電車の混雑に関する基礎知識④:混雑との付き合い

記事上部注釈
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前回までの講座で混雑が生じる理由、そして混雑にムラが生じる理由も解説しました。では、私たちは混雑についてどのように考えれば良いのでしょうか。

写真1. 博多を利用する多くの人々(まさに公共財!)

混雑との付き合い

今回の講座はまとめの位置づけです。具体的なことは書いていませんが、公共財としての性質をもう1度ご確認いただければと思います。

  • 鉄道に限らず、公共財は皆でお金を出し合うので、個人で所有するより豊かなものができあがる
  • 鉄道は公共財で皆で使う以上、我慢する場面がある
  • 混雑するのは設備を有効に活用できている証拠であり、多少は我慢する必要がある

公共財と豊かさ

まず、一般論を持ち出しましょう。その1つは、「みんなで使うことを前提とすると良い設備になる」ということです。1日当たり100円を負担しても大したものは作れません。一方、100万人が100円を負担すると、1億円のものを作ることができます。そのかわり、個人の持ちものではなく、多くの人の共有物です。このようなものを公共財と呼びますが、公共財があることでみんなで使うかわりに豊かな社会を実現しているのです。

逆にいうと、豊かな社会を享受するには公共財を使うことが必須です。

補足

公共財とは経済学の用語で「非競合性あるいは非排除性の少なくとも一方を有する財」とされます。これは、同時に消費することが可能なものです。例えば、ある人があるケーキを消費すると他の人は同じケーキを消費できません(なので、同じ種類のケーキを買います)。この性質を競合性と呼びます。また、ある人がケーキを食べるには、店で現金を支払わないとケーキを買えません。この性質を排除性と呼びます。

鉄道のような公共交通機関の場合、ある人が電車に乗ったところで、(物理的に乗れない場合を除き)他の人が電車に乗れないことはありません。言いかえると、私が電車に乗る際に、他の人の都合など考えずに済みます。

このような性質を持つものを公共財と呼ぶのです。電車には排除性がある(運賃を支払わないと乗れない)ので、厳密には準公共財とされます。とはいえ、公共財と準公共財を区別することによる本記事のメリットはないので、本記事では単純に公共財とみなすことにします。

公共財の効率的な利用

写真2. 狭い駅を効率良く使うのも経済的(阪神尼崎)

公共財は多くの人のお金を使う(税金であっても原資は国民1人1人のお金を使っていることには変わりません)のですから、効率的に利用される必要があります。別のいいかたをすると、利用されない公共財の意味はありません。

それでは、電車の混雑という観点で見てみましょう。電車が混んでいるということは、鉄道という公共財が効率的に利用されているということを示しています。

ということは、電車が混んでいれば混んでいるほど公共財を効率的に利用していることになります。経済の根源は少ない資源で多くの利用をすることなので、電車が混んでいるほど経済的ということなのです。

とはいえ、乗り切れないほど混雑しているのが良いか、というと違うでしょう。混雑する電車に乗ることは、疲れを伴います。乗客の疲れは(乗客が生産側となる場面での)生産性低下があるでしょう。したがって、許容される混雑の程度は限界があります。

ここまで経済的な観点から電車の混雑について考察しました。

電車の混雑の最後に

「電車の混雑」に関する最後の講座は「公共財」という経済的観点から考察しました。公共財という多くの人が使い、その経済的効果を高めるという観点からは、電車がある程度混んでいるというのは重要です。

ここまで小難しい理屈を並べ立てたかもしれません。もっと単純にまとめましょう。

個人では電車のような便利な交通手段を造れません。そのため、みんなでお金を出し合い、鉄道システムを作ります。そのため、電車はみんなが乗る乗りものです。決して私やあなただけが使えるものではありません。みんなで使うものですから、場合によっては混むこともあるでしょう(混む路線に対し、新線建設などをするべきですが)。多くの人が支えあっている社会です。電車の混雑はある意味、みんなで生きていることそのものなのです。

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