東急各線を串状に結ぶ、東急大井町線。以前は地域内路線という性質が強かったのですが、近年は東急田園都市線から都区内南東部へのチャンネルという役割が増え、混雑が増しています。朝ラッシュ時にその最混雑区間の実態を確認しました。
写真1. 下りの溝の口行きもそれなりに利用されている
東急大井町線の混雑状況のまとめ
東急大井町線の混雑状況の混雑状況の概要は以下の通りです。
- 最混雑時間帯はおおよそ7:32~8:31である
- 急行の混雑が著しく、各駅停車はそこまで混んでいない
- 混雑率はおおよそ126%である
これらの詳細は以下に示します。
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
弊サイトでは混雑ポイントという概念を導入しております。その概要を示します(表1)。
表1. 混雑ポイントの概要
せっかくなので、120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。
写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
今回は大井町方面行きの自由が丘到着断面の混雑を観察しました。可能な範囲内で旗の台行きの混雑も確認しています。
朝ラッシュ時の東急大井町線の混雑データ
写真5. 急行の多くは6000系が使用される
まず、朝ラッシュ時の東急大井町線の混雑状況の生データを示します(表2、表3)。
表2. 東急大井町線の混雑状況(平日朝ラッシュ、九品仏→自由が丘、生データ)
表3. 東急大井町線の混雑状況(平日朝ラッシュ、自由が丘→九品仏、生データ)
※空欄は大井町方面行きと重なって観察できなかったもの
今回は両方向のデータを採りましたが、以下の考察では混雑方向の大井町行きを解析することにします。
東急大井町線の混雑状況の分析
写真6. 各駅停車の到着風景
生データを示すだけでは不親切でしょう。親切で有名な私は、混雑状況を分析します(やさしー)。
復習:東急大井町線のダイヤパターン
混雑状況は鉄道ダイヤの影響を受けます(逆に鉄道ダイヤは混雑状況を考えて設定されます)。以下の考察でもダイヤパターンを理解していることを前提に記述します。そのため、東急大井町線のダイヤパターンを簡単に紹介します。
東急大井町線は9分間隔で急行が1本、各駅停車が2本運転されるのが基本です。各駅停車の1本が上野毛で急行を待ち合わせ、もう1本が旗の台で急行の待ち合わせを行います。急行の視点でいうと、上野毛と旗の台で各駅停車を追い抜くということです。
いずれも溝の口から大井町の運転で、田園都市線との直通運転や途中駅始発・終着は存在しません。ある意味単純なダイヤです。このダイヤパターンは2018年3月30日ダイヤ改正から継続されています。
混雑時間帯の分析
まず、混雑している時間帯を推定します。一般に最混雑時間帯は60分とされます。今回の調査は7:23~8:52という90分間を対象にしていますが、実際はどうなのでしょうか。
9分サイクルですので、その9分間隔で混雑率をまとめました(表4)。
表4. 東急大井町線の混雑状況(平日朝ラッシュ、九品仏→自由が丘、時間帯別層別)
また、混雑率をグラフで可視化してみました(図1)。
図1. 東急大井町線の混雑状況(平日朝ラッシュ、九品仏→自由が丘、時間帯別混雑率グラフ)
参考までに、急行の混雑率も可視化してみました(図2)。
図2. 東急大井町線の混雑状況(平日朝ラッシュ、九品仏→自由が丘、急行混雑率)
これらを見ると、7:32~8:33が混雑する時間帯と分析できます。現実には8:32、8:33の電車はなく(8:31の次は8:34です)、7:32~8:31が最混雑時間帯となります。
私がある程度混雑状況を見ると、「最ピーク時間帯は最混雑60分の後半のほうにあり、その最ピークを過ぎると急激に空く(※)」傾向が多いように見えましたが、東急大井町線はその傾向はありません。最ピーク時間帯は7:50~7:57付近にあるといえ、最ピーク時間帯は最混雑時間帯の中心付近です。また、シャープなピークがないことも印象に残ります。
※私はこれを「定時ギリギリ理論」と呼んでいます。多くの職場で始業時間直前に続々と出勤し(学校でも同じでしょう)、始業時間直後に出勤する人が少ない現象です。当然、そのピーク以前に出勤する人はいますが、通常はピーク直後に出勤する人はいません。そのため、通常は正規分布にならないのです。
多くの路線と傾向が異なるのは、東急大井町線が多様な輸送需要に対応しているためと考えられます。一般に多くの放射状路線は都心に向かう人で混んでいます。一方、東急大井町線は単純に都心に向かう人ばかりではなく、放射状に利用する人、そして、田園都市線の郊外方向と東横線の郊外方向を結ぶ需要、沿線の短距離利用といった多くの利用形態が重なる路線です。そのため、各輸送のピークがずれて、全体としてピークがなだらかになっていると解釈できます。
種別ごとの分析
では、その最混雑60分間の種別ごとの混雑状況はどうなのでしょうか。急行と各駅停車で分析しました(表5)。
表5. 東急大井町線の混雑状況(平日朝ラッシュ、九品仏→自由が丘、種別ごと層別、最混雑60分)
分析結果を簡単に示しましょう。
- 急行の混雑率は149%と最も高い
- 上野毛待避の各駅停車は混雑率118%と各駅停車のなかでは高い
- 旗の台待避の各駅停車は混雑率110%と各駅停車のなかでも空いている
急行の混雑率が高いことは納得できます。溝の口から大井町まで先着する唯一の種別であり、ある程度以上の距離を乗る人が集中することが予想されます。また、各駅停車の中で上野毛待避のほうが混んでいることもわかります。これは上野毛から九品仏までの間で前列車間隔が長いことが原因でしょう。大井町線は長い間各駅停車しか存在しないことからわかるとように、短距離利用もそれなりにある路線です。各駅停車の頻度も重要であることがわかる1つのデータです。
車両ごとの分析
では、それぞれの種別で混んでいる車両や空いている車両はあるのでしょうか。各駅停車は5両編成、急行は7両編成と違いがありますので、それぞれについて分析します(表6)。
表6. 東急大井町線の混雑状況(平日朝ラッシュ、九品仏→自由が丘、最混雑60分、車両ごと)
急行は溝の口よりの車両が若干空いていることがわかります。これは自由が丘の7号車付近のホーム幅が狭いことに関係していそうです。また、大井町での改札に遠いこともその要因の1つでしょう。むしろ、ここまで人が乗っていることに驚きを隠せません。朝ラッシュ時の混雑緩和に7両化が貢献していることを示す1つの証拠です。
各駅停車は大井町よりの先頭車が空いています。これは、自由が丘で東横線の渋谷方面への乗りかえが後ろ寄りであることが関係していそうです。溝の口や大岡山では別路線と同じホームで乗りかえられるので、これら2駅での乗りかえによるかたよりはありません(乗りかえ先でのかたよりはまた別の論点です)。これは、直通運転やそれに準ずる運転の隠れたメリットです。
利用状況からダイヤを考える
写真7. 各駅停車は沿線住民の足として活躍
今回の混雑調査結果で乗客の急行志向が明らかとなりました。これを考えると、9分に1本の急行を6分間隔に増発し、そのぶん9分に2本の各駅停車を6分間隔に減便することが考えられます。こうすると、各駅停車は上野毛と旗の台で急行待ち、急行はその両駅で各駅停車を抜かす格好です。
こうすると、5両編成の各駅停車の割合が減り、7両編成の急行の割合が増えることになり、輸送力増強にも貢献します。最悪、増発となる急行は6両編成でも良いでしょう。それでも、現在の5両編成よりは輸送力増強になります。
ただし、この方策は各駅停車の減便というデメリットがあります。もともと東急大井町線は地域輸送が主体で、朝ラッシュ時に3分間隔で各駅停車が運転されていた路線です。そのような路線で各駅停車が6分間隔に減便されることの抵抗感は小さくありません。
このように、地域輸送と広域輸送のバランスを考えることは容易ではありません。抜本的な解決は線路増強ですが、東急には線路増強が必要な路線は他にもあります。優先順位を考えると、(現段階での計画有無はともかくとして)線路増強という資金はそのような路線に費やすべきです。このことを考えると、限られた設備でバランスを取っていく難しさを今後も抱えることになりそうです。
コメント
大岡山では目黒線へ対面乗り換え出来ますが、旗の台での池上線への乗り換えは対面ではありませんよ。
DTライナーさま、コメントありがとうございます。
旗の台と溝の口を勘違いしていました。ご指摘の通りです。さっそく訂正いたしました。