京葉線通勤快速廃止に思う

記事上部注釈
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京葉線の通勤快速が廃止されます。この反応についてはさまざまなものがあり、近距離客の利便性から遠距離客の所要時間についてが大きな論点に見えます。この議論に抜け落ちている点を考察しました。

写真1. 京葉線通勤快速

復習:京葉線通勤快速の廃止

2023年12月15日、JR東日本から衝撃的な内容が発表されました。

図1. 朝ラッシュ時の外房線の変化(JR東日本プレスリリースより引用)

図2. 夕方ラッシュ時の外房線の変化(JR東日本プレスリリースより引用)

図3. 内房線の変化(JR東日本プレスリリースより引用)

外房線直通電車は外房線内の停車駅増加によりさらに所要時間が増加していますが、ここではその影響のない大網で比較します。内房線は五井で比較します。所要時間の変化を簡単にまとめました(表1)。

所要時間
(改正前)
所要時間
(改正後)
増加時間
外房線上り68分80分12分
外房線下り62分74分12分
内房線上り54分70分16分
内房線下り48分65分17分

※外房線下りは誉田駅での分割がある列車を選択(条件を同じにするため)

ほかの要因があれど、料金不要の代替列車がない条件で所要時間10分以上増加はやりすぎです。蘇我以遠の乗客にとってみたら、利用状況を平準化するために10分以上増加は全くの改悪です。

通勤快速廃止の原因を探る

写真2. 武蔵野線直通とのバランスも重要

では、なぜ通勤快速が廃止されるのか、原因を探りましょう。一般に言われる通勤快速が混んでいるから廃止ということではありません。むしろ通勤快速は空いています。

表2. 京葉線の利用状況(2020年の調査結果、京葉線の混雑状況(コロナ影響下、朝ラッシュ、現場調査、葛西臨海公園→新木場)より引用)

京葉線朝ラッシュ時の混雑状況(葛西臨海公園→新木場、生データ)

この結果を見ると、むしろ通勤快速は空いています。2020年と2023年で絶対的な混雑率は異なっていますが、比率はそこまで変わらないと仮定し、以下で記します。

また、JRのプレスリリースには以下の内容も記されています。

朝通勤時間帯の最も運転本数の多い1 時間の運転本数を見直します。

JR東日本プレスリリース

朝ラッシュ時に京葉線系統を1本減便することを明らかにしています(よく見ると外房線特急が新設されています)。つまり、各駅停車を1本減便するのに合わせ、空いている通勤快速を各駅停車に変更して各駅停車減便の影響を小さくしようとしたということがわかります。

特に近年の通勤客減少による収益減少に対応するために、(保有数に影響する朝ラッシュ時の減便による)コスト削減は鉄道会社にとっては急務なのでしょう。

京葉線の通勤快速廃止を免れなかったのか?

写真3. 各駅停車の役割も大きい

前提条件の整理

ここまで判明したのは以下の2点です。

  • 通勤快速は空いている傾向にある
  • 各駅停車を減便するために空いている通勤快速を各駅停車にシフトしたかった

この論理は一定の説得力はあるものの、蘇我以遠で10分以上も所要時間が増加するという副作用をともなっています。確かに特急わかしお2号で東京8:25着(改正前の通勤快速は8:26着)、特急さざなみで東京8:12着と8:48着があり、速達列車が確保されていますが、日常の通勤で使うわけにはいかず、特急があるからOKとするのは暴挙です。

これに対するインターネットの反応は多くありますが、真の論点通勤快速が空いていて京葉線で輸送力の無駄遣いになっていたについてはあまり触れられていません。

いいかたを変えると、通勤快速を混む方策があれば良いことになります。本記事ではそれを考えます。

停車駅増加による存続可能性を考える

まず、考えられるのは、停車駅を増やすことで通勤快速を混ませる方策です。では、どの程度が良いのでしょうか。まず、基礎データとしてかつての調査結果を示します。

表3. 京葉線の利用状況のまとめ

かつての状況だと15%程度空いていました。つまり、停車駅増加で15%程度利用が増えれば良いということです。

ここで、計算の前提を示します。

  • 通勤快速に乗る乗客は定期客がほとんどだろう。だから乗客流動は定期客を見よう
  • 定期客の何割が乗るかはわからないが、求めたいのは比率だから定期客の比率を見よう
  • 都心-郊外の流動だから、定期客の割合を見るには方向に注意しよう

このような前提を考慮し、手元の平成30年度 都市・地域交通年報のデータから拾います。

都市鉄道に関する統計データは以下の書籍を参考にしています。本記事の内容を深く知りたい人はぜひ購入してみてください。(2022年時点で平成30年度版が最新です)

それによると、蘇我から京葉線上りに乗る定期客を見積もります。定期は往復しますから、下りの流動しか書かれてません。そこで、定期下りの流動を確認します。蘇我着の定期客は2,893,135人(1日当たり7,905人)です。また、内房線への流れが3,559,950人(1日当たり9,727人)です。外房線の流動は蘇我で京葉線からの定期客が4,399,952人(1日当たり12,021人)です。

蘇我での流動のカウント

上の記述で蘇我-外房線の流動を京葉線から外房線への乗りかえでカウントしませんでした。これは、千葉みなと方面-蘇我-本千葉方面の流動も蘇我着外房線への乗りかえでカウントされるためです。本記事では京葉線通勤快速の乗客を考察しています。本千葉方面から蘇我まで向かい、そこから通勤快速に乗る流動はごく少数ですから、ノイズと考えました。そのため、千葉みなと方面-蘇我-鎌取方面に限定したのです。

なお、千葉-蘇我は外房線としてカウントされるので、内房線の流動はこのようなことをする必要はありません。

ともかく、1日当たり7,905人(蘇我から乗る客)+9,727人(内房線浜野方面からの客)+12,201人(外房線鎌取方面からの客)=29,833人が蘇我から京葉線通勤快速に乗り得る人の数です。もちろんこの数字の全員が特定の列車に集中するわけでなく、一定の分担率があり現実の通勤快速の乗車率になります。

では、定期流動が何人になれば通勤快速の混雑率は各駅停車のそれと等しくなるのでしょうか。現実には各駅停車から通勤快速に流れたぶん、各駅停車は空くのでしょうが、簡単のため、各駅停車の混雑率は一定とします。

現実の29,833人 : 通勤快速の混雑率86.8% = 仮想のx人 : 各駅停車の混雑率101.0%

比の計算より、34,714人が適切な値となります。もともと29,833人なので差し引き4,881人(1年で1,781,565人)です。ここで海浜幕張-蘇我で各駅にとめるとしましょう。

  • 海浜幕張:9,217,370人(1日当たり25,184人)
  • 検見川浜:2,757,083人(1日当たり7,533人)
  • 稲毛海岸:4,769,531人(1日当たり13,032人)
  • 千葉みなと:2,245,177人(1日当たり6,134人)

ここで数字の取り扱いに注意する必要があります。ここまでは暗黙の了解で郊外方向から都心方向に通勤すると仮定しました。しかし、海浜幕張は都心側(武蔵野線沿線も含む)から海浜幕張に通勤している可能性があります。海浜幕張に停車させたところで上りの通勤快速に乗る人が少ないかもしれません。

駅の流動から考えると、稲毛海岸に停車させると通勤快速の利用率が上がることがわかります。ここまでの計算上は各駅停車の利用をむしろ超えます。

ダイヤ面から考える

では、ダイヤ面ではどうでしょうか。現在のダイヤを示します(図1)。

図1. 京葉線の朝ラッシュ時のダイヤ(OuDiaを使用)

都市鉄道のダイヤの1つの特徴にラッシュ時に(緩急結合ではなく)通過追い抜きを使用することがあります。これは、緩急結合だと(追い抜く側の停車時間だけ)待避時間が伸び、過密ダイヤに組み込めないという側面があります。そのような意味で稲毛海岸は各駅停車の待避がなく、さしたる障壁もありません。

海浜幕張停車だと一見難しく感じますが、海浜幕張待避を新習志野待避にすれば回避可能です。上り列車に乗りこむ通勤客が多く通勤快速の効用が高いと期待できる稲毛海岸停車は利用均等化に適していると考えます。

また、近年は京葉線沿線の発展が著しく、蘇我以遠-京葉線各駅への流動が増している側面もありましょう。その場合も稲毛海岸停車は有効です。場合によっては海浜幕張停車も有効でしょう。

なお、近年の通勤快速は葛西臨海公園での待避はなく、新浦安通過後から東京までは並行ダイヤです。そのため、(通過する新浦安はともかく)舞浜から東京の各駅に停車しようが通過しようが所要時間に影響はありません。通勤快速の停車駅に舞浜、葛西臨海公園、潮見、越中島を追加する方策もあったのです。これは上りのみの方策です。

本記事の内容と直接の関係はありませんが、朝ラッシュ時の快速全廃については議論があると思いますが、近隣の東西線のように新浦安以西各駅にとまる「区間快速」にする方策もありました。

今回はダイヤ面は朝のみの考察にしましたが、夕方ラッシュ時も通勤快速の停車駅を増やすことで合理的で利便性を維持することができたでしょう(朝と停車駅が同じである必要はない)。

京葉線通勤快速の廃止にあたって

写真4. 沿線価値を上げようと努力している相模鉄道

JR側の気持ちを汲み取り、ダイヤ改正の意図を深読みすると、確かに理にかなっています。しかし、それには沿線価値を上げるという考えが抜けています

大手民鉄はダイヤなどを工夫し、沿線に住んでもらうための努力がなされています。例えば、相鉄は新線を建設してまで都心直結の鉄道路線にして(実際に組むダイヤの出来ばえはともかく)魅力的であろうとしています。

確かに、内房線沿線が不便だからといって首都圏の別の場所(例えば高崎線沿線)に引っ越してもJR利用の確率は高く、沿線価値を高める動機は生じにくいでしょう。民鉄の多くは時間帯によって停車駅を柔軟に変えることで、会社にとって合理的でかつ利用者にとって便利なダイヤにできるはずです。JR東日本も民間企業です。このような考えもあって良いのではないでしょうか。

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