鉄道と色彩③:色とその機能

記事上部注釈
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色には2つの役割があり、1つが感情的なもの、もう1つが機能的なものです。鉄道において色の機能性も充分に発揮されています。その様子を観察してみましょう。

写真1. ラインカラーは色の機能を活用した例

備考

筆者は色彩検定2級を合格しており、色彩学の基礎知識はある程度備わっています。

※今回、色彩検定の知識を解説しましたが、詳しいことは以下のテキストに書いています。検定受験の有無に関わらず、読みものと読むのも面白いと思います。

色の目立ちやすさ

普段使う際は意識しずらいですが、鉄道は危険な乗りものです。1両40t程度の巨体が時速100km/hで走行する、それは危険なはずです(鉄道会社や利用者の普段の努力で安全な乗りものになっていますが)。危険に対しては警告が必要です。警告には瞬時に判断できる必要があります。色によって目立ちやすさが異なり、その目立ちやすさは以下の通りです。

  • 彩度の高い有彩色は目立ち、とりわけ赤と黄色は目立つ
  • 赤色には白色が目立ち、黄色には黒色が目立つ

この最も顕著な例が踏切でしょう。踏切の中に安易に入り込むと事故のもとになりますので、踏切は目立つ必要があります。

写真2. 踏切は黄色と黒の警戒色(幡ヶ谷3号踏切)

この考えは駅の出口でも採用されています。

写真3. 駅の出口は黄色地に黒色の文字(広島バスセンターで撮影)

駅で出口の情報は重要です(多くの人の目的地は駅の出口にあるでしょう)。そんな重要な情報は黄色で目立たせ、黒で視認性を確保します。

赤も重要な情報を伝達する際に活用されます。

写真4. 山手線終電繰り上げ時のポスター(2019年ダイヤ改正前に撮影)

このような書式のポスターを多用しているのはJR東日本です。このころは終電繰り下げは珍しく、品川行きが大崎行きになるだけで話題になりました(と私は思っています)。色を多く使う美しい販促ポスターが多いなか、あえて黒と赤の2色刷りで目立たせる効果もあります。

色の識別性

複数の対象を識別する際に色彩を上手に活用します。これは色の識別性と呼ばれます。

図1. 東京メトロの路線図(公式サイトより引用)

路線ごとに色分けされています(図1)。これを見ると、池袋には何線が乗り入れているかがわかりやすいです。赤色の丸ノ内線、茶色の副都心線とゴールドの有楽町線です。

図2. 東京メトロの路線図(彩度0)

今度は彩度を0としてみました(図2)。私のように路線図がある程度頭に入っている者はともかく(そんな人は路線図を見ない!)、東京の地下鉄路線に対して理解されていない人がみたら、さっぱりでしょう。ここからわかるように、複数の対象を識別するのに色は重要な役割を担っています。

ただし、首都圏の地下鉄は直通運転がなされており、路線カラーと車両カラーが一致しないことも多いです。例えば、副都心線は東武鉄道、西武鉄道、東急電鉄、みなとみらい線の車両が乗り入れ、いずれも茶色とはかけ離れた色の車両が使われ、駅のホームの茶色と異なる電車がやってきます。

写真5. 副都心線カラーの電車(東急東横線を走行)

写真6. 東武鉄道の車両も乗り入れる

ただし、東武鉄道の一部の車両は副都心線のラインカラーに遠くない色を採用しています(写真6)。これも新しい車両だとオレンジで同じく乗り入れ先の有楽町線に近い色を採用しているともいえなくないです。

21世紀に入ってから、大手民鉄では多様な種別を運転し、多様なニーズに応えようとしています。速達性、各所への直通、特定の駅の利便性、その理由は路線によって異なりますが、いずれにせよ種別を識別できてからのことです。

写真7. 朝ラッシュ時のみ運転の種別も色を割り当てる

例えば、小田急電鉄では急行は赤、快速急行はオレンジ、準急は緑とし、通勤○○は白地に○○の文字色を採用(※)しています。通勤準急は白地に緑字です(写真7)。赤も緑も比較的明度の低い色ですので、白地と明度差もあり可読性も確保されています。

※基本的に通勤急行の運転時間帯は急行は運転されず、通勤準急の運転時間帯に準急は運転されません

LED式表示機が登場した当初は3色しか表現できませんでしたので、路線図の種別カラーと実際の車両の種別欄の色が異なることが多く、識別性という意味ではやや疑問が残りました。しかし、現在はフルカラーLEDが普及しているので識別性で疑問の残る場面は減りました。

文字の読みやすさ:可読性

いくら詳細でわかりやすい内容が書かれていたとしても、文字が読めなければそれは意味がありません。例えば、以下の文をご覧ください。

文字色は重要です。

かなり読みにくかったと思います。では、以下の文はどうでしょうか。

文字色は重要です。

これも読みにくいと思います。これはリープマン現象といって、「異なる有彩色が隣接し、それらの明度差が小さい場合に境界線があいまいになる」という心理現象です。

文字の可読性や図の明視性を確保するには、明度差のある2色を採用することが重要であり、目がチカチカするのを防ぐには一方を無彩色にすることが重要です。そのような意味で、黄色と黒、赤と白の組み合わせは王道なのです。

このほか、白と黒の組み合わせも王道です。多くの出版物が白い紙に黒い文字で書かれる理由の1つがそこにあるのです。

写真8. 黒地に白い文字はわかりやすい

別に地の色が白色である必要はありません。地の色が黒の場合は白い文字はわかりやすいです(写真8)。

写真9. 黒地に青い文字はわかりにくい

一方、明度差が小さな黒と青の組み合わせはわかりにくいです(写真9)。みんな大好き新快速といえども、意外なところに弱点があるのです。

写真10. セパレーション

その場合は、セパレーションというテクニックがあります(写真10)。この表示ではワンマンという文字列の脇を黒色の縁で囲い、ワンマンという情報を伝わりやすくしています。新快速も同様の表示とするか、民鉄のように種別色の地の色(写真11)とすることです。

写真11. 種別幕を見ると赤色の種別(この場合快速急行)とわかる

色彩の機能のまとめ

色彩には機能的な役割があります。その最も代表的なものは情報伝達です。駅のポスターや踏切の警戒色などの「警戒するべき場面」「重要な情報を伝達すべき場面」ではきちんとそのセオリーを守っているように感じました。

一方、識別性が要求される場面では、原則として意識されているものの、いまいち徹底されていない場面があるように感じました。さらに、可読性や明視性が要求される場面ではさらに徹底されていないようにも感じました。

これは我が国に限ったことではありません。とりわけ諸外国の地下鉄ではラインカラーが車両に展開されていない例が多く、路線別カラーにとらわれない場面が多く見られます。

ベルリンU2の車両

写真12. ラインカラーが赤でも車両は黄色(ベルリン地下鉄)

例えば、ベルリンの地下鉄は路線によらず車両は黄色です(写真12)。これはパリ(車両が緑系)やウィーン(車両が赤系)でも同じく路線カラーと車両カラーは一致しません。

写真13. ブダペスト地下鉄はラインカラーと一致

では、外国の地下鉄はみんなそうかというと異なります。ブダペスト地下鉄はラインカラーと車両カラーが統一されています。3号線の車両は青色(写真13)ですし、1号線の車両は黄色です。

色彩というと美的センスが要求されるように感じられ、鉄道のような輸送機関に合致しないように思えます。しかし、色彩には機能的な部分もあり、輸送機関にこそそのような機能が発揮される場面があるのです。

今回、色彩検定の知識を解説しましたが、詳しいことは以下のテキストに書いています。検定受験の有無に関わらず、読みものと読むのも面白いと思います。

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