東海道線のダイヤ改正(2021年3月)の考察

記事上部注釈
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快速アクティの大幅縮小やライナーから特急に変化した東海道線。では、実際の変化はどのようなものなのでしょうか。実際の時刻表から詳細に解析しました。

185系(品川)

写真1. 湘南ライナーは消滅!(2019年に品川で撮影)

東海道線の2021年3月ダイヤ改正の概要

東海道線のダイヤ改正の概要を以下に示します。

・湘南ライナー等のライナー列車を特急に変更
・日中時間帯の快速アクティを普通に変更
 ※快速アクティは下り2本だけになります
・終電の行先を小田原から平塚に変更
・夜間の通勤快速を快速アクティに変更

このような変化があります。それぞれの変更点の背景を含めて解析しましょう。

ライナー列車を特急に変更

東海道線は潤沢なライナー列車が設定されています。湘南地区は所得水準が高いとされ、それゆえに「着席通勤」のニーズが高いことでも知られていました。その証拠に、昔からグリーン車が連結されていました。「ライナー券」を購入すると着席が保証されるライナー列車はそのようなニーズを満たすことができます。そのため、ライナー列車は東海道線には必須のサービスと認識されてきたふしがあります。

ところで、ライナー列車はライナー券だけで(駅を通過することから)速達性と着席保証がなされます。一方、普通列車グリーン車は速達性はなく、着席チャンスが高いだけです。普通列車グリーン車は自由席であるがゆえに着席保証もありません。では、その料金はどちらが高いのでしょうか。答えは普通列車グリーン車です。明らかにサービスが高いライナー列車のほうが安かったのです。確かに、ライナー車両にボックスシートの215系電車があるうちは、必ずリクライニングシートにありつける普通列車グリーン車のほうが快適性が高いという解釈もできます。しかし、215系電車が引退したら、ライナー列車の料金のほうが高くてしかるべきです。

また、ライナー列車は駅で係員がライナー券を確認してから乗客を列車に乗せていました。これでは人件費がかさんでしまいます。人件費を節約するために、事前に席を指定する列車に置き換えるのが合理的です。

このような背景から、ライナー列車が特急に置き換えられることになりました。とはいえ、利用者としては、従来はライナー料金520円だったものが、特急料金1020円(大船利用は760円)に値上がりしてしまいます。これにより、従来のライナー利用者の一部は普通列車の普通車に移行する可能性を指摘できます。そうすると、普通列車の普通車が従来よりも混んでしまいます。ライナー列車は「座れさえすれば良い」類の列車ですから、普通列車グリーン車よりも居住性をやや犠牲にしたうえで、座席数を増やし、そして従来のライナー料金で利用できたほうが、全体としての混雑がやわらぐ方向にシフトしたでしょう。具体的には215系の転換クロスシートバージョン(シートピッチは850mmなどと他の転換クロスシート車よりも狭くする)によるライナー列車を運転するという具合にです。とはいえ、諸私鉄と同等と考えれば良いのかもしれません。

日中の快速アクティを普通列車に変更

E233系とE217系

写真2. 日中時間帯の様子(品川で撮影)

日中時間帯に快速アクティが1時間間隔で運転されています。今回、この快速アクティが普通列車に変更されます。快速アクティは東京-藤沢は通過駅がありません。もともとは戸塚を通過していましたが、湘南新宿ラインとの接続を確保するのが目的か、戸塚を停車駅に追加された経緯があります。その後、辻堂付近も発展してきました。東京-戸塚の間の通過駅は辻堂だけですが、その辻堂を通過する意味も薄れてしまったのです。

一方、コスト削減を考えると、平塚-小田原の減便が選択肢として出てきます。しかし、快速アクティは平塚-小田原で3駅も通過しています。快速アクティを廃止すれば、この間の各駅をフォローしつつ、減便が可能です。

このような2つの理由から快速アクティが普通列車に変更されたのでしょう。現に、平塚-小田原は普通毎時5本、快速アクティ毎時1本、特別快速毎時1本の毎時7本体制から、普通毎時4本、特別快速毎時1本の毎時5本体制に変更されています。

なお、湘南新宿ラインの特別快速はそのまま運転されています。新宿-小田原の所要時間は75分前後と特に変わっていません。

終電の行先の変更

新型肺炎ウィルスの脅威が語られたことによる、在宅勤務の定着・深夜までまたがる飲食の機会の減少などにより、深夜時間帯における需要が減少しています。特に、最終電車の繰り上げは線路の保守の機械化によるコストダウンにも直結します。そのような背景から、多くの路線で最終電車が繰り上げられます。

とはいえ、東海道線最終の東京発はもともと23:54と早いほうでした。常磐線快速の上野発が0:51だったことを合わせて考えると、いかに早いかがお分かりいただけると思います。とはいえ、最終電車の行先が小田原と遠く、小田原着が1:21とかなり遅い時間に及んでいたのも事実です(さきほどの常磐線は松戸行きと短距離しか走りません)。そこで、最終小田原行きが平塚行きに短縮されました。平塚到着時間は0:59と1時前に到着します。

なお、最終電車以外はほとんど行先や時刻は変わりません。後の章で示しますが、「密」を避けるためか、基本的に深夜時間帯の減便はありません。乗客が減少しているなかで、減便なしというのは実質的なサービスアップと考えることもできます。

夜間時間帯の通勤快速を快速アクティに変更

夜間時間帯に通勤快速が3本運転されていますが、これが快速アクティに変更されます。通勤快速のまま残すことも手でしたが、そうすると、快速アクティが(祝日のない週の場合)週4本になってしまいます。これだけの本数であれば、快速アクティに統合しようと考えたのでしょう。また、通勤快速であれば横浜を通過します。横浜通過による乗客分離よりも、横浜停車による利便性向上にシフトしたのでしょう。

後の章で詳細に示しますが、東京発21:50の通勤快速は快速アクティへの「変更」ではなく、「消滅」です。そのため、ダイヤ改正前の3本の通勤快速はダイヤ改正後の2本の快速アクティに変更です。

ダイヤ改正前後の東京発の本数の比較

新型肺炎ウィルスの脅威が語られることにより、電車を使う人は大幅に減少しました。日中時間帯の混雑を観察すると東海道線はもともと混んでいたほうですが、それでも乗客の減少は減少です。これに伴い、減便が懸念されるところです。では、実際にどうでしょうか。ダイヤ改正前後の本数の増減を示します (特急を除く、表1、平日時刻)。

表1. 東海道線東京発の時刻表

東海道線下り(東京発車時刻)

東京発の本数は全く変わっていません。日中時間帯の快速アクティ廃止は快速運転のとりやめであり、列車運転の取りやめではありません。

ただし、以下の2点の変更が目立ちます。

・東京18:17の普通小田原行き(上野始発)を増発
・東京21:50の通勤快速小田原行き(東京始発)を減便

トータルで見ると、21時台の通勤快速を18時台の普通列車に振り替えた格好です。確かに新型肺炎ウィルスの脅威が語られて以来、夜間の飲食の機会が減少し、自宅に直行する人が増えた印象です(私のようにもともと職場の人と「飲み」に行かない人もいるでしょう)。そのため、21時台の列車を減らして、18時台の列車を増やすことは妥当と思います。

18時台の増発に伴い、前後の時刻も手が加えられています。とはいえ、ダイヤ改正前では17:40~18:47を6~7分間隔で運転されていたのが、ダイヤ改正後には4~8分間隔と運転間隔にばらつきが発生しているのは不細工です。18:02、18:10、18:17、18:21、18:26と発車するところ、18:02、18:08、18:14、18:20、18:26と6分間隔に統一したほうが良いように思えます。また、17時台後半も5~8分間隔ではなく、6~7分間隔に間隔を揃えるほうが良いでしょう。

ライナーと特急の比較

215系(品川)

写真3. 品川に到着する215系ライナー

事業者目線では妥当な、湘南ライナーから特急への格上げですが、利用者的にはどうでしょう。確かに1か月前から予約でき、座席が指定されて、まともな車両に必ず当たるというメリットがあります。しかし、多くの利用者にとっては、「乗るときに座席が確保されれば良い」という程度の位置づけでしょう(夕方であれば残業などで直前まで乗る列車がわからないことは予想されます)。また、車両の取替でまともな車両に変更されることは多く、車両取替が値上げの口実になるのもどうかと思います。

利用者にとってみたら、特急の価値は「早く着けて、座席に座れること」に他なりません。ライナーでも後者の条件を満たしていますので、前者の条件を満たしているかを考察しましょう。つまり、ライナーから特急に置き換わることにより、スピードアップがなされているかどうかです。

では、ライナーから特急に格上げされて、所要時間は短縮されたのでしょうか。1本ずつ比較しましょう(表2、表3)。

まずは、朝ラッシュ時上りの比較です。

表2. 朝ラッシュ時上りのライナーと特急の比較

東海道線上りライナーと特急

※改正前はライナー、改正後は特急、いずれも号数を省略して表記

品川断面での混雑時間帯は7:45~8:45とされていますが、そこに相当するライナーは特急に格上げされても全くスピードアップされていません。ラッシュ時ピークなので、速達性の向上が難しいという側面はありますが、ラッシュピーク60分間に利用するぶんには速達性は全く向上せず、(ボックス席配置の)215系という「外れ」がなくなるぶんのサービスアップだけです。逆にいうと、215系からE257系に置き換わることによる定員減(=供給座席減)を価格上昇という需給調整がなされたと理解することができます。

とはいえ、ラッシュピーク時に供給座席数を減らしたという事実は残ります。それも、ラッシュ時ピークに運転される特急湘南8号(東京着8:13)がたったの9両編成であることは良心を疑います。貨物線のホーム長さが14両編成に対応していないという側面はあるのでしょうが、朝ラッシュ時上りの貴重なスジを、短い9両編成の特急列車が占拠しているのはどうかと思います。貨物線のホームを延長したうえで14両編成に増強するのが最低限のマナーと思います。なお、その後の特急湘南10号(東京着8:48)は、14両編成で運転されていますから、最低限のマナーを満たしています。

ラッシュ時直前と直後については、相応のスピードアップがなされています。余談ですが、昔の特急踊り子号は茅ヶ崎に停車していたと聞きます。今回の特急湘南への変更で茅ヶ崎に特急停車が復活するとともに、辻堂などに定期特急列車が停車するのは史上初です。もしかしたら、「悲願の特急停車」ということで、辻堂駅では記念式典があるかもしれません(いや、ないでしょ!)。

表3. 夕方以降の下りのライナーと特急の比較

東海道線下りライナーと特急

※改正前はライナー、改正後は特急、いずれも号数を省略して表記

夕方下りは基本的にスピードアップがなされています。そのかわり、特急湘南の直前の普通は横浜で特急待ちという貧乏くじを引かされています。特急への変更によるスピードアップは普通列車の待避増加という犠牲をともなってのものであることは心に留める必要があります。ただし、特急湘南を待ち合せる普通列車はそこまでスピードダウンしていません(後述します)。

普通列車の所要時間の比較

では、普通列車の所要時間はどうでしょうか。朝ラッシュ時上り、夕方ラッシュ時下り、日中時間帯の3つのケースに分けてそれぞれ考察しましょう。

朝ラッシュ時上り

E231系(品川)

写真4. 朝の品川の様子(2019年に撮影)

朝ラッシュ時上りにはこれといったパターンはありません。そこで、私が無作為に抽出した2本から傾向を判断することにします(表4)。

表4. 朝ラッシュ時上りの普通列車の比較

東海道線朝比較

ここでは、熱海方面からの電車と、湘南新宿ラインを1本ずつ選びました。また、朝ラッシュ時の最ピークのものを選びました。

結果からいうと、まったく差はありません。つまり、ダイヤ改正前後でスピードアップもスピードダウンもなされていないということです。ただし、ラッシュ時前後の特急湘南の前後では特急待避があり、所要時間変更という事態も発生しています(必ずしも所要時間増加ではありません)。

例えば、特急湘南12号(東京9:16着)の前後の普通列車は国府津や横浜で特急を待合せています。国府津で待ち合わせる沼津始発上野行き(東京9:24着)は平塚での停車時間を削減するなどで東京まで6分もスピードアップしています。ただし、国府津停車中に15両編成に増結しなければ、混雑する「外れ」列車としてカウントされてしまいます。

また、特急湘南12号を横浜で待ち合わせる列車(東京着9:20)は横浜で4分停車していますが、横浜まで2分スピードアップ、横浜-東京で2分スピードアップという効果があり、小田原から東京までの所要時間は変化していません。このような列車はE231系前提のスジにしたのでしょうか。このような実質的なスピードアップは地道になされており、JR側も積極的に宣伝したほうが良いです。常磐線の415系からE531系置き換えのときもそうですが、ラッシュ時と日中時間帯の切り替わり時間帯が最もスピードアップがなされているように感じます。

このような傾向は特急湘南14号の前後でも認められます。朝ラッシュ時直後は特急湘南待避による所要時間増加を、その他の区間のスピードアップでカバーして、全体的に所要時間を増加させないように工夫していることがわかりました。

日中時間帯の所要時間の比較

日中時間帯は快速アクティ廃止により、所要時間増加が懸念されますが、どうでしょうか。東海道線のダイヤは完全にパターン化されていませんので、代表的な列車を抽出して解析することにしましょう。

下りは比較対象する列車がありませんでしたので、ダイヤ改正後は2本に分けて記しています(表5)。

表5. 日中時間帯の所要時間の比較(下り)

東海道線日中時間帯アクティ付近(下り)

快速アクティ利用時と比べて日中時間帯の下りは遅くなっています。これは4駅停車することによるスピードダウンのほかに、スピードダウンしたことによって、後の特急を待ち合せることになったためです。好意的に眺めても、10分のスピードダウンと、大幅なサービス低下が確認できます。特急踊り子の東京発車時刻を毎時00分や30分に設定しているにも関わらず、27分に列車を設定して、横浜で待ち合わせています。横浜で入れ替わりが多いとはいえ、このようなダイヤは感心しません。特急発車の2分後に普通を発車させれば、平塚まで逃げ切ることができます。このようになるべく待避しないダイヤを考慮することも必要でしょう。

では、上りはどうでしょうか(表6)。

表6. 日中時間帯の所要時間の比較(上り)

東海道線日中時間帯アクティ付近(上り)

快速アクティに対応する列車がありましたので、その列車で比較します。小田原から東京まで4分のスピードダウンに留まり、そこまでのサービスダウンとは思えません。これならば許容範囲内でしょう。

ここまで日中時間帯について「虫の眼」で確認しましたが、もう少し広い「鳥の眼」で確認してみましょう(表7)。平日の東京発着12時台の列車の所要時間を確認してみました。いずれも東京からの所要時間です。横浜と大船の間の駅を平塚ではなく茅ヶ崎を選択しているのは、下りの平塚着の時刻がわからなく、平塚で長時間停車する列車もあるので、比較には適さないと判断したためです。

表7. 東京12時台の全列車の所要時間平均値の比較

東海道線日中比較(鳥の眼)

こう見ると、東京-小田原の平均所要時間は短縮、東京-横浜、東京-茅ヶ崎の平均所要時間はほぼ変わらず、東京-熱海の平均所要時間はやや伸びたことがわかります。

なお、上りの所要時間の伸びが大きいのは、熱海発の普通が小田原で特別快速を先行させたり(※)、大船で普通と特別快速の待ち合わせが発生しているためです。大船での待ち合わせは、東京方面、新宿方面の連絡という意味でも重要なものです。

仮に、熱海発10:37の普通に乗り、小田原で特別快速に乗りかえ後に大船で先の普通に乗りかえると、東京には12:18に到着し、所要時間は101分です。ただし、小田原で接続がある普通は限られているので、1時間前や1時間後にはこのような芸当は不可能です。

※他の時間帯には同様の接続はありません。

夕方ラッシュ時下りの所要時間の比較

さて、夕方ラッシュ時下りの所要時間はどうでしょうか。特急湘南の待ち合わせのない東京発18:32の時刻を比較します。また、通勤快速から快速アクティに変更された列車も重要ですので、当該列車の時刻も示します(表8)。

表8. 夕方ラッシュ時下りの所要時間の比較

東海道線夕方比較

残念ながら、夕方ラッシュ時下りの普通列車は、横浜-平塚で所要時間が増加しています。この傾向は別の列車でも認められます。例えば、東京発18:10(ダイヤ改正前は18:13発)は小田原まで所要時間は2分伸びています。

では、特急湘南を待ち合せる列車だとどうでしょうか。例えば、東京18:26発の普通小田原行きは所要時間は伸びていませんし、東京18:55発の普通小田原行きは所要時間の伸びは1分で収まっています。

朝ラッシュ時直後と同じく、特急湘南を横浜で待ち合せる列車に関しては所要時間の伸びはそこまででないことがわかります。

また、1本目の通勤快速は東京から小田原までの所要時間が2分増加しています。川崎、横浜、戸塚に停車して所要時間の増加が2分に留まるのであれば、そこまで「改悪」感はありません。休日の快速の直前の普通は大船で待避しています。東京から大船までは快速アクティも通過駅がありません。それなのに、わざわざ待避しているのは何なのでしょう。平日は平塚まで逃げ切っていますので、休日もそうすれば良いのにね★

東海道線のダイヤ改正のまとめ

E231系(有楽町)

写真5. 有楽町を通過する東海道線列車

ライナー廃止など思い切った変更があった東海道線。しかし、良くも悪くも変化はそこまで大きくありませんでした。それだけ現在のダイヤを変更することは難しいのでしょう。とはいえ、日中時間帯の東京-横浜まで24分で走り切る列車があったり、26分もかけてのんびりと走る列車があったりと、機能面で不足している面も否定できません。

無理なスピードアップは禁物ですが、もうすこし駅間でキビキビ走り、駅での停車時間を最小限にすれば、拠点間の所要時間が短縮でき、乗務員の「労働時間」も削減できます。特急湘南を待ち合せる列車では待避時間を増加(=特急の所要時間を短縮)させつつ、拠点間の所要時間を維持もしくは短縮できました。このような工夫を局所で留めずに、全体に波及させてもらいたいものです。

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