奈良西部にある、大和西大寺。奈良市の中心部から離れているものの、近鉄の重要なジャンクションです。ある意味日本でも有数の忙しさを誇るこの駅を楽しんでみました。
写真1. 4方向に伸びる駅ネットワーク
復習:大和西大寺の概要
まず、大和西大寺の概要を示しましょう。
大和西大寺の基本情報
- 所在地:奈良市西大寺国見町1-1-1
- 路線:近鉄奈良線、京都線、橿原線
- 規模:3面5線
図1. 大和西大寺駅の位置(googleマップより引用)
大和西大寺は奈良市にある近鉄の駅です(図1)。奈良線、京都線と橿原線が乗り入れる駅です。ここで特徴的なのが、東西に奈良線が通り、北が京都線、南が橿原線が分岐しています。
北に京都、南に橿原神宮前、西に難波、東に奈良の4方向に伸びているジャンクションであるとも言いかえられます。橿原神宮前方面は吉野連絡(直通はできない)、伊勢方面への連絡もあり、長距離路線の性質もあります。また、難波方面-奈良の流動は大きいです。別のいいかたをすると、京都-橿原神宮前・吉野・伊勢方面の南北軸と、神戸・難波方面-奈良を結ぶ東西軸が交差する場所が大和西大寺なのです。
駅前はそこまで発展していませんが、このジャンクション性が評価されているのか、特急を含む全列車が停車します。
通常、東西軸と南北軸が交差する路線の駅の場合、分岐部分は立体交差があり、進出列車と進入列車が平面で交差することはありません(ダイヤ作成上の制約を取り除くためです)。しかし、大和西大寺には立体交差はなく、各路線は全て平面交差です。このため、素人目には忙しい駅のように見えます。
また、大和西大寺の駅南東側には検車区もあり、車両の整備上も重要な拠点です。このようなジャンクション性やダイヤ上の忙しさから大和西大寺は究極のジャンクションとも呼ばれることがあります(出典:鉄道ジャーナル2011年2月号)。
日中のダイヤを確認する
では、実際の様子を見てみる前に、日中時間帯のダイヤを確認しましょう。簡単のために、難波・京都方面から奈良・橿原神宮前へのダイヤを抽出します。
- 奈良線(大和西大寺以西):快速急行3本+急行3本+区間準急3本+普通3本
- 京都線:特急4本+急行4本(1本は地下鉄直通)+普通3本
- 橿原線:特急2本+急行2本+普通3本
- 奈良線(大和西大寺以東):特急2本+快速急行3本+急行5本
ごちゃごちゃしていそうですね。ここで少し整理しましょう。
奈良線の難波方面から速達列車(快速急行と急行)が毎時6本(おおむね10分間隔)でやってきて、これが奈良に向かいます。そして、奈良線の各駅にとまる電車(区間準急と普通)が毎時6本が設定され、これらは大和西大寺どまりです。区間準急は大阪府内では通過駅がありますが、奈良県内は各駅にとまりますので、ここでは各駅にとまる列車と考えたほうが頭の整理はしやすいです。
そして、京都線の速達列車(特急と急行)が毎時8本運転されます。半数は特急、もう半数は急行です。これらは奈良に向かうものと、橿原神宮前に向かうものが半々です。普通は毎時3本運転されますが、基本的に大和西大寺どまりです。
奈良方面には難波方面・京都方面からやってきた速達列車(奈良線6本、京都線4本)が割り当てられます。奈良方面の途中駅は新大宮だけで、ここには特急以外は全列車停車します。したがって、速達列車で運転本数が確保されるのであれば、各駅にとまる列車は不要です。
橿原神宮前方面には京都方面からやってきた速達列車(特急と急行)が運転されます。このほかに、普通が毎時3本運転され、基本的に大和西大寺始発です。とはいえ、京都線と橿原線の普通は4両編成と同じですので、場合によっては直通運転されます。
ここまで難波・京都方面から奈良・橿原神宮前へのダイヤを抽出しましたが、逆方向も基本的な考えかたは同じです。
実際に大和西大寺を楽しむ
実際に大和西大寺を楽しみましょう!
駅周辺の様子
駅は地域とともにある施設です。まずは駅周辺を散策しましょう!
写真2. 大和西大寺駅北口
北口です(写真2)。駅の出入口はそう広くなく、関東の私鉄の小さな駅と同等に見えます。このことも、大和西大寺がジャンクション要素が大きいことを裏付けます。
写真3. 南北を連絡する地下道
駅の西側に向かって歩いています。すると、線路の南北を連絡する地下道がありました(写真3)。このすぐ西側に踏切がありますが、通れない時間が長いために迂回する地下道があるのでしょうか。
写真4. 駅西側の踏切にやってきた
その踏切にやってきました(写真4)。西方向を眺めています。写真の左手が大阪難波方向、右手が京都方向です。
写真5. 駅構内を眺める
そして、東方向の駅構内を眺めます(写真5)。2組の複線から多くの方向に枝分かれし、その造形美を感じることができます。
写真6. 踏切が鳴った!
駅の北側から南側に渡り、踏切が鳴りました(写真6)。待つしかありません。でも、よく考えてみたら、踏切を渡っているので、踏切を待つ必要はありません。おかしな行動です。
写真7. 京都線の各駅停車がやってきた
京都線の各駅停車がやってきました(写真7)。
写真8. 奈良線の区間準急がやってきた
と思ったら、奈良線の区間準急がやってきました(写真8)。この車両は京都市営地下鉄に乗り入れるための車両ですが、京都市営地下鉄と全く別方向に向かっていますね。
写真9. 各駅停車が去っていった
その各駅停車が駅構内に入りました(写真9)。この各駅停車は京都線から天理まで直通します。大和西大寺で運転系統を分割するよりも効率的と判断された運用なのでしょうか。
写真10. 京都線急行がやってきた
京都線の急行がやってきました(写真10)。
写真11. 京都行きの表示
この急行は京都行きです(写真11)。京都線の急行は6両編成が最長です。
さて、駅に戻りましょう。
写真12. 阪神車がやってきた
阪神電車の車両がやってきました(写真12)。近鉄と阪神は直通していますので、阪神車が近鉄線内に入ることも、近鉄車が阪神線内に入ることもあります。他社の車両がやってくると、広がるネットワーク性を感じられます。
写真13. 特急も走る
そう思ったら、特急もやってきました(写真13)。ここは南北の地下通路近くです。
写真14. 駅の南口にやってきた
駅の南口にやってきました(写真14)。
写真15. 南口を別アングルから
別のアングルでも撮影しました(写真15)。
写真16. 南口周辺の様子
南口周辺の様子です(写真16)。近年きれいに整備された空間という感じです。やはり大和西大寺は駅こそ重要ですが、駅前の発展度合いはそこまででありません。
駅構内の様子
さて、駅構内の様子を見てみましょう!
写真17. 駅を南北に結ぶ連絡通路
駅を南北に結ぶ連絡通路があります(写真17)。ここでは南側を眺めています。
写真18. 連絡通路を北に向かう
この連絡通路を北に向かって眺めています(写真18)。ガラスが多く、開放的な空間が演出されています。
写真19. 改札口を眺める
改札口があります(写真19)。大和西大寺は運転上の拠点ですが、街の拠点ではありませんから、改札は1つでじゅうぶんなのでしょう。
写真20. 駅構内の案内
駅構内の案内がありました(写真20)。現在位置と目的ホームを示してくれます。
写真21. 改札の方向を向く
改札の方向を向いてみました(写真21)。
写真22. 方面別に発車案内がある
方面別に発車案内があります(写真22)。一般的な電光掲示板ではなく、テレビジョン的な感じです。ここで1つ興味深いことに気づきます。この視線の先には3、4番のりばがあり、その階段は画面の左と右に伸びています。いいかたを変えると、この発車案内は改札から見て正面ではなく、各ホームを結ぶ通路の動線にあります。つまり、乗りかえ客に特化した情報案内装置です。それだけ乗りかえ客が多いのです。
写真23. 駅構内に展望デッキがある
駅構内に展望デッキがあります(写真23)。大和西大寺の展望デッキは駅舎の西側、つまり、大阪難波や京都側の風景を堪能できます。
写真24. 展望デッキから線路を眺める
展望デッキから線路を眺めます(写真24)。
写真25. 奈良線の電車がやってきた
奈良線の電車がやってきました(写真25)。これは大和西大寺どまりでしょうか。
写真26. 奈良線の快速急行がやってきた
奈良線の快速急行がやってきました(写真26)。私は近鉄電車の素人なので車両にうといのですが、これは8400系です。製造初年が1969年ということはもう50年以上経過している車両でしょうか。例えば、東武東上線も首都圏では古い車両が多いのですが、池袋側で最も古い車両は1983年製造ですから、それよりも古いのです。
正月で寒い中、すぐに退散しました。奈良でも有数の観光名所なのですから、一角を喫茶店とすれば良いのに、とも思いました。
写真27. 地下の連絡通路
場所が変わり、地下の連絡通路です(写真27)。この通路は改札にはつながっていません。つまり、乗りかえ専用の通路です。
写真28. 地下の連絡通路
このような情景です(写真28)。
ホームの様子
さて、大和西大寺の本領発揮、次々に電車がやってくるホームの様子です。
写真29. 6番のりばの駅名標
ここまでのジャンクションにも関わらず、1番のりば~6番のりばしかありません(線路は5本)。これは、プロフェッショナル向けの配置です。初心者的には、路線別にホームが配置されているほうがわかりやすいでしょう。しかし、プロフェッショナルとなると、ある程度コンパクトにまとまっているほうが使いやすいです。乗りかえの距離が短いためです。
写真30. 1番のりばに奈良線急行がやってきた
1番のりばに奈良線急行がやってきました(写真30)。窓の下の照明を見ると、向かって右側の照明のみ点灯していて、向かって左側のそれは点灯していません。これは、カメラや撮影者の腕、そして車両の故障ではありません。近鉄では通過標識灯というシステムがあり、急行では右側のみを点灯するのです。
写真31. 2番のりばに奈良線快速急行がやってきた
2番のりばに奈良線快速急行がやってきました(写真31)。この快速急行は大阪難波始発です。少しの間、ここで観察してみました。
動画1. 快速急行の発車!
せっかくなので、快速急行の発車を撮影してみました(動画1)。
写真32. 奈良方面から京都線急行がやってきた
と思ったら、奈良方面から京都線急行がやってきました(写真32)。大和西大寺では駅の東西で平面交差が発生し、同時に通れない例があります。しかし、先ほどの奈良線快速急行(写真31)と京都線急行(写真32)は平面交差が発生せず、同時に通ることができる組み合わせです。橿原線方面への出発さえ気を付ければ、問題ありません。
余談ですが、写真左端に危険な場所で撮影しているファンがいます。確かに迫力ある写真にはなりますが、自らの命を危険にさらしてまで撮影する価値のあるものではありません。
写真33. 急行がやってきた
その急行がさらに進んできました(写真33)!
写真34. 急行が停車!
そして停車しました(写真34)。ここで多くの乗客が降り…ませんでした。正月の午前中なので、乗客は少なめでした。
写真35. 通勤車がやってきた
通勤車がやってきました(写真35)。この車両はシリーズ21と呼ばれる、近鉄通勤車の中では最新のタイプです。といっても、近鉄電車ではどんなに新しくとも、自社の通勤車は2008年製なのですが…。右には特急車もいます。このように、目を離したスキに次々と電車がやってくるのが大和西大寺の最大の魅力です。
写真36. 橿原線特急がやってきた
橿原線の特急がやってきました(写真36)。橿原神宮前行きと表示されていますが、橿原神宮前よりも吉野方面への連絡も視野に入っている特急です。橿原線と吉野線は軌間が異なりますので、直通運転はできませんが、このように接続への配慮があることが読み取れます。
写真37. 京都線特急がやってきた
橿原線特急に目を向けている間に、3番のりばに京都線特急がやってきました(写真37)。
写真38. 奈良線準急が到着!
そうしているうちに、奈良線準急がやってきました(写真38)。日中時間帯は大和西大寺発着の区間準急が走り、奈良発着の準急は走りません。朝と日中時間帯の切り替わりなのか、比較的珍しい存在を見かけることができました。
さて、このホームの西側から観察してみましょう!
写真39. 西側は難波方向(左手)と京都方面(右手)に分かれる
西側の様子です(写真39)。難波方面と京都方面に分かれています。いずれも複線で平面交差が発生しています。ここでは難波方面から入線する電車と、京都方面に出発する電車が同時に通過できません。
写真40. 阪神車が停車中
阪神車の奈良行きが停車中です(写真40)。阪神車がやってくると異文化交流の感覚があります。
写真41. 京都線が出発!
京都線が出発しました(写真41)。流し撮りにチャレンジしましたが、上手いでしょ?
写真42. 京都線へ歩みだした
京都線に歩みだしました(写真42)。
このように、1・2番のりばは京都・難波→奈良・橿原神宮前の電車が、3・4番のりばは奈良・橿原神宮前→京都・難波の電車がそれぞれ使います。そして、6番のりばは主に橿原線各駅停車が使います。一部の橿原線各駅停車は1・2番のりばから発車しますが、これは京都線方面からの直通です。そのようにして、限られた空間を有効に活用するとともに、一部のパターンについては、同じホームでの乗りかえを可能にしています。
大和西大寺を訪問して
今回、究極のジャンクションともいえる大和西大寺を訪問しました。駅の前後で平面交差が発生し、次々と列車がやってくるさまは、まさにジャンクションの最終形態の1つです。そして、近鉄車のほかに阪神車もやってきて、ネットワークの広がりを実感することもできます。また、駅構内はリフレッシュされ、きれいな空間で乗りかえることもできます。
大和西大寺を利用する多くの人は「無関心」に電車を待ち、「つまらなさそうに」利用していました(私のような「はしゃぐ」ファンとは異なります)。これは、大和西大寺が多くの人にとって当たり前の空間であることを意味します。このように、当たり前に利用する利用客とともに大和西大寺は究極のジャンクションとして君臨し続けるのです。
さて、前後でどこに行ったのでしょうか。
←(前)近鉄の快速急行に乗る(大阪難波→大和西大寺、車窓も収録!)
究極のジャンクション、大和西大寺を楽しむ←今ここ!
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