名鉄は西側で名古屋本線と犬山線が分岐しています。昔から名鉄でも犬山線の混雑が激しいと聞きます。その実態を観察し、名古屋本線と比較しました。
写真1. 6000系列による普通(クロスシート車!)が栄生に到着した
名鉄名古屋本線と犬山線の混雑状況まとめ
名鉄名古屋本線(西側)と犬山線の混雑状況のまとめは以下の通りです。
- 最混雑時間帯は7:31~8:30(栄生基準)と判断でき、名古屋本線は混雑率123%、犬山線は混雑率125%である
- そのなかでも8:00~8:30の混雑が激しく、8:30を過ぎると空いてくる
- 特急、快速急行、急行の混雑が激しく、準急や普通はいくぶん空いている
詳細は以下に記します。
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
弊サイトでは混雑ポイントという概念を導入しております。その概要を示します(表1)。
表1. 混雑ポイントの概要
せっかくなので、120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。
写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
今回は、名古屋中心部にほど近い(名鉄名古屋のとなり)の栄生到着断面で観察しました。
名鉄名古屋本線、犬山線の混雑状況の生データ
写真3. 朝ラッシュ時に4両編成はどうかと思う
まず、名鉄名古屋本線と犬山線の混雑状況の生データを示します(表2)。列車ごとの混雑率については、計算のしやすさ(混雑ポイントは序列指標であり、足し算ができない)から、混雑率で示しています。
表2. 名鉄名古屋本線と犬山線の混雑状況(東枇杷島→栄生、生データ)
※種別変更は直前の1回のみ記します。名古屋からの種別変更後も神宮前までは山王だけの違いであり、混雑状況への影響は小さいと推定したためです。
各列車の混雑を視覚化しました(表3)。
表3. 名鉄名古屋本線と犬山線の混雑状況(東枇杷島→栄生、混雑視覚化)
名鉄名古屋本線、犬山線の混雑状況の解析
写真5. 特急系は先頭2両は特別車
上で生データを示しました。しかし、それだけではわかりにくいかもしれません。そこで、以下の章で詳細に解析いたします(やさしー)。なお、列車ごとの混雑を分析するに当たり、弊サイトの指標である混雑ポイントから、一般的な混雑率に変換しています。これにより、序列指標から定量的な指標に変換され、計算などが便利になるためです。
復習:名鉄のダイヤ
名鉄のダイヤは複数線区の直通や特別停車があり、単純には記せません。とはいえ、非常に単純にまとめると、30分サイクルのパターンダイヤで、名古屋本線は特急が約10分間隔、急行(快速急行も含む)と準急が約15分間隔で運転されます。犬山線はミュースカイと快速急行がそれぞれ30分間隔で運転され、その間に急行が15分間隔で運転されます。
ただし、上記の説明は正確さを大幅に捨て、わかりやすさを前面に押し出したものでしかありません。そのため、上記の説明は理解の初歩を助けるための記述とご認識ください。
急行と快速急行の停車駅は基本的に同じですが、快速急行は栄生を通過します。
時間帯別の混雑状況
朝ラッシュ時の混雑状況をまとめる際は基本的に最混雑時間帯1時間を対象とします。では、その1時間はどの時間帯なのでしょうか。ダイヤ上は15分サイクルが基本ですので、15分単位で集計しました(表4、図1)。
表4. 名鉄名古屋本線と犬山線の混雑状況(東枇杷島→栄生、時間帯別)
図1. 名鉄名古屋本線と犬山線の混雑状況(東枇杷島→栄生、時間帯別、視覚化)
最ピークが8:00~8:30であり、その直後は急に空いてくるパターンです。これは私が「始業ぎりぎり理論」と名付けている理論通りです。すなわち、学校なり職場なりの始業時刻の直前にやってくる人が多く、それを過ぎた時刻にやってくる人がほとんどいないことを思い出せば納得できます。
通勤電車に乗る人の多くは約束の時間があるわけですから、多くの人の始業時刻の直前に該当する時間帯の電車が混雑するのです。特に名古屋地区は製造業が盛んな場所であり、(リモートワークがやりやすい)他の業種よりも始業時間にしばられる傾向が強いのでしょう。
7:31~8:30の混雑率は124.3%です。時間帯の切り取りによっては混雑率は前後しますが、125%程度と考えればそう違わないでしょう。
種別ごとの混雑状況
種別ごとの混雑状況をまとめます(表5と図2)。犬山線の快速急行は急行で集計し、名古屋本線の急行は快速急行として集計しています。これは栄生停車有無の違いだけなためです。
表5. 名鉄名古屋本線と犬山線の混雑状況(東枇杷島→栄生、種別ごと、最混雑60分間)
図2. 名鉄名古屋本線と犬山線の混雑状況(東枇杷島→栄生、種別ごと、最混雑60分間、視覚化)
名古屋本線、犬山線とも種別による混雑差はそこまでありません。これは意外でした。名鉄の朝ラッシュ時ダイヤは需要をよく汲み取り組んでいる部分があり、(日中時間帯でも約15分間隔の)犬山線の普通も栄生断面で28分のダイヤホールが存在し、利用の少ない普通の本数を制限しています。そのため、少ない普通に少ない利用者が集中し、結果としてほかの種別と同等の混雑になっているのでしょう。
昔からの慣習(※)か、名古屋本線には一部特別車の特急が運転される一方、犬山線には全車特別車のミュースカイと全車一般車の快速急行が運転されています。犬山線の急行系は名古屋本線の特急や急行と同等です。後述しますが、名古屋本線よりも犬山線がやや混んでいます。
※かつての名鉄特急は名古屋本線系統は一部特別車、犬山線や常滑線系統は全車特別車でした。
車両ごとの混雑状況
車両ごとの混雑状況をまとめます(表6、図3)。
表6. 名鉄名古屋本線と犬山線の混雑状況(東枇杷島→栄生、号車ごと、最混雑60分間)
図3. 名鉄名古屋本線と犬山線の混雑状況(東枇杷島→栄生、号車ごと、最混雑60分間)
通過する全車両の混雑率の算術平均を2つの路線で集計しました。基本的に犬山線が混んでおり、昔から犬山線の混雑が名鉄でも有数のものであることが裏付けられた格好です。もちろん名古屋本線も重要な路線であり、それだけに枇杷島分岐点から名鉄名古屋まで複線でさばくのは無理があったのでしょう。
名鉄名古屋の4線化やそれ以西の複々線化による増発も1つの手(可能であれば名鉄名古屋-金山も複々線が望ましい)ですが、現実には複線のままです。ただし、上小田井以北は地下鉄鶴舞線と相互直通運転がなされ、朝ラッシュ時は約10分間隔で運転され、バイパス線としての役割を果たしています。とりわけ、鶴舞線はビジネス地区の伏見に直結している点も大きいでしょう(それゆえに日中時間帯の直通は切られています)。
混雑状況から名鉄名古屋本線や名鉄犬山線のダイヤを考える
写真6. 古豪による普通に乗り降りする人々
利用状況からのダイヤを考えてみます。ぱっと見、普通の本数が少ないように見えます。それを考慮すると、名古屋本線は特急・急行・普通の各15分間隔(津島線系統の準急を30分間隔で挿入)、犬山線はミュースカイ(または快速急行)・急行・普通の各15分間隔で、ダイヤをすっきりさせつつ近距離駅の利便性を上げることがすぐに思い浮かびます。しかし、これは現在の利用者にとっては得策ではありません。速達列車が減便され、これらに乗客が集中するのが明白なためです。
そのため、特急や急行の本数を増加させることになりましょう。そうすると、現在のダイヤに近づきます。駅が少なければすっきりしたダイヤを組むこともできましょうが、名鉄は街道沿いに路線が敷かれ(JR沿線より街が古いように見えました)、細かな流動も無視できません。
近距離の利便性を向上させるためには、普通の増発は必要でしょう。しかし、そのためには枇杷島分岐点以東の線路容量の増加が必要です。枇杷島分岐点以東がどうにかなったとしても、スムーズなダイヤのためには待避駅の増設や部分複々線化という設備投資が必要です。
結局、鉄道ダイヤはじゅうぶんなインフラがあってこそ成立するものであり、インフラが不充分であれば取捨選択されるだけなことを実感しました。