東京と三浦半島を結ぶ京急線。ラッシュ時の混雑は横浜地区のほうが激しいということもあり、品川付近の混雑の実態は意外と知られていません。そのような実態を確認しました。
写真1. 特急の先頭4両は品川行き
京急線の朝ラッシュ時の混雑状況のまとめ
品川断面での混雑を確認したところ、混雑状況は以下の通りでした。
・品川断面で最も混雑する時間帯は7:51~8:50の60分間である
※この時間帯の混雑率は95%程度であり、首都圏の中ではゆとりのあるほうである
・エアポート急行の混雑が激しく、次に特急の混雑が激しい。普通は空いており、快特はその中間である
・基本的に後ろ寄りの車両が空いているが、特急は前よりの車両が空いている
※特急は前の4両は品川どまりで、品川より先まで利用する人は後ろの8両に乗るためです
生データやそのデータの解析のような詳細な内容は、次以降の章で示します。
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
弊サイトでは混雑ポイントという概念を導入しております。その概要を示します(表1)。
表1. 混雑ポイントの概要
せっかくなので、120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。
写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
京急線の混雑状況の生データ
写真5. 品川に到着した快特
生データを示します。7:48~9:10まで確認していますが、3本だけ確認できませんでした。この3本については、前後の同じ種別の混雑状況と、前後のエアポート急行から混雑状況を推定しています。
表2. 京急線混雑調査結果(北品川→品川、生データ)
※斜字で示した8:26着の特急、8:30着の普通、8:32着の快特については実際に確認できていないため、前後の同種別から混雑を推定
平均混雑率は88%とかなり余裕があります。ピーク60分間(と推定した)にしぼっても、混雑率は95%と他の路線よりも空いています。
詳しい解析を以下の章で示します。
平日朝ラッシュ時の京急線の混雑状況の解析
写真3. まだ表示が切り替わっていなかった(品川からは特急も普通表示)
生データを示すだけでは芸がありません。そこで、私なりに混雑状況を分析します。
混雑時間帯の分析
今回、82分間の混雑を目視で確認しましたが、一般には朝ラッシュ時の混雑は最も混む1時間について論じます。では、どの1時間が混むのでしょうか。約10分ごとに混雑状況を分析してみました。具体的には、ある特急から次の特急までの間で分析しています。
表3. 京急線混雑調査結果(北品川→品川、時間帯別層別)
この分析結果を見ると、7:55にはすでの混雑の激しい時間帯に入っていることがわかります。ただし、7:55以前は快特や特急の運転間隔が12~13分とやや間隔が開いており、京急側が混雑のピークと認識していないことが読み取れます。そこで、本記事では7:55の直前のエアポート急行からピーク時間帯であると認識することにしました。
このような考えで集計した結果、最混雑時間帯は7:51~8:50の60分間であり、その混雑率は95.3%であると結論付けることにしました。
2019年に横須賀線の混雑を調査していますが、最混雑時間帯はおおむね7:50~8:50ですから、それほど間違えていないでしょう。
なお、最ピーク時間帯は8:15~8:35付近であり、この前もそれなりに混んでいることもわかります。
復習:京急線の朝ラッシュ時のダイヤ
混雑と鉄道ダイヤは密接に関わっています。そこで、朝ラッシュ時の京急線のダイヤについて簡単に紹介します。
京急線の品川付近ではだいたい10分間隔でダイヤが組まれています。その10分の間に快特、特急、エアポート急行と普通が運転されています。品川断面では普通→快特→エアポート急行→特急→普通の順番で運転されています。
京急の朝ラッシュ時の特徴は特急と快特の12両編成運転です。特急は都営地下鉄浅草線に直通しますが、都営線内は8両編成までしか対応できません。そのため、特急は品川で前の4両を切り離します。このため、品川で3分程度とまります。この間上りホームには他の列車が入線できません。しかし、品川どまりの3番線なら何とか対応できます。このため、特急の後は普通が到着します。
特急は快特よりも停車駅は多いですが、2021年のダイヤでは特急と所要時間は大差ありません。エアポート急行は羽田空港始発です。エアポート急行は距離が短いかわりに途中駅に多く停まり、乗客を吸収する格好です。普通はこれらの速達列車の合間を縫うように走っています。横浜から品川まで特急や快特で30分程度のところ、普通は64分程度かかっています。普通は乗りとおすためにあるのではなく、速達列車のサポート的な役割を担う種別と認識するほうが良さそうです。
普通と快特は品川行き、特急とエアポート急行は都営浅草線に直通します。
なお、横浜断面では特急羽田空港行きが運転されており、輸送力が確保されています。
種別ごとの混雑状況
6両編成の普通、8両編成のエアポート急行、12両編成の特急や快特で混雑が異なることは現場で見てもわかります。そこで、これらの種別ごとの混雑状況を集計してみましょう(表4)。時間帯は先ほどの7:51~8:50の60分間です。
表4. 京急線混雑調査結果(北品川→品川、混雑時間帯60分間、種別ごと)
12両編成の快特の混雑が激しいのかと思いきや、意外と空いています。かわりにエアポート急行の混雑が激しいです。空港線内各駅や立会川からの利用が多いのか、品川より先の都営地下鉄に直通するためでしょうか。
普通は各駅からの利用で混んでいそうですが、かなり空いています。これは、普通利用の多くが短距離利用(川崎や横浜方面の普通停車駅の利用者は途中で特急に乗りかえる)であり、そのうち利用の多い駅は特急やエアポート急行が停車するために普通を選択する人が少ないのでしょう。
快特が意外と空いています。快特は品川行きであり、品川より先の利用者は特急を選択する傾向があるのでしょう。また、横浜から品川までの所要時間は快特のほうがかえって長く、快特停車駅から品川までの利用者が快特を利用するメリットも薄い点も見逃せません。
車両ごとの分析
同じ列車であっても、車両によって混雑が異なります。そこで、車両による混雑の違いをまとめます。6両編成の普通、8両編成のエアポート急行、12両編成の特急や快特で混む車両が異なるのは容易に想像できますので、それぞれの種別でまとめます(表5)。時間帯は先ほどの7:51~8:50の60分間です。
表5. 車両による混雑の差(ピーク60分)
種別ごとに混雑傾向を分析すると、以下の通りです。
・快特は前よりがやや混んでいて、後ろよりが空いている
・特急は中央より後ろ寄りが混んでいて、前よりが比較的空いている
・エアポート急行は全体的に混んでいるものの、最前部と最後尾が空いている傾向にある
・普通は後ろよりの車両が空いている
ダイヤ上同等の役割をになっている、特急と快特の混雑車両が異なることが興味深いです。これは現場に立つとわかります。特急は前4両が品川止まりで、後ろ8両が都営線に入ります。そのため、都営線まで利用する人はどうしても後ろに集中します。快特は全車両品川行きですが、品川で降りるのは前よりの車両が便利です。そのため、快特の後ろよりは利用されません。
エアポート急行は全体的に混んでいます。一般に、地下鉄線では出口に近い車両は中央よりに偏っていることはありません。駅によって事情はさまざまです。その地下鉄の各駅で便利な位置に分散するので、エアポート急行は特異的に混んでいる車両はないのです。直通運転の隠れたメリットといえましょう。
普通は品川行きであり、全体的に空いていることから、(混んでいる車両であってもそこまでの混雑でないことから)品川での降車に不便な最後尾車両が空いている傾向にあります。
利用状況からダイヤを考える
写真5. 朝の品川駅
京急のダイヤを眺めていて思うのが、朝ラッシュ時の所要時間の長さです。昼間は17分しかかからない横浜→品川で30分程度もかかり、東海道線(20分)はいうに及ばず、京浜東北線(29分)よりも長いという体たらくです。この理由は本数の多さです。以前の快特は26分程度(2008年東京時刻表より)でした。所要時間が以前より長くなっている理由は、横浜方面から羽田空港への特急が増発されたためです。
ここまで空いているのであれば、本数を減らしても良さそうです。利用状況から考えると、普通を半減しても支障はなさそうです。また、快特も10分間隔から20分間隔(特急とエアポート急行の本数は維持)することも手です。また、横浜方面から羽田空港への特急も20分に1本に減便します。こうすると、(私の勘でしかありませんが)横浜から品川まで5分程度のスピードアップを期待できます。
ただし、普通停車駅の多くは京浜東北線の駅に近いことから、このようなあからさまな減便は京浜東北線との競争に完全に白旗を上げる羽目になりますし、東京23区の公共交通機関としてはありえない姿勢です。また、横浜から羽田空港への輸送は力を入れている分野です。そのため、このようなダイヤにすることはまずないでしょう。やるとすれば、ホームドアのオペレーション改善、旧型車駆逐による普通のスピードアップといった施策によって全体的にやや所要時間を短縮するくらいでしょうか。
京急のように素晴らしいオペレーションを採用していても、結局はダイヤは施設に依存するという現実を改めて認識したのです。
京急線の混雑データへのリンク
ここまでは特定の駅での混雑調査という「狭くて深い」情報をお届けしました。では、公式のデータなどをまとめた記事はないのでしょうか。そのような声にお応えして、以下の記事をご用意いたしました。