ダイヤ改正を同じ日にやる意味

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多くの鉄道会社で行われるダイヤ改正。よく見ると、多くの会社で同日にダイヤ改正が実施されていることに気づきます。その背景を考察してみました。

多くの鉄道会社が同じ日にダイヤ改正する理由のまとめ

写真1. 直通の権化、京急(2020年7月に品川で撮影)

結論は簡単です。直通していて、同時にダイヤ改正をしないと整合性が取れないためです。もちろん、直通していない路線の場合は単独でダイヤ改正する例もあります。

ダイヤ改正日の例

ダイヤ改正が同時に行われる例は多いです。首都圏でいうと、おおむね3つのグループに分かれます。

・JR、東急(東横線)、西武、東武東上線、小田急、地下鉄千代田線、有楽町線、副都心線
・東急(田園都市線、大井町線)、東武(東上線以外)、地下鉄日比谷線、半蔵門線
・京急、京成、北総、新京成、都営浅草線
・京王(井の頭線以外)、都営新宿線

2021年は始発や終電が変わったので、全体的に一斉に行われましたが、それ以外の年ではこの4グループに分かれることが多いです。なお、直通していない地下鉄銀座線、丸ノ内線、都営大江戸線は単独でダイヤ改正することもあります。

ダイヤ改正と整合性

東武8000系と10030系(柏)

写真2. ダイヤ改正後の東武野田線(2020年3月に柏で撮影)

ダイヤ改正というのは、簡単にいうと現在の線路設備で許容される「最適な」運行計画を変更することです。改良工事などで「現在の」線路設備は変化します。大きな例でいうと、2018年の小田急複々線化完成、2020年の東武野田線の複線区間延伸でしょう。また、「最適な」運行計画も日々変動するでしょう。社会情勢の変化は沿線人口の変化、訪日外国人観光客の増減などがありましょう。貨物列車の場合は、野菜の価格の上下が貨物需要に大きく影響するとも聞きます。

限られた資源(線路設備、車両、人員など)を上手に活用して、輸送効率性や顧客満足度を上昇させる試みがダイヤ改正です。当然、旧ダイヤも新ダイヤも限られた資源のやりくりを行える、「辻褄の合ったもの」です。

直通している以上、運命共同体です。A線-B線-C線と直通しているある列車を考えます。A線の都合で運転時刻を1分繰り下げる(例えば10:45発を10:46発にする)ことを考えてみましょう。すると、B線でも1分繰り下げねばなりません。そのため、直通先のダイヤが変更された場合は、直通先全体でダイヤを変更せねばなりません。特に、京急-都営浅草線-京成-北総/芝山は複雑なオペレーションで運転されていますので、これらの5者は一心同体で運転されます。

ダイヤ改正前、ダイヤ改正後ではそれぞれ辻褄は合わせられていますが、当然ながらダイヤ改正前とダイヤ改正後が混じってはいけません。そのため、直通先で同時にダイヤを改正するのです。

ここで、特殊な例を考えてみましょう。上で

・JR、東急(東横線)、西武、東武東上線、小田急、地下鉄千代田線、有楽町線、副都心線

は同時にダイヤ改正をすると述べました。

JRと直通している小田急(JR常磐線とJR御殿場線)、地下鉄千代田線について同時にダイヤ改正をすることは理解できます。では、JRと直通していない西武(車両のやり取りはありますが、これは非営業運転ですので、連絡線でいくらでも時刻調整が可能です)、東武東上線、東急(東横線)、地下鉄有楽町線、地下鉄副都心線はなぜ同日にダイヤ改正を実施するのでしょうか。

もう少し大きな視点で路線網を考えましょう。西武鉄道は(数が少ないながらも)秩父鉄道と直通しています。その秩父鉄道はかつてはJRと直通していました(貨物列車)。ということは、JRのダイヤ改正で秩父鉄道のダイヤが変わり、その影響は西武鉄道にも及びます。そこで、JRと西武鉄道は同じ日にダイヤ改正をする必要がありました。西武鉄道と直通している関係各社も同様です。

JRと秩父鉄道の直通運転が終わった今、ダイヤ改正日をずらしても良いのでしょうか?答えは「ずらしても良い日々は長くない」というものです。JRと相鉄は直通運転をしています。そして、そのうち、相鉄と東急東横線の直通が始まります。もしかしたら、東急東横線からの電車は新横浜折り返しかもしれませんが、影響を受けることは確実です。そうすれば、同じ日にダイヤ改正をするのが無難です。

ダイヤ改正日をずらしても良いの?

写真3. 京王と都営浅草線は軌間がまた異なる

上で、

・JR、東急(東横線)、西武、東武東上線、小田急、地下鉄千代田線、有楽町線、副都心線
・京急、京成、北総、新京成、都営浅草線

のダイヤ改正日が同日と述べました。では、これらの両者のダイヤ改正日が同じである必要はないのでしょうか。答えは「直通しようがないからダイヤ改正日を合わせる日は必要ない」というものです。

軌間の情報を加えます。

・JR、東急(東横線)、西武、東武東上線、小田急、地下鉄千代田線、有楽町線、副都心線:1067mm
・京急、京成、北総、新京成、都営浅草線:1435mm

動力車は軌間が異なると直通できませんので、これらが直通することはありません。そのため、ダイヤ改正日が異なっても問題ありません。これは都営地下鉄にとっては朗報です。都営地下鉄三田線と浅草線の改正日をずらすことができ、限られた人員で効率的に運営できます(大きなプロジェクトが2つ重なるよりも1つ単独のほうがやりやすいのは理解できましょう)。

海外の場合はどうなの?

写真4. オーストリアのウィーン中央駅に停車中のチェコ車(左)とドイツ車(右)

日本のように鉄道が発達している地域はヨーロッパです。とりわけ、日本にはない国際列車という概念もあり、その調整の難しさは大変でしょう。それでも、通貨の異なる国への直通(昔は単一通貨のユーロはありませんでした)やイデオロギーの異なる国の直通(東ドイツ-チェコスロバキア-オーストリアを直通する、ベルリン-ウィーン直通も昔からあります)などの芸当をやってのけています。

そんなヨーロッパは毎年12月に大がかりなダイヤ改正を行っています。例えば、2016年12月にはドイツ鉄道運営の寝台列車が全廃されました(かわりにオーストリア国鉄運営の夜行列車が大幅に拡充されました)し、2017年12月にはベルリン-ミュンヘンの大幅スピードアップが実現しています。

特に、中央ヨーロッパに位置するドイツは8か国、オーストリアは6か国(自国運営のリヒテンシュタインを除く)に接しており、多くの国と影響を与え合っています。

イギリスとフィンランドは平日と休日の概念が異なる部分(イギリスとフィンランドは土曜日が平日扱い、他は休日扱い)があります。とはいえ、イギリスは島国で直通が部分的、フィンランドは軌間が1524mmと他国と異なる(※)ので、ある程度の独自性があるのでしょう。

※フィンランドは第一次世界大戦まではロシア領でした。ロシアが建設したので、ロシアンゲージなのです。余談ですが、第二次世界大戦でソビエト領に組み込まれた範囲はきっちりロシアンゲージになっていますが、ソビエトの強い影響を受けた東欧諸国は改軌されていません

ダイヤ改正日のまとめ

主に直通している会社どうしでダイヤ改正日を合わせる傾向にあります。これは、直通先のダイヤを変えると辻褄を合わせるために別の路線のダイヤも変えねばならないためです。

これは狭義の直通だけではなく、直接直通していない、直通先の直通先についても事情は同じです。これは秩父鉄道を介してJRと西武鉄道に当てはまります。

また、多くの国で直通しているヨーロッパについても事情は同じです。特に、多くの国境がひしめき国際列車も多いドイツ・オーストリアは顕著でしょう。

さらに、地方のように本数が少ないと接続を保つために直通してなくとも同日にダイヤを改正することもあります。このように、鉄道会社の垣根を超えて人間社会の営みがなされるのです。