首都圏鉄道事情大研究の概要と感想(書評)

鉄道アナリストとして有名な川島令三氏。相鉄-JR直通を機に鉄道本を3冊執筆しました。どのような内容なのでしょうか。3冊を通して読んだ感想を概要とともにまとめています。

首都圏鉄道事情大研究

写真1. 首都圏鉄道事情大研究は3冊!

首都圏鉄道事情大研究の書評のまとめ

以下、長い記事を読みたくない人のために、簡単に内容と感想を記します。

・ライバル鉄道篇、将来篇、観光篇の3分冊である
・それぞれ巻頭に特集があり、その後は首都圏の各路線の分析である
・各路線の分析は重さが異なるものの、配線紹介に重きが置かれてる
・各路線の分析よりも、巻頭特集のほうが見どころは多い

首都圏鉄道事情大研究の基本情報

では、首都圏鉄道事情大研究はどのような本なのでしょうか。概要を以下に示します。

・著者:川島令三
・出版:草思社
・分量:827ページ(3冊合計)

首都圏の路線はとても多いですので、1冊には収まらず、3冊に分けられての記述です。たとえば、横須賀線はライバル鉄道篇に、地下鉄千代田線は将来篇に、東海道線は観光篇にそれぞれ分けられての収録です。各路線の分析が主要な内容ですが、巻頭には特集があります。その特集の内容が「ライバル鉄道」に関するものだったり、「将来」に関するものだったり、「観光」に関するものだったりします。そのため、3冊にわざわざ○○篇と名づけられているのでしょう。

基本的には鉄道ファンが読むべき本です(鉄道ファンが必ず読む本ということではなく、読者の想定が鉄道ファンに向いているという意味です)。川島氏らしく、配線に重きを置いた本になっています。首都圏の各路線の現状を把握するには(彼らしい偏りがあるものの)、それなりにまとまっている書籍です。

中央線E231系(新宿)

写真2. 中央線も各駅停車は収録されている

首都圏鉄道事情大研究の詳細な内容と感想

首都圏鉄道事情大研究は3冊に分かれていますので、各冊の内容と感想を述べることにします。私らしく、気になる記述を見つけて、それにコメントする形態としましょう。

首都圏鉄道事情大研究:ライバル鉄道篇の内容と感想

ライバル鉄道篇では、首都圏の「ライバル鉄道」でくくられる路線を収録しています。29路線を収録(西武新宿線系は1路線でカウント)しています。余談ですが、3冊いずれからも省略されている路線(東急多摩川線や東急池上線、関東鉄道)もあり、油断できませんね。

まずは、簡単な目次を示しましょう。

ライバル鉄道篇の内容

パート1:テーマ別総点検

テーマ別に総論的に書かれています。川島先生らしい視点が入ったものです。

・新線開通や新列車の設定でライバル構図が大きく変わってしまう
・普通と各停とは種別が違う
・快速と準急はどっちが速い?

という内容で10項目が記されています。各項目で5ページ前後の記述です。

パート2:区間別「ライバル鉄道」分析

ライバル鉄道といわれる路線を比較しています。本書では以下の7区間が選ばれています。

・京浜急行 VS 東京モノレール
・東横線 VS 湘南新宿ライン
・小田急 VS 湘南新宿ライン
・小田急多摩線 VS 京王相模原線
・京王線 VS 中央線
・スカイアクセス VS JR成田線
・京成 VS JR

それぞれの区間について料金や所要時間を示していて、川島氏らしい提言も込みで評価されています。

パート3:各線徹底分析

「ライバル鉄道」というべき路線について徹底的に分析されています(やや甘い箇所があるようにも見えますが)。29路線が収録されています。

それぞれの路線について、以下の内容に触れています。

・起点から終点までの簡単な配線に関する内容
・乗客の流れ(昔から川島氏の著書にはこれがあります)
・混雑率と混雑時間帯
・時間帯別ダイヤ概論

路線によって異なりますが、おおむね5~10ページ前後でまとまっています。

ライバル鉄道篇の感想

感じたのは、「内容が薄い」というものです。別の表現をすると、スルスルと読めます。川島氏は乗客の流れや混雑について重視しており、一律の定員(直通している地下鉄半蔵門線と東急田園都市線で、ラッシュ時の1両の定員が異なる)を定義し、統一した基準で混雑率を算出し直しています。車両に関する内容はほどんどなく、輸送手段としての機能を重要視していることがわかります。

ライバル鉄道であるJRと京急の比較の記述がないことも気になります。JRと京急は品川-横浜で並走しており、駅の位置も近かったりと、ライバル鉄道にふさわしいものがあります。特に、京浜東北線の「高輪ゲートウェイ」が開業し、ライバル区間が高輪ゲートウェイ(京急は泉岳寺)-横浜まで拡大するという側面があり、特集するにはちょうど良いタイミングです。

ライバル鉄道分析でもそこまで踏み込んだ記述がなかったのは残念です。所要時間と運賃・料金に関する記述があるだけです(運転本数の記述もありますが)。ただし、京王線関係は別で記述が多いです。これは、川島氏が多摩ニュータウン地区に住んでいたり、四方津在住(=高尾-新宿は京王利用)という背景があるので、京王電鉄に慣れ親しんでいるためです。

横須賀線の混雑の記述で「湘南新宿ラインの輸送力をカウントするかどうかが明らかではない」と書いています。このような視点に達することができるのは、さすが川島氏と尊敬するところです。一方、その真偽について探ろうとしていません。これは朝ラッシュ時の品川駅に立って、混雑を観察すればわかることです。それをしないのはどうかしています。現実に品川駅に立ってみると、公式の混雑率よりかなり低いことに気づかされています。つまり、湘南新宿ラインは輸送量としてはカウントしても、輸送力としてはカウントしていないと推定できます。そのような「裏を取る」行動をとってほしかったです。

中央線の将来の記述で、ホームドアについて触れています。中央線(快速)のホームドアは一般的に設置できないと思われています(特急と快速のドアの位置が違う)。しかし、解決策があります。それは、ロープ式ホームドアの採用です。これはなるほどと思いました。

京急、京王、中央線などは記述が多く、西武多摩川線は記述が少ないです。このあたりの記述量のかたよりは川島氏らしいです(以前の著書もこんなものでした)。

京王の準特急と併走する

写真3. まさにライバルの小田急と京王(小田急の急行から京王の準特急を撮影)

首都圏鉄道事情大研究:将来篇の内容と感想

3冊の2冊めです。将来篇では、将来的な姿が収録されています。開業が比較的新しい路線が収録されています。収録されている路線は34路線とかなり多いです。顔ぶれは都心を通る路線と、首都圏の外郭部を通る路線です。
まずは、簡単な目次を示しましょう。

将来篇の内容

パート1:テーマ別総点検

テーマ別に総論的に書かれています。川島先生らしい視点が入ったものです。

・相鉄・JR直通線開業
・着工した芳賀・宇都宮LRT
・新交通システムとはどんな鉄道か

という内容で14項目が記されています。各項目で5ページ前後の記述です。

パート2:「新線計画」分析

これこそ将来篇といえる神髄の内容です。

多くの首都圏の新線について言及しています。多摩都市モノレールの導入空間の見込みの洞察の深さは目を見張るものがあります。やはり川島氏。新しい路線についてのお話は大好きです。きっと、現場で確認したのでしょう(彼はテレビ番組で「お台場から桜木町まで歩いたことがある」と豪語していました)。

パート3:各線徹底分析

都心の路線、開業の新しい路線、外環状線的路線(武蔵野線など)について触れています。

それぞれの路線について、以下の内容に触れています。

・起点から終点までの簡単な配線に関する内容
・乗客の流れ(昔から川島氏の著書にはこれがあります)
・混雑率と混雑時間帯
・時間帯別ダイヤ概論

路線によって異なりますが、おおむね5~10ページ前後でまとまっています。

東武8000系と10030系(柏)

写真4. 急行の運転が拡大した東武アーバンパークライン

将来篇の感想

あまり関心のない路線が多かったのでしょう。パート3の記述は全体的に薄かったです。ただし、読者は気を抜けません。丸ノ内線の記述では、川島節が炸裂しています。

例1. 両側ホームにしたのは営団地下鉄にとっては大英断だった。(p167)

例2. (2000系の正面デザインについての記述で)筆者にとっては胃カメラ、内視鏡の先端みたいに思えてならない(p171)

例1はいわゆるオヤジギャク、例2は川島節によるデザイン批評と読み取れました。ここまで読み取る私は一体何なのでしょう…。

個人的になるほどと思ったのは、以下の2つです。

特定の定期比率に関する記述。新線開業から街の成熟につれての定期比率について書いています(p37)。確かに街が成熟すると、定期比率は下がりますね。

首都圏の新線に関する記述。断片的な情報については知ることは容易ですが、意外とまとまったものはありません。よくまとまっていますし、(一部の路線ですが)読みごたえがありました。

有楽町線と副都心線の小竹向原の構造については、著書では必ず取り上げられています。立体交差の意味を力説しています。そして、必ず出る新幹線大宮駅の記述もセットです。

小竹向原で急行森林公園行きと各停和光市行きが接続

写真5. 小竹向原で接続する副都心線と有楽町線

首都圏鉄道事情大研究:観光篇の内容と感想

3冊の3冊めです。3分冊のうち、観光篇は時期をずらして発行されました。首都圏でも観光地があり、そこへのアクセスが中心の内容になっています。観光というキーワードは川島氏らしくない気もしますが、近年増えてきた「インバウンド需要」のことも念頭にあったのでしょう。

本書では、観光路線30路線が収録されています。小田急線や東海道線といった顔ぶれです。小田急線のどこが観光路線?と聞く人も多いでしょう。箱根へのアクセス路線なので、観光路線という扱いです。「観光篇」に都電荒川線が掲載されていますが、これも納得できる理由がありました。

将来篇の内容

パート1:テーマ別総点検

テーマ別に総論的に書かれています。川島先生らしい視点が入ったものです。

・私鉄の特急は停車駅を増やし、JR特急は減らす傾向にある
・スピードアップはしている
・「ロマンスカー」を最初に名乗ったのは京阪電鉄

という内容で7項目が記されています。各項目で5ページ前後の記述です。

パート2:観光地への交通事情

観光地へのアクセスについて、個別に述べています。総論よりも個別論のほうが筆が乗る川島氏ですので、ここは見ものです。

・行楽期には通勤ラッシュ並みの混雑になる江の島・鎌倉地区
・老舗の観光地、箱根への足は結構多い

このような具合で伊豆、秩父、日光・鬼怒川、房総が収録されています。それぞれの観光地のアクセス手段について、現状分析と川島氏の提言が光ります。
パート3:各線徹底分析

観光地に向かう路線の分析がなされています。観光地は東京から遠い場所にありますから、収録されている路線は長距離路線が多いです。ディズニーリゾートラインは短距離路線ですが、着ぐるみに会うための観光路線ですね。

それぞれの路線について、以下の内容に触れています。

・起点から終点までの簡単な配線に関する内容
・乗客の流れ(昔から川島氏の著書にはこれがあります)
・混雑率と混雑時間帯
・時間帯別ダイヤ概論

路線によって異なりますが、おおむね5~10ページ前後でまとまっています。

小田急70000形GSE(代々木八幡)

写真6. 小田急ロマンスカーのフラッグシップ、GSE

観光篇の感想

観光地へ向かうということもあり、テーマ1は特急列車に関する記述が多く見られます。ただし、きちんと「転換クロスシート車」についての記述もあり、さりげなく転換クロスシートを奨励していました。これは川島氏の基本的な思想です。

都電荒川線は都内観光という側面から取り上げられています。ウィーンのように有料の観光電車を導入という考えは、なかなか思い浮かびませんでした。一枚上手でした。ただし、リントラムではなく、リントラムですよ(ドイツ語では、ringはリンクと発音するのです)。川島氏はドイツ語を勉強すべきでしょうね!

バーデン線:オパー

写真7. リンクトラムに似た車体のバーデン線(ウィーンの私鉄です)

御殿場線の記述で「全車ロングシート」と書かれていますが、一部の電車はクロスシートを採用しています(ボックス車ですが)。

東海道線、宇都宮線(東北線)、小田急小田原線の記述には気合が入っています。特に、小田急小田原線の下北沢付近の地下化は「余計なこと」について述べていて、興味深いです。気になったら101ページと102ページをご覧ください。

ディズニーリゾートラインの通学定期の内容といい、トリビア的な知識も多く、全体的に(やや浅い記述が多い気もしますが)スラスラと読み進めることができました。

全体的な感想

これは川島氏の責任ではないと思いますが、全般的に(文章ではなくレイアウトが)読みにくいと感じました。数字やデータを扱うのであれば、縦書きではなく、横書きにすることは必須です。また、各線の混雑率は表(混雑時間帯、混雑区間、混雑率)にしたほうが見やすいです。

私が川島氏の立場であれば、各線徹底分析の項目を増量し、地域別(神奈川方面、千葉方面、埼玉方面、多摩方面、都心・臨海)とすることでしょう。そのうえで、テーマ別の巻頭特集を組みます。とはいえ、「深く」すると間口が狭くなり、商業ベースに乗らないことでしょう。

内容が浅いということも述べましたが、これは私が「深すぎる」記述を求めてしまったからです(弊ブログを読んでもらえばこれがよくわかるでしょう)。首都圏各線の現状を広く浅く把握するうえでは、手元に用意する1冊です。

現在、大型書店は営業を「自粛」しています。それならば、インターネットで買い求めても良いでしょう。1冊ごとに買うのも良いですが、3冊まとめて買うとより理解が深まります(Amazonへのリンクでは3冊まとめて購入できます、その際はライバル鉄道篇将来篇観光篇どこからでも可能です)。

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