通勤電車について調べていると出てくる用語が混雑率です。多くの人は「東西線が最も混雑率が高くて混んでいる」というようにとらえますが、混雑率の詳しい内容を知らないのでしょうか。そこで、混雑率の真実をまとめました。
写真1. 品川に到着した東海道線
混雑の真実のまとめ
本記事の概要は以下の通りです。
・混雑率の測定方法は基本的に「人の目」で車両内の様子を確認することである
※車両センサーなどの別の方法を併用している場合もあり得ます
・国土交通省から発表されるのは「最混雑区間」の「最混雑時間帯60分」である
・「公式」の混雑率と現実の混雑率が異なる場合もある
これらの詳細は以下の章で順を追って説明いたします。
混雑率の測定方法は?
写真2. 山手線からの降りる乗客の様子(新宿で撮影)
数学的な内容を考察するのは簡単です。混雑率は(実際の乗車人員)/(車両の定員)で示されます。ただし、実際には(実際の乗車人員)を把握するのは難しいです。そのため、混雑率は別のやりかたで求められます。
実際には、目視で確認しています(※)。あらかじめ「車内がこんな感じであれば、混雑率はこの数字にしよう」と基準を決めておき、実際の車両を見て混雑率を測定しているのです。
※東洋経済の記事などにそのように記されています。
もちろん、混雑率は目視測定だけで決めているわけではないでしょう。改札の通過具合、車両のセンサーなどの他の指標を総合的に活用して決定しています。
目視測定の日付は秋とされています。都市交通年報には調査日が書いていますが、JRは10月下旬、他の民鉄もおおむねそのような時期です。これは、春は新入社員、夏は夏休みでデータが狂うので、最も落ち着いた時期である秋に調査しているのです。
混雑率100%はどのような混雑なの?
混雑率100%というのは、全員着席というイメージがありますが、実際にはそのようなことはありません。実際の混雑率100%は相当数の立ちが発生している状況です。
一般的な通勤電車は定員140人程度です(詳細は定員は車両によって異なります)。一般的な通勤電車の着席定員は54人ですから、席に座っている人数の2倍近くが立っていることになります。
逆にいうと、全員着席していて立ちが発生しない混雑率は54/140=38.5%です。だいたい混雑率40%で全員着席というのが現実です。
混雑率データの解析
写真3. 東西線の主要駅、大手町に停車中の様子
さて、上記2点の知識を基に実際の混雑データを見てみましょう。このようなことを書いた多くの記事では抽象的な概念を書いておしまいですが、私は具体的な内容を取り上げて、詳しく詳細するのが得意なためです。
地下鉄東西線の混雑率123%を例にとって
例えば、2020年度の地下鉄東西線の混雑率は123%とされています。一般的にはこの数字だけが1人歩きしますが、本記事ではもう少し詳細に解析します。
国土交通省から発表されるデータを見てみると、以下の情報が記されています。
・混雑率:123%
・最混雑区間:木場→門前仲町
・時間帯:7:50~8:50
最混雑区間
東西線は中野-大手町-西船橋の路線ですが、1駅しか書かれていません。そう、混雑率データは最混雑区間の1駅のデータです。最も混雑する1駅のデータでしかありません。
東西線は江東区、江戸川区、浦安市、市川市、船橋市を通っており、この区間では貴重な交通機関です。南の京葉線と北の都営新宿線と多少距離があり、人口の割に鉄道網が貧弱なのです。
朝の中野方面行きは西船橋から途中駅までどんどん乗ってきます。それが木場まで続きます。木場の次の門前仲町は都営大江戸線に連絡する駅です。職場は都心の大手町以外にもあるでしょう。例えば、汐留や上野に職場がある場合、門前仲町で大江戸線に乗りかえます。これらの人が減るぶん、門前仲町でやや空くのです。
やや古いデータですが、手元の平成22年度版都市交通年報によると、木場→門前仲町の利用客は8132万0820人、門前仲町→茅場町の利用客は7975万7190人と書かれています(定期利用客のみ、年間トータル)。いいかえると、木場→門前仲町の利用客を100とすると、門前仲町→茅場町の利用客は98.1%ということです。実感としてはそこまで減少しないでしょうが、1人でも利用が少なければ、「最」混雑区間にはならないのです。
最混雑時間帯
次に見るのは時間帯です。東西線の混雑時間帯は7:50~8:50とされています。以下で、その意味合いを見てみましょう。
当然、通勤電車に乗る人は目的を持っています。そう、職場や学校に行くという目的です(※)。当然、行かねばならない時間があります。私の職場では始業時間が8:30ですが、この時間帯は職場や学校によっても異なるでしょう。
※ほかの目的の人がいる(私のように電車に乗りたいなど)が0ではないことは理解していますが、毎日通勤電車に乗っている身分からすると、ごく少数なので本記事では無視しても良いことにします。
話を単純にするために、すべての職場の始業時間が8:30としましょう。多くの人は8:30の直前にやってくるでしょう。逆に、8:30過ぎに職場にやってくる者は非常識です(たまに電車の遅れなどで発生しますが)。そのため、8:30前に職場に着くように設定されている電車は混雑します。
実際には8:00始業、8:30始業、9:00始業、9:30始業などが混在し、さらに客先に直行する人もいるため、もっと複雑です。それでも、多くの職場の始業時間ギリギリ間に合う時間帯の電車は混みます。
混雑の統計は最も混む1時間を抽出していますが、この1時間の間での混雑は均一ではありません。私は東西線の混雑にうといですが、他の路線の混雑を実際に調査した経験から、7:50~8:50の混雑は均一ではなく、8:30がピークとなるでしょう。そして、8:30を過ぎると急激に空いてきます。このあたりの10分の違いで混雑が異なります。
なお、東西線の混雑時間帯の「7:50~8:50」は木場発車断面か、門前仲町到着断面か記されていません。私もそこは存じません。
混雑率のマジック
写真4. 品川に停車中の横須賀線
ここまでは地下鉄東西線を題材に紹介しました。この他の注意点を簡単に記します。
基本的には混雑率は(ばらつきがあるものの)信用して良い値と思いますが、一部マジックがあります。その顕著な例が横須賀線や東海道線です。
横須賀線や東海道線の混雑を現場で確認すると、「公式」の混雑率よりも空いています。これは、無理もない話です。1度、東海道線の輸送力を眺めてみましょう。東海道線の両数は13両とされています。現実の列車は15両編成にかかわらずです。これは横須賀線、東北線、高崎線、総武線快速も同様です。グリーン車は輸送力としてカウントされていません。現実にはグリーン車に乗客が乗っていて、そのぶん普通車は空いています(グリーン車ぶんは輸送量としてはカウントされています)。
ここで、湘南新宿ラインの混雑率が発表されていない点に注意が必要です。湘南新宿ラインというのは運転系統でしかなく、運賃計算上は東海道線や横須賀線(品鶴線)を通っている扱いです。そのためか、湘南新宿ラインの輸送力は反映されない一方、乗客の数には勘定されています。湘南新宿ラインの東海道線直通を東海道線の輸送力に、横須賀線直通を横須賀線の輸送力にそれぞれ算入すると、現場での実感に合います。
余談ですが、横須賀線の輸送力に埼京線-相鉄直通のそれも算入されていません。横須賀線の混雑率はさらに低いのでしょう。
一部の掲示板では私の実施した東海道線の混雑調査結果の信ぴょう性を問う書き込みもありましたが、他の路線ではおおむね「公式」の混雑率と一致する結果であったことから、私の調査の精度の問題ではないでしょう。
混雑率のまとめ
混雑率について簡単にまとめました。基本的な概念から具体的な内容までです。そして、私は何回も混雑を現場で調査しました。そこでの実感を含めて詳細に述べさせていただきました。
本記事が読者さまの「電車の混雑」に関する理解の一助となれば、望外の喜びであります。