関東の私鉄の中で高速運転の部類に入る京急の快特。実際にはカーブが多く、最高速度で運転される区間は多くありませんが、スピード感はすごいものがあります。休日の上り快特でその真髄を体験してみました。
復習:京急の快特の紹介
まず、京急の快特について簡単に紹介します。
図1. 京急の路線図(wikipediaより引用)
京急の路線図を示しました(図1)。快特は特急よりも停車駅が少ない種別です。とはいっても、品川-横浜の間は2駅停車し、川崎しかとまらないJR東海道線よりも停車駅は多いです。京急の場合、駅そのものが多く、特急であっても、JR京浜東北線よりも2駅停車駅が少ないだけです。
日中時間帯は羽田空港系統、三崎口系統がそれぞれおおむね10分間隔で運転されます。具体的に並べると以下の通りです。
・泉岳寺-三崎口:20分間隔
・都営浅草線-三崎口:20分間隔
※泉岳寺発着と合わせて10分間隔
・都営浅草線-羽田空港(都営浅草線内エアポート快特):40分間隔
・都営浅草線-羽田空港(都営浅草線内各駅停車):20分間隔
よく数えると、泉岳寺-三崎口は10分に1本に運転され、都営浅草線-羽田空港は40分に3本運転され、20分のダイヤホールがあるように見えます。しかし、そのダイヤホールにはエアポート快特(都営浅草線内エアポート快特、京成線内アクセス特急)が運転され、結果として羽田空港に発着する快特系統が10分間隔で運転されることになります。エアポート快特と快特の違いは、快特は京急蒲田に停車し、エアポート快特は京急蒲田を通過することです。
朝ラッシュ時は、京急久里浜-品川を10分間隔(金沢文庫まで特急、一部始発が異なるものもあり)、夕方ラッシュ時は品川-京急久里浜を10分間隔で運転されています。日中時間帯や休日は8両編成が基本ですが、平日の朝夕は品川-金沢文庫で12両編成で運転されます。12両編成というのは私鉄で最も長い編成です。
昔は日中時間帯にも12両編成で運転されていましたが、品川や京急川崎での連結というのがオペレーション上無理があったのか、現在は日中時間帯は増結なしの8両編成です。
最高速度は品川-横浜で120km/hです。これは、大手民鉄の範囲でいうと、特別料金の不要な列車では最も速いです。特別料金が不要な国内の列車という観点で見ても、かなり速い部類に入ります(これより速いのは新快速、快速マリンライナー、常磐線中距離電車、つくばエクスプレスしかありません)。ただし、横浜より南側はカーブが多いため、最高速度は110km/hでしかありません。
車両は2100形(写真2)とそれ以外(一例が写真3)が使われます。2100形は2ドア転換クロスシート車(ただし、乗客の自由意志で座席の向きは変えられない)です。そのほかの車両は(車両の端部がロングシートかボックスシートかという違いはあるが)3ドアロングシート車です。
写真2. 2ドア車による快特(品川で撮影)
写真3. 3ドアロングシート(600形)による12両編成の快特
2100形による快特は基本的に日中時間帯の泉岳寺発着に使用されます(平日朝ラッシュ時はラッシュ時ピークを外した快特、夕方ラッシュ時は京急ウィング号に使用)。都営地下鉄線に直通する運用はありません。そのため、2ドアクロスシート車による快特に乗りたければ、泉岳寺発着便を狙いましょう!
実際の運用時刻については京急が公開しています。(品川駅下り2100形(2ドア)運行時刻表)
京急快特の車窓を堪能する
写真4. 京急久里浜に快特がやってきた
さて、実際に京急快特の車窓を堪能しましょう!今回は京急久里浜から品川の乗車です。
ステージ1:京急久里浜→横浜の車窓(丘陵地帯)
快特が京急久里浜を発車しました。
写真5. 北久里浜に停車!
このあたりは横須賀線とほぼ並走しています。そして、次の停車駅の北久里浜に停車です(写真5)。駅舎とホームが同一平面にあり、乗り降りはしやすそうですね!
写真6. 久里浜工場がある
京急の久里浜工場が見えます(写真6)。日中時間帯こそ2100形を最大限動員して、クロスシートサービスを最大限提供するのが良いのに、車庫に眠っているのはもったいなく見えます(車両のメンテナンスなどの事情もありましょう)。
写真7. 新大津に停車!
滋賀県にありそうな駅名ですが、れっきとした神奈川県の駅です(写真7)。近くには京急大津という駅もあります。けっこう高低差があることがわかります。駅周辺の人が駅にやってくるのは大変そうです。
写真8. 堀ノ内手前でカーブする
堀ノ内手前でカーブし(写真8)、本線に合流します。そう、ここまでは京急本線ではなく、久里浜線だったのです!
写真9. 堀ノ内に停車中
堀ノ内に停車中です(写真9)。快特といえどもここまでは各駅に停車します。1998年まで快特は京急久里浜と横須賀中央の間はノンストップでしたが、特急から快特への変更と同時に(それまでは現在の快特の半数は特急でした)、停車駅が増えました。堀ノ内からは通過駅があります。
写真10. 丘陵地帯を行く
堀ノ内からは通過駅がありますが、そこまで速度は出ません。丘陵地帯を走り、カーブも多いためです(写真10)。
写真11. 横須賀中央に停車!
横須賀中央にとまります(写真11)。横須賀市の中心部にある駅で、全種別がとまりますが、1面2線で運転上はターミナル感はありません。
写真12. 横須賀中央に停車中
横須賀中央に停車中です(写真12)。ホームの階段が後ろよりにあるためか、先頭よりで待つ人は多くありません(私は前から2両目に乗りました)。
写真13. 山中を走る
山中を走るような光景です(写真13)。ただし、線路の反対側は横須賀市の市街地が広がります。
写真14. 逸見を通過!
逸見を通過します(写真14)。逸見は「へみ」と読みます。ここでは普通が速達列車を待避できます。ただし、日中の普通は堀ノ内から金沢文庫まで逃げ切れますので、日中の待ち合わせはありません。列車本数の多くなるラッシュ時に有効活用されています。
写真15. 山中を走る
山の中を走っているような光景です(写真15)。このあたりの駅には快特はとまらないものの、普通が10分間隔で運転されていて、利便性は高いです。
写真16. 住宅もある
住宅も多くあります(写真16)。このあたりは横須賀市に位置しており、山と海が近く、坂に住宅が並ぶという独特の風景が展開します。
写真17. 学校が見える
学校が見えます(写真17)。地図を見ると、横浜市立の小学校です。そう、横須賀市から横浜市に入ったのです。横須賀市と横浜市は接しています。このあたりは横浜市の金沢区です。
写真18. 逗子線が合流する
左手から逗子線が合流してきました(写真18)。日中時間帯はこの路線はエアポート急行が10分間隔で運転されます。
写真19. 金沢八景に停車!
金沢八景に停車します(写真19)。ここでも乗客が乗ってきました。
写真20. 複々線を走る
金沢八景と金沢文庫の間は複々線です(写真20)。ほかの路線の複々線とは異なり、ほかの区間をスムーズに運転するための設備という感じがあります。
写真21. 京急の車庫が見える
京急の車庫が見えます(写真21)。ステンレス車両なので、1000形とわかります。ただし、京急1000形にはさまざまな形態があり、私はその生態は完全には把握しきれていません。
写真22. 金沢文庫に停車!
金沢文庫に停車します(写真22)。ここは運転上の拠点となる駅で、朝は前4両(特急)か後ろ4両(快特)を増結します。ただし、私が乗っている休日の快特は8両編成のままで増結はなしです。
ここでホームの反対側に普通が停車しています。新1000形は当初のアルミ車体、(現在)主力のローコストタイプ(15次車まで※)、ステンレス車体かつ意匠性にこだわったタイプがあります。停車中の普通は18次車です。
※15次車は外装に赤色と白色のカラーフィルムが貼られていますが、クロスシートが設置されていないことや、客用ドアに化粧板が省略されているので、本記事では「ローコストタイプ」と定義いたしました。
写真23. 団地が並ぶ
団地が並ぶ光景です(写真23)。金沢八景以北では列車本数が増えていますが、それも納得できる風景です。
写真24. 京急富岡を通過!
京急富岡を通過します(写真24)。ここでは普通が速達列車を待ち合わせできる構造になっています。ただし、日中時間帯は基本的に使われません。
写真25. 根岸線をくぐる
根岸線をくぐります(写真25)。この交点に駅はありませんが、京急の杉田とJRの新杉田は徒歩15分強で連絡できます(図1)。
図1. 京急とJRの両駅の経路(googleマップより引用)
写真26. 住宅が多い
このあたりは日本一人口の多い政令指定都市(※)の横浜市であり、住宅も多いです(写真26)。
※東京23区は政令指定都市ではないため、横浜市が最も人口の多い都市という扱いです。
写真27. 丘陵地帯に住宅が並ぶ
丘陵地帯に住宅が並びます(写真27)。これは東海道線や相鉄線でも見られる「横浜の本質」ともいえる光景です。
写真28. まもなく上大岡に停車
上大岡の手前で速度が落ちましたが、駅近くになると加速しました(写真28)。前のエアポート急行が待避線に入ったためでしょう。
写真29. 上大岡に停車!
上大岡に停車します(写真29)。ホームの向かいにエアポート急行がとまっていました。このエアポート急行は都営車による運転です。京急で完結し、なおかつ都営線の駅にも入らない列車に都営車が使われることは意外と感じました。
写真30. 住宅街を走る
上大岡を発車しました。上大岡から横浜は京急でも乗客の多い区間であり、それを裏付けるように住宅も並びます(写真30)。
写真31. 住宅が広がる
都市的な光景が広がります(写真31)。
写真32. 南太田を通過
このあたりも山がちの地形でトンネルも多いです。その合間で駅を通過します。ここは南太田で、普通が待避しています(写真32)。普通はこの直後のエアポート急行も待ちます。そうすると、南太田より南の駅と横浜の行き来が不便なように思えますが、当該の駅(井土ヶ谷と弘明寺)はエアポート急行が停車しますので、最低限の「配慮」はなされています。
写真33. 都心ともいえる光景
都心ともいえる光景が広がってきました(写真33)。黄金町や日ノ出町は横浜でも人を集める地域の1つとされています。
写真34. 市街地を走る
横浜駅周辺や桜木町付近とは毛色の異なる市街地を走ります(写真34)。
写真35. 横浜が近づいてきた
横浜が近づいてきました。このあたりはカーブが多く、快特といえども速度は出ません(写真35)。
写真36. まもなく横浜
根岸線をくぐると横浜です(写真36)。高島屋が見えます。その向こうには相鉄ジョイナスもあります。
写真37. 横浜に停車!
横浜に停車します(写真37)。巨大ターミナル横浜の1番線の名誉は京急が獲得しています(JRは3番線スタートです)。
写真38. 横浜に停車中
横浜に停車中です。横浜は大きなターミナル駅ということもあり、乗客の多くが入れ替わります。
ステージ2:横浜→品川の車窓(JRとの競合区間)
横浜までは丘陵地帯を走ることもあり、そこまで速度は出しませんでした。しかし、横浜から品川までは高速運転が持ち味の区間に入ります。
写真39. 横浜を発車!
横浜を発車しました(写真39)。ぐんぐん速度を上げていきます。最高速度も10km/h上がり、120km/h運転が可能です。
写真40. 神奈川を通過した
神奈川を通過すると、JRの線路から離れます(写真40)。若干速度を落としました。前を走る普通に追いつきつつあるのでしょう。
写真41. JRの線路に近づく
子安付近になると再びJRの線路に近づきます(写真41)。
写真42. 京浜東北線の電車を追い抜く
京浜東北線の電車を追い抜きました(写真42)。JR側と京急側は別に追い抜くことを申し合わせていませんが、利用者としては追い抜く光景は心が躍るものがあります。
写真43. JRの線路と並走する
JRの線路と並走します(写真43)。このあたりは貨物線も多く、全容を把握するのは難しいです。ただし、京急側はすっきりとした複線であり、そのような意味では単純明快です。
写真44. 京急鶴見付近
京急鶴見付近では、鶴見線の高架が見られます(写真44)。
写真45. 鶴見川を渡る
京急鶴見付近からJR線から離れます。そして、鶴見川を渡ります(写真45)。
写真46. 京急川崎が近づいてきた
京急川崎が近づいてきました(写真46)。
写真47. JR川崎駅の横を通過!
京急川崎駅はJR川崎駅よりもやや北側にあります。そのため、JRの駅横を通過します。
写真48. 京急川崎に停車
京急川崎に停車します(写真48)。川崎地区では京急はJRより存在感は薄そうですが、利用は多いです。乗り降りも多く認められました。川崎そのものが大きな都市なためでしょう。
写真49. 東海道線が見える
東海道線の電車が見えます(写真49)。あちらも10分間隔で運転されていて、それなりに乗っています。京急快特も10分間隔で利用が多く、東京と横浜の間の移動需要が大きいことがわかります。
写真50. 多摩川を渡る
多摩川を渡ります(写真50)。多摩川を渡ると、神奈川県から東京都に入ります。
写真51. 京急蒲田付近は二重高架
京急蒲田付近は二重高架です。上り線はそこまで高さは高くないものの、高架線から眺める景色も良いものです(写真51)。もちろん高架にするのは踏切の解消であり、そのような意味でも京急線の高架化は効果があったと聞いています。
写真52. 京急蒲田付近は二重高架
このような景色が続きます(写真52)。
写真53. 平和島付近の風景
平和島付近の様子です(写真53)。京急蒲田を出発してすぐに120km/hくらいの速度を出します。京急蒲田の次は品川です。途中の駅に特急停車駅はありますが、日中時間帯は特急の運転はありません。
写真54. 京浜国道を渡る
国道15号線をまたぎます(写真54)。
写真55. 鮫洲付近のカーブを走る
鮫洲付近のカーブを走ります(写真55)。このあたりは65km/h程度しか出せません。京急蒲田と品川の間では鮫洲で普通を追い抜きます。
写真56. 北品川付近を走行中
新馬場を過ぎると、もう速度は出ません(写真56)。北品川を通過すると、かなり急なカーブがあるためです。北品川では久々の地平を走ります。
写真57. 八ツ山橋を渡る
八ツ山橋を渡ります(写真57)。ここの速度制限はきつく、25km/hしか出せません。線路を改良して60km/hくらいまで速度制限を緩和できれば、京急の競争力は大いに向上するでしょう。京急の品川駅改良工事でここの線形がどのように変わるのかはわかりませんが、それなりの改良を期待したいです。
写真58. まもなく品川
京急のスピードアップの努力はすごいものがあります。品川手前で再度加速し、駅に停車します(写真58)。
写真59. 品川に到着
品川に到着しました(写真59)。昔はこの快特は品川発着でしたが、現在は1駅延長し、泉岳寺発着です。泉岳寺で西馬込発着の都営浅草線に連絡し、日本橋・浅草方面にも移動できます。その最後の1駅を歩もうとしています。
京急快特に乗ってみて
京急の快特は10分間隔での運転、朝夕の12両編成、制限された条件での速度向上など、限られたインフラの中で最大限のサービスを提供しようという気概が見られます。また、日中時間帯は半数の快特が2100形での運用がなされており、クロスシートサービスも実現しています。
とはいえ、課題がないわけではありません。私が乗った休日の快特は京急久里浜から品川まで53分という速達性が実現されています。一方、朝ラッシュ時上りは75分程度、夕方ラッシュ時下りは65分程度と所要時間がかかっています。京急は比較的混雑が激しくない路線ですので、朝ラッシュ時でも夕方ラッシュ時並みの本数・所要時間にしても輸送は確保されそう(朝の特急の12両運転は継続が前提ですが)と思います。
また、2ドアの車両によるクロスシートサービスは快適なのは事実ですが、主要駅での乗り降りに時間がかかるという問題もあります。とはいえ、3ドアロングシート車による置き換えは得策ではありません。現実には車端部のボックスシートをロングシートに置き換えて、短距離利用の人をそちらに誘導するとともに、座席の選択肢を増やすのが手でしょう。
座席数の減少という観点から、L&C車による置き換えは望ましくありません。2100形の着席定員は54名(中間車)ですが、L&C車の場合は最大でも44名(扉間6席、車端部5席と計算)と10名も減少します。朝の快特はそこまで混んでいませんから、2100形を置き換えることを想定した場合、扉間8席の転換クロスシート(ただしドア寄りは固定座席)としたほうが得策です。そうすれば、座席定員が52名と2100形並みとなることが期待できます。
京急快特は関東の料金不要列車では異色です。これを他と揃えるか否かは社会情勢などにも左右されますが、個人的には京急スピリッツを今後も残してほしいものです。