中央ヨーロッパの2025年ダイヤ変更点を探る

記事上部注釈
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毎年12月に実施される欧州地区のダイヤ改正。多くの国との連絡がある、中央ヨーロッパ地区を中心にその変化を探りました。

写真1. 過去の風景と化したオランダ国鉄車のインターシティ(ブリュッセル南駅で撮影)

ドイツ地区

写真2. ハレ中央駅に停車中のICE(2023年に撮影、新設のパリ便はここを通らない経路だが)

主要項目は以下の通りです。

  • ベルリン-パリ間の直通列車の設定
  • ベルリン-フランクフルトの速達便の増発

ベルリン-パリ間の直通ICEの設定

今回の欧州地区のハイライトの1つです。従来はベルリン-パリは夜行列車のみの運転でしたが、昼行列車も運転されることになりました。

  • ベルリン中央11:54→フランクフルト南15:53→ストラスブール17:53→パリ東19:59
  • パリ東9:53→ストラスブール11:46→フランクフルト南14:04→ベルリン中央18:03

ベルリンはドイツ東部にあり、フランスから遠い場所にあります。そのためか、両国の首都は高速列車でも8時間かかります。

ベルリン-フランクフルトの速達便増発

ベルリンーフランクフルトの速達便が増発されます。具体的には1日3往復がノンストップ便です。ベルリンとフランクフルトの距離は500km以上あり、この距離をノンストップで結ぶのはなかなか興味深いことです。このうちの1往復は先述のパリ直通便でフランクフルト中央駅を通りません。ベルリン中央駅とフランクフルト中央駅を4時間で結びます。

なお、ノンストップ便でない速達タイプは2時間間隔で運転され(従来通り)、所要時間は3時間55分前後です。ノンストップ便より所要時間が短い?どういうことでしょうか?

図1. ベルリンとフランクフルトの2通りの経路イメージ(OpenRailwayMapより引用後加工)

従来から速達タイプが運転されているのは黒色の経路です。こちらのほうが距離が短く、所要時間が短くできます。一方、ノンストップ便が運転されているのは白色の経路です(図1)。せっかくのノンストップ便なのだから、黒色の経路で運転すれば良いのに…。

そして、フランクフルト中央駅は頭端式の駅ですので、ここを通ると進行方向を変える必要があり、所要時間がかかります。これを避けるために、パリ直通便はフランクフルト中央駅をあえて避け、フランクフルト南駅を通ります。これも、フランクフルト中心部を通る地下線を建設し、フランクフルト中央駅を通過式のターミナルにすれば良いと感じてしまいます。

図2. ノンストップ便が設定される経路(フランクフルトからベルリンまで575km)

図3. 従来からの速達便の経路(ベルリンからフランクフルトまで547km)

なお、速達便の経路(図3)の列車については全般的に所要時間は維持されています。ベルリン発は所要時間4時間から3時間56分にスピードアップし、ベルリン行きは所要時間3時間52分から3時間55分にスピードダウンしており、合わせると所要時間は維持です(2023年12月ダイヤ改正以前は両方向ともに所要時間は3時間52分程度でしたが…)。ノンストップ便の経路については所要時間は維持です。

スイス地区

写真3. 今回はIC5系統にメスが入った(2019年にローザンヌで撮影)

主要項目は以下の通りです。

  • チューリッヒ-ミュンヘンのECの増発
  • IC5系統の西側の発着駅をローザンヌに大幅振り替え
  • ローザンヌ郊外のルナンに停車する便を増便

チューリッヒ-ミュンヘンのECの増発

チューリッヒとミュンヘンを結ぶECが増発されます。2時間間隔はそのままですが(所要時間も維持)、下記の2列車が増発されます。

  • チューリッヒ中央5:35→ミュンヘン中央9:05(日曜運休)
  • ミュンヘン中央20:55→チューリッヒ中央0:27(土曜運休)

この系統はリンダウ→チューリッヒの区間便はありますが、反対のチューリッヒ→リンダウの区間便はありません。これだと車両運用が成立しない気がしますが、チューリッヒ発17:33の便はブレゲンツまで2編成併結します(切り離しの所要時間を相殺するためか、ザンクト・マルグレーテンは通過)。ブレゲンツとリンダウの距離は短く、夜間に回送しても不自然ではありません。

IC5系統のジュネーブからローザンヌへの振り替え

図4. スイス国内の長距離列車路線図(2023年入手のもの)

IC5系統はスイス北部を東西に縦貫する系統です。従来、IC5系統はチューリッヒ-ローザンヌと、チューリッヒ-ジュネーブが各1時間間隔で運転されていました。ここでのポイントは、ジュネーブ発着便はローザンヌを通らないことです。この点を是正したかったのか、IC5系統は基本的にローザンヌ発着となりました。

なお、チューリッヒとジュネーブの間はIC1系統が従来通り毎時1本が運転されており、スイス第1の都市と第2の都市の直通列車が廃絶されたわけではありません。従来は別系統の便が合わせて30分間隔で直通していたことを考えると、両者の間はサービス低下となってしまいますが…。

ルナンに長距離列車が停車

図5. ルナン地区の位置(googleマップより引用)

ローザンヌの西の郊外のルナン(図5)に長距離列車が停車するようになりました。図4でIC5系統とIC1系統の分岐点がローザンヌのように描かれていますが、実際にはローザンヌ西の郊外のルナンの西側で分岐しています。ルナンから東に向かうと、ローザンヌ、チューリッヒ(IC1)方面、西に向かうとジュネーブ方面、そして北に向かうとチューリッヒ(IC5)方面ということです。そして、従来のIC5系統のジュネーブ発着便はルナン西側の短絡線を通っていました。

この分岐点に近い場所に長距離列車を停車させるということです。

図5. ルナンでの接続

時刻表を読みと、IC5系統はIC1系統に接続しています。すなわち、IC1512列車(ローザンヌ行き)は途中のルナンに10:50に着きます。ここでIC710列車(10:53発)に接続し、ジュネーブ方面に行くことができます。30分後も同様です。

こうして、ヌーシャテルなどからジュネーブへの乗車チャンスは確保されています。他方で、チューリッヒからローザンヌへの所要時間は従来の2時間45分から2時間56分に増えてしまいました(問題になる列車はもともとIC1系統が先着しており、現実としては問題になりませんが、1つの指標として取り上げました)。

IC1系統はチューリッヒからジュネーブまでの所要時間は2時間46分から2時間53分に増加し(うち3分はベルン-ローザンヌ)、新規停車によるロスタイムがあることも事実です。可能であれば、既存区間の停車時間を削減しながら所要時間を維持するべきでした。

オーストリア地区

写真4. ウィーン西駅に停車中のウエストバーン(2019年に撮影)

オーストリア地区の主なポイントは以下の通りです。

  • タウエルントンネルの工事のための運休
  • ウエストバーンのサービス拡大

タウエルントンネルの工事

オーストリアには全長8371mのタウエルントンネルがあります(図6)

図6. タウエルントンネルの位置(googleマップより引用)

非常に大まかに述べると、ザルツブルクとフィラハの間に位置し、オーストリア中部の南北軸を担う路線です。このトンネルは1909年に開通したトンネルで、近代化工事が必要のようです。その影響で、2025年7/13まで運休です。日本であればここまでの運休をやらずに対処しますが(せいぜい特定の便を運休)、欧州にそのような芸を期待するのはいけないのでしょう。

この影響で、シュトゥットガルト発着やミュンヘン発着のイタリア方面のナイトジェットは運休です。このほか、バス代行も実施されます。

工事運休は基本的に本記事に掲載しませんが、本件は重大なのでここで記させていただきました。

ウエストバーンの延長運転

欧州の鉄道は「オープンアクセス」と言って、多くの鉄道会社が参入できるようになっています。いうなれば、JR東日本の東海道線の線路上に湘南快速鉄道という会社が「湘南快速」を走らせ、JR東日本と客を取り合うという展開です(東海道線と京急がライバル視されるが、両者は別の線路を通っており、欧州のライバルとは一味違う)。

その1つがオーストリアでネットワークを形成するウエストバーンです。ウィーンから見て西に向かうので、このような名称を付けたのでしょうか。

そのウエストバーンは2往復がシュトゥットガルトまで延長されます。運賃は最安で40ユーロ足らず(1/26に2/18ぶんを検索した結果、当日購入だと123.99ユーロ)と国鉄系より安いです。ウエストバーンの時刻表を見ると基本的に30分間隔なものの、ウィーン-ザルツブルクに60分のダイヤホールがあるので、それを是正するのが先のような気もしますが…。

ベルギー、オランダ地区

写真5. ブリュッセルからの自由席列車はここには来なくなった(2024年夏にアムステルダム中央駅で撮影)

主要項目は以下の通りです。

  • ブリュッセル-アムステルダム間運転のICを速達化のうえ、アムステルダム南駅に発着駅を変更
  • 上記ICの通過駅の乗車チャンス確保のため、ブリュッセル-ロッテルダムのICを別途運転
  • オランダ国鉄のIC-dをアムステルダム南駅発着に変更

ブリュッセル-アムステルダムのICを速達化

従来、ブリュッセル-アムステルダムは毎時1本のICが運転されていました。ベルギーやオランダの例に漏れず、全席自由席での運転です。同区間も運転されるユーロスター(タリスではない!)とは別の運転です。

従来はユーロスターと所要時間の差が大きい列車でした。

  • IC:ブリュッセル南10:45→アムステルダム中央13:32
  • ユーロスター:ブリュッセル南10:52→アムステルダム中央12:44

この原因の1つにブリュッセル地区でブリュッセル空港に寄る(迂回する経路を通る)というものがありました。そこで、ダイヤ改正でブリュッセル空港に寄らない列車(ユーロシティダイレクト)として再設定されました。

  • ユーロシティダイレクト:ブリュッセル南9:49→アムステルダム南11:56(中央駅12:09到着)
  • ユーロスター:ブリュッセル南9:53→アムステルダム中央11:50

土曜・休日ダイヤだとブリュッセル南を9:57に出発し、曲がりなりにも有効列車は毎時2本となりますが、平日ダイヤだとアントウェルペン中央でユーロスターに抜かれる(それも同じ停車駅なので待ち合わせの必要があるのか?)ので有効列車にはなりません。

とはいえ、ユーロスターは毎時1本が確約されているわけでもなく(フランスが関与するためかパターンダイヤではない)、ユーロスターは座席を指定しないと乗れないという不便さがありますので、全席自由席の列車がスピードアップするのは改善でしょう。

反面、悪くなった点もあります。1つ目はブリュッセルの中心街に近いブリュッセル中央駅を通過したことです。2つ目はアムステルダムの発着駅が郊外の南駅に変更されたことです。後者については、スキポール空港駅で頻発運転の空港-中央駅の系統に乗れば問題ありませんが、乗りかえが必須となったのは良くないでしょう。

ベルギー国鉄公式サイトを眺めると、オランダ国鉄の電車による運転です。

ブリュッセル-ロッテルダムのEC設定

ブリュッセル-ロッテルダムの通過駅を補完する目的で、新たにユーロシティが導入されました。従来のブリュッセル-アムステルダムのICが通っていたブリュッセル空港も通ります。

ベルギー国鉄公式サイトを眺めると、ベルギー国鉄の客車による運転です。

最後にこれら2つの系統図を示します。

図6. ユーロシティとユーロシティダイレクトの系統図(ベルギー国鉄の公式サイトより引用)

IC-dの発着駅変更

オランダ国鉄では、アムステルダム-ロッテルダムを高速新線で運転する列車をIC-dと称しています。そして、特別料金(通常は1乗車当たり3ユーロ)がかかります。ここでのポイントは、インターシティダイレクトと称していても、スキポール空港とロッテルダム中央駅を含まない場合は特別料金が不要なことです。日本で例えると、新幹線のみずほ料金は新大阪-博多のみに適用され、九州新幹線内で利用する場合はみずほ料金がかからないということです。

そのIC-dはアムステルダム側の発着駅を南駅に変更します。オランダ国鉄の公式サイトを眺めると、乗りかえ案内には地下鉄を利用するルートが最速で表示されます。

本来であれば、高速新線を通らないアムステルダム中央発着と高速新線を通るアムステルダム南発着をスキポール空港で同じホームに同時到着/発車を実現し、中央駅と南駅双方からロスタイムなく高速新線方面と在来線に向かうことができるダイヤにするのがベストシナリオなのですが…。

欧州のダイヤ改正を見てみて

写真6. 運休、後続の遅れや車両の向き変更で、残念ながら車内に混乱が生じた例(ドイツからベルギーの国際列車で撮影)

欧州において、鉄道ダイヤは若干ながら進化をとげています。これは、日本より政府からの支援が多く、環境保護意識が強い面もありましょう。

そのような意味で、増発や区間延長が繰り返される、欧州のダイヤはうらやましい限りです。一方で、利便性の低い駅へのシフトなどの利便性無視という面は否定できません。これは相互直通運転別方面接続を繰り返した日本に一日の長があります。

月並みな表現となってしまいますが、お互いの長所を取り入れ、日欧ともに「最強の交通機関」を目指し、日々精進いただきたいものです。そして、われわれ利用者も「最強の交通機関」を育てるべく、ある場面では運営側に協力(例えばスムーズな乗り降り)し、ある場面では運営側に厳しく接する(批判すべき場面では正当な方法で批判する)ことが重要なのでしょう。

重要

本記事で詳細に解説しますが、ドイツの鉄道に関する内容を一通り、そして詳しく解説した書籍を出版いたしました。同人誌の流通ルートで販売していますが、いわゆる萌え絵は一切なく一般的な同人誌に嫌悪感を示す人でも抵抗ない内容・体裁になっています。