東京から横浜を通り、三浦半島に向かう横須賀線。以前は東海道線の陰に隠れていた路線ですが、陰に隠れているがゆえに湘南新宿ラインの経路にも抜擢されました。そんな横須賀線のダイヤパターンをみてみましょう。
写真1. 品川に停車中の横須賀線電車
復習:ダイヤパターンとは
具体的なダイヤパターンを紹介する前に、ダイヤパターンの基本概念について紹介しましょう。
多くの路線では鉄道ダイヤを作成する際に、基本的なパターンを形成しています。例えば、20分間隔で快速1本、各駅停車が2本が運転されている場合は、20分サイクルのパターンダイヤと呼びます。サイクルとは、列車の運転順序が1回りする時間を示します。例で示した路線の場合は、20分サイクルと呼びます。本記事ではこのような路線の場合、「20分サイクルで快速が1本、各駅停車が2本」というように呼ぶことにします。
多くの路線では、1サイクルを60の約数(何サイクルかすれば60分になる)としています。そうすると、毎時の発車時間が一定になります。
多くの路線では1サイクルに何本かの速達列車と各駅停車を混ぜています。(快速が各駅に停車する場合も含めて)各駅停車は平均10分に1本以上運転するようにしている路線が多いです。これは、どの駅でも10分程度待てば次の電車がやってくることを実現させるためです。
また、1サイクルの間に細かな繰り返しがあるパターンがあります。例えば、20分サイクルで快速2本、各駅停車2本が運転されていて、都心側は快速、各駅停車双方が10分間隔で運転されていて、郊外側で枝分かれするパターンです。この場合は厳密には20分サイクルですが、都心側のダイヤを論じる場合は10分サイクルと考えても差し支えはありません。このような、1サイクルの中で小さな繰り返しがある場合は疑似サイクルと呼ぶことにします。今回の例では、「疑似10分サイクルの中で快速1本、各駅停車1本が運転されている」と呼ぶという具合です。
ダイヤの実態は路線によって異なりますので、疑似サイクルの表記の方法については、適宜対応することにします。
横須賀線と湘南新宿ラインの停車駅
横須賀線の停車駅を紹介するうえで、東海道線や京浜東北線の停車駅にも触れたほうが親切でしょう。なお、大船-久里浜は普通だけの運転ですので、わかりやすいですね!また、湘南新宿ラインの大宮-新宿は全種別同じ停車駅です。
図1. 横須賀線の停車駅(京浜東北線と東海道線も含む)
横須賀線は東京-大船で東海道線のやや停車駅の多いバージョンとして機能しています。ただし、1980年の東海道線との分離運転の際に、東京-横浜(鶴見)で従来とは異なる大回りの経路となりました。また、総武線(快速)との直通の関係上、東京と新橋は地下ホームとなりました。
このように東海道線よりも速達性に劣ることになり、横須賀線の需要はそこまでありませんでした。逆にいうと、線路に余裕があることになります。その余裕を活かして、2001年に湘南新宿ラインの運転を開始しました。これにより、新宿と横浜が直通電車で結ばれるようになりました。
2010年以降の武蔵小杉の開発などもあり、横須賀線は再び混雑するようになりました(特に公式発表では)。その後の相鉄直通運転は横須賀線の減便は一切なしで設定されました。
ここで重要なことは横須賀線、湘南新宿ラインと埼京線-相鉄線は同じ線路を共用するということです。
横須賀線と湘南新宿ラインの朝ラッシュ時上りのダイヤパターン
写真2. 朝のライナーは東京は横須賀線ホームに着く
基本的にパターンはありません。とはいえ、それだけでは芸がありませんので、品川断面で7:50~8:50の間のダイヤパターンを解析します。
まず、内訳は以下の通りです。
- 横須賀線:9本
- 湘南新宿ライン:6本(普通3本+快速3本)
- 相鉄線-埼京線:4本
- 成田エクスプレス:1本
- 特急湘南:4本(東京行き2本+新宿行き2本)
各系統の本数こそそこまで多くありませんが、全てが合流する武蔵小杉からは毎時24本という過密ダイヤです。15両編成の各路線の中では特筆すべき本数の多さです。これを可能にしているのは、信号設備の改良もありますが、この区間を停車しない特急列車の存在もあります。一般に停車時間が少ないほど運転間隔を詰められますから、駅を通過するのは運転間隔を詰めるための究極の手段ということもできます。
以前は新宿に向かう列車は6本しかありませんでしたが、これが10本に増えています。埼京線-相鉄線直通の効果を疑問視する声もありますが、このような効果はあるのです。確かに、この4本の枠を湘南新宿ラインに明け渡すという手段は考えられるでしょう。しかし、湘南新宿ラインは停車時間の長い横浜を通ります。停車時間が長い横浜を通らないことが輸送力増強の裏テクニックがあるのです。
22年3月ダイヤ改正以前
基本的にパターンはありません。とはいえ、それだけでは芸がありませんので、品川断面で7:50~8:50の間のダイヤパターンを解析します。
まず、内訳は以下の通りです。
横須賀線:10本
湘南新宿ライン:6本(普通3本+快速3本)
相鉄線-埼京線:4本
成田エクスプレス:1本(13号がかろうじて該当)
ライナー:3本(東京行き2本と新宿行き1本)
かなりのキツキツダイヤです。武蔵小杉-西大井では毎時24本運転がなされています。同じ15両編成が前提の東海道線では毎時21本運転ですから、運転間隔の短さが理解されましょう。
武蔵小杉から新宿までは湘南新宿ラインだけではなく、埼京線直通も利用できます。2019年11月のダイヤ改正までは6本でしたが、それが10本まで増えました。また、西大井に限ると、3回だった乗車チャンスが7回まで増えています。これは大きな朗報でしょう。また、武蔵小杉発8:09と8:36に関しては、直前の電車が横須賀線です。つまり、横浜から新宿への乗車チャンス増加に役立っています。これは相鉄直通の隠れた効果です(※)。
※相鉄直通開始で既存の一般列車(横須賀線、湘南新宿ライン)は一切減っていません。
朝ラッシュ時のダイヤ改訂案
毎時24本運転というのはとても工夫されている証拠と思います。しかし、毎時24本運転をしているのが武蔵小杉-蛇窪だけであり、この間にある駅が武蔵小杉と西大井だけなことを考えると、何とかならないかと考えてしまいます。武蔵小杉がボトルネックですので、ここだけ信号機の間隔を詰めるなどの工夫をすれば良いのです。
以前は湘南新宿ラインの増発を必要と考えていましたが、考えてみれば新宿へのアクセスは毎時4本も増強されました。この系統の新設によって、従来横浜から湘南新宿ラインに乗っていた人もこの系統に移行することでしょう。そうであれば、「カタログスペック上」日本で有数の混雑の横須賀線の混雑緩和に取り組むのが筋です。
横須賀線と湘南新宿ラインの日中時間帯のダイヤパターン
写真3. 相鉄線直通電車が新宿に停車中
日中時間帯は60分サイクルのパターンダイヤです。1サイクルあたりの内訳は以下の通りです。
横須賀線:4本
※ほぼ15分間隔ですが、完全な15分間隔ではありません
湘南新宿ライン:4本(特別快速1本、快速1本、普通2本)
※特別快速1本と快速1本はほぼ30分間隔、普通2本は30分間隔
相鉄線-埼京線直通:2本
※おおむね30分間隔
成田エクスプレス:1本
疑似30分サイクルといっても支障ありません。そこで、以下の記述は疑似30分サイクルベースとして記します。
ダイヤの基準は湘南新宿ラインの新宿発でしょう。新宿発毎時00分、15分、30分、45分に統一されており、毎時00分(特別快速)と30分(快速)は快速系統に、15分と45分は普通となっています。この間を縫うように、横須賀線の普通が東京発毎時08分、23分、38分、53分前後に発車します。直通先の総武線(快速)の兼ね合いからきれいな15分間隔にはできません。
上りは湘南新宿ラインの横浜発がおおむね15分間隔になるように工夫されています。その影響で横須賀線の普通が12分と18分の交互になってしまっています。
相鉄直通電車の新宿発は毎時02分と32分であり、新宿から横浜への乗車チャンス増加にはあまり寄与していません(2分前に直通の速達列車が発車するため)。ただし、西大井への乗車チャンスは増加しています。
横須賀線と湘南新宿ラインの多くは逗子発着です。久里浜まで行くのは毎時1本しかありません。この他に逗子-久里浜の区間運転を毎時2本運転し、同区間は20分間隔となっています。ただし、逗子での接続はあまり良くありません。
日中時間時のダイヤ改訂案
横須賀線は20分間隔に減らしても良いくらい空いていますが、それを行う前に、まずは15両編成から11両編成への変更でしょう。付属4両の利用率は相当低く、なくても良いくらいだからです。また、湘南新宿ラインの1号車~3号車の利用も少なく、これらの車両もなくて良いくらいです。
これらの事実を考えると、横須賀線は11両編成で現在の本数を確保、湘南新宿ラインは10両編成で毎時6本を確保というのが現在考えられる理想像というものです。湘南新宿ラインは30分間隔で快速(東海道線内も快速)を運転、普通を毎時4本として、逗子まで運転する普通は毎時2本、残りの2本は大船発着で良いでしょう。
横須賀線もきちんとした15分間隔で運転して、逗子から久里浜までの区間運転も毎時4本で運転すれば、接続も一定にできてわかりやすくなります。こうすれば、京急への流出も防げます。
相鉄直通は30分間隔から増やす理由はありません。可能であれば、混雑する湘南新宿ラインの直前に走らせて、なおかつ新宿以北に直通すれば良いでしょう。ただし、羽沢横浜国大の乗車チャンスを確保する意味で、西谷まで15分間隔で走らせる意味はあるかもしれません。
横須賀線と湘南新宿ラインの夕方のダイヤパターン
写真4. 夕方の東海道線直通は快速だけ
この時間帯もこれといったパターンはありません。18時台の本数の内訳は以下の通りです。
・横須賀線:7本、18時台はすべて総武線(快速)からの直通
・湘南新宿ライン:4本、快速2本と普通2本
・相鉄線直通:3本、全て新宿始発
実際に混雑を眺めたことがありますが、横須賀線は湘南新宿ラインよりも空いていることが印象に残りました。湘南新宿ラインは最速達ルートとなりますが、横須賀線はそうでないことが強い要因でしょう。
夕方ラッシュ時のダイヤ改訂案
特急湘南やら成田エクスプレスやらが割り込んできて、なかなかダイヤ作成がやりづらいことはありますが、半分は自業自得という結果のような気がします。諸悪の根源はサイクルを統一していないことです。例えば、関係各線ともに15分サイクルに統一したらどうでしょうか。
15分サイクルに統一し、横須賀線2本、湘南新宿ライン1本、相鉄線1本、特急湘南1本とするのです。ただし、成田エクスプレスは毎時1本でじゅうぶんで、特急湘南も毎時1本しか通りません。その余った枠で湘南新宿ラインを運転するのです。つまり、横須賀線は毎時1本の増発、湘南新宿ラインは毎時2本の増発となります。湘南新宿ラインの補佐となる相鉄線直通も毎時4本と使いやすくなります。これで、湘南新宿ラインの混雑は大幅に緩和することでしょう。
現在20分サイクルの埼京線との相性を心配する声もありましょう。それは埼京線も15分サイクルに変更すれば良いだけです。
ここまでダイヤが過密になると、新宿スルー運転を基本とするしかありません。ただし、着席サービス確保のためにいくらかは新宿始発を残す流れとなりましょう。
横須賀線と湘南新宿ラインのダイヤパターンまとめ
写真5. 渋谷のホームが移設されてさらに便利になった
横須賀線は1980年の東海道線との分離運転後、ずっとメインルートではありませんでした。メインルートではないということは、余力があるということでした。その余力を活かして、湘南新宿ラインや相鉄線直通という新サービスが実現しました。その新サービスのサービスレヴェルには要望もありますが、そのような新サービスが設備投資をほとんどすることなく実現したことは称賛に値します。
横須賀線という路線はそこまで目立つ華のあるものではないでしょう。それでも、「湘南新宿ライン」のように目立つものの背後には必ず横須賀線の存在があります。このように、地味ながらも重要な役割を担っていくのが横須賀線という存在なのでしょう。