京急電鉄の2022年秋のダイヤ改正を解析する

記事上部注釈
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2022年11月に京急電鉄でダイヤ改正が行われます。日中を中心に大きな変化があります。その概要と具体的な変化点を探ります。

重要

本記事では簡単のために羽田空港第1・第2ターミナル発着を羽田空港発着と記します。

写真1. 泉岳寺始発の快特が品川に入線!

京急電鉄2022年秋ダイヤ改正の概要

2022年秋のダイヤ改正の概要は以下の通りです。

  • 日中時間帯の都営線直通快特の半分を特急に変更(横浜方面・羽田空港方面ともに)
  • 日中時間帯のエアポート急行を10分間隔から20分間隔に変更
  • 日中時間帯のエアポート急行を上大岡待避から金沢文庫待避に変更し、川崎-金沢文庫を先着する速達列車が20分に2本(10分間隔)から20分に3本に増加
  • 平日朝ラッシュ時の快特品川行きの一部を特急品川行きに変更(金沢文庫からの12両編成運転は継続)
  • 平日朝ラッシュ時の特急羽田空港行きの8両編成化(従来は一部区間12両編成運転)と減便

最も目立つのは日中時間帯の変化です。京急電鉄の発表では、快特特急化による利便性向上が先にうたわれていますが、実態はエアポート急行を減便することが最大の目的で、一部の停車駅の利便性確保(と緩急結合の実施)による、利便性の著しい低下を避けるための方策として快特特急に変更したように見えます。

特に、エアポート急行は空港線内の普通の役割を担っており、これが20分間隔に減ることは利便性の極端な低下を意味します。そのため、空港線の普通の役割を担うべく、羽田空港発着の特急を20分間隔とし、空港線内各駅にとまる種別を20分間隔に2本としたのでしょう。当該の特急快特として運転しつつ、空港線内の普通を別途設定する手もありますが、これだと合理化の効果が減ってしまいます。

また、朝ラッシュ時の快特特急化も目立つ変更点です。もともと朝ラッシュ時の快特品川行きは金沢文庫まで特急であり、横浜から品川までの所要時間も特急と大差ありません(金沢文庫から横浜までは両者の停車駅は同等)。そのため、各駅の乗車チャンスを生かすために特急に変更したのでしょう。

このためか、特急羽田空港行きが減便され、12両運転も消滅しています。そのぶんの特急快特からの変更でまかなったという解釈も可能です。

なお、平日夕方時間帯については大きな変化はありません。

2022年11月京急電鉄ダイヤ改正の詳細を確認する

写真2. 品川の拠点性は変わらない

前の章でダイヤ改正の概要を確認した(多くのサイトさんではこれで終わりでしょう)ところで、それぞれの内容を確認しましょう。

日中時間帯のダイヤパターン変更

従来は10分間隔で快特(品川-京急久里浜方面、半数は都営線直通)、羽田空港発着の快特(40分に1本はエアポート快特として京急蒲田通過)、エアポート急行普通というある意味わかりやすいダイヤでした。ただし、空港線各駅から品川には乗りかえが必ず必要だったり、品川-京急蒲田は特急停車駅でも所要時間がかかる(同区間は品川-蒲田間に停車する種別はない)という問題点があったのも事実です。

また、京急蒲田以南でエアポート急行が運転されますが、空港利用客が減ってしまったら輸送力過剰になってしまうのも事実です。また、エアポート急行が上大岡で快特を待ちますから、川崎・横浜-金沢文庫で先着する速達列車が10分間隔でしかなく、(単純さに割り切ったために)本数の割に利便性がそこまで高くない点も指摘されましょう。

そのような課題を認識したためか、20分サイクルで以下の構成に変わりました。

  • 都営線直通快特(都営線-三崎口):1本 → 都営線直通特急(都営線-三崎口):1本
  • 泉岳寺発着快特(泉岳寺-京急久里浜方面):1本(変化なし)
  • 空港線快特(都営線-羽田空港、40分に1本はエアポート快特):2本 → 1本(エアポート快特も合算)
  • 空港線特急(都営線-羽田空港):0本 → 1本(空港線快特と含めた本数は残存)
  • エアポート急行(羽田空港-逗子・葉山):2本 → 1本
  • 普通(品川-浦賀):2本(変化なし)

全般的に効率化を目指し、単純さを犠牲にしているダイヤです。従来は(エアポート快特が蒲田を通過するかどうかに注意すれば)10分サイクルの明快さが売りでしたが、特急を復活させることにより20分サイクルのダイヤに変更されています。

気になるのが、快特から特急に変更(=停車駅が増加)することによる所要時間増加です。距離の長い品川-京急久里浜の所要時間の変化を見てみましょう(表1、表2)。

表1. 快特から特急への変更による所要時間の推移(平日下り)

所要時間 所要時間変化
ダイヤ改正前 ダイヤ改正後
横浜 18分 22分 +4分
金沢文庫 34分 38分 +4分
横須賀中央 43分 50分 +7分
京急久里浜 52分 59分 +7分

表2. 快特から特急への変更による所要時間の推移(平日上り)

所要時間 所要時間変化
ダイヤ改正前 ダイヤ改正後
横浜 17分 22分 +5分
金沢文庫 35分 38分 +3分
横須賀中央 45分 51分 +6分
京急久里浜 54分 60分 +6分

品川から横浜まで所要時間が5分程度増加し、横須賀中央や京急久里浜までは7分程度の所要時間の増加です。品川から横浜まで青物横丁・平和島・神奈川新町と3駅停車駅が増加していますし、金沢文庫から横須賀中央までは逸見・汐入と2駅停車駅が増加しています。

品川から横浜までの所要時間の増加は停車駅増加によるものばかりではありません。品川から横浜までは快特では120km/h運転がなされていますが、特急は110km/hどまりです。このことによる所要時間差はたかが知れていますが(まともに120km/h運転区間が多くないため)、停車駅増加による悪影響を最小限にするためには特急の120km/h運転化は必須でしょう。それをしなかったのは乗客サービス上いかがなものと感じてしまいます。ある意味最低限のマナーがなっていないということです。

さて、停車駅が変わらない泉岳寺発着快特の所要時間はどうでしょうか(表3、表4)。

表3. 快特の所要時間の推移(平日下り)

所要時間 所要時間変化
ダイヤ改正前 ダイヤ改正後
横浜 17分 17分 ±0分
金沢文庫 33分 35分 +2分
横須賀中央 43分 47分 +4分
京急久里浜 52分 57分 +5分

表4. 快特の所要時間の推移(平日上り)

所要時間 所要時間変化
ダイヤ改正前 ダイヤ改正後
横浜 17分 19分 +1分
金沢文庫 34分 36分 +2分
横須賀中央 45分 47分 +2分
京急久里浜 53分 56分 +3分

下りはともかく、上りの横浜から品川までの所要時間2分増加が目立ちます。途中の京急蒲田で2分停車していることが読み取れます。では、当該の快特の蒲田での停車時間を1分削減できないでしょうか。

京急の公式サイトに掲載されている時刻表から探ってみましょう(図1)。

図1. 平日上り時刻表から抜粋

都営線方面のダイヤに調整が必要なことを考えると、横浜や川崎の発車時刻を繰り下げることになります。例えば、表の中央よりやや右側に表示されている快特の京急川崎の発車時刻を12:32から12:33に変更するということです。すると、後続の普通(図1の左側)の京急川崎の発車時刻も12:33から12:34に繰り下がります。当該の普通は京急蒲田に12:39に到着し、12:39発の特急への接続が困難になります。こうすると、六郷土手と雑色から品川までの所要時間が5分増加します。これを避けるためには現行ダイヤにするしかありません。

とはいえ、京急川崎から品川までこのような乗り継ぎが成立するのは40分に3回に過ぎません。そうであれば、京急蒲田での接続はしないと割り切れば、所要時間は短縮できます。京急川崎以外ではこのような制約はないように見えます(金沢文庫や上大岡での緩急結合に問題はなさそうです)。快特のスピードアップのためには京急鶴見での待避を復活させる必要がありますが、これを避けたのかもしれません。

また、快特の半数が特急に変更されたことにより、快特だけの10分間隔から特急・快特合わせて20分間隔となり、10分等間隔ではなくなりました。この長いほうの隙間にエアポート急行を挿入し、京急蒲田から金沢文庫までの逃げ切りを実現しました。

これにより、横浜から金沢文庫まで先着する速達列車は横浜発で(快特)7分(エアポート急行)6分(特急)7分(快特)と均等になりました。エアポート急行を活用し、京急線でも混雑しがちな横浜-金沢文庫の混雑の分散化したことがわかります。

なお、普通の待避駅は以下の通りです。簡単のためにエアポート快特も快特と記します。

  • 普通(品川発06分):鮫洲(特急)、平和島(空港線特急と快特)、京急蒲田(空港線快特)、京急川崎(特急)、生麦(快特)、神奈川新町(エアポート急行)、南太田(特急)、上大岡(エアポート急行と特急)、金沢八景(特急)、堀ノ内(快特)
  • 普通(品川発16分):鮫洲(快特)、平和島(空港線快特と特急)、京急川崎(快特とエアポート急行)、神奈川新町(特急)、南太田(快特)、上大岡(特急)、金沢八景(快特)、堀ノ内(特急)
  • 普通(品川着06分):堀ノ内(特急)、金沢文庫(快特)、上大岡(特急とエアポート急行)、南太田(快特)、神奈川新町(特急)、京急川崎(エアポート急行と快特)、京急蒲田(空港線特急)、平和島(特急と空港線快特)、鮫洲(快特)
  • 普通(品川着16分):堀ノ内(快特)、金沢文庫(特急とエアポート急行)、上大岡(快特)、南太田(特急)、神奈川新町(エアポート急行)、京急川崎(特急)、京急蒲田(空港線快特)、平和島(快特と空港線特急)、鮫洲(特急)

巧みに見えるのが、神奈川新町での接続です。神奈川新町には快特がとまりませんので、品川-京急東神奈川・神奈川の有効列車が20分間隔になるように見えます。しかし、現実には快特に抜かれる普通はエアポート急行に接続し、そのエアポート急行は京急川崎で快特と連絡します。よって、品川から京急川崎まで快特で向かい、京急川崎からエアポート急行を活用することで、ある意味特急と同等の役割を担っているのです。

このほか、10分間隔からずれる速達列車との接続を取りつつ、普通の運転間隔をずらさないために長い時間停車していることがあります。これは拠点駅から小駅への利用には便利な一方、小駅から小駅へは不便を強いられます。また、普通の運転時間が増え(乗務員の労働時間が増えることから)コストアップとなってしまいます。

このように、緩急結合と等間隔を意識したあまり、所要時間がかかるのが普通という側面もありそうです。日中時間帯の都営線からの羽田空港系統を青物横丁通過の特急とし、エアポート急行を減便なしで京急蒲田-羽田空港をノンストップとするのが、都内利用者にとってわかりやすいダイヤであったように感じます。

朝ラッシュ時の変更

朝ラッシュ時はそこまで大きな変更はありません。品川断面で10分サイクルを形成しており、以下の構成です。

  • 快特(金沢文庫まで特急、金沢文庫から12両編成)品川行き:1本 → 特急品川行き(金沢文庫から12両編成)1本
  • 特急(金沢文庫から品川まで12両編成)都営線直通:1本(変化なし)
  • エアポート急行(羽田空港発都営線直通):1本(変化なし)
  • 普通:1本(変化なし)

品川断面で気づく大きな変化点は快特が特急に変わっている点です。ただし、当該の快特はもともとそこまで速度を出していなかったので、品川までの停車駅が3駅増えてもそこまで大きな影響はありません。品川着8:20ごろの品川行きの主要駅の時刻を比べてみましょう。

  • (改正前)京急久里浜7:05 → 横須賀中央7:15 → 金沢文庫7:30 → 横浜7:51 → 品川8:20
  • (改正後)京急久里浜7:05 → 横須賀中央7:15 → 金沢文庫7:30 → 横浜7:51 → 品川8:20

このように、快特の特急化による所要時間増加はありません(念のため前後の快特を調べましたが同様でした)。ただし、ダイヤ改正前の品川着8:53の快特は時刻はそのままにモーニングウィングに変更され、ラッシュ時ピークから外れた時間帯の快特が減便されているのは事実です。

横浜地区ではエアポート急行が抜けるかわりに普通京急川崎行きや特急羽田空港行きが運転されていました。今回はこの部分にメスが入っています。横浜の手前の快特停車駅の上大岡の7時台と8時台の時刻を示します。

表5. ダイヤ改正前後での比較(上大岡上り)

以下の点が変化しています。

  • 8:04発特急羽田空港行き、8:16発特急羽田空港行きが削減されている
  • 羽田空港行きの本数を補うためか、7:58発普通京急川崎行きを羽田空港行きに延長
  • 8:42発モーニングウィング号は8:13発に変更され(よりピークに近い時間帯)、行先が品川から泉岳寺に1駅伸ばされている
  • 8:12発快特品川行きは8:13発モーニングウィング号に振り替えられている
  • 8:12発快特がなくなった代替措置として、8:16発特急品川行きが設定されている

大きく見ると、8:04発特急羽田空港行き、8:42発モーニングウィング号が減便されています。また、8:12発の快特がモーニングウィング号に変わり、この時間帯の速達列車を確保するために8:16発特急羽田空港行きを品川行きに振り替えています。

一般に本数が減るとスピードアップします。では、今回の場合はどうでしょうか。(改正前でいう)モーニングウィング号の直後の特急で比較します。

(改正前)三崎口7:59 → 京急久里浜8:12 → 横須賀中央8:21 → 金沢文庫8:36 → 横浜8:54 → 品川9:22

(改正後)三崎口7:56 → 京急久里浜8:10 → 横須賀中央8:21 → 金沢文庫8:36 → 横浜8:54 → 品川9:20

横須賀中央から品川までは2分のスピードアップが実現し、これは全て横浜から品川までのスピードアップです。改正前でいう9:20着の枠にはモーニングウィング号が入っていましたが、その枠が余り2分スピードアップしたということと解釈しています。京急久里浜で3分、堀ノ内で2分停車しており、堀ノ内以南ではその効果がなくなっているのはやや釈然としません。

同様に、(上大岡でいう)8:04発特急羽田空港行きの直前に走る特急(ダイヤ改正前は快特)についても堀ノ内から品川まで1分スピードアップしています。これは過密ダイヤ状態が緩和される上大岡→横浜で1分スピードアップしています。

逆にスピードダウンしている特急もあります。上大岡発8:16の特急羽田空港行きは特急品川行きに変更されました。これは、京急蒲田から品川までは増発に当たります。その影響で後続の特急(上大岡8:20発特急京成高砂行き)は所要時間が増加しています。京急川崎まではダイヤ改正前よりも2分スピードアップ、京急蒲田までは1分スピードアップしています。その先は平和島でスピードアップ0、青物横丁で1分のスピードダウン、さらに品川で2分のスピードダウンです。

個別では若干のスピード変更があるものの、快特から特急への変更も含め所要時間に大差ないというのが朝ラッシュ時ダイヤです。

2022年11月京急ダイヤ改正を解析してみて

写真3. 普通品川行きが終点にやってきた

2022年11月京急ダイヤ改正を解析してみました。従来の「単純で所要時間に重きを置いた」ダイヤから「全般的な利便性を考えた」ダイヤに変化したと読み取れます。特に、快特と普通の2極化が進んでいた日中時間帯でこの傾向は顕著です(ラッシュ時はもともと多くの種別が運転されていたので、全体的な利便性が取れていた)。

このなかで快特停車駅相互間の利便性が低下したり、所要時間が増加したりというマイナスの面も見られます。日中時間帯のエアポート急行の減便によるコスト削減も目的の1つでしょう。ただし、この効果はそこまでではないでしょう。日中時間帯の減便で顕著なのは人件費の削減です。しかし、10分間隔の普通の所要時間が増加しているので、(労働時間で計算するのであれば)普通を運転する人件費が増加しています。エアポート急行の減便はそれを補う程度でしょう(エアポート急行の減便によるコスト削減のほうが大きいと思いますが)。

私はダイヤ改正前のような単純で速達性の高いダイヤのほうが好みです。しかし、京急電鉄のように駅が多く、拠点も数多い路線であればそのニーズは多彩で、ダイヤを作成するのは簡単ではありません。そのような路線で単純さを取るか、多様性への適合を取るかは試行錯誤の跡が読み取れます。京急も1999年以前は多様性への適合を取っており、それへの回帰とも解釈できます。

大都市圏で多くの駅があり、都心側の目的地が2か所(品川方面と羽田空港)に分かれ、途中にも拠点が多くある路線のダイヤ作成が難しいのでしょう。

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コメント

  1. となかいさん より:

    なんだろう、ある特定の列車に重きを置きすぎて全体を見れていない感がする。
    急行の減便に伴う救済が行われているのは確かだけど、空港線利用客は羽田空港利用者だけではなく沿線住民もいるので、品川に向かう直通列車が復活したのは都区内である沿線民からしたら大歓迎。
    また、特急の最高速度引き上げはしません。線路保守コスト削減も今回のダイヤ改正のポイントの1つなので。

    • tc1151234 より:

      となかいさま、コメントありがとうございます。

      弊サイトでは、全体の視点と細かな視点の2つから解析しているように心がけております(読者さんに伝わるほどのレベルに達しているかは別問題です)。したがって、細かな視点から解析している場面を見ると、「全体を見れていない感がする」とお感じになるかもしれません(そのような表現しかできない私に問題があるのかもしれません)。

      さて、ダイヤ改正は現有のリソースの再配分という側面がありますから、ご指摘の通り、都内の利用客にとってはメリットの多いダイヤ改正であると思います。

      鉄道(に限らず交通機関全体)の最大の競争力は所要時間と考えています(極論ですが品川から三崎口まで2日かかるとしたら、誰も使わないでしょう)。その競争力を担保するために絶え間ない速度向上が原則と、私は理解しています。現実には、ご指摘のコストもあり、その原則通りにならないことは理解しています。