差異を求める必要があります。10日間の生活費で23,856円(光熱費も含めるが基本料金は含めない)はそれなりに妥当と考えました。
考察1. 世間平均との比較
では、この40万円という金額は世間一般と比べるとどうでしょうか。政府の統計データによると、世間平均では2024年4月-6月の3か月平均で海外旅行1人1回当たりの費用315,602円(5.16泊)が平均値です。豪勢な旅行から近場でコストミニマムな旅行までの平均であり、1人1人の実態と必ずしも合っているとは限りません。しかし、目安ということで平均値を取り上げました(図6)。
図6. 今回の純粋な旅費と世間の旅費の比較
では、平均5.16泊を今回の欧州7泊に換算するとどうでしょうか。求める金額をx [円]とすると、
5.16泊:315,602円 = 7.00泊:x [円]
これを解くと(中学の比の計算の基本式で外側の積と内側の積は一致します)、428,142円となり、今回の旅行の総合計金額は423,856円とほぼ一致します。別のいいかたをすると、世間平均の現地7泊の旅費と比較して4,286円安かったということです。ともかく、(旅程や目的はともかく金額だけ見ると)世間並みの海外旅行をしたということです。
考察2. 支出項目別にみて
世間平均並みの旅費だった点を考慮しながら、項目別の費用について簡単に考えます。分析のセオリーである上位項目(金額ベースで92.0%)のみの考察とします。
-
移動(航空機)(176,830円)
-
全体の41.6%かかっており、最も支出金額が大きい項目でした。今回は費用低減を最大の焦点にして、東南アジアでの乗りつぎを選択しました。これは「東南アジアテスト」を兼ねていました。疲れが溜まる点を除けば、おおむね良い選択だったと思います(仮に直行便のビジネスクラスであっても疲れはそこまで変わらないでしょう)。
また、航空券は半年以上前に手配し、それなりの価格で入手したと自負しています。
-
移動(欧州内)(
91,891円→88,216円) -
次に支出の多い項目でした。機動性を重視し、多くの場面でレイルパスを活用しました(ユーロスターが必須と思われるベルギーからオランダまでは個別予約)。
では、これで本当に割安になったのでしょうか(表4)。
表4. 個別手配とユーレイルパスの比較
個別利用 ユーレイルパス 空港→市内 6.3 359 フランクフルト→リューデスハイム 14.8 リューデスハイム→ボン 44 ボン→ケルン 9.7 ケルン→リエージュ 65.49 リエージュ→ディナン 23.7 ディナン→ブリュッセル 23.7 ブリュッセル→クノック 31 オステンド→ブリュッセル 31 合計 249.69 359 ※ICEの座席指定料金6.5ユーロは除く、個別利用はリューデスハイム→ボンは全土チケット(Quer-Durchs-Land-Ticket、ジャーマンレイルパスでない)を利用
今回は個別利用だと249.69ユーロ、ユーレイルパスだと359ユーロです。実に109.31ユーロ損しています。1ユーロ170円だとすると、実に18,500円の損です(実際には後述の遅延補償金があり差額は85.31ユーロ、14,503円の損)。ベルギーの鉄道のオペレーションがわからず、ある意味びびっていましたが、その割でも高い損金でした。
自由度に対し、18,500円の損は代償がちょっと高すぎる印象でした。航空券が前回より安く、認識が甘かった点は否定できません。この点は反省です。
なお、ICEが運休し、この遅延補償金として24ユーロが返金されました(要申請)。そのため、旅行終了時点での91,891円から88,216円に安くなっており、3,675円安くなっています。この点は旅行後の行動が功を奏した形でした。
-
ホテル代(77,274円)
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7泊としてはだいぶリーズナブルでした。また、宿泊施設の立地も慎重に吟味した結果、周囲の騒音に悩まされることもありませんでした。この点は満足です。さらに、ベルギーのホテルはキッチン付きであり、朝食代を節約しつつ、満足度の高い宿泊体験となりました。この点は旅費節約と食事満足度向上の両立に貢献しました。
次回からも適宜キッチン付きのホテルを選択しようと思いました。
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全般として
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各項目の節約可能費用を算出しましたが、合計で18,000円程度の節約が可能と判明しました。とはいえ、節約に目が行き過ぎても窮屈になりますから、考え得る最も安い旅費よりも18,000円程度高いだけで済んだのは上出来と思います。また、食事は適宜スーパーで購入し、この点は健康と費用低減の両立に貢献できた形でした(これには上記のキッチン付きホテルも貢献しています)。
荷物の工夫
写真4. 西友で買った安いバッグが大いに役立った
今回も荷物を工夫しました。主な工夫は以下の通りです。
- 寒い場所を避け、着替えの量を削減する
- 洋服についても帰国時に着るもの以外は古い洋服を厳選し、旅行の中盤以降は宿泊施設に寄付
- その洋服も途中で洗濯することを意識し、3日ぶんしか持たない
- ドイツのガイドブックは持たず(立ち寄る予定の場所は白黒コピー)、重たい書籍を持たない
- みやげは旅程の最後のほうに入手し、運ぶ負担を軽減
大前提として、航空機の預け入れ手荷物をなくし、機内持ち込み可能な荷物だけにすることでした。
このようなことを考える場合、最も効果があるのは、重量や体積を多く占めるものを削減することです。
一番の荷物は着替えです。私は旅行先で自撮りもしませんから、立派な洋服を着る必要もありません(ある程度みすぼらしい格好であれば金目当ての人も近づきません)。そこで、着替えは洗濯サイクルを考慮し、最小限としました。こうして、3セットぶんの着替えを持ち運び、旅行の終盤は布を寄付することにしました。その空いたスペースにみやげを格納しました(一応会社員なので、人間関係を考えてみやげを購入しました)。
重いものは書籍です。ガイドブックはしょうがないですが、旅行の前半に立ち寄るドイツについては必要なページ(リューデスハイムとボン)のみを印刷し、ベルギー到着時に廃棄しました。これにより、地球の歩き方ドイツのぶんを軽量化できました。
この荷物削減プランは大ヒットでした。旅程計画時点ではあまり気になりませんが、旅行中の地味な課題が大荷物の置き場確保です。大荷物をかかえるデメリットは以下の通りでしょう。
- 航空機の場合、手荷物を預ける必要があり、乗り降りに時間がかかるほか、紛失のリスクがある
- 周遊旅行の場合、大荷物に付き合いながら移動する必要がある
- 散策の前にコインロッカーなどを探す手間がかかり、コインロッカー利用も費用がかかる
- 大荷物を運ぶと自分のみならず周囲の邪魔になり、社会的コストが上昇する
荷物を軽量化したおかげでこれらの手間から解放されました。自分の旅行の手間が省けるのもメリットでしたが、大荷物を運ぶことによる迷惑をかけない点が最も重要と思いました。手ぶらがベストシナリオですが、着替えをもつ以上はそうはいきません。それでも荷物を減らすことは正義であり、これからも心がけようと実感しました。
特定の荷物を持たないことによる軽量化は1g、削減できる容量は1mlかもしれません。この1gや1mlの積み重ねがスマートな旅行につながるのです。
各国の印象
写真5. ベルギーの鉄道の利用者の多さも印象に残った(オステンド駅で撮影)
今回はすでに行ったことのあるドイツを除き、新規国の訪問でした。そこで、それぞれの国の印象を記します。
シンガポール
日本から安い航空券を探していたところ、シンガポール経由が安いという検索結果でした。このとき、乗りつぎが2時間ほどの航空券と8時間ほどの航空券がほぼ同等の金額でした。日本を出る時間が6時間遅くなったところで、この日が1日つぶれることは確定していましたので、乗りかえ8時間をあえて選択し、初の東南アジア訪問を兼ねることにしました。
シンガポールは繁栄している国家ということもあり、ストレスのたまらない数時間を過ごせました。旅行先や鉄道趣味的に魅力があるかどうかは各自の価値観に委ねられますが、ストレスのない国でした。そして、欧州からシンガポールに到着したときにアジアに帰ったという感覚も抱きました。自分がアジア地区に住んでいることを実感した瞬間でもありました。
ドイツ
今回は西側のベタな観光地を訪問しました。シンガポールよりは不便な思いはしましたが、街並もきれいで中央ヨーロッパならではの魅力を味わうことができました。
ただし、ドイツ鉄道の運休や迂回運転、そして遅れ、これらによる混雑は辟易としました。ドイツ鉄道のオペレーションが改善されれば、多彩な鉄道と都市(あるいは観光地)がある魅力的な国となりましょう。
ベルギー
ベルギーは西ヨーロッパの十字路とされ(南にフランス、西にイギリス、東にドイツという大国がある)、鉄道網もそれなりに発達している、というイメージで隠れた鉄道大国として訪問先として選択しました。ただし、ブリュッセルの治安については不安を抱いての出発でした。
人々は全般的にドイツよりも陽気な印象でした。また、ベルギーに入って落書きだらけの車両と直面し、治安面での不安を感じましたが、それは杞憂に終わった感じがあります。夜間にグランプラスに出歩いても身の危険は感じませんでした。
他方、ベルギーの鉄道は華こそありませんでしたが、実質本位で使いやすい印象でした。また、隣国オランダと同様、多くの利用者でにぎわっていました。(夏の海という事情もあると思いますが)全般的に北側(オランダ語圏)の列車が混んでいる一方、南側(フランス語圏)の列車は空いていました。これもベルギーの南北格差かもしれません。
全般的にドイツよりやや便利な陽気な国という印象でした。
オランダ
今回の主要目的地ではありませんでした。また、アムステルダムは飾り窓や大麻の黙認など、あまり柄が良くない国という先入観もありました。そのような事情から、あまり期待をせずにオランダ入りしました。
オランダもベルギーと同様、鉄道が便利な国ですが、オランダ国鉄を利用したのは、(オランダ入りしたユーロスターを除き)スキポール空港へ向かう列車だけでした。そのため、オランダ国鉄の印象は薄いです。ただし、アムステルダム中央駅の過密な運用、利用客の多さなど、日本の鉄道に似た場面を感じました。
懸念していた柄の悪さですが、(そのような場所を避けたためでもありますが)特に問題なく感じました。アムステルダムの旧市街付近は歴史的な街並ですが、その周辺は近代的な建物が多かったです。
全般的にベルギーに似つつ、やや落ち着いた国(柄が悪い場所を除く)という印象でした。もっともアムステルダムの特定の場所にいたことが多く、オランダを代表する印象でない点に注意です。
旅行の取捨選択
写真5. ブリュッセルの芸術の丘周辺では街歩きに留まったがそれは良い選択だったか?
人生において取捨選択から逃れることはできず、旅行も例外ではありません。
復習:旅のマトリックス図という原理にたどり着くまで
旅行先として行きたい場所は無限にあり、その場所でも見どころは多いです。例えば、日本の旅行先として、東京、北海道、沖縄など目的地が無限にあり、特定の場所、東京であっても、浅草寺、新宿副都心、原宿など見どころは多彩にあります。1回の旅行で行きたい目的地と見どころを全て回れるわけではありません。そして、同様の見どころばかりに行くことは飽きの問題もありましょう。すなわち、旅行とは究極的には目的地と見どころの取捨選択なわけです。
気に入った1つの場所をジックリ楽しむことは、別の街に行かない犠牲の上で楽しむ事になると言う事も、理解し始めました。(中略)どんなに印象的な場所でも(略)感じるためには、ある程度の滞在時間が必要です。一方、ある場所で長く滞在すれば、それだけ別へ行けなくなると言うジレンマが生じます。
外部サイトより引用
その真理は上記の引用に現れています。有限な時間のなかで目的地の数と1つの目的地の向かい合いはトレードオフです。一方で、鉄道好きなので移動がない旅程は旅行の意味がなく、旅行の価値は大いに下がります。
他方で、ヨーロッパの「見どころ」といわれる場所は多くが類似しています。教会、王宮、公園、展望台…。多くの都市で共通のものを見る必要はないのではないか?
そこで、旅行全体で、多くの見どころの種類を回るという考えに行きつきました。これが旅のマトリックス図です。2023年に実施した海外旅行や2024年に実施した国内旅行でも同様の考えは導入されており、世間では新しい概念でありながら私にとっては常識となった考えです。
旅のマトリックス図の実行度と評価
このような考えで旅のマトリックス図をゆるく企画し、実際に行程に反映させました。では、実際のところはどうだったのでしょうか。
表5. 旅のマトリックス図の実施状況
簡単に分類し、目的地ごとに集計しました(表5)。以下、簡単に種類ごとに総括します。
- 宮殿、王宮:今回は宮殿には行かず、王宮に行きました。これらは欧州ならではであり、必見です。公開場所が限定されているとはいえ、行けたことは幸運でした。
- 城跡:ボンの城は個人宅だったため、△としました。完全に城が再現された偽物と、城らしくない本物に触れ、トータルとして満足です。
- 教会:欧州であればどこでも教会を満喫できます。そのような側面である意味軽視していましたが、列車運休の副産物でケルン大聖堂に寄れたことは幸運でした。
- 海:熱帯と欧州の海に触れました。海水に触ることはかないませんでしたが、安全性や砂の汚れを勘案した結果です。夏といえば海です。
- 高台、塔:煙と何とかは高いところに上るということわざ通り、ここはかなり力を入れました。シンガポールは体力切れであえて見送りました。
- 独特建造物:ブリュッセルのアトミウムとアムステルダムのピトン橋は必須項目と心得ていました。この表には入っていませんが、リエージュの駅も堪能でき、「見どころ」「旧市街」以外という現代の欧州という側面でも楽しめました。
- 美術館:古典美術よりも現代美術のほうが性に合っており、アムステルダムで現代美術よりの美術館を訪問しました。ただし、メッセージ性が強く、単なる現代美術館に向かったほうが良かったかもしれません。古典美術は王宮で見られたということで…。
- 博物館:ボンで現代史を学びました。また、ディナンの城跡やアムステルダムの王宮も博物館という側面がありましょう。
- 旧市街:欧州といえば旧市街でしょう。こればかりにとらわれると「真の欧州」から外れるという側面がありますが、旧市街を訪問することは必須であり、街歩き好きの私らしいテーマでした。
(そのような意図があったのですが)全般としてバランスが取れた観光名所めぐりでした。ただし、ブリュッセル王宮付近で観光名所をめぐらなかったことや、現代美術館が写真美術館だった点に多少の後悔が残ります。
次は都市ごとにもバランスを取ることを意識するほうが良いかもしれません。
旅程全体を通してみて
写真6. アムステルダム中央駅では多くの乗客と多くの列車が行きかう
今回は短い移動時間でバランス良く滞在することを主眼に旅程を設計しました。例えば、フランクフルトとボンは200km足らずであり、1日で移動するには苦のない距離です。それでいて、ドイツ、ベルギー(フランス語圏、オランダ語圏、両言語併用地区)、オランダとめぐることができ、かつ「東南アジアテスト」も兼ねられたのはじゅうぶんに設計された旅程でした。
また、道中で(高速列車が1本運休となり混雑したために)不快な思いをした場面もありましたが、「不快」で済み、「恐怖」「怖い」思いをしなかったのは非常に幸運でした。これは行った4か国ともに治安がそれなりに良好であったことと、私のリスク管理がそれなりに機能した点がありましょう。
さらに、都市だけでなく、田舎にも焦点を当てており、2023年の旅行でのクヴェートリンブルクでの良好な経験が生きた格好です。
一方、課題もありました。今回の旅行は乗り継ぎが多く、移動時間の割に疲れが溜まりました。また、日本発の航空機の出発時刻が早く、早起きだったこともあり、せっかくの「東南アジアテスト」が1か所に終わったことは心残りです(疲れており空港に戻りたくなりました)。航空便の都合もありましょうが、もう2時間程度遅く出発したほうが、結果としてもう1か所程度回ることができ、「東南アジアテスト」も充実した可能性を指摘できます。
次回は今回の反省を踏まえ、以下の旅程を組むことを意識しようと思います。
- 日本発時刻を朝9時くらいに設定するのではなく、もう少し早い時間(疲れて機内で寝る)か遅い時間(自宅で寝る時間を確保)とすること
- 周遊旅行のある目的地と次の目的地の間はなるべく列車1本で行けるようにし、それがかなわない場合も1本の列車に乗る時間を長くすること(1時間+1時間+1時間の旅程より30分+2時間+30分の旅程のほうが疲れにくいと思う)
- 旅のマトリックス図を観光施設ごとだけでなく目的地ごとにも適用し、旅のマトリックス図をより洗練させること
今回の旅行の目的のベルギー、オランダテストは合格し、従来のドイツ、スイス、オーストリアのほかにベルギーも私のなかでの安定感のあるレギュラー国に位置づけられました。それが今回の旅行の最大の収穫でした。
そして、あくまでもシステム化された鉄道網が好きという精神面は相変わらず進歩していないことも改めて実感しました。