2023年に日中時間帯のダイヤを組み替えた東武東上線。ある意味妥当なダイヤですが、実際の利用状況はどうでしょうか。池袋より、複々線区間、川越市以遠の3か所で利用状況を確認しました。
写真1. 朝霞台に到着した快速急行森林公園行き
注意本調査は8月上旬と学生が休んでいる時期のことです。そのため、普段より利用が少ないことが予想されます。
日中時間帯の東武東上線の利用状況のまとめ
日中時間帯の東武東上線の混雑状況は以下の通りです。
- だいたいの区間は座席が埋まる程度の混雑かそれより空いている
- 両端の2両が空いている傾向にある
詳細は以下で記します。
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
弊サイトでは混雑ポイントという概念を導入しております。その概要を示します(表1)。
表1. 混雑ポイントの概要
せっかくなので、120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。
写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
今回は以下の3区間で調査しました。
- 池袋-北池袋(池袋側を選定)
- 朝霞台-志木(複々線区間を選定)
- 川越市-霞ヶ関(列車本数が少なくなる区間を選定)
平日の日中時間帯の東武東上線の混雑状況の生データ
写真5. 霞ヶ関で上下方向の快速急行がすれ違う
まず、生データを示します。
最初は起点側の池袋-北池袋の混雑状況です(表2、表3)。
表2. 池袋-北池袋の混雑状況の生データ
このときは15:05着の普通池袋行きが「車内トラブル」で遅れており、「いつもの混雑」と異なる可能性が想定され、混雑調査はこれで中止しています。ただし、大まかな傾向はつかめることでしょう。
表3. 池袋-北池袋の混雑状況の生データ(各列車混雑率視覚化)
混雑状況を視覚化しました(表3)。
次に複々線区間の混雑状況を示します(表4、表5)。
表4. 朝霞台-志木の混雑状況の生データ
各列車の混雑率を視覚化しました(表5)。
表5. 朝霞台-志木の混雑状況(各列車混雑率視覚化)
最後は列車本数が減る、川越市-霞ヶ関の混雑状況です(表6、表7)。
表6. 川越市-霞ヶ関の混雑状況の生データ
各列車の混雑率を視覚化しました(表7)。
表7. 川越市-霞ヶ関の混雑状況(各列車混雑率視覚化)
混雑率は40%足らずの列車が多く、平均すれば座席が埋まる程度の混雑かそれ以下の混雑とわかります。
平日日中時間帯の東武東上線の混雑状況の傾向
写真6. 快速急行元町・中華街行きから降りる人々(朝霞台で撮影)
3か所の混雑状況から傾向を探ります。
復習:東武東上線のダイヤパターン
混雑傾向にダイヤは大きく関係します(逆にダイヤを組む際に混雑状況も想定します)。そのため、東武東上線のダイヤパターンを簡単に紹介します。
東武東上線は基本的に30分サイクルのパターンダイヤを採用しています。急行が30分に2本運転され、10分間隔と20分間隔の交互です。この20分開く箇所に快速急行が挿入されます。快速急行は30分間隔で運転され、副都心線と森林公園を結びます。この快速急行が和光市で池袋発着の準急に接続します。池袋発着の速達列車が平均10分間隔なのはやや不足しているという判断か、準急は30分に2本運転されます。1本は先述の通り和光市で快速急行に連絡(ふじみ野で急行と緩急結合)、もう1本はふじみ野で快速急行の通過待ちです。つまり、池袋断面では速達列車は30分に4本(急行が10分間隔、20分間隔の交互、20分の間に準急が2本)運転されます。
このほかに普通が30分に4本運転されます。池袋断面で30分に4本運転される普通のうち3本は成増発着、30分に1本が成増以北まで運転されます。成増以北は準急が各駅にとまりますので、準急と池袋発着の普通を合わせ30分に3本の運転、さらに有楽町線直通の普通が30分間隔で運転され、和光市-川越市はどの駅でも30分に4回の停車が約束されます。
なお、和光市以北で運転される池袋発着の普通は志木発着と川越市発着がそれぞれ30分間隔で、志木以北は湘南台-川越市の普通が毎時1本運転されます。いいかえると、30分間隔で運転されるはずの池袋-川越市の普通の半数が池袋-志木と副都心線-川越市に分断されています。和光市-志木で普通を余計に運転してまでこのパターンにしているのは、東上線沿線から東海道新幹線へ毎時1本の直通電車を運転し、沿線価値を高めていると理解できます。
和光市-川越市で各駅にとまる種別(普通と準急)は川越市以南の運転で、川越市以北は約10分間隔の急行と快速急行だけの運転です。2008年以前は15分間隔でしたが、それでは混み過ぎてしまい10分間隔とした(2023年以前の毎時8本では多すぎる)一方、池袋側では速達列車は15分に2本が必要で、その間隔のずれを埋めるために停車駅の少ない快速急行を採用したとも読み取れます。
各区間の種別ごとの混雑状況
各区間での種別ごとの混雑状況を示します。
池袋側の混雑状況の分析
まず、池袋側の分析結果です(表8、図1)
表8. 池袋-北池袋の混雑状況分析(種別ごと)
図1. 池袋-北池袋の混雑状況分析(種別ごと、視覚化)
池袋側では普通が空いていることがわかります。ただし、学生の利用が少ない時期(教育機関の夏休み)に該当し、公立高校の生徒は普通に集中しがち(公立高校の生徒は都県境の成増-和光市を通らないはず)なことから、普通が普段より顕著空いている傾向が読み取れることは否定できません。2021年では普通がむしろ混んでいました。
急行は利用が手堅く、昔のダイヤから毎時4本を確保するのが基本(2016年~2023年は半数は地下鉄直通だったが、このときは川越市以南で急行と同等の停車駅の快速が毎時2本運転されていたので、毎時4本確保されていたと表現しても過剰でないでしょう)だったことがわかります。
また、準急が30分に2本運転されているものの、利用率は低いです。下りだと快速急行に連絡するほうが相対的に空いています。これは快速急行に乗りかえることによる敬遠か、快速急行そのものが敬遠されているかはわかりません。
全般的に空いており、このときの利用率だけを眺めると、急行、普通の各10分間隔であっても問題ないように見えます。実際は学生の利用が少ない影響が強く、そのほかの期間であれば平均7.5分間隔が妥当であり、このようなダイヤになっているのでしょう。
次に車両別の混雑状況を分析します(表9、図2)。
表9. 池袋-北池袋の混雑状況分析(号車ごと)
表9. 池袋-北池袋の混雑状況分析(号車ごと、視覚化)
1号車が空いていることがわかります。池袋で出口に遠く、多くの人が選択しない乗車位置という点がわかります。一方、そのほかの車両は比較的分散しており、池袋の出口が複数あることで乗客の乗車位置が分散していることがわかり、乗り降りの多い駅の階段等の位置の重要性が伝わります。
複々線区間(朝霞台-志木)の混雑状況の分析
複々線区間の朝霞台-志木の混雑を分析します。
まず、種別ごとの混雑状況を分析します(表10、図3)。
表10. 朝霞台-志木の混雑状況分析(種別ごと)
図3. 朝霞台-志木の混雑状況分析(種別ごと、視覚化)
午後の早い時間だったためか、上りのほうが利用が多い印象を受けました。いずれにせよ、急行に利用が集中し、池袋発着の速達列車に集中することがわかります。一般に最速達列車のほうがより混雑しますが、東上線では急行より快速急行がかえって空いていることがわかります。
急行と快速急行の違いは都心側の発着駅と東上線内の停車駅です。すなわち、快速急行は地下鉄直通であり、かつ朝霞、志木とふじみ野を通過します。志木はそれなりに利用の多い駅ですので、志木を通過することで志木利用者が乗れないという事情もありましょう。また、快速急行に近接し、池袋発着の準急も運転されており、乗客が分散しているという理由もありましょう。
普通は顕著に空いています。とりわけ、志木発着は地下鉄直通と続行していることから、かなり空いています。和光市-志木で2本続行することを承知で池袋-川越市の普通を池袋-志木と湘南台-川越市に分断したためですが、新横浜直結である利点は有効活用されていないように見えました。朝夕に近い時間帯はともかく、日中時間帯は従来通りの池袋-川越市に戻し、運用コストを削減しても問題ないように見えました。
さらに踏み込むと、この区間は(志木発着の普通を除外しても)速達列車が30分に3本、普通(この区間を各駅にとまる準急も含む)は30分に4本です。利用状況だけを考慮すると、普通も10分間隔でも問題なさそうです。
次に、号車ごとの混雑状況を分析します(表11、図4)。
表11. 朝霞台-志木の混雑状況分析(号車ごと)
図4. 朝霞台-志木の混雑状況分析(号車ごと、視覚化)
池袋断面と比較し、両先頭車が空いている傾向が強いです。これは池袋以外の東上線の駅は階段が少なく、結果として中間車に乗客が集中するためでしょう。逆にいうと、両端の2両ずつ(1、2、9、10号車)であれば、快適に移動できるということです。
郊外区間(川越市-霞ヶ関)の混雑状況の分析
最後に郊外区間ともいえる川越市-霞ヶ関の混雑状況を分析します。
まず、種別ごとの混雑状況をまとめます(表12、図5)。
表12. 川越市-霞ヶ関の混雑状況分析(種別ごと)
図5. 川越市-霞ヶ関の混雑状況分析(種別ごと、視覚化)
お昼ごろとあり、上りの利用が多い時間帯です。したがって、下りより上りのほうが混んでいます。いずれにせよ、快速急行がより空いています。また、上下ともに快速急行の直後の急行が混んでおり、郊外区間からふじみ野や志木を目指す人(川越市での接続は比較的良好ですが)あるいは池袋利用者が急行を選択する様子が伝わります。
この状況を見ると、池袋発着の急行を10分間隔で運転するのが利用状況に合致するように感じました。ただし、これには池袋側も急行と普通を10分間隔に統一する必要があり、学生の利用が多い時期には池袋側の普通電車の10分間隔が難しい面もありましょう。また、地下鉄で渋谷や横浜に直結する速達列車をシンボリック的に運転したいという営業的な側面もありましょう。
利用状況を均等にするには、上りでは和光市で準急に連絡する点、下りでは和光市で快速急行に連絡する点を強調する必要があります。
号車ごとの利用状況を分析します(表13、図6)。
表13. 川越市-霞ヶ関の混雑状況分析(号車ごと)
図6. 川越市-霞ヶ関の混雑状況分析(号車ごと、視覚化)
やはり編成の中間よりが混んでいます。霞ヶ関での乗り降りが多い1号車や2号車であっても、1駅での効果は大きくなく、編成両端が空いている傾向に変わりません。
区間別の混雑状況
最後に区間別の混雑状況をまとめます。
まず、全種別、全車両の平均の混雑状況です(表14、図7)。
表14. 3か所の混雑状況分析(全種別平均)
図7. 3か所の混雑状況分析(全種別平均、視覚化)
いずれの区間であっても平均すると座席が半数強埋まる程度の混雑です。川越市以北ややや混んでいる傾向に見えますが、この区間はいわゆる速達列車だけであり、空いている普通がないことが平均混雑率が高く見える原因です。
これだけだと同じ列車の断面混雑率がわかりません。そこで、急行を抽出し、混雑率をまとめます(表15、図8)。
表15. 3か所の混雑状況分析(急行限定)
図8. 3か所の混雑状況分析(急行限定、視覚化)
どの区間であっても急行は座席が埋まる程度に利用されています。日中時間帯での適正レベルといえ、速達列車の本数は現状が妥当とわかります。いいかえると、急行は長い間混雑率は変わらず、(車両によっては)どこでも混んでいるというイメージにつながるでしょう。かつての急行15分間隔(2008年6月ダイヤ改正以前)では川越市以北の混雑率が60%に達し、車両によっては窮屈と感じましょう。
いずれも学生の利用の少ない8月上旬のことであり、他の時期であれば(日中でも利用が想定される)大学生の利用ももう少し見込まれます。
混雑状況からダイヤを考える
写真7. 和光市で後続の快速急行に接続される準急池袋行き(朝霞台で撮影)
混雑状況からダイヤを考えます。まず、速達列車の本数です。速達列車は池袋側では15分に2本(厳密には30分に4本)、郊外区間では平均10分間隔です。急行の混雑は座席が埋まる程度であり、準急(池袋側)や快速急行(複々線区間、郊外区間)はもう少し空いていることから、速達列車の本数は妥当でしょう。池袋側での急行10分間隔も混雑状況から可能でしょうが、突発的な利用増にリスクがあり、現段階ではリスクがあるダイヤでしょう。
池袋側は普通は10分間隔でも可能と見えます。これは準急の上板橋停車により、上板橋、東武練馬、下赤塚の利用者が必ずしも普通を利用しなくても良くなったことに起因しましょう。ただし、(1つ上の段落で提案した)池袋断面で急行と普通の各10分間隔ダイヤだと上板橋、東武練馬、下赤塚の利用者が普通を利用させられ、所要時間が増え、運転間隔が増えてしまうという欠点があります。
複々線区間の普通は10分間隔でもじゅうぶんに見えますが、毎時6本に減便すると最大13分のダイヤホール(有楽町線直通を減便すると志木発下りが毎時56分~毎時09分の13分)が生じ、利便性が大きく落ちてしまいます。そのため、ある程度の無駄を承知のうえで、毎時8本としているのでしょう。それでも、和光市-志木で無駄になっている湘南台-川越市の普通をカットすると良いでしょう。
これにより、(下りでいう)普通の運転時刻を1~2分繰り上げることが可能で、それだけ後続の急行がふじみ野までスピードアップ可能です。ふじみ野の先は先行の普通との間隔が開き、そのスピードアップぶんは森林公園まで維持できます。上りも同様の考えが可能です。
細かな改良点はありますが、利用実態にそれなりに合致しているダイヤが実現され、かつての急行15分間隔+快速30分間隔時代よりもバランスは改善されていると感じました。
東武東上線の混雑に関する記事
ここまで特定の駅での混雑調査というある意味「深くて狭い」情報を示しました。では、浅くて広い情報を書いた記事はないのでしょうか。そのような声にお応えし、基本的なデータを集めた記事を作成しています。
※東上線の混雑調査結果をまとめた他の記事へのリンクも整備しています。