2020年3月ダイヤ改正での常磐線の変化を探る

記事上部注釈
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悲願の全線復旧と特急の仙台直通を再開する常磐線。その常磐線のダイヤについて詳しく見てみました。首都圏での意外な変化も見逃していません。

常磐線E531系(我孫子)

写真1. 今回は中距離電車の一部がスピードアップされる(我孫子で2018年に撮影)

仙台直通の運転再開

今回のダイヤ改正の1番の目玉は富岡-浪江復旧と、それに伴う仙台直通の特急列車が運転再開です。当初の計画では、いわき-仙台はシャトル運転の特急列車を運転し、特急列車はいわきで分断することになっていました(東日本大震災前の計画なので、当然、富岡-浪江の長期間運休は視野に入れていません)。しかし、現実はいわきで特急列車を分断することをせずに、仙台直通とされました。

いわき以北の特急の利便性

では、特急列車の利便性はどうなのでしょうか。東日本大震災前のダイヤと比較しましょう(表1、表2)。

表1. 2020.3ダイヤ改正(常磐線、いわき→仙台)

2020.3ダイヤ改正(常磐線、いわき→仙台)

東日本大震災の直前の時刻表が手元にありませんでしたので、08年3月ダイヤ改正号で代用いたしました。とはいっても、そう変わらないでしょう。いわき→仙台は4本の特急があり、原ノ町までは2往復が加わる形でした。

それがいわき→仙台の特急が1本減便され、原ノ町発着の特急は廃止されました。いわき→原ノ町では3本減便、原ノ町→仙台は1本減便です。普通が設定されている時間帯はその時刻を書きましたが、上野発19:00に特急いわき行きに接続する普通の設定はなく、他も所要時間が増えるという問題があります。社会現象により、沿線住民が減ってしまったとはいえ、不便になった感触は否定できません。

せめて原ノ町8:00ごろ→仙台9:00ごろの特急の設定はできなかったのでしょうか。

表2. 2020.3ダイヤ改正(常磐線、仙台→いわき)

2020.3ダイヤ改正(常磐線、仙台→いわき)

上りについても下りと同様の状況です。こちらも仙台19:00ごろ→原ノ町20:00の特急の設定はできなかったのでしょうか。

いずれにせよ、スピードダウンは否定できません。とはいえ、今回は「常磐線が復旧し、特急が運転再開した」ことそのものが重要です。まだダイヤの良しあしについて議論する段階ではないのかもしれません。

普通列車の利便性

1日3往復の特急列車の利便性を声高に叫んだところで、しょせんは1日3往復に過ぎません。では、普通列車の利便性はどうなのでしょうか。区間ごとの本数をまとめした(表3)。

表3. 2020.3ダイヤ改正(常磐線、仙台-いわき、本数)

2020.3ダイヤ改正(常磐線、仙台-いわき、本数)

※2020年ダイヤでは富岡折返ではなく、広野折返です。そのため、2020年の「いわき-富岡」は「いわき-広野」と読みかえてください。

仙台よりの本数はそこまで変わっていません。東日本大震災前後で利便性がそこまで変化していないことは特筆するべき点です。ただし、特急の減便ぶんは不便になってしまっています。

いわき-広野の本数はそこまで減少していません。一方、広野-原ノ町の本数は減っています。これは、沿線住民が減っているためです。余談ですが、原ノ町より南は客が少ないにも関わらず、5両編成で運転されており、原ノ町より北は客が多いにも関わらず、2両編成や4両編成が主体というアンバランスな光景を見ることができます。原ノ町より南が水戸支社もちの5両編成の電車を使用、原ノ町より北は仙台支社もとの2両編成の電車を使用しているためです。

水戸支社だの仙台支社だのという区分はJR側の都合です。いわき以北は短編成・高頻度政策のほうが良さそうにも思えます。そして、客の少ない時間帯はワンマン運転として、人件費を節約しつつサービス水準を確保というのが良いでしょう。

E657系とすれ違う

写真2. この特急が仙台まで直通することになる

上野よりの区間の本数の推移

では、上野よりの区間の本数の推移はどうなのでしょうか。特急列車については仙台直通になったこと以外は大きな変化はありません。さて、中距離電車や快速の本数はどうでしょうか。本来であれば、1本1本吟味して比較するのが筋でしょうが、私にはそこまでの情熱はありません。そこで、下りと上りの発車時刻表から考察しましょう。

下りの本数を比較する

下りの本数を比較しましょう。2019年3月ダイヤ改正後(=2020年3月ダイヤ改正前)をダイヤ改正前に、2020年3月ダイヤ改正後の時刻をダイヤ改正後の行にそれぞれ記しています。

表4. 2020.3ダイヤ改正(常磐線、上野発車時刻表)

2020.3ダイヤ改正(常磐線、上野発車時刻表)

上野の発車時刻を示しました。大きくは変化していません。変化点は以下の通りです。

・10:22発快速取手行きが快速松戸行きに変更(松戸-取手間減便)
 ※10:16発の中距離電車を10:20発に変更(松戸-取手の運転間隔調整のため)

・10:38発快速松戸行きを減便
 ※10:43発快速成田行きを10:38発にシフト

・16:14発、16:54発の快速を減便
 ※我孫子-取手での減便しないようにするために17:02発を成田行きから取手行きに振り替え
 ※16:39発と16:46発を16:42発と16:48発に変更して、16:46~17:02の14分のダイヤホールは回避

・19:43発快速取手行きを減便

では、この4点について周辺の列車の変更点を探りましょう。

朝の下りについて

上野10:22発快速取手行きが快速松戸行きに変更されています。この前後の列車の運転時刻の変化を見てみましょう。

(ダイヤ改正前の組み合わせ)
・上野10:04→取手10:49
・上野10:16→土浦11:25(勝田行き)

(ダイヤ改正後の組み合わせ)
・上野10:04→取手10:49
・上野10:20→土浦11:26(勝田行き、高浜から運転時刻は同じ)

ダイヤ改正前後で減便対象の1本前の快速電車の運転時刻は変わりません。一方、直後の勝田行きの運転時刻は変更されています。具体的には上野を4分繰り下げていて、土浦では1分の繰り下げとなっています。ダイヤ改正前は取手で特急の待ち合わせをしていましたが、ダイヤ改正後は我孫子に変更されています。上野-土浦ではスピードアップとなっていますので、そこまで悪いダイヤ改正ではありません。ただし、上野断面で10:20~10:33で13分のダイヤホールが発生している点は気になります。

10時台はもう1本減便されています。10:38発松戸行きが減便されています。この影響で10:32発の土浦行きが10:33に繰り下がり、少しでも影響を小さくしようと努力しています。この土浦行きは北千住まで1分スピードアップしています。

では、後続の成田行きはどうでしょうか。ダイヤ改正の前後で時刻を比較しましょう。

(ダイヤ改正前)上野10:43→我孫子11:16→成田11:58
(ダイヤ改正後)上野10:38→我孫子11:16→成田11:58

運転間隔の調整といっても、成田線内での時刻は変わりません。そのずれは我孫子での時刻調整という形で現れます。中途半端に上野の発車時刻を早めたせいで、10:38~10:52まで14分のダイヤホールが生じています。減便が仕方ないにしても、時刻調整は必要なかったように思えます。

ここまで朝の下りについて取り上げました。減便は仕方ないにしても、大きなダイヤホールが生じないように工夫することもせずに、単純な減便と前後の時刻調整にとどまっています。上の時刻表ではわかりにくいですが、朝の下りにダイヤホールが生じています。具体的には、上野発8:45~9:13の28分のダイヤホールです。取手までは本数は確保されていますが、取手より先に行く場合は上野で28分も待たされます。

これは品川行きが下りとして折り返していないためです。品川行きの折り返しは東海道線の上りに割り込む形となり難しいでしょうが、ラッシュピーク外れに中距離電車を増発することで手当ては可能でしょう。

日中時間帯の変化

日中時間帯は変化なしです。これはいたずらに減便するとかなり不便になるためです。ただし、現状でも上りで13分待ちなどがあり、とてもじゅうぶんとはいえません。現在の常磐線は(特急と各駅停車を除くと)毎時7本運転されていて、そのうち毎時4本が15両編成、毎時3本が10両編成(であることが多い)です。そして、15両編成の11号車~15号車はかなり空いています。そうであれば、15両編成の毎時4本を10両編成の毎時6本に振り替え、毎時9本運転のほうが利用しやすいです。

特別快速を毎時1本(取手-土浦を牛久のみ停車に変更)、中距離電車を毎時4本、快速電車を毎時4本とするのです。これであれば、特急や特別快速の待避があれど、上野-我孫子はどこでも10分以内に来ることになり、相当便利になります。人件費の節約が必要であれば、きびきび走り1分でもスピードアップして労働時間を短縮することも手です。

夕方の変化

16時台と19時台で減便がなされています。16:14発快速成田行きが減便されています。そのフォローのために前後の列車の運転時刻をずらしています。

(ダイヤ改正前)
上野16:08→土浦17:19(勝田行き)
上野16:23→取手17:07

(ダイヤ改正後)
上野16:12→土浦17:19(勝田行き)
上野16:23→取手17:07

16:14発が減便されると、16:08~16:23まで15分のダイヤホールが生じることになりますが、16:08発を16:12発に4分後ろにシフトすることで、運転間隔を11分に留めています。また、16:12発は取手まで38分で走破するなど、E531系の俊足ぶりを発揮しています。取手からの運転時刻は変更ありません。つまり、上野から取手以遠に向かう人は4分のスピードアップになっています。これはこれで評価されるべきことです。

16時台はもう1本減便されています。16:54発の減便です。この減便は大きく響くのか、前の電車の時刻が大きく動いています。

(ダイヤ改正前)
・上野16:39→取手17:20
・上野16:46→土浦17:54(高萩行き)

(ダイヤ改正後)
・上野16:42→取手17:22
・上野16:48→土浦17:59(高萩行き)

減便対象の2本前は取手まで1分スピードアップしています。これはこれで良いでしょう。しかし、減便対象1本前は土浦まで3分のスピードダウンしているのは残念です。土浦の発車時刻は18:01でダイヤ改正前後で変化ありません。15両編成の電車を土浦で切り離すのに2分で済むわけありません。どう対処するのでしょうか。そう、この高萩行きは10両編成ですね!

中距離電車の運転時刻を改変したとはいえ、16:48~17:02の14分間のダイヤホールは困ったものです。夕方ラッシュ時が始まるときに減便を行い、14分も間隔を空けるのは暴挙といえます。

16時台と17時台の中距離電車は毎時3本しかありません。そうであれば、せめて16時台と17時台に中距離電車を増発して、そのぶん快速電車を間引く(取手までは増減なし、取手から増発)のが筋でしょう。あるいは、先ほど提案した日中時間帯のダイヤを引き継ぐのも手です(16時台であれば10両編成でも輸送力は減少しません)。

夜間の減便

19時台でも減便が見られます。具体的には、19:43発快速取手行きが減便されています。2017年10月ダイヤ改正まで、19時台は快速電車と中距離電車合わせて10本しかありませんでした。2017年10月ダイヤ改正で11本に増えました(かわりに20時台の減便あり)が、今回元に戻ってしまった格好です。

取手まで行くとガラガラで採算性が悪いのは理解できますが、多くの利用客が使う柏までをカバーする意味で我孫子行きとして存続、あるいはもう少し採算性を考えて松戸行きとして存続できなかったのでしょうか。

常磐線18:26ごろの様子(発車7分前)

写真3. さすがに品川では空いている

上りの本数を確認する

上りの本数を確認しましょう。多くの快速電車が停車し、特別快速も停車する松戸を基準として示しました。特急待避があれど、柏や北千住も似たような間隔です。

表5. 2020.3ダイヤ改正(常磐線、松戸発車時刻表)

2020.3ダイヤ改正(常磐線、松戸発車時刻表)

9時台に1本、19時台に1本減便されています。19時台の減便については上りと帳尻を合わせるためという意味であり、夜間の上りの利用者はそこまで多くないので、このことじたいは問題ありません(夜間の下りが問題あるかどうかはまた別の話です)。ただし、(今回のダイヤ改正の変更点とは関係ありませんが)15:48~16:04の16分待ちとは利用者軽視といわれても仕方ありません。16:04の次は16:09と5分続行なので、余計にその思いを強くします。

JR東日本は私鉄よりも等間隔で運転するという気持ちがありません。10:00~17:00は毎時9本ダイヤ(現在よりも2本増発)、10両編成運転、パターンダイヤ化とするほうが利用者としては利用しやすいです。

問題は9時台の減便です。松戸発9:39の快速が減便されています。いくらこの時間帯の利用はラッシュ時よりもゆるく、ラッシュ時の常磐線は比較的空いているという背景があってもです。この時間帯で座れるからラッシュ時を回避している利用者がラッシュ時に戻ってくるというリスクもあります。

この減便を単純に行うと、9:31~9:45と14分のダイヤホールが開いてしまいます。これを回避するために9:34、9:41、9:51と時刻をスライドさせています。基本的に10分間隔にしつつ、混雑する中距離電車の前は7分間隔として、中距離電車と快速電車の利用の平準化も狙っていることも読み取れます。

運転間隔の平準化の副産物として中距離電車の大幅なスピードアップが実現しています。

(ダイヤ改正前)水戸8:13→土浦8:58→取手9:25→松戸9:45→上野10:08
(ダイヤ改正後)水戸8:13→土浦8:57→取手9:22→松戸9:41→上野10:00

これはこれで「混んでいる電車から早く解放される」という意味でプラスです。ダイヤ改正前後で10両編成と変わりませんので、取手より東京よりの利用者は避けたほうが無難ですね。

また、快速電車もわずかにスピードアップしています。

(ダイヤ改正前)成田8:51→松戸9:55→上野10:15
(ダイヤ改正後)成田8:51→松戸9:51→上野10:11

これは我孫子での時刻調整がなくなったためです。常磐線内の利用者にはそうメリットはありませんが、成田線から常磐線への利用が便利になることは悪い話ではありません。

ラッシュ後の減便は絶対的な悪ですが、その周辺の列車のスピードダウンはなく、「減便のかわりにスピードアップが実現した」という内容になっています。減便した挙句、スピードダウンという最悪の事態にはならずにとりあえず安心しました。

2020年のダイヤ改正のまとめ

常磐線の全線復旧がなされた2020年3月ダイヤ改正。これはこれで喜ばしいことですが、東日本大震災の前よりもスピードダウン、本数削減が見られるものです。それでも、現段階では「常磐線が復旧し、特急も運転再開した」という事実そのものが重要です。また、ダイヤの良しあしを論じる段階ではないかもしれません。

一方、上野方面では朝ラッシュ後、夕方ラッシュ前、そして夜間で快速電車の減便という見逃せない事態が発生しました。この減便に伴うフォローとして中距離電車の時刻変更という対処がなされています。当該の中距離電車はおおむねスピードアップしていますが、スピードダウンしている例も見られます。

常磐線は長い編成の電車が少ない本数で走り、車両による混雑の違いが常態化しています。それであれば、短い編成の電車を多い本数で走らせるほうが利用者としては使い勝手が良いです(ラッシュ時は増結)。もしも、人件費増加が問題になるのであれば、流して走られせずに若干でもスピードアップして、労働時間を削減することが重要です。

常磐線は首都圏でも重要な路線です。つくばエクスプレスの開業で混雑が緩和しました。それであれば、混雑を緩和して快適性を向上させるのが本来です。現実は本数を減らして混雑を維持する方向にもっていこうとしています。混雑は鉄道嫌いを発生させる原因の1つです。どうにか方向性を誤らないように心がけてほしいものです。

常磐線のダイヤパターンの紹介

今回は特定の箇所に焦点を当てた「狭くて深い」内容でお伝えしました。では、常磐線のダイヤパターンを解説した記事はないのでしょうか。そのような声を踏まえ、以下の記事を執筆いたしました。

常磐線(ダイヤパターン紹介)

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