「鉄道で楽しむヨーロッパ」の書評

記事上部注釈
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2024年に発売された鉄道で楽しむヨーロッパという書籍。とっつきやすい印象の鉄道旅行本ですが、実際の内容はどうでしょうか。簡単にまとめました。

写真1. 人気の氷河急行が表紙を飾る

鉄道で楽しむヨーロッパの感想まとめ

鉄道で楽しむヨーロッパの感想をまとめると以下の通りです。

  • ヨーロッパでの鉄道旅行のための本でなく、ヨーロッパ旅行で鉄道を活用するアイディアが多い
  • ヨーロッパ旅行の人気エリアの国の比重が高い
  • 巻末のほうには鉄道の最新情報が掲載され、鉄道本としての価値を保っている

以下、詳細を記します。

橋爪智之著 イカロス出版株式会社発行

鉄道で楽しむヨーロッパの内容

写真2. 鉄道ファンなら気になる夜行列車についても特集される

鉄道で楽しむヨーロッパの内容を簡単に紹介します。

内容の一覧

内容の一覧を示します。

  • ヨーロッパ絶景の旅
  • 主要都市発 日帰りor1泊おすすめ旅
  • ヨーロッパの高速鉄道活用ガイド
  • 夜行列車で国境越え
  • 食堂車バンザイ
  • SL列車でGO!

最初に「ヨーロッパで乗りたい鉄道」とされる風景が美しいことで有名な鉄道を紹介し、「ヨーロッパの鉄道に乗ってみたい」と心をつかみます。スイスが3ルート、ドイツが2ルート(1ルートはチェコにまたがる)、オーストリア(イタリアにまたがる)が1ルートです。

次に、主要都市発 日帰りor1泊おすすめ旅とされる、軽い鉄道旅が提唱されます。パリ発が3ルート、ミュンヘン発が3ルート、ウィーン発が3ルート、チューリッヒ発が2ルートです。「パリ7泊9日」というメジャーな旅行形態(たいていの人は添乗員ツアーか航空券とホテルのパッケージツアーを選択すると思います)で可能な気軽な鉄道旅が提唱されています。

次の章から徐々に中身が濃くなっていきます。いずれも添乗員付きツアーかパックツアーで乗ることはないであろう列車群です。まず、主要な高速列車を紹介し、周遊旅行で使うであろう情報を示しています。

その次の章は夜行列車の紹介です。外国の夜行列車というと抵抗感があると思いますが、そうでないことがわかります。そして、ヨーロッパの鉄道の魅力の1つ、食堂車についても触れています。

最後にSL列車について記載されています。

このように、とっつきやすい話題から徐々に深い話題にシフトし、読者の興味に応じた話題を読むことができます。

内容を1つ紹介:ゴールデンパスエクスプレス

写真3. ゴールデンパスエクスプレス(ツヴァイジンメンで撮影)

スイスにはいくつか風景が美しい路線があります。レマン湖沿いのモントルーからツヴァイジンメンを通り、インターラーケンに至る路線です。ただし、長らく途中のツヴァイジンメンで乗りかえが必要で、やや不便な状態でした。

それを克服したのがフリーゲージトレインです。その技術を採用したゴールデンパスエクスプレスが実際にインターラーケンからモントルーまで直通したのです。この列車に実際に乗車し、車内や風景をレポートしています。このルートに限らず、実際に乗車し(場合によっては途中で降りて風景を堪能し)、読みやすい文章でまとめています。人によっては物足りなく感じるかもしれません。

紹介している国について

本書では一部の国に記述の大半が割かれています。これらの国は人気が高く、多くの人のニーズに合っていることでしょう。

  • フランス:パリを拠点とする旅行や夜行列車で取り上げられています。
  • ドイツ:絶景の旅で取り上げられています。
  • スイス:絶景の旅で取り上げられています。

このほかの国は記述が薄く、オーストリア、イタリア、チェコ、ポーランドは多少の記述がある程度、イギリス、オランダ、ベルギーやスペインは高速列車で取り上げられている程度です。全体的に網羅性が低く、国により軽重が付けられている点が気になりました。先述の3か国の情報は先行の多くの書籍で網羅されていることが多く、先行の書籍と差別化するのであれば、それ以外の国もある程度取り上げることが得策に感じます。

これは、出版側の意図があるのかもしれません。ターゲットとしている層は、「ヨーロッパの周遊旅行」をしたい層でなく、「ヨーロッパに行きたい層」「鉄道旅行に興味はあるけど実際にやるのに躊躇している層」なのでしょう。

情報よりも動機付けが重視される構成

基本的な情報は出されていますが、詳細な情報はありません。例えば、高速鉄道に関するページには主要都市間の所要時間は示されていません。本数も示されません。詳細な情報をあえて示さずに、読みやすさを重視し、「鉄道旅行に行ってみたい」という動機付けをすることが主眼ということを実感させられます。

高速鉄道の所要時間を知りたいのは、周遊旅行をしたい人であり、上述の通り、そのような人はターゲットとしていないことがわかりました。

そのような観点から、車両の細かな違いについては触れていません。

鉄道で楽しむヨーロッパを読んでみて

写真4. このようなマイナーな路線は登場しない(ブレゲンツ駅周辺で撮影)

ヨーロッパ旅行に興味がある人に、鉄道旅行をしたいという動機付けが主眼と見えた「鉄道で楽しむヨーロッパ」。とはいえ、夜行列車の最新車両の構造についても触れており、鉄道ファンが楽しめるようにも配慮されています。

動機付けが主眼のようにも見え、私のような「欧州鉄初心者」でさえ、物足りない部分があります。こればかりは仕方ありません。出版物は印刷~出版に費用がかかるものであり、ある程度の需要がなければ成立しません。そして、海外鉄の層は薄く、その興味も細分化されています。そのため、ある程度以上の知識を前提とした書籍では出版物として成立しないのでしょう。

そのような意味で、本書によって多くの人に「ヨーロッパ旅行で鉄道に乗る旅行」への動機づけがなされ、欧州鉄の裾野が広がればと思います。そして、本書をきっかけに欧州の鉄道に興味を持っていただければ、欧州鉄の万年初心者である私は望外の喜びです。

また、旅行に行きたくなる構成であり、またヨーロッパに行きたいと感じる内容でした。

そして、深い内容を求める人は大手出版社による出版物ではなく、個人による出版物を手に取るべきかもしれません。手前味噌ですが、ドイツの鉄道に特化した書籍であれば、ドイツ鉄道大全がおすすめです。

橋爪智之著 イカロス出版株式会社発行
電子版ペーパーブック
販売サイトBOOTHAmazon
販売形態PDFファイル形式ペーパーブック形式
分量194ページ(本文)194ページ(本文)
価格1,700円3,278円
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