そこまで混雑する印象のない西武池袋線。しかし、それなりに混雑する路線です。そして、通勤急行や通勤準急が運転されていて、きめ細かな運転がとられている路線でもあります。そのような西武池袋線の混雑状況を実際に見てみました。
写真1. 椎名町をさっそうと通過する速達列車
西武池袋線の混雑状況(平日朝ラッシュ時)の混雑状況まとめ
以下、長い本文を読む気がない人のために、要点をまとめます。
・最混雑時間帯は7:30~8:30で、急行や快速急行が混む傾向にある
・各駅停車よりも通勤準急のほうが空いている
・種別によらず、最前部が混んでいて、後ろよりの車両が空いている
・調査日の混雑率はだいたい106%程度で、学生の夏休みであることを考慮すると普段は混雑率110~120%程度
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
弊サイトでは混雑ポイントという概念を導入しております。その概要を示します(表1)。
表1. 混雑ポイントの概要
せっかくなので、120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。
写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
今回は、都内のターミナル駅の池袋到着時点の混雑状況を確認しました。最混雑区間も椎名町→池袋ですが、これは地下鉄直通にそこまで乗客がシフトしていないことを示します。
また、データ処理の際は、弊サイトの指標である混雑ポイントから一般的な混雑率に変換して計算しています。
復習:西武池袋線のダイヤ
混雑のばらつきはダイヤに左右されます。そこで、西武池袋線の朝ラッシュ時のダイヤを簡単に復習しましょう。
西武池袋線は15分で1回りするダイヤを採用しています。15分の間に6本設定されています。半分が各駅停車でもう半分は速達列車が運転されています。つまり、5分に1本の各駅停車と5分に1本の速達列車ということです。5分に1本の速達列車は急行、通勤急行、通勤準急の3つが15分間隔で運転されています。急行の半数は快速急行ですが、所沢から池袋までの停車駅は同じなので、ここでは同等と扱うことにします。
急行と通勤急行は中距離の速達輸送を担っています。所沢から池袋までで両者の停車駅を微妙に変えることで、池袋線の多くの駅から池袋まで乗りかえなしで向かえるようにしています。通勤準急は近距離だけ速達運転として、大泉学園より郊外よりの駅では各駅にとまります。
練馬より郊外よりでは地下鉄直通電車も加わります。朝ラッシュ時は15分の間に有楽町線直通の準急、副都心線直通の快速、有楽町線直通の各駅停車と副都心線直通の各駅停車が1本(15分間隔)ずつ運転されます。このうち、有楽町線直通の準急は練馬で保谷始発の各駅停車池袋行きに、副都心線直通の快速は練馬で豊島園始発の各駅停車池袋行きに接続します。
西武池袋線の平日朝ラッシュ時の混雑状況の生データ
写真5. 急行はラッシュ時でも存在感を示す
最混雑時間帯のうち、7:30~7:43については現地で様子を見忘れてしまいました。なので、7:44以降の観察です。かわりに9:00まで確認しています。なお、時刻については椎名町出発時刻ではなく、池袋到着時刻で記しています。
まず、生データを示します(表2)。
表2. 西武池袋線朝ラッシュ時混雑調査結果(椎名町→池袋、生データ)
単純に生データの混雑率を計算すると、混雑率は102%程度です。ただし、最ピーク時の混雑率はもう少し異なります。また、急行や快速急行に乗客が集中していることがわかります。
西武池袋線の平日朝ラッシュ時の混雑状況の分析
生データだけ見てもわかりにくいです。どの種別や号車が混んでいるのか、空いているのか、という傾向を分析したほうが親切というものでしょう。そこで、私なりに混雑状況を分析します。
最混雑時間60分の推定
まず、時間帯ごとに混雑状況を分析します(表3)。だいたい15分で1回りするダイヤになっていますから、そのサイクルごとに区切るほうが良いでしょう。
表3. 西武池袋線朝ラッシュ時混雑調査結果(椎名町→池袋、時間帯ごと)
混雑状況を時間帯ごとに区切りました。8:29~8:43の15分でいったん混雑が緩和してその後の時間帯が混んでいることがわかります。最混雑時間帯は国土交通省の発表通り、7:30~8:30の60分間が良さそうです。しかし、7:30~7:43のデータがありません。これでは混雑率の推定は不可能です。
とはいえ、私はあらゆる路線の混雑を(趣味レベルですが)実際に見てきた経験があります。この経験則をベースにすると、7:30~7:43の14分間の混雑は最ピークの108%より低いものの、最ピーク後15分間の102%よりは高いでしょう。そうすると、ピーク60分間の混雑率は7:44~8:28の平均値と同じくらいでしょう。つまり、ピーク60分間の混雑率は106%程度と見積もることができます。
ただし、このときは多くの高等学校が夏休みに入っていました。そのため、普段はもう少し混雑していることが予想されます。都営地下鉄の利用者は(新型肺炎ウィルスの脅威が語られる前を基準として)38.32%減と、前の週の36.11%減よりも2.21ポイント減っています。逆にいうと、63.9%から61.7%に減っています。つまり、普段はこのときの4%増しと推定できます。
つまり、106%の4%増しの110%程度の混雑率と推定できます。
混雑の傾向を知るために、以下の章で分析します。傾向を知るために混雑率を補正する必要もないと考え、混雑率は補正していません。
種別ごとの分析
次に、種別ごとの混雑状況を見てみましょう(表4)。
表4. 西武池袋線朝ラッシュ時混雑調査結果(椎名町→池袋、種別ごと)
急行(ここでは快速急行も含んでいます)が最も混んでいて、次に通勤急行が混んでいます。意外と通勤準急は空いていて、各駅停車よりも空いています。とはいえ、各駅停車は混んでいるものと空いているものがありますので、単純な分析は危険です。
各駅停車の混雑状況を見ると、以下の序列が認められます。
保谷始発 > 豊島園始発 > 石神井公園始発
これはダイヤを見れば納得できます。保谷始発は有楽町線直通の準急から乗りかえられます。また、豊島園始発は副都心線直通の快速から乗りかえられます。一方、石神井公園始発にはそのような接続はありません。各駅停車が混んでいるのは練馬での地下鉄直通からの乗りこみがあるためということができます。そうでなければ、保谷始発と石神井公園始発(2駅しか離れていません)の違いを説明できません。
つまり、石神井公園始発は始発駅の特性で空いているわけではなく、練馬での接続がないから空いているということです。
写真6. 練馬で地下鉄直通電車(右側)から各駅停車池袋行き(左側)に乗りかえる乗客の列
車両ごとの分析
最後に車両ごとの分析です(表5)。
表5. 西武池袋線朝ラッシュ時混雑調査結果(椎名町→池袋、車両ごと)
みごとに先頭車両が混んでいて、後ろよりの車両が空いています。これは、池袋での出口が関係しています。池袋では先頭よりに出口(乗りかえ含む)があります。これを解決するには西武南口を活用することですが、西武南口からは東口エリア(池袋駅の南東側)にしか向かえません。
やるとすれば、最近完成した人工地盤につなげてその人工地盤から西側エリアに直結させることです。こうすれば、池袋駅の南西側にも直結することになります。これでようやく乗りかえ客以外が後ろよりに乗ることになります。
もう少しやるとすれば、西武百貨店やパルコの1Fを大幅につぶして、西武線のホームを北側にシフトすることです。こうすれば、後ろよりの車両であっても乗りかえ(特に有楽町線)が便利になり、車両ごとの混雑のばらつきは緩和します。
対応策の前者は効果が薄く、後者は莫大な費用がかかることから、いずれも非現実的です。
朝ラッシュ時の混雑状況からダイヤ案を考える
では、現在以上の速達性を考慮したダイヤは不可能なのでしょうか。各駅停車には負担を強いることになりますが、対応は可能です。
1つは東長崎での待ち合わせを行うことです。現在は練馬から池袋まで速達列車は各駅停車を抜かしません。これを東長崎で待ち合わせすることで、速達列車のスピードアップが可能です。ただし、これだと各駅停車のスピードダウンが発生してしまいます。江古田と桜台は必ず待避が発生するので、批判は免れません。
もう1つは豊島園始発の各駅停車を区間準急に格上げすることです。豊島園始発の各駅停車の直後には通勤急行が控えています。ただし、練馬から池袋までノンストップにしても、前の各駅停車に追いついてしまいます。そのため、ノンストップにする意味はありません。準急の通過駅でも利用の多い江古田にはとめると良いでしょう。すると、当該の区間準急や後続の通勤急行は1分程度スピードアップします。
こうすると、各駅停車利用駅の人は半分の確率で空いている電車を利用できます。また、快速利用の場合で1分所要時間が短縮されますから、急行利用の場合と比較して相対的に魅力が上がり、急行の混雑緩和も期待できます。
西武池袋線の混雑状況まとめと将来
新型肺炎ウィルスの脅威が語られて以来、だいぶ空いてきた印象の西武池袋線。とはいえ、依然として混んでいる印象はあります(以前と比べれば天国のような状態ですが)。今後は「接触時間の削減」のためにスピードアップが求められるステージに移行しましょう。
スピードアップそのものは鉄道会社側の「労働時間の削減」にもつながり、会社側にとっても悪い話ではありません。今後は(多くの車両と人員を必要とする)混雑緩和よりも(利用者も会社側も喜ぶ)スピードアップのステージへと移行することでしょう。幸か不幸か、新型肺炎ウィルスの脅威が語られてから混雑が緩和して、客の乗り降りが減っていて、駅の停車時間が短くなっています。いたずらに減便する前に、このようなことを考えてもらいたいものです。
西武池袋線に関する混雑基本データ
ここまでは現場での調査結果をベースに分析などをしました。では、公的機関の調査結果を簡潔にまとめた記事はないのでしょうか。そのような声にお応えして、公式のデータをわかりやすく紹介した記事を作成いたしました。