大阪と名古屋を結ぶ近鉄特急。この近鉄特急は意外と人気があり、座席を確保できないこともあります。その場合の穴場列車を紹介するとともに、ビスタカーや伊勢志摩ライナーの車内も収録しました。

写真1. 伊勢中川での乗りかえが今回のポイント
復習:近鉄特急の運転系統
最初に近鉄特急の運転系統を確認します。

図1. 近鉄特急の運転系統(近鉄の公式サイトより引用)
近鉄特急は多様な運転系統を誇ります(図1)。かわりに各系統の本数はそこまで多くありません。例えば、大阪難波と近鉄名古屋を結ぶ特急は毎時2本しかありません。毎時1本の特急ひのとり(津のみ停車)、毎時1本の主要駅停車型の毎時2本です。
しかし、よく見ると、大阪方面-伊勢方面の特急と名古屋方面-伊勢方面の特急が別に運転されており、これらを組み合わせると本数が増えるように見えます。通常の会社であれば、「全く別系統の特急が接続するわけないだろ」と笑われてしまいますが、近鉄の場合は接続に工夫が凝らされています。
- 大阪難波12:10→伊勢中川13:34/13:37→近鉄名古屋14:37
- 近鉄名古屋12:10→伊勢中川13:09/13:10→大阪難波14:33
このように途中の伊勢中川で1分~3分の短時間で接続しています。「1分で階段を経由して乗りかえなどできませんよ!」と鼻で笑う人もいるでしょう。しかし、心配に及びません。

写真2. 伊勢中川で名古屋→大阪の乗りかえができている例(2024年に撮影)
伊勢中川での乗りかえの実例です(写真2)。同じホームで連絡します。
さらに、乗りかえ時間が30分以内の場合、近鉄特急は特急料金は通しで計算されます。したがって、乗りかえることによる料金面の負担もありません。なお、この乗りつぎの20分後に主要駅停車の特急が発車しますが、この列車より先着します。
表1. 近鉄名古屋→大阪難波のパターン(平日12時台発車)
近鉄名古屋 | 大阪難波 | |
ひのとり | 12:00 | 14:07 |
伊勢中川乗りかえ | 12:10 | 14:33 |
主要駅停車 | 12:30 | 14:51 |
表2. 大阪難波→近鉄名古屋のパターン(平日12時台発車)
大阪難波 | 近鉄名古屋 | |
ひのとり | 12:00 | 14:05 |
伊勢中川乗りかえ | 12:10 | 14:37 |
主要駅停車 | 12:30 | 14:49 |
このように一定の利便性を確保しています。さすがに乗りかえが発生し、停車駅も多いため、速達型のひのとりと比較し、所要時間は15分以上増えています。
大阪難波から近鉄名古屋まで実際に乗りつぐ
御託はこの程度にして、実際に乗ってみましょう。
Stage1. 大阪難波から伊勢中川(ビスタカーの2F席)

写真3. 大阪難波始発の特急賢島行きが入線
大阪難波始発の特急賢島行きが入線してきました(写真3)。13:10発という時間帯ゆえか、短い4両編成でした。平日の昼間なので、観光客も少ないという見立てでしょうか。

写真4. 2階建ての車体は存在感が大きい
2階建ての車体は存在感が大きいです(写真4)。

写真5. ビスタカーの2F席
ビスタカーに乗る以上、2F席に乗るほうが良いと思いました。その2F席です(写真5)。

写真6. 2F席を座席から眺める
その2Fを座席から眺めます(写真6)。荷棚もしっかりしており、それなりの荷物でも収納できそうです。天井の高さに制限があるためか、通路上には照明はありません。かわりに座席上に照明を設置しています。座席上の照明は西日本地区らしさを感じます。補助照明として荷棚から通路に向けて照明が設置されています。雰囲気のある配置と思います。
そのビスタカーの車内を詳細に紹介しています。

写真7. 鶴橋に停車!
地下駅の大阪上本町に停車後、鶴橋に停車しました(写真7)。2Fだと視点が高く、新鮮です。鶴橋でそれなりに乗ってきて、3割程度の座席が埋まりました(一部のサロン席には家族連れが座っているように見えました)。

写真8. 奈良線系統が走る複々線区間を走る
奈良線系統が走る複々線区間を走ります(写真8)。大阪上本町-布施の複々線により奈良線系統と大阪線系統を同時に走らせることができました。大阪線系統が走る線路は大阪難波に通じていませんが、特急列車は鶴橋の渡り線を通り、鶴橋以西は奈良線系統の線路を通り、大阪難波発着としています。

写真9. 複々線を走る
複々線を走ります(写真9)。

写真10. 重層構造の布施付近
布施は大阪線系統と奈良線系統が別の階の重層構造です(写真10)。青砥のように方向別の重層構造のほうが布施から鶴橋方面に乗る人にとっては便利ですが、このような構造のほうが建設費が安かったのでしょうか。

写真11. 東大阪市の住宅街を走る
東大阪市の住宅街を走ります(写真11)。

写真12. 山に徐々に迫る
山に徐々に迫ります(写真12)。

写真13. 車庫が広がる
車庫が広がります(写真13)。

写真14. 大和路線と並走
大和路線と並走します(写真14)。

写真15. 建物が減る
大阪府と奈良県の間の丘陵地帯に入り、建物が減ります(写真15)。

写真16. 建物が増える
丘陵地帯を抜け、奈良盆地に入ると建物が増えてきました(写真16)。

写真17. JR線をまたぐ
JR線をまたぎます(写真17)。

写真18. 大和高田に停車!
大和高田に停車します(写真18)。大阪と名古屋を結ぶ特急は速達性を重視して通過する駅であっても、大阪と伊勢を結ぶ特急が停車する駅があります。大和高田はその一例です。逆にいうと、大阪と伊勢を結ぶ特急が名古屋連絡を兼ねているので、ダイレクトに結ぶ特急は大和高田を通過し、新幹線との競争力を少しでも維持しているのです。実際には、大和高田を通過する列車でも大阪難波と大和八木の間の所要時間は変わりません。

写真19. 奈良盆地を走る
奈良盆地を走ります(写真19)。

写真20. 橿原神宮前方面の連絡線が分岐
橿原神宮前方面の連絡線が分岐します(写真20)。

写真21. 大和八木に停車!
大和八木に停車します(写真21)。ここまで36.8kmを30分で走り、表定速度は73.6km/hです。そこまで速くありません。一般電車と同じ線路を走る関係上、どうしても速度は抑えられてしまいます。一般電車の加速性能を上げれば2分程度は短縮できましょう。
京都方面から乗りかえることも可能ですが、京都からの特急が13:27に到着、この列車出発が13:41と接続は良好ではありません。ただし、名古屋行きへの連絡は考慮されており、京都からの特急が13:57に到着、名古屋行きは14:02に発車です。
逆方向は名古屋からの特急は13:17に到着、京都行きは13:26に発車します。伊勢からの特急は13:01に到着、京都行は13:11に発車します。接続時間はもう少し短いと良いかもしれません。とはいえ、大和八木だけの都合でダイヤ編成は不可能な面はあります。

写真22. 奈良盆地を走る
大和八木を出発後、奈良盆地を走ります(写真22)。

写真23. 桜井を通過!
建物が増えると桜井を通過します(写真23)。このあたりまで都市圏らしい風景です。桜井から先は急行は各駅に停車し、急行/各駅停車の各20分間隔から急行だけの20分間隔に本数が減ります(実際の折り返しは1駅先の大和朝倉)。

写真24. 山がちな風景を走る
山がちな風景を走ります(写真24)。

写真25. 建物が多くなってきた
とはいえ、ずっと山中を走るわけなく建物が増えてきました(写真25)。

写真26. 榛原に停車!
榛原に停車します(写真26)。ここも大和高田と同様、名古屋に向かう特急は停車しません。

写真27. 山間部を走る
榛原を過ぎ、本格的な山間部に入りました(写真27)。

写真28. 日本の原風景を走る
日本の原風景とも呼べる風景のなかを走ります(写真28)。

写真29. 緑の中を走る
緑の中を走ります(写真29)。

写真30. 川を渡る
川を渡ります(写真30)。

写真31. 周囲が開けてきた
周囲が開けてきました(写真31)。もう三重県に入っており、伊賀地区の中心都市、名張に近づいています。

写真32. 水田と住宅の競演
このときは5月上旬であり、日本全国的に田植えの時期でした。その水田と住宅街が同じ視界に見えます(写真32)。

写真33. ロードサイド的な光景
都市に近づくとロードサイド的な光景も見ることができます(写真33)。

写真34. 名張に停車!
名張に停車します(写真34)。ここは名阪特急の主要駅停車型も停車し、毎時2本の特急が停車します。

写真35. 名張を発車!
名張を発車しました(写真35)。

写真36. やや古い新興住宅街を走る
やや古い新興住宅街を走ります(写真36)。桔梗が丘周辺は1970年代~1990年代に宅地開発された地域です。鶴橋から快速急行で65分程度かかり、近年の住宅街の都心回帰の流れにはそぐわない立地ではあります。

写真37. 緑が多い
再び緑の多い風景を走ります(写真37)。

写真38. 伊賀神戸に停車!
伊賀神戸に停車しました(写真38)。この次の青山町までは平均20分間隔ですが、青山町から本数は1時間間隔に減ります。

写真39. のどかな風景を走る
のどかな風景を走ります(写真39)。

写真40. 青山町を通過!
青山町を通過します(写真40)。大阪難波から80km近くあり、大阪の通勤圏の端部という立地でしょう。

写真41. しばらくはのどかな風景
しばらくはのどかな風景が展開します(写真41)。しかし、それが終わると青山トンネルがあり、峠を感じさせます。

写真42. 山間部の風景
このような山間部の風景も展開します(写真42)。

写真43. 榊原温泉口に停車!
榊原温泉口に停車します(写真43)。ここも伊賀神戸と同様、名古屋への特急は停車しません。

写真44. 徐々に開けてくる
峠越えも終え、徐々に開けてきます(写真44)。

写真45. きれいな川も見える
きれいな川が見えます(写真45)。

写真46. 乗りかえに備える乗客
伊勢中川到着放送がかかり、名古屋方面の特急の乗りかえ案内もなされます。私以外にも伊勢中川で降りる準備を始める人もいました(写真46)。

写真47. 伊勢中川に到着!
こうして特急賢島行きは伊勢中川に到着しました。110.9kmを84分かけ、表定速度は79.2km/hでした。伊勢中川側ではやや「持て余した」走りとも感じ、若干の速度向上は可能でしょう。
Stage2. 伊勢中川での乗りかえ
伊勢中川での乗りかえが肝心です。ここは気合を入れて…。

写真48. 3番のりばの特急賢島行き
3番のりばには特急賢島行きが停車中です(写真48)。

写真49. 4番のりばには停車していない
4番のりばにはまだ特急は停車していません(写真49)。

写真50. 特急名古屋行きがやってきた
特急名古屋行きがやってきました(写真50)。このときは事前に車両を調べ、ビスタカーから伊勢志摩ライナーという組み合わせを選択しましたが、汎用車から汎用車への乗りかえというパターンもあり得ます。
時刻表を見返すと、14:34に特急賢島行きが到着、14:35に鳥羽からの特急が到着、それとほぼ同時に特急賢島行きが発車します。その2分後の14:37に鳥羽からの特急名古屋行きが発車します。鳥羽からの特急から特急賢島行きには乗りかえられませんが、この組み合わせで行き来する人はいません。
Stage3. 伊勢中川から近鉄名古屋(伊勢志摩ライナーのデラックス席)
賢島行きの乗客から名古屋行きの乗客に姿を変え、旅を続けます。

写真51. デラックスシートの車内
デラックスシートの車内です(写真51)。通路の間接照明と荷棚下の照明が雰囲気を出しています。

写真52. デラックスシートの車内
反対側からも撮影しました(写真52)。座席背面にテーブルはありません。

写真53. ひじかけにテーブルがある
ひじかけにテーブルがあります(写真53)。

写真54. テーブルを展開!
テーブルを展開しました(写真54)。これなら向かい合わせても支障ありません!もっとも、向かい合わせにするくらいであれば、サロン席を使えば良いとは思います。

写真53. 座席を横から眺める
座席を横から眺めます(写真53)。

写真54. デッキ部分との仕切ドア
デッキ部分との仕切ドアです(写真54)。素晴らしい前面展望が展開するので、仕切壁にも窓を入れてみたら良いとは思いますが、落ち着きを重視したのでしょうか。

写真55. 前面展望は良好!
前面展望は良好です(写真55)。パイプ椅子があり、少しの時間であれば座りながら前を見ることもできます。もっとも、近鉄特急は全席指定制であり、車内の時間の多くを自席で過ごすことが前提です。

写真56. 住宅街を走る
住宅街を走ります(写真56)。
動画1. なかなかの速度で走る
なかなかの速度で走ります(動画1)。伊勢中川から近鉄名古屋までの78.8kmをちょうど60分で走ります。

写真57. 紀勢本線が近づいてくる
紀勢本線が近づいてきます(写真57)。

写真58. 津に停車!
津に停車します(写真58)。三重県の県庁所在地とあり、駅近くに建物も多いです。

写真59. 津に停車!
津に停車しました(写真59)。ひのとりも停車し、全列車停車の駅、と言いたいですが、名古屋-伊勢方面の一部の特急は通過します。

写真60. 平地を走る
平地を走ります(写真60)。

写真61. 平地を走る
このような平地が続きます(写真61)。都会とも田舎ともいえない風景です。

写真62. 白子に停車!
白子に停車します(写真62)。ここで普通に連絡しています。このような接続によって、特急通過駅でも特急に乗れるように工夫しています。

写真63. 広がりを感じる風景を走る
広がりを感じる風景を走ります(写真63)。

写真64. 田植えを感じる水田を走る
田植えを感じさせる水田を走ります(写真64)。

写真65. 塩浜貨物駅を通過!
JRの塩浜貨物駅を通過します(写真65)。このあたりに近鉄の塩浜駅もあり、わが特急は先行の急行を抜かします。

写真66. 近鉄四日市付近を走る
いつの間にか周囲に建物が増えてきました(写真66)。三重県で最も人口の多い、四日市市の市街地に入ってきたのです。

写真67. 近鉄四日市に停車!
近鉄四日市に停車します(写真67)。わが特急名古屋行きは15:08に発車して15:37に近鉄名古屋に着きます。一方、直後の急行名古屋行きは15:10に発車して15:43に近鉄名古屋に着きます。急行でもじゅうぶんと思ってしまいます。

写真68. 四日市の市街地を走る
四日市の市街地を走ります(写真68)。

写真69. だんだんと開けてくる
だんだんと開けてきます(写真69)。

写真70. JR線をまたぐ
JR線をまたぎます(写真70)。

写真71. 川を渡る
川を渡ります(写真71)。

写真72. 特急ひのとりとすれ違う
特急ひのとりとすれ違います(写真72)。

写真73. 三岐鉄道がまたぐ
三岐鉄道がまたぎます(写真73)。

写真74. 桑名に停車!
桑名に停車します(写真74)。特急最後の停車駅です。次は終点の名古屋です。

写真75. 桑名を発車!
桑名を発車しました(写真75)。

写真76. カーブを大きく曲がる
カーブを大きく曲がります(写真76)。
動画2. 川を渡る
木曽三川を渡ります(動画2)。

写真77. 何でも買ってくれるの?
木曽川を渡ると、三重県から愛知県に入り、同時に近畿地方から中部地方に入ります。
何でも買うことを宣言した店舗がありました(写真77)。「何でも」とありますが、リサイクルショップの範疇でという前提でしょう。

写真78. 住宅が増える
住宅が増えてきました(写真78)。このあたりは急行で名古屋まで20分以内であり、名古屋への通勤にも便利でしょう。

写真79. 高架線に上がる
高架線に上がります(写真79)。もう名古屋という大都市に近いです。

写真80. 特急車両とすれ違う
特急車両とすれ違います(写真80)。近鉄名古屋と車両基地の間の回送列車でしょう。「ライナー」として運転したところで乗客は見込めず、回送としているのでしょう。

写真81. JR東海名古屋工場が見える
JR東海名古屋工場が見えます(写真81)。

写真82. JRの車両基地が見える
JRの車両基地が見えます(写真82)。

写真83. 名古屋の都心も見える
終点に近づき、名古屋の都心を構成するビル群も見えます(写真83)。

写真84. 地下に入る直前の風景
地下に入る直前の風景です(写真84)。

写真85. 名古屋に到着!
近鉄名古屋に到着しました(写真85)。
この後は宿泊先の都合で正面出口から出ました。
近鉄名古屋の駅について詳細に紹介しています。
近鉄特急での大阪から名古屋の移動
新幹線だと新大阪から名古屋まで49分(のぞみ利用の場合)であり、こだま号でも68分です。それを大阪難波から近鉄名古屋まで最短で125分程度、今回のパターンでは145分程度を費やし、まさに時間を優雅に使った移動でした。
道中は東海道新幹線では味わえない風景が展開し、興味深い時間でした。また、新幹線と異なる特急車、そして名阪特急では当たらない特徴的な車両を選択し、趣味的にも充実した時間でした。
ただし、(近鉄特急の性能の高さがあるのかもしれませんが)性能を精一杯使用していない走りが気になりました。一般電車(快速急行とそれより停車駅の多い種別のこと)と線路を共用する都合があり、全区間で全速力を出せないという事情はありましょう。しかし、一般電車の駅停車時のオペレーションにも課題があり、それらをクリアすると一般電車のスピードアップが実現し、そのダイヤの隙間を走る特急もスピードアップするでしょう。このことにより、数分単位でありながらスピードアップが実現し、新幹線を筆頭とする他交通機関への競争力向上のみならず、乗務員の勤務時間も短縮され、商品力向上と運営費用削減に貢献することでしょう。
そして、多様な特急車で多くの種類の需要に備える、新幹線にはない強みも発揮していただきたいものです。
他方、伊勢方面の特急は比較的空席もあり、伊勢中川乗りかえという手段は、新幹線や名阪特急が満席の際の最後のカードにもなりうることを実感しました。
果たして前後はどこに行ったのでしょうか?
(←前)さくら号の旅(岡山→新大阪)
近鉄特急での大阪から名古屋の移動(穴場列車に乗車!):現在地
近鉄ビスタカーの車内(→次)
★今回の旅行の全体像は25年GW瀬戸内旅行のまとめに記載しています。