2015年に発刊された世界の鉄道。非常に簡素な構成であるものの、世界各国の鉄道事情の基本がわかる本です。貴重なデータがまとまっている本書の内容を紹介します。
写真1. 意外とコンパクトにまとまっている本書
どんな人におすすめか
この書籍は万人に受けるものではありません。では、どのような人が読むと良いのでしょうか。私なりにまとめました。
・海外の鉄道にある程度の興味があること
※詳しい必要はありません。詳しい内容は本文を読めば良いですから!
・世界の地理にある程度の知識があること
※詳しい必要はありません。中学のテストで60点レベルで充分です。関連ある地理は解説してくれています。
・そして何よりも鉄道や地理についての知的好奇心があること
世界の鉄道の構成
まず、世界の鉄道の基本情報をまとめます。
・著者:一般社団法人 海外鉄道技術協力協会
・出版社:ダイヤモンド社、ダイヤモンド・ビッグ社
・分量:480ページ
世界各国の鉄道の基本情報について簡潔にまとめられています。確かに、それぞれの国についての詳細な情報は多くの書籍やサイトで得られるでしょう。しかし、やや浅いながらも広くまとめられた書籍はそう多くありません。そのような意味では貴重な書籍です。
本書は以下の構成になっています。
Ⅰ アジア&オセアニア
Ⅱ ヨーロッパ
Ⅲ ロシア&周辺国
Ⅳ アフリカ
Ⅴ 南北アメリカ
各国の鉄道事情についてまとめられていますが、それでは探しにくいということなのか、地域別にまとめられています。一般的な地理区分としており、常識的に探すぶんには苦労しません。
ただし、バルト三国(エストニア、ラトビアとリトアニア、いずれも旧ソビエト連邦)が「ロシア&周辺国」ではなく、ヨーロッパの章に入っていたり(※)、国土がヨーロッパにもかかっているトルコがアジアだったりと、やや紛らわしい部分はあります。まあ、この程度であれば、「そうだったな」と納得できる範囲です。
※もともとソビエト連邦に加盟していましたが、真っ先に独立したり、現在はEUに加盟しているという事実を踏まえたと想像しています。
また、鉄道がある140か国の基本的なデータのほかに、いくつかのコラムがあり、ただのデータ集に終わらない工夫もあります。
世界の鉄道の内容
では、各国のページはどのような構成になっているのでしょうか。見開き2ページに収納されているリトアニアを例に見てみましょう。
写真2. リトアニアのページ
リトアニアは2ページにまとまっています。鉄道が発達した国はそれに合わせて分量も調整されています。例えば、ドイツは6ページが割かれています。
話をリトアニアに戻しましょう!国の紹介が書かれて、その後に鉄道の主要データ、運営組織、鉄道の歴史、鉄道の特徴と開発計画が記されています。
各項目について何が書かれているかまとめましょう。
・国のあらまし
リトアニアという国の概要について書かれています。日本人の鉄道ファンになじみがない国がある以上、このような説明があったほうが親切ですね。ここの説明が少ないと思う人はいるでしょうが、この書籍は鉄道本であり、国の紹介本ではありません!
・鉄道の主要データ
数字にまとめることができるデータがまとめられています。創業、営業キロ、軌間別、電化キロ、右側/左側通行、年間旅客輸送量、年間貨物輸送量、車両数がまとめられています。
単に営業キロや電化キロがまとめられているだけではありません。電化・非電化や単線・複線のわかる路線図も示されています。私のような末期症状の人はこの地図だけで時間が経過してしまいます。
・鉄道の歴史
リトアニアの鉄道がどのように発達してきたのかがまとめられています。リトアニアの場合は帝政ロシア時代に鉄道が発達したと述べられています。よくまとめられていると感じましたが、クライペダ地区はドイツ帝国時代に建設されたことを無視しているのは不親切だと思うよ!(※)
※クライペダ地区は第一次世界大戦前はロシア帝国ではなく、ドイツ帝国にありました。ドイツ帝国のメーメルですね。
・鉄道の特徴と開発計画
リトアニアの鉄道の現状が記されています。旅客列車の特徴や貨物列車の特徴がわかるようになっています。国によっては旅客鉄道がないところもありますので、そのような国についてはその旨が書かれています。
開発計画は将来の建設計画のことです。リトアニアではRail Baltica計画に触れられています。ヘルシンキからワルシャワまでの160km/hの鉄道計画です。
人間味あふれるコラム
本書は各国の鉄道の概要を広くまとめられていますが、それだけでは味気ないです。その味気のなさを補うためか、コラムがあります。
コラムには以下のものがあります。
(アジア)
・ダージリン山岳鉄道
・アジアで活躍する日本製の再生車両
・「ザ・ガン号」
(ヨーロッパ)
・EUの上下分離政策と鉄道運営の特徴
(ロシア&周辺国)
・ユーラシア・ランドブリッジ
・シベリア急行の旅
(アフリカ)
・ロボスレイルの旅
(南北アメリカ)
・アンディアン・エクスプローラー
EUの上下分離政策と鉄道運営の特徴はきちんとしたコラムであり、知識はつきますがあまり興味深いものではありません。しかし、ダージリン山岳鉄道は実際の訪問記ですので、とても面白いです。だいたい乗り遅れたところから描写が始まる書籍はそう多くないでしょう。
世界の鉄道の全体的な感想
世界の鉄道は基本的に「広く浅く網羅する」ための本です。しかし、鉄道がある国の電化区間や複線区間が網羅されている路線図は力作だと思います。鉄道がない国の実態も含めて調査されているのです。これは貴重な資料です。
私といえども、全ての国の鉄道に興味があるわけではありません。しかし、興味の芽は意外なところから誕生するものです。インターネットにはなく、書籍にある特徴といえば、興味の芽が生え、興味が広がることです。世界の鉄道をきっかけにして、皆さんの興味が広がってほしいと思います。
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また、この記述だけでは不足と感じた人もいることでしょう。そのような人は、世界の鉄道調査録をご覧いただくと、実態に触れることができることでしょう。この書籍のレビューも書いています。以下の記事をご覧ください!
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