首都圏ではそこまで混む印象のない、西武新宿線。とはいえ、空いているとはいえません。新型肺炎ウィルスの脅威が語られる時代の混雑はどの程度なのでしょうか。実際に最混雑区間で確認しました。
写真1. 朝は下りホームも上り電車の降車ホームとして有効活用される(写真の右側が上り電車)
西武新宿線の朝ラッシュ時の混雑まとめ
以下、長い本文を読みたくない人のために、概要をまとめます。
・朝ラッシュ時の混雑のピークは高田馬場基準でおおよそ7:30~8:30である
・最も混むのは急行である(準急も同程度の混雑)
※通勤急行は意外と空いています
・進行方向最前部の車両が空いていて、最後尾の車両が混んでいる
※高田馬場の出口が後ろ寄りに集中しているためです
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
弊サイトでは混雑ポイントという概念を導入しております。その概要を示します(表1)。
表1. 混雑ポイントの概要
せっかくなので、120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。
写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
今回は、山手線と地下鉄に接続する駅の高田馬場到着時点の混雑状況を確認しました。最混雑区間も下落合→高田馬場ですが、これは西武新宿まで乗る人が少ないことを示します。
また、データ処理の際は、弊サイトの指標である混雑ポイントから一般的な混雑率に変換して計算しています。
復習:西武新宿線の朝ラッシュ時のダイヤ
電車の混雑はダイヤと密接に関わっています。そこで、西武新宿線の朝ラッシュ時のダイヤを簡単に紹介します。
明確なパターンはありませんが、おおむね30分サイクルのパターンダイヤ(30分で1回りするダイヤ)です。通勤急行(本川越発)が1本、急行が4本(本川越発2本、拝島発2本)、準急が3本(拝島発1本、本川越発1本、田無発1本)、各駅停車が5本運転されます。
ここで興味深いのは、準急に田無始発があることです。田無始発の直前には通勤急行が走るためです。この準急は東伏見で後の急行を待ち合せます。つまり、田無始発の準急は西武柳沢、東伏見、武蔵関、上石神井と鷺ノ宮の乗客しか集めません。
急行は田無まで各駅にとまりますが、通勤急行は本川越から田無の間にも通過駅があります。ただし、田無までの途中駅では各駅停車を抜かしませんので、通過駅の利用客は乗りません。
西武新宿線の平日朝ラッシュ時の混雑状況の生データ
写真5. 下落合に到着する各駅停車(ホームに屋根がないことがわかるでしょう)
高田馬場基準の時刻で示します。7:29~8:55までの86分間の全列車の状況を確認しています。世の中広くても、朝の駅に立って、ここまで見る人はそういないでしょう。
具体的な状況は以下の通りです(表2)。
表2. 西武新宿線朝ラッシュ時混雑調査結果(下落合→高田馬場、生データ)
単純に生データの混雑率を計算すると、104.7%です。ただし、最ピークだけを抽出すると、異なる計算結果となりましょう。以下の章で、このデータを解析しましょう。
西武新宿線の平日朝ラッシュ時の混雑状況の分析
写真6. 速達列車でもノロノロ運転する(だから通過駅の下落合で撮影に成功!)
生データだけ見てもわかりにくいです。どの種別や号車が混んでいるのか、空いているのか、という傾向を分析したほうが親切というものでしょう。そこで、私なりに混雑状況を分析します。
最混雑時間60分の推定
では、どの時間帯が最混雑の60分なのでしょうか。10分ごとに解析します(表3)。
表3. 西武新宿線朝ラッシュ時混雑調査結果(下落合→高田馬場、10分ごと層別)
私が調査を始めた7:29から10分ごとに区切りました。この結果を見ると、8:29~8:38の10分間が空いています。そのため、最混雑60分は8:28までと考えることができます。これは、7:29~8:28の60分間といいかえることができます。
ここまで時間を区切るとわかりにくいでしょうから、だいたい7:30~8:30の60分間が混んでいると把握する程度で良いでしょう。
この60分間の混雑率は108%です。新型肺炎ウィルスの脅威が語られて以来、おおむね3割の利用減が認められています。新型肺炎ウィルスの脅威が語られる前は、混雑率159%という公式発表がなされています。これは31%減少に相当します。確かに、この傾向に当てはまります。
種別ごとの分析
次に、種別ごとの混雑状況を見てみましょう(表4)。この分析は先のピーク60分間に絞ったものです。
表4. 西武新宿線の朝ラッシュ時混雑調査結果(下落合→高田馬場、種別ごと)
各駅停車よりも準急や急行のほうが混んでいるのは、多くの路線の傾向です。しかし、通勤急行が急行や準急よりも空いているのは想定外でした。
通勤急行は遠距離利用には便利な種別です。急行で68分かかる本川越から西武新宿を58~60分で結びます。本川越から西武新宿まで10分近く早いのです。それなのに利用されないのは、なぜでしょうか。
答えは集客範囲が絞られるというものです。急行は小平での接続で、拝島方面と本川越方面両方の乗客を集めます(本川越発の急行は小平で拝島発と、拝島発の急行は小平で本川越方面発と接続するのが原則です)。しかし、通勤急行は小平にとまりませんので、拝島方面からの乗客は乗りません。また、田無までの途中駅で各駅停車と接続しませんので、通勤急行通過駅の乗客も通勤急行に乗れません。
このようなことから、通勤急行は意外と穴場的な列車として君臨しているのです。このようなことは現場で確認しないとわからない事実です。改めて現場での確認が重要と認識しました。
車両ごとの分析
車両ごとの分析をしてみましょう。種別によって傾向が異なるかもしれませんので、種別ごとに分析します。ただし、通勤急行は本数が少ないので、今回は無視します(表5)。
表5. 西武新宿線の朝ラッシュ時混雑調査結果(下落合→高田馬場、車両ごと層別)
みごとに最後尾の車両が混んでいます。西武新宿の改札は前よりにあることを考えると、この結果を疑問に感じるでしょう(西武新宿のことを考えると先頭車両が混みそうです)。この答えは高田馬場にあります。高田馬場のメインの改札は後ろより(本川越より)にあり、地下鉄東西線との乗りかえもこの改札が便利です。
高田馬場では、西武新宿線と山手線とは平行していますが、地下鉄東西線とはほぼ直角に交わっています。そのため、東西線との乗りかえに便利な改札はこれ以上増やせません。
高田馬場で便利な車両(=最後尾)と西武新宿で便利な車両(=先頭車両)が異なるにも関わらず、後ろよりの車両が混むという傾向から、「高田馬場で降りる人は西武新宿で降りる人よりも多い」という事実に気づかされます。
これを解決するには、西武新宿駅をもう少しJRの駅に近づけることですが、日本で有数の繁華街の新宿に新たに線路を建設することはたいへん難しいでしょう。そのため、現在のままで行くしかありません。やるとしたら、大江戸線の新宿西口との乗りかえを便利にすることです。ただし、これもビジネスの目的地の港区エリアに向かうには都庁前で乗りかえねばならないという現実を目にすると、そこまで良い解決策ではありません(このような人は中井で乗りかえるでしょう)。
今すぐできるのは、下落合などの駅の小さい駅について、ホームの西武新宿よりに屋根を付けることです。私が確認した日は雨が降っていて、ホーム屋根のない西武新宿よりで待つ人が少なかったことが印象に残っています。
朝ラッシュ時のダイヤを考える
写真7. ノロノロ運転は大きな課題
混雑状況から朝ラッシュ時のダイヤを考えてみましょう。真っ先に思い浮かぶのが、各駅停車の減便です。そのぶん準急や急行をスピードアップするのです。各駅停車が混んできたら、空いている先頭車両にある程度シフトし、最後尾車両の混雑はそこまで悪化しないでしょう。
また、通勤急行が空いていることも印象に残りました。これについては、急行への格下げか小平停車にして拝島方面からの接続を取ることが選択肢に入るでしょう。急行への格下げは、川越地区で競合する東武東上線やJR線への完封負けを意味します。とすれば、小平停車が現実的なところでしょう。ただし、現在のダイヤでは接続列車がありませんので、この点も改善が必要です。
逆に、空いていることを生かして、「ゆとりのある遠距離通勤」を演出するのも手です。現在の通勤急行は40000系で運転されています。仮に2ドア車でも何とかなるとすると(鷺ノ宮通過などの小細工は必要です)、40000系から2ドアクロスシートへの置換が可能です。こうすると、夕方の拝島ライナーにも2ドア車を充当することができ、満席御礼の拝島ライナーの座席数を増やすこともできます。
西武新宿線の混雑状況まとめと将来
新型肺炎ウィルスの脅威が語られて以来、だいぶ空いてきた印象の西武新宿線。特に、西武新宿よりの車両は快適通勤というレヴェルに達しているかもしれません。今後は「接触時間の削減」のためにスピードアップが求められるステージに移行しましょう。
スピードアップそのものは鉄道会社側の「労働時間の削減」、「保有車両の削減」にもつながり、会社側にとっても悪い話ではありません。今後は(多くの車両と人員を必要とする)混雑緩和よりも(利用者も会社側も喜ぶ)スピードアップのステージへと移行することでしょう。幸か不幸か、新型肺炎ウィルスの脅威が語られてから混雑が緩和して、客の乗り降りが減っていて、駅の停車時間が短くなっています。このこともスピードアップの助けになるでしょう。
西武新宿線の混雑データ
ここまでは現場での調査結果をベースに分析などをしました。では、公的機関の調査結果を簡潔にまとめた記事はないのでしょうか。そのような声にお応えして、公式のデータをわかりやすく紹介した記事を作成いたしました。他の時間帯の混雑状況の現場調査結果へのリンクもあります。
コメント
西武時刻表を見ると、朝ピーク時、小平で所沢方面からの列車と拝島方面からの列車は接続しません。
もし通勤急行を拝島方面からの列車と接続させると逆に最混雑列車になってしまうのではないでしょうか?
kazuhiroさま、コメントありがとうございます。
確かに時刻表を眺めると、小平でジャストタイミングでの接続とはなっていません。それでも、所沢方面からの各駅停車(から準急)から拝島方面からの急行に乗りかえが可能なダイヤになっていることなど、乗車チャンスを増やす工夫をされていることは読み取れます。
現在の通勤急行は拝島方面からの接続がないばかりか、小平を通過しています。そのため、やけに「空いた」列車になっています。東村山発車時点での混雑を見れば、もう少し状況を整理できるのでしょうが、そのようなデータを持ち合わせておりません。そのため、ご指摘の「拝島方面からの列車と接続させると逆に最混雑列車になってしまう」かどうかは推定いたしかねます。その点は申し訳ございません。
新宿線は準急の方が混んでることあります。
特に鷺ノ宮8:02発と7:43発の準急は新宿線の中でも特に混みます。
ダイヤの都合上、武蔵関から西武柳沢の利用者がこれらに集結してしまう上に、鷺ノ宮で下井草から上井草までの利用者が乗りこんでしまうためです。
りゅーさま、コメントありがとうございます。
鷺ノ宮7:43と8:02の準急(高田馬場7:54と8:14)はご指摘の通り、他の準急よりも混雑しています。私が確認した日はそのような傾向はありませんでしたが、日々利用は変動しますので、日によっては急行よりも準急のほうが混雑する傾向があるのかもしれません。