小田急を知りたいの人ための本:鉄道ピクトリアル臨時増刊号【特集】小田急電鉄の書評(レビュー)

記事上部注釈
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ファンの間に人気が高い小田急電鉄。その小田急電鉄の趣味的な内容の全てが詰まった鉄道ピクトリアルの臨時増刊号の【特集】小田急電鉄。衝動的に買いましたが、とても良い内容でした。その詳細をレビューします。

写真1. 表紙は人気の70000形GSE

鉄道ピクトリアル臨時増刊号【特集】小田急電鉄の想定読者

よくある「小田急のことが何でもわかる本」というような広くて浅い書籍では満足できず、「より深く小田急電鉄のことを知りたいんだ」と感じている人におすすめです。

・基本的なことはわかっているから、マニアックなことを知りたい!

・実際の職員さん側からの視点でどのように考えているのかを知りたい

このようなことを考えている私のような人にとっては非常に価値のある書籍でした。

鉄道ピクトリアル臨時増刊号 【特集】小田急電鉄

鉄道ピクトリアル臨時増刊号【特集】小田急電鉄の概要

・編集人・発行人:今津直久

・出版社:電気車研究会

・分量:322ページ

最初に小田急電鉄沿線風景と車両という感じの巻頭グラビアがあり、その後に詳細な内容に入ります。とっつきやすいところからだんだん深い内容に入っていく構成です。

本文は以下の内容です。本記事では便宜的に2つの部門に分けています。小田急電鉄側によって現在の姿を深掘りし、ファンによって過去の特定の状態を深掘りする構成と理解できます。

会社による現在の姿の詳細な内容

小田急電鉄の会社側の人がさまざまな部門について記しています。ファンが外から見るのではなく、鉄道会社が中から見るという貴重な項目です。

・総説:小田急電鉄

・対談 小田急電鉄の鉄道事業を語る

・営業設備とサービス

・輸送と運転 近年の動向

・乗務区、駅務のあらまし

・車両総説

・GSE70000形の構想からデビューまで

・信号保安・通信設備の概要

・運輸司令所の業務と役割

・車両区・検車区の概要

・線路と保線

・電力・変電設備の概要

ファンが見る詳細な視点

とはいえ、小田急電鉄という会社側の視点は現在のものに限られてしまいます。そこで、多くのファンが特定のテーマについて深堀りした内容を投稿しています。

以下の内容は昔の写真などの貴重な記録が掘り起こされています。

・川島常雄氏が見た往年の小田急光景

・小田急1900系の履歴

・小田急想い出の行楽臨時列車

・1970~1980年代 興味ある運転のシーン

・イコライザーからエアサスに至る台車の変遷

・小田急1600形の残影-近江200・220形の履歴を探る

・坂戸直輝 戦前・戦後の日記から往時の小田急を読み解く

・小田急電鉄 列車運転の変遷とその興味

・1978年 小田急⇔営団地下鉄千代田線 乗入れ開始の頃の思い出

・1980年代 小田急通勤形車両

・橋上駅舎時代の相模大野駅

・地方私鉄で活躍する元小田急の車両

・思い出の小田急カラー

・運用面から見るデハ1300形

・小田急電鉄 ホームに残る古レール柱のバラエティ

・複々線化進展による江ノ島線への波及効果

スペシャルデータベース:小田急電鉄車両プロフィール&データファイル

多くのファンにとっての興味があるのは車両動向です。その車両動向の前提知識の全車両データベースが掲載されています。車両動向を追うのに必須の前提知識をここで学ぶことができます。

私ですか?車両動向を追っていませんから、そんな知識は必要ありません(このようなファンは少数派でしょう。)

以下の内容を記しています。

・車両概説

・現有系列 概説

・諸元表

・小田急電鉄 現有車両車歴表

鉄道ピクトリアル臨時増刊号【特集】小田急電鉄の内容

さて、どのような内容が書いているのでしょうか。上記28の章について要約を書いても飽きるだけでしょう。そのため、私が印象に残った4つの章を取り上げ、感想を記しましょう。

輸送と運転 近年の動向

写真2. 2018年ダイヤ改正後の運行形態(小田急公式発表資料と同じなので使いまわし?)

本書の34ページから46ページにかけて合計13ページに渡る大作です。小田急電鉄の交通サービス事業本部 運転車両部の課長さんが執筆しています。いうまでもなく、運転に携わるプロフェッショナルが書かれている信頼性の非常に高い情報です。

最初に線区・主要駅の特徴を紹介し、次に直通運転の状況を紹介しています。これらは輸送の詳細を語るうえで重要な前提知識ですので、欠かせません。逆にいうと、小田急線のことをそこまで深く知らなくとも、本文のことを理解することができます。

複々線化の進展にともなう主要なダイヤ改正を取り上げ、その後に複々線化完成後のダイヤを詳しく紹介しています。複々線化後のダイヤはとても良く考えられていると思いますが、そのポイントを語っています。

・(複々線完成時のダイヤ改正の)議論の起点は2005年まで遡る。

・ベストダイヤの議論で導き出された各種施策は、2018年以前の各ダイヤ改正に反映されたものも多い

・日中時間帯の千代田線直通列車は(中略)直通利用客の多い千歳船橋、祖師ヶ谷大蔵、狛江を加えた準急となっている。(中略)長距離列車で遅延が発生した場合にも千代田線に遅延を波及しにくく、反対に千代田線で遅延が発生した場合でも長距離列車への影響を最小限とする効果を発揮する。

・新百合ヶ丘の小田原・藤沢方面行き列車の使用番線を複々線前の2線から3線使用に拡大することで、(中略)遅延防止に大きな効果を発揮している。

引用元:本書41~45ページの記述から

複々線化後のダイヤは2005年から議論が開始され、2011年からはその議論が本格化しています。そうでなければ、朝ラッシュ時の上りの通勤準急や通勤急行のようなオペレーションは実現しなかったでしょう。

また、この議論で導き出された施策が2018年以前に反映されたとあります。その象徴的な例が複々線前の2016年ダイヤ改正での日中時間帯の快速急行の大増発でしょう。それまでは快速急行が1時間に3本の運転だったのが、毎時6本の運転となりました。

また、複々線化後のダイヤでは、千代田線直通の急行を新宿発着に振り替え、新たに千代田線直通の準急を設定しました。これには賛否両論ありました。この施策の意味(千代田線志向は近距離客が多いことと遅延防止)を再確認できました。

このようにファンの推定が確信に至る意味で「輸送と運転 近年の動向」は大変意義のある記述でした。

この項目をさらにファンが深掘りした内容も別項目にあり、「小田急電鉄 列車運転の変遷とその興味」が本書の144ページから171ページの28ページにかなり詳しく書かれています。その深掘りぶりはさすがファンというしかありません。この項目も合わせて読むと小田急のダイヤの奥深さを実感できましょう。

GSE70000形の構想からデビューまで

写真3. 小田急ロマンスカーのポジショニングマップも引用されている

現在の小田急のフラッグシップトレインといえば70000形でしょうが、その70000形の設計思想を詳細に書いています。多くある書籍では、表面的な特徴こそ書いていますが、深掘りした内容は書いていません。実際に設計した人が書いたこともあり、その詳しさや信ぴょう性は侮れません。

コンセプト策定→基本仕様の決定→詳細設計と製造と段階を分けて記されています。

車両に限らず、何か新しいことを行う際はコンセプトの策定から行います。そのコンセプト策定の経過から書かれている書籍はそうないでしょう。ロマンスカーのポジショニングマップも示されています。また、基本仕様の決定の項目では、比較検討されていた分割・併合仕様との比較もなされています。

そのほか、展望席の工夫も詳細に書かれていて、小田急にある程度の関心がある人にとっては、必見の内容と思いました。

運輸司令所の業務と役割

写真4. 運輸司令所の様子

この項目は5ページしかないものの、普段知ることのできない司令所(指令所と表記する鉄道会社もあります)の業務の実態をしることができます。ややクセのある文章のような気もしますが、私はそこも含めて気に入っています。

印象に残った部分を引用します。

運輸司令所の所属員は(中略)"プロ集団"で形成されていた。その一方、(中略)職場間の連携という観点では若干の課題を認識していたため(中略)組織改革に取り組んだ。(中略)幅広い年齢層・出身職場が従事するようになり、他部署への連携強化が図られるようになった。

引用元:本書76ページの記述から

司令所は運転士や車掌の経験がなければ、適格な指示ができないでしょう。そのような意味ではプロ集団であることは自然な流れです。とはいえ、プロ集団の部署に話をするのはなかなか敷居が高いでしょう。この点を認識していたのか、さまざまな部署の人を司令室に取りこむようにしたエピソードが描かれています。

他部署出身の人がいるだけで連携強化ができるのか、という疑問を感じる人もいるでしょう。ご自身の所属する組織に置き換えて考えてください。他部署であっても、もともと自部署にいた人であれば話をしやすいです。そのようなことをここでは書かれているのでしょう。

運輸司令所の業務はあくまでも、関係職場に指示をするというものである。(中略)何よりも大切なのは係員相互間の連携であり、これがうまくいかなければお客さまにご迷惑をおかけすることにもつながりかねない。そのため、(中略)社内マニュアルを定め、運輸司令所だけでなく、新人乗務員・信号取扱者等にこのマニュアルの教育を行い、有事の際に各職場が「ONE TEAM」で対応できる体制を整えている。

引用元:本書77~78ページの記述から

先の職場間の連携につながることでしょうが、この方は他部署との連絡などで苦労された経験があるのでしょうか。そんなことが伝わる文章です。このような本音は実際に業務に当たられた方ならでは視点です。プロ集団やONE TEAMなど、ちょっとアクのある文章ですね(私はこのような文章は好きです)。

このように司令所の業務について書かれたあとに、1日の流れが書かれています。私が印象に残ったのは、16:20の内容です。

【16:20】

所内のアラームが鳴り、「炊飯タイマー」と声がかかる。過去、昼に仕掛けた炊飯器のタイマーがかかっておらず、所員が絶望したことがあったらしく、それ以来の再発防止策だ。17時過ぎから順次夕食へ。

引用元:本書78ページの記述から

指令所勤務は24時間シフトです(仮眠の時間があります)。この24時間シフト中は基本的に外に出ません。夕飯はおかずのみ持参、米は格安スーパーで購入しています。その夕飯の主食の米を炊くことを忘れないような工夫です。

どの職場にも何かしらのローカルルールはあるものです。このようなローカルルールを書いていて、人間味を感じさせました。私の職場のローカルルールは何かあるのかな?

運輸司令所のメンバーが常に見ているもの、それは55インチ×23枚のパネルに映し出される全線の列車在線状況が確認できる運行監視盤である。係員との会話は無線や電話を通じてのみだ。(中略)かつての運転司令所長はメンバーにこう言ったという。

運行監視盤の先を見よう!

運輸司令所の所属員が直接お客さまに接することはない。しかしながら、メンバーが行う運転整理や情報提供を基に、駅係員や乗務員が動き、お客さまへのサービスに変わっていく。(中略)皆でお客さまの期待に応えていこうというメッセージであった。

(中略)

運輸司令所をはじめとする鉄道従事員はその使命を果たすべく、今日も自らの職場にてその職責を全うする。

引用元:本書80ページの記述から

最後にこのように締めくくられています。物理的に他部署や我々乗客と隔離されている一方、自らの判断で列車運行状況が変わり、乗客へのサービスが変わってしまうという責任の重さを痛感している様子が伝わります。

きれいに締まっています。全体的に玄人受けする章だったと思います。

複々線化進展による江ノ島線への波及効果

写真5. 江ノ島線のダイヤについて書かれている

複々線化の進展で江ノ島線利用者的にはどのような変化があったのかを書いてくれています。

1) 日中の下り線パターン

2) 平日夜間混雑時の下り線パターン

3) 平日朝混雑時間帯の藤沢発の上り線パターン

4) 両駅とも急行が通過する善行-狛江の移動パターン

このような虫の視点がファンならではです。4)のパターンは筆者さんがよく使っていた移動パターンだったため、取り上げられています。

小田急(に限らずどの鉄道会社もそうですが)側の発表はターミナル駅から主要駅の移動パターンに限られることが多いです。しかし、実際の移動パターンはこればかりでありません。小さな駅から小さな駅への移動パターンも思いかけず多いものです。その1例でどのように改善されてきたかも書かれています。

このような移動パターンのことを考えると、登戸の快速急行停車は意外な効果があることを実感させられます。他の記事もそうですが、このような造形の深いファンによる考察記事が鉄道ピクトリアルの魅力でしょう。

鉄道ピクトリアル臨時増刊号【特集】小田急電鉄の書評まとめ

鉄道会社による本音の内容と、造形の深いファンによる考察記事のコラボレーション。小田急電鉄にそれなりの興味を持っていれば、どこかピンとする内容があります。

また、車両動向を知る上での基礎データも充実しています。2400円とやや高価な値段ですが、向こう5年は楽しめる内容です。すると、月に12円支払うのと同じです。そう考えると、買ってみるのも手です。また、最寄りの書店にないかもしれませんので、以下のリンクから手に入れるのも手です。

また、小田急電鉄の時刻表を持っているとよりスムーズに本書を読めるでしょう。

小田急時刻表を買うのも便利です!小田急時刻表を売っている書店は少ないので、以下のリンク先から購入するのも手です。

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