都心直通が始まり、横浜方面と都心方面に分岐した相鉄。両者が重なる区間の混雑状況はどうでしょうか。実際の混雑状況を確認しました。

写真1. 西谷で都心直通電車から横浜行きに乗りかえる人が多い
補足本記事では、相鉄と東急やJR線の相互直通運転の列車をひとまとめにして、「都心直通」という表記を使います。JR線直通電車は新宿発着であり、東京都心の定義の3区(中央区、千代田区、港区)を通りませんが、ご承知おきください。
相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況のまとめ
相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況は以下の通りです。
- 最混雑時間帯(7:26~8:25)の平均混雑率は102%前後である
- 都心直通電車より横浜行きが混雑する傾向にある
- とりわけ海老名発の通勤急行が混雑する
詳細は以下に記します。
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
表1. 混雑ポイントの基本的な概念と混雑率

120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。

写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)

写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)

写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
今回は上り電車が都心方面と横浜行きが分岐する直前の鶴ヶ峰→西谷で調査しました。
相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況の生データ

写真5. 朝通勤時間帯のみ運転される通勤急行
最初に生データを示します(表2)。
表2. 相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況の生データ

そして、各列車の混雑率を視覚化しました。
表3. 相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況の各列車混雑率視覚化

これらを見ると、横浜行きの混雑率が高く、都心方面の混雑率が比較的低めなことがわかります。次の章で混雑についてもう少し詳細に分析します。
現場で観察していると、都心直通電車から西谷始発の各駅停車に乗りかえる人が多く見られました。着席が可能で所要時間の差も10分以内なので、現実的な選択肢なのでしょう。
相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況の解析

写真6. レア種別の通勤特急
前の章で利用状況の生データを示しました。しかし、傾向がわからないと不親切でしょう。そこで、利用状況を解析します(やさしー)。
混雑ポイントは比例尺度でなく、計算ができません。そのため、一般的な混雑率に換算してから統計処理します。
復習:相鉄の朝ラッシュ時のダイヤパターン
混雑傾向にダイヤは大きく関係します(逆にダイヤを組む際に混雑状況も想定します)。そのため、阪神なんば線のダイヤパターンを簡単に紹介します。
相鉄線は基本的に15分サイクルのパターンダイヤを採用しています。1サイクル当たりの内訳は以下の通りです。
- 特急:海老名→都心方面(たいていJR線直通)と海老名→横浜が各15分間隔
- 通勤急行:海老名→横浜と湘南台→横浜が各15分間隔
- 各駅停車(本線):海老名→都心方面(たいてい目黒線直通)が15分間隔
- 各駅停車(いずみ野線):湘南台→都心方面(東横線と目黒線が半々)が各15分間隔
- 各駅停車(西谷→横浜):15分に2本運転
横浜方面は特急1本と通勤急行が2本運転されます。特急は本線に限定され、通勤急行は本線といずみ野線が半々の割合です。本線はこれと同数の特急と各駅停車(西谷までの停車駅は通勤急行と同等)が運転されます。すなわち、海老名から二俣川までは特急と各駅にとまる電車が15分に2本運転されます。
いずみ野線では15分に2本の各駅停車が別途運転されます。これらは東横線と目黒線に向かいます。
ただし、横浜に向かうピーク時は海老名から目黒線の各駅停車が通勤急行横浜行きに置き換わります。
また、海老名から都心方面の特急と各駅停車の組み合わせがJR線直通の特急と目黒線直通の各駅停車の組み合わせでなく、JR線直通の各駅停車と目黒線直通の特急に入れ替わるサイクルがあったりと、例外は多いです(最大の例外がいずみ野線から東急直通の各駅停車でなくいずみ野線内通過運転がある通勤特急に置き換わる)。
そのような例外があることを承知のうえで、15分サイクルの内訳を簡単に示しました(図1)。

図1. 相鉄の朝ラッシュ時のダイヤパターンの概念図(例外が多いことはご承知おきください)
相互直通運転の組み合わせは下記の通りです。
- 海老名-JR線直通(新宿方面):例外なし
- 湘南台-東横線直通:調査時間帯では例外なし
- 海老名-目黒線直通:朝ラッシュ時は湘南台から目黒線直通も加わる、三田線直通以外に南北線直通もある(海老名→三田線に湘南台→南北線だけが加わるということではなく、海老名→南北線や湘南台→三田線もあるということ)
最混雑60分間の推定
一般に朝ラッシュ時は60分間の混雑を取り出すことが多いです。そこで、ここでもセオリー通りに最混雑60分間を推定します。
下記の通り、行先によって混雑は異なります。そこで、15分ごとに取り出して混雑率を集計しました(表4、図2)。
表4. 相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況(時間帯別)


図2. 相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況(時間帯別、視覚化)
これらのデータから7:26-8:25を最混雑60分間と定義しました。なお、7:16-8:15、7:21-8:20でも集計していますが、101.6%でした(小数第2位を比較し、改めて7:26-8:25が最混雑60分と認識しました)。
以下の解析では、この60分間について解析します。
種別ごとの混雑状況
最初に種別ごとの混雑状況を分析します。
表5. 相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況(最混雑60分間、種別ごと)


図3. 相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況(最混雑60分間、種別ごと)
通勤急行が混んでおり、特急はいずみ野線の通勤急行よりも空いています。いずれにしても都心方面は空いています。象徴的な意味合いのいずみ野線通勤特急は特に空いています。もっともいずみ野線通勤特急は都心方面であり、ラッシュ時のピークを避けているという点も否定できません。
いずれにしても、いずみ野線系統が空いています。いずみ野線が湘南台まで延伸して20年以上経過しますが、いまだに本線といずみ野線の格差は存在するのです。
車両(号車)ごとの混雑状況
では、車両ごとの混雑状況はどうでしょうか。
表6. 相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況(最混雑60分間、号車ごと)


図4. 相鉄本線(鶴ヶ峰→西谷)の平日朝ラッシュ時の混雑状況(最混雑60分間、号車ごと)
大まかには以下の傾向です。
- 横浜行きは1号車と6号車に混雑のピークがあり、最後尾車両は空いている
- 都心直通は1号車と8号車以降は空いている傾向があり、中央付近が混んでいる
横浜行きの混雑傾向は明らかに横浜駅の構造が関係します。横浜駅の到着ホームによって若干異なりますが、(JRや京急の)南側の改札口に近いのは5号車や6号車付近、メインの改札に近いのは1号車付近です。その横浜で降りやすい場所に乗りたいのが人情です。この差を改善するために五番街口を設置していますが、10時以降の稼働と朝ラッシュ時には威力を発揮していません。これを深度化し、10号車に近い位置に別の改札口を設置すると良いでしょう。
都心直通電車は全般的に後ろ寄りが混んでいます。これは東急東横線内の混雑傾向に似ているとも解釈でき、その影響が及んでいるとも評価できます。
混雑状況からダイヤを考える

写真7. 今や相鉄線は他社の車両も日常的に入ってくるようになった
混雑状況からダイヤを考えます。最初に思い浮かぶのは、混雑する通勤急行を15分間隔から15分に2本の設定とすることです。これは西谷始発の各駅停車に乗りかえる人の多さを見かけると納得できます。また、都心直通でも横浜行きでも特急のほうが空いていることを考慮すると、建替対象列車は都心直通の特急にすると良さそうです。すなわち、15分間隔で設定されている都心直通の特急を通勤急行横浜行きとすることです。
他方で、横浜行きの速達列車は純増です。したがって、あえて鶴ヶ峰に停車する必要はありません。すなわち、急行という名称を復活させて、現在の通勤急行と別の種別とするのです。後述の事情により、西谷の線路が過密になるので、西谷停車時間を削減するという意味を込め、西谷通過とするのです。
都心直通電車の本数が減ってしまうのが問題であれば、西谷始発で設定するのが1つの手です。しかし、そうすると引上線から4番線に向かう際に横浜行きと交差支障が発生します。そのような事情もあり、西谷駅の3番線の自由度を高めるために西谷通過と提案しました。
ただし、このダイヤ案だと西谷から横浜まで増発となり、それだけ速度が遅くなります(減便と引き換えに2018年ダイヤと比較し、二俣川から横浜までは停車駅を増やしても0分~2分程度スピードアップしています)。また、都心直通電車の利便性を下げることは、「(都心勤務の人にとって)選ばれる相鉄」という近年の相鉄の戦略にそぐわないです。
横浜勤務が前提で相鉄沿いに住宅を選んだ人は、都心方面にシフトした現状のダイヤは満足度が低いです。他方で、2018年度には43万人いた横浜利用客は2023年度は31万人に減っており(羽沢横浜国大と新横浜合わせ8万人、外部サイトを参照)、平均3分45秒間隔だった急行横浜行き(2018年3月ダイヤ)を平均5分間隔(ピーク時はやや増える)に減便しつつスピードアップした妥当性は一定程度認められます。
すなわち、「(都心勤務の人にとって)選ばれる相鉄」という近年の相鉄の戦略と、現在の横浜利用者の希望に合致した戦術的に最適なダイヤが合致しないことが相鉄とその利用者にとってベストでないのです。もっとも、戦略が実った場合は都心直通電車も相応に利用されることになりましょう。
コメント
朝夕ラッシュ時だけでもいいから相鉄の目黒線直通は
湘南台→都営三田線
海老名→東京メトロ南北線
に統一したほうがわかりやすいと思います。
ヤバいAI屋さん、コメントありがとうございます。
目黒線関係の運転系統を単純化するのであれば、海老名→三田線のほかに湘南台→南北線を加えるのが得策ではないでしょうか。
湘南台→都営三田線、海老名→東京メトロ南北線だとかえってわかりにくいと感じてしまいます。