小田急電鉄。関東大手民鉄の1つらしく、通勤時間帯には多くの利用客で混雑します。一方で速達性も重要です。これらの2つを満たすために通勤準急が興味深い運転を行います。この理由を探るとともに実際に乗ってみました。
写真1. 登戸に入線する通勤準急(東京メトロ車)
本記事の概要
本記事の概要は以下の通りです。
- 通勤準急は向ヶ丘遊園→成城学園前(除)は緩行線を走行
- 成城学園前→経堂は急行線を走行
- 経堂→代々木上原は緩行線を走行、そのまま千代田線に入る
- 快速急行と各駅停車の合間を走るので、このような走行経路
詳細は以下に記します。
復習:小田急朝ラッシュダイヤ
最初に小田急小田原線の朝ラッシュ時のダイヤを紹介します。
本数の最も多い向ヶ丘遊園→代々木上原では以下の内訳で運転されます。以下の本数は20分あたりのものです。
- 特急1本
- 小田原始発快速急行2本(約10分間隔)
- 藤沢始発快速急行2本(10分間隔)
- 多摩線始発通勤急行2本(10分間隔)
- 千代田線直通通勤準急2本(約10分間隔)
- 本厚木始発各駅停車2本(約10分間隔)
- 千代田線直通各駅停車2本(約10分間隔)
軸となるのは相模大野→新宿で約5分間隔で走る快速急行です。停車駅をある程度絞り、遠距離からの所要時間を短縮しています。とはいえ、快速急行が通過する駅は全て見捨てるわけにもいきません。具体的には向ヶ丘遊園、成城学園前と経堂が該当しましょう。
その3駅をフォローするのが通勤急行であり、通勤準急です。通勤急行は向ヶ丘遊園と成城学園前に停車し、この両駅からの乗客を乗せます。通勤急行の本数を多くできないので、あえて登戸を通過し、登戸からの乗客を通勤急行に乗せないようにしています。また、登戸を通過することで、新百合ヶ丘→新宿の停車駅数を快速急行と停車駅の差をわずかに1駅だけにしており、速達列車全体の速度を均一にしています。現に快速急行の新百合ヶ丘→新宿の所要時間は29分~31分、通勤急行のそれは30分~31分と遜色ありません。
通勤準急は向ヶ丘遊園、成城学園前に加え経堂に停車することで近距離区間での速達列車として機能しています。複々線区間の停車駅は通勤急行が4駅(向ヶ丘遊園、成城学園前、下北沢、代々木上原)、快速急行(登戸、下北沢、代々木上原)が3駅なのに対し、通勤準急は6駅(向ヶ丘遊園、登戸、成城学園前、経堂、下北沢、代々木上原)と多く設定されています。
一般に停車駅が1つ増えると1分所要時間が増えます。10分に4~5本の速達列車が運転されており、遅い列車があると速度が上がりません。そのため、通勤準急の一部区間を急行線ではなく緩行線を走らせているのです。また、緩行線と千代田線が直通しやすい配線になっていることもミソでしょう。
通勤準急の運転線路
小田急小田原線の上り線は向ヶ丘遊園→代々木上原が2線あり、各駅にホームがある緩行線と、一部の駅にしかホームがない急行線に分かれています。複々線区間は「複々線」であることが最大の待避線と形容できますが、経堂は急行線に待避線があります。
通勤準急の運転をまとめると以下の通りです。
- 向ヶ丘遊園で緩行線に入り、後の快速急行に追いつかれそうになりつつ走る
- 快速急行の直前に登戸に到着
- 快速急行とほぼ同時に発車
- 各駅停車と間隔の開いた緩行線を成城学園前まで走行
- 成城学園前手前で急行線に転線し(この時点で前の快速急行と間隔が開いている)、成城学園前で各駅停車に接続
- 成城学園前から経堂まで急行線を走り、前の各駅停車との距離を詰める
- 経堂で緩行線に転線し、そのまま代々木上原まで走行
- 代々木上原で後の快速急行とほぼ同時に到着
ひとことでいうのであれば、登戸と代々木上原で快速急行とほぼ同時に発着するためにこれらの両駅に近い場所では緩行線を走行し、中間地点では各駅停車を追い抜くために急行線を走行するのです。
実際に通勤準急に乗る
ここまで御託を並べ立てましたが、実際はどうでしょうか。平日の朝ラッシュ時に乗ってみました。混雑が和らぐであろう、最終列車(伊勢原7:32→代々木上原8:50→大手町9:13→我孫子10:04)に登戸から代々木上原まで乗車しました。
写真2. 登戸に通勤準急我孫子行きがやってきた
登戸に通勤準急我孫子行きがやってきました(写真2)。快速急行よりも少し早い到着です。快速急行の登戸到着が8:34、この通勤準急は8:33で1分早いのです。ここ登戸である程度降りました。
写真3. 登戸に快速急行がやってきた
登戸に快速急行がやってきました(写真3)。あちらは満員です。もっとも、あちらは登戸を出発すると下北沢までノンストップです。下北沢は乗車より降車が多い(小田急沿線から渋谷に向かう人が降りる)性質ですから、これ以上混みません。
写真4. 登戸を発車
快速急行よりやや早く、そしてやや空いている状態(先頭部分の混雑率85%程度)で登戸を発車しました(写真4)。ここから成城学園前まで通過駅が3駅ありますが、70km/h程度しか出しません。あまり速く走っても快速急行を待たねばならないためです。
写真5. 快速急行がやってきた
写真6. 快速急行が去っていった
快速急行に追いつかれました(写真6)。あちらは90km/h以上出ているでしょうから、こちらよりも20km/h速い計算です。ここまで速度を落としながら走るのであれば、狛江に停車することも可能でしょう。これをやらないのは定時性確保と推定します。
写真7. 成城学園前に停車
急行線に転線し、成城学園前に停車します(写真7)。多くの人が通勤準急を待っている様子がわかります。成城学園前断面で新宿に向かう速達列車は8:34発の通勤急行の次は8:48発の急行までありません。わが通勤準急(成城学園前発8:40)は14分の穴を埋める意味もあります。
ここで先頭部の混雑率は115%程度に上がりました。
多くの通勤準急はここで各駅停車新宿行きに接続しますが、私の乗った通勤準急は朝ラッシュの終わりということもあり、当駅始発の準急に接続します。
写真8. 急行線を走る
急行線を走ります(写真8)。成城学園前までと異なり、90km/h程度の速度で小気味良く走ります。というか、ノロノロ走っていたら、後続の快速急行の足手まといになってしまいます。
写真9. 急行線を走る
急行線を走ります(写真9)。
写真10. まもなく経堂に停車!
まもなく経堂に停車します(写真10)。手前のポイント(緩行線の待避線に入るポイント)をスルーします。
写真11. 経堂に停車!
その次のポイントを渡り、経堂の急行線ホームに停車します(写真11)。快速急行はとなりの通過線を走り、代々木上原まで緩行線と干渉しません。
多くの通勤準急は経堂で千代田線直通各駅停車と接続しますが、私の乗った通勤準急は朝ラッシュ外れということもあり、各駅停車新宿行きに接続する変則パターンです。
ここでも多くの乗客が待っており、先頭車の車内は140~150%に達します。携帯電話をいじるゆとりもありません。経堂は通勤急行も停車しませんので、速達需要は通勤準急に集中します。現に時刻表を見ると、前の各駅停車(経堂8:38発)は新宿到着が8:57、わが通勤準急(経堂8:44発)と快速急行の組み合わせだと新宿到着が8:58と、前の各駅停車の魅力は劣ります。それはこの通勤準急に集中するわけです。
経堂から90km/h内外の速度で走ります。前に各駅停車が走るわけでもないので、代々木上原構内を除いて順調に走ります。
写真12. 代々木上原に到着!
カタログスペックでは快速急行より1分早く代々木上原に到着する算段でしたが、実際にはやや遅れての到着です。そうはいっても、快速急行と相互に連絡します(写真12)。快速急行との連絡が確保されることにより、通勤準急が新宿へのチャンネルとして機能するのです。
2018年とやや古いデータですが、朝ラッシュ時の代々木上原到着時点での混雑を観察しています。
小田急の混雑状況(複々線化後新ダイヤ、朝ラッシュ時現場調査、2024年調査結果追記)
通勤準急に乗ってみて
今回、通勤準急に乗ってみました。登戸発車時点では(最も混雑が予想される先頭車にも関わらず)空いていた印象があります。しかし、成城学園前、経堂と乗客が乗ってきて代々木上原到着時はかなりの混雑でした(下北沢ではそこまで変わりません)。混雑が分散され、結果的に多くの乗客を機能的に振り分けていると実感しました。
また、このような機能的なダイヤを実現するためにインフラ設計が工夫されていることも改めてわかりました(このようなことを考えなければ、経堂の上り線に急行線の通過線を設定しないでしょう)。
小田急の通勤準急の転線の多さは、はたから見ると理解できないものがありましょう。しかし、そこには多くの知恵がつぎ込まれ、意味があるものです。これは小田急の通勤準急に限らないでしょう。はたから見ると理解しがたいものであっても、そこには必ず意味があるのです。