電車の混雑に関する基礎知識②:混雑が生じる理由

記事上部注釈
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前回の講座で電車の混雑についてある程度理解したところで、次に思い浮かぶ疑問が混雑が生じる理由でしょう。本記事では、混雑が生じる理由を解明しましょう。

E235系(新宿)

写真1. 混雑の象徴、新宿に停車中の山手線

混雑が生じる理由のまとめ

混雑が生じる理由は、以下の通りです。

  • 需要が供給を上回ると混雑が激しくなる
  • サービス産業である以上、鉄道は需要が平均化されない
  • 需要が瞬間的であるほど、その混雑は激しい

経済学の基本原理:需要と供給

鉄道輸送はあまたある経済活動の1つの姿です。そのため、経済学の考えが適用されるはずです。経済で重要な概念の1つが需要供給です。

一般に需要と供給については、以下の概念で説明されます。

需要:あるものについて、買いたい人のこと
供給:あるものについて、売りたい人のこと

※これらについては、あすなろ学習室にわかりやすく掲載されていました。

ここで供給サイドで考えてみます。例えば、今あなたが眺めている携帯電話やパソコンというデバイスのメーカー視点で考えるということです。需要が供給より小さければ売れ残りますし、需要が供給より大きければ販売機会を逃しています(目の前に買いたい人がいるのに売れない)。売り残りがあると経営資源を圧迫しますし、販売機会損失を逃すと売り上げが伸びません。

ここでは単純に述べましたが、供給サイドの事情で需要も変化します。例えば、ある車種が部品不足で供給が十分でないとすると、「買えないのであれば、別の車種にしよう」という動きが出るでしょう。つまり、需要が減るということです。現実世界ではこのような難しい面がありますが、単純のため本記事では特殊な場合を除き、供給サイドの都合で需要が変わることはない、とします。

そのため、経済の一般則として、需要と供給がおおむね等しくなる(販売機会損失を重視し、若干売れ残る)ようになります。鉄道輸送も経済活動の1つですから、需要と供給がおおむね等しくなるはずです。

しかし、現実には混雑が生じています。混雑しているということは、需要が供給よりも高いですから、需要と供給が一定していないことを意味します。そのため、需要と供給が等しくなるという一般原理から外れています。

サービス産業の需要量の変動

E5系(仙台)

写真2. 新幹線の座席も使いまわしができない

さきほどの章で挙げたものは、目に見える「もの」のやり取りでした。「もの」は保管をできますから、そこに時間軸という概念は不要です(納品まで10年単位でかかるという極端な例を除きます)。ところが、「もの」ではなくサービス産業では、時間軸という概念を導入する必要があります。

例えば、一般のレストランを考えてみましょう。クリスマスシーズンにはそこでディナーをとる人たちで混雑する一方、普通の平日は空いているでしょう。これは、クリスマスシーズンには需要が多い一方、普通の平日には需要が少ないためです。平日の客席をクリスマスシーズンに回すわけにはいきませんから、クリスマスシーズンが混むわけです。

これは、鉄道輸送についても適用できます。需要は刻一刻と変わる一方で供給はストックできませんので、どうしても需要が供給より上回る場面が生じます。これが混雑が生じる根源です。

需要の変動と混雑の激しさ

需要の変動と混雑の激しさには、何か関係があるのでしょうか。個別の事情はいろいろとありますが、全体的な観点で考察します。

ここでも供給サイドで考えます。2つのケースとして、常に需要があふれている路線Aと、需要がある瞬間だけある路線B(路線AとBも最ピーク時の混雑が同じとします)。路線Aと路線Bの混雑緩和に対するモチベーションは以下の通りでしょう。

  • 路線A:いつも混んでいるので、輸送力(供給力)を高める施策を行っても、その資金は有効に活用できる
  • 路線B:一瞬だけ混んでいるので、輸送力を高める施策を行っても、その資金は有効に活用されない

このような理由があるので、路線Bの輸送力を高めることはなされずに、長期的に見ると路線Bのほうが最ピーク時の混雑はそのままとなる可能性が高いでしょう。

この最も顕著な例が通勤電車の朝ラッシュ時の混雑です。一般に郊外から都心に向かう方向の特定の時間帯だけ混雑します。朝ラッシュ時だけ混むので、輸送力を増強するモチベーションに乏しいです。また、朝ラッシュ時の乗客は割引率の高い定期券利用者が多いことや、輸送力を増強するためには線路の増設が必要で、そのためには高価な土地を買収する必要があることからも、輸送力増強のモチベーションはそこまで高くなりません。

よって、通勤電車の朝ラッシュ時の混雑はなかなか緩和されないのです。もちろん、日本の鉄道は独立採算制が基本(公費が投じられにくい)という面や、東京という都市が世界一の集積を誇る(この地球上に東京をこえる大都市圏はありません)という側面は無視できませんが、このような構造もあるのです。

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