尼崎での接続風景

記事上部注釈
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尼崎。大阪府に接する兵庫県の都市であり、よくある大都市近郊のベッドタウンです。しかし、鉄道という観点から見ると、興味深い光景が繰り広げられる場所でもあります。その光景を観察しました。

写真1. 尼崎に停車中の電車たち

鉄道のジャンクション 尼崎

図1. 尼崎駅の位置(googleマップより引用)

尼崎は東海道線から福知山線が分岐する駅です。福知山線の事実上の起点は大阪ですが、書類上の起点は尼崎です。もともと福知山線は本数も少なく、電化もされていない路線でしたが、1980年代に入り、福知山線の電化・複線化が進められ、増発もなされました。そして、「宝塚線」という愛称も与えられました。

こうすると、東海道線と線路を共用する大阪-尼崎の線路容量が問題になってきます。2003年の時刻表を見ると、朝ラッシュ時の神戸線は快速・新快速ともに約8分間隔で走り、宝塚線も快速と普通合わせて約8分間隔で走っています。これらを外側線で共用するのは事実上不可能です(内側線は約4分間隔で普通電車が走る)。

このような観点(別の観点もじゅうぶんにあるでしょう)から、大阪市内から尼崎に伸びる通勤新線が建設されました。JR東西線です。大阪を通る宝塚線や神戸線の一部の電車をJR東西線に流せば、大阪-尼崎の線路容量は問題になりません。

ここまでは単なる算術の世界です。本数が増えれば、別の線路に電車を流す。しかし、利用客としてはこれでは納得できません。(大阪駅と東西線の北新地が近いとはいえ)今まで大阪に向かっていた電車が、ある日からわけのわからない地下駅に連れて行かれるのです。この葛藤を解決する1つの手段が尼崎駅の運用です。

尼崎を中心にとらえると、東西軸が神戸線、北西に宝塚線、南東にJR東西線が伸びている格好です。

尼崎

図2. 尼崎を中心とする位置関係

従来、大阪から発車していた神戸線の電車が東西線経由になったとしましょう。そうすると、大阪から乗っていた神戸線利用者は不便になります。これを改善するには、大阪を通る宝塚線の電車を尼崎で接続させれば、乗りかえ回数こそ増えますが、乗車チャンスは保てます。尼崎でやっていること、それは別系統どうしの電車を接続させ、各方面への乗車チャンスを確保することなのです。

尼崎での接続ダイヤの基本

現在、日中時間帯の神戸線と宝塚線のダイヤは以下の通りです。いずれも尼崎以西の本数で、15分サイクル当たりの本数です。

1) 神戸線

  1. 新快速:大阪方面-神戸線1本
  2. 快速:大阪方面-神戸線1本
  3. 普通:大阪方面-神戸線1本
  4. 普通:東西線-神戸線1本

2) 宝塚線

  1. 快速(一部時間帯は区間快速):大阪方面-宝塚線
  2. 普通:大阪方面-宝塚線

ここでいうと、神戸線の4と宝塚線の2が相互に接続しています。2011年3月ダイヤ改正以前は宝塚線の快速は東西線に乗り入れるもの(毎時4本)と大阪発着(毎時2本)がありましたが、大阪発着に変更されました(宝塚線の1に該当)。もともと大阪発着の快速と東西線直通の快速は続行運転していましたから、毎時4本にしたところで待ち時間は変わりません。

そのかわりに、東西線の快速(区間快速のこともある)は事実上尼崎折り返しに変更されました。東西線から尼崎西側にある引上線に入れないため、東西線の快速は隣の塚口で折り返します。

神戸線の新快速は東西線と別ホームに発着しますので、同じホームでの接続に関与していません。

接続風景を眺める

さて、実際に接続風景を眺めてみましょう。

尼崎駅の配線

実際に接続風景を眺める前に、駅の配線をおさらいします。

図2. 尼崎の配線図(wikipediaより引用、Tawashi2006 - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=74317243による)

尼崎の配線を示しました(図2)。この図はwikipediaから引用したものですが、鉄道配線図のセオリーにしたがって、起点側(東京)を左に示してあり、地図と東西南北が逆(西が右)であることにご注意ください。

非常におおざっぱにいうと、神戸線の複々線(外側線と内側線と呼びます)の外側線と内側線の間に東西線の線路が東から合流し、尼崎の西では神戸線の外側線と内側線の間から宝塚線が分岐する、というものです。

基本的に上下線で配線はほぼ線対称となっている(上りは外側線に側線がありますが、本記事の内容と関係ないので無視できます)ので、上りで述べましょう。

上りは5~8番線を使いますが、それぞれの線路の進入、進出経路は以下の通りです。

  • 5番線:進入は神戸線内側線、進出は神戸線内側線・東西線
  • 6番線:進入は神戸線内側線・宝塚線、進出は神戸線内側線・東西線
  • 7番線:進入は神戸線内側線・宝塚線、進出は神戸線外側線・東西線
  • 8番線:進入は宝塚線・神戸線外側線、進出は神戸線外側線

神戸線の内側線から入れるのは5~7番線で、内側線に出発できるのは5、6番線です。宝塚線からは6~8番線に入れます。東西線に出発できるのは、5~7番線です。7番線を使うことで神戸線の外側線と東西線の行き来も可能な配線ですが、現在は設定はありません。なお、下り線は2番線から外側線に進出できますが、上りは外側線から7番線に入れません。

今回、焦点となるのが内側線を走る列車です。内側線を走るときの交差支障(同時に走るとぶつかる経路になること)を確認します。

case1. 神戸線-神戸線と宝塚線-東西線の場合

  1. 神戸線から5番線に入り、そのまま内側線を直進
  2. 宝塚線から6番線に入り、駅を出てすぐに渡り線を渡り東西線へ

この場合、1と2の進路は干渉しません。そのため、同時進入・同時進出が可能です。

case2. 神戸線-東西線と宝塚線-神戸線の場合

  1. 神戸線から5番線に入り、駅の先の渡り線で東西線に向かう
  2. 宝塚線から6番線に入り、駅の先の渡り線で神戸線に入る

この場合、駅を出発して平面交差が発生します。そのため同時進入は可能ですが、神戸線-東西線と宝塚線-神戸線の同時進出は不可能です。

実際に接続状況を見てみる

ここまで御託を並べ立てましたが、実際に接続状況を見てみましょう。今回は上りで1サイクル確認しています。

写真2. 直近の発車案内

神戸線は1サイクルに満たないですが(神戸線は新快速と普通がある)、東西線は1サイクル表示されています。電光掲示板には「京都線」と書かれていますが、2つ先の大阪からは「京都線」となるため、このように案内しているのでしょう。

写真3. 普通京都行きが到着

5番線に14:56に普通京都行きが到着しました(写真3)。神戸線からのそのまま直進する普通電車です。

写真4. 快速木津行きが到着

6番線に14:57に東西線の快速木津行きが到着しました(写真4)。この快速は後の区間快速の直前に塚口を出発し、尼崎で待っています。尼崎で結果的に普通京都行きに乗りかえられます。2011年以前はこの快速は宝塚始発で、後に示す区間快速はありませんでした。宝塚線から大阪駅への利便性を重視した格好です。

写真5. 普通京都行きが発車

快速木津行きが到着して1分後(14:58)に5番線から普通京都行きが発車しました(写真5)。

写真6. 快速野洲行きが到着

普通京都行きが発車して2分後の15:00には快速野洲行きが到着しました(写真6)。6番線には東西線の快速木津行きが停車したままです。

写真7. 前後して区間快速大阪行きが発車

15:00には宝塚線の区間快速大阪行きが発車しています(写真7)。

写真8. 快速野洲行きが発車

15:01に快速野洲行きが発車しました(写真8)。

写真9. 快速木津行きが発車

そこからすぐの15:02に東西線の快速野洲行きが発車しました(写真9)。これら2本は同時に発車できますが、微妙に発車のタイミングが異なっていました。この接続により、神戸線快速から東西線へのチャンネルが開かれます。

写真10. 快速木津行きが東西線に進む

その快速木津行きはポイントを渡り、外側線と内側線の間の東西線を進みます(写真10)。

写真11. 普通電車がやってくる

少し時間が経過すると、5番線と6番線に接近表示がなされます(写真11)。神戸線から東西線に入る普通松井山手行きと、宝塚線から神戸線(京都線)に入る普通高槻行きがほぼ同時に入ります。進入側は平面交差がありませんので、同時に入線できます。

写真12. 2本が停車中

そして、15:06に普通松井山手行きと普通高槻行きが停車しました(写真12)。手元の記録を見ると、神戸線からの普通松井山手行き(5番線)のほうが宝塚線からの普通高槻行き(6番線)よりわずかに先に着いたようです。

写真13. 下り電車もとまっている

今まで上り電車に目を向けていましたが、下りの4番線にも電車がとまっています(写真13)。よく見ると、3番線にも電車がとまっています。下りでも同時に接続しており、3~6番線に同時に電車がとまっている様子を確認できます。

写真14. 普通高槻行きが発車

15:07に6番線から普通高槻行きが発車しました(写真13)。ドアが閉まっているので、客扱いが終わっていることがわかると思います。

写真15. 普通高槻行きが転線する

その普通高槻行きが転線しています(写真15)。まさに今転線した線路は、5番線からの進路をふさぎます。そのため、この組み合わせは同時に発車できません。

写真16. 神戸線の内側線に入った

神戸線の内側線に入りました(写真16)。

写真17. 普通松井山手行きが発車

普通高槻行きが発車(15:07)してから2分後の15:09に普通松井山手行きが発車しました(写真17)。よく見ると、8番線に新快速敦賀行きがやってきています。所定では15:07に到着、15:08に発車ですが、やや遅れていました。

写真18. 普通松井山手行きが東西線に転線

普通松井山手行きが東西線に転線しました(写真18)。この2分後の15:11には次の普通京都行きがやってきて、サイクルは1巡します。

(再掲)写真16. 6番線から神戸線

(再掲)写真18. 5番線から東西線

これら2つの電車の様子を横に並べてみました。両者で同じ場所を通り、これで平面交差が生じていることがわかると思います。

これらを表にまとめてみました(表1)

表1. 尼崎でのホーム別使用状況

5番線 6番線 7番線 8番線
14:56 神戸線→普通京都
14:57 塚口始発快速東西線
14:58
14:59 宝塚線→区間快速大阪
15:00 神戸線→快速野洲
15:01
15:02
15:03
15:04
15:05
15:06 神戸線→東西線普通 宝塚線→普通高槻
15:07 新快速敦賀
15:08
15:09
15:10
  1. 宝塚線快速停車駅から大阪方面に向かうには、区間快速でも普通でもそのまま直通
  2. 宝塚線快速停車駅から東西線に向かうには、区間快速→東西線快速(跨線橋を渡る)か普通の乗りかえ(同じホーム)
  3. 神戸線快速停車駅から大阪方面に向かうには、快速・普通の直通電車または普通の乗りかえ(同じホーム)
  4. 神戸線快速停車駅から東西線に向かうには、普通の直通電車または快速の乗りかえ(同じホーム)

このように、各方面から各方面への乗車チャンスは15分に2回(電車そのものが15分間隔の宝塚線快速通過駅を除く)あります。難点は7番線に到着する宝塚線の区間快速と東西線の接続です。これは当初の配線が良くなかったと評価できます。民鉄流であれば、7番線と8番線を統合し、6番線を両側が接するようにすれば、乗りかえの利便性は確保できました。ただし、平日の朝ラッシュ時に8分間隔の神戸線新快速、神戸線快速、宝塚線快速(大阪まで外側線を通る)を1線でさばくことにリスクがあったでしょう。

尼崎の接続の様子を眺めてみて

神戸線両方向・宝塚線・東西線という4方向に路線が分かれる駅、言いかえると2つの系統がX字状に交差する交点に位置するのが尼崎です。

このような交点に位置する場合、列車本数の設定が困難です。あちらを立てればこちらが立たず、ということになりがちです。ここ尼崎での解決法は両者の接続を取り、半分の確率で乗りかえが生じるものの、乗車チャンスを最大限確保するというものです。2011年にダイヤパターンが修正されたものの、この接続は1997年の東西線開業から続いています。

今後の尼崎での接続は基本的なサービスとして継続されるでしょうし、同様の流動のある他の場所にも普及してもらいたいものです。

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