東急東横線のバイパス路線として認識されている東急目黒線。どちらかというと地味な印象ですが、それでも地下鉄2路線と直通し、それなりに利用がある路線でもあります。相鉄直通を控えた今、朝ラッシュ時の混雑を現地で確認しました。
写真1. 朝の目黒駅の光景
東急目黒線の朝ラッシュ時の混雑状況のまとめ
以下、本文の要約です。詳細は次以降の章をご覧ください。
・混雑率はだいたい113%である
※新型肺炎ウィルスの脅威が語られる前より37%程度減少している
・混雑のピークは7:45~8:44であるが、この前後5分も同様の混雑である
・急行は各駅停車より格段に混んでいる
※目黒に近い武蔵小山で待ち合わせるためでしょう
・南北線直通と三田線直通でそう混雑は変わらない
・4号車がやや空いていて、1号車(先頭車両)がやや混んでいる。三田線直通のほうがこの傾向が強い
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
弊サイトでは混雑ポイントという概念を導入しております。その概要を示します(表1)。
表1. 混雑ポイントの概要
せっかくなので、120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。
写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
今回は最混雑区間である不動前→目黒の状況を確認しました。不動前までの各駅で乗客を乗せて、目黒で山手線への乗りかえ客などが降りるので、ここが最混雑区間なのです。
また、データ処理の際は、弊サイトの指標である混雑ポイントから一般的な混雑率に変換して計算しています。
東急目黒線の混雑状況の生データ
写真5. 目黒の隣は不動前
まず、対象時間帯の全列車の各車両の混雑状況の生データを示します(表2)。
表2. 東急目黒線朝ラッシュ時の混雑状況(不動前→目黒、生データ)
単純には混雑率110%程度で、そこまで混んでいません。そして、急行が混んでいて、各駅停車が空いている傾向が読み取れます。
次の章で、混雑状況を分析します。
東急目黒線の混雑状況の分析
生データだけ示しておしまい、というのは不親切です。優しい人格者である私はそれでは終わらせません。そこで、私なりに混雑状況を分析します。
写真6. ホームの端部は工事が実施中(8両編成対応工事)
確認:朝ラッシュ時の東急目黒線ダイヤ
鉄道の混雑は鉄道ダイヤに密接に関わっています。そこで、朝ラッシュ時の東急目黒線のダイヤについて簡単に紹介します。
東急目黒線は目黒-日吉の運転系統を指すものですが、都心側は目黒発着ではありません。その先の地下鉄南北線と都営三田線に直通します。地下鉄側は目黒から都心側2つめの白金高輪まで線路を共有しています(※)。白金高輪から永田町方面の地下鉄南北線と、大手町方面の都営三田線に分かれます。このようにして、東急目黒線は地下鉄2路線と直通しているのです。
※難しく考えると、東京メトロが施設を所有していて、都営地下鉄は第2種鉄道事業者です。しかし、利用者的にはここが東京メトロか都営地下鉄かは「都合良い」ほうに解釈するだけです。(三田以遠の)三田線の各駅を利用する際は、都営地下鉄として、(麻布十番以遠の)南北線の各駅を利用する際は、東京メトロとしてとらえれば良いだけです。
東急目黒線は基本的には2分30秒間隔で運転されています。2分30秒というと中途半端に見えますが、2倍すると5分です。いいかえると、5分に2本の運転です。そのうち1本は急行で、もう1本は各駅停車です。その2分30秒間隔の電車は(だいたい)半数が地下鉄南北線に、もう(だいたい)半数は都営三田線に直通します。
東急目黒線は急行が各駅停車を追い抜きますが、この追い抜き駅は武蔵小山しかありません。武蔵小山は目黒から2つしか離れていません。目黒に近いところで追い抜くと、理論上は不動前以外の乗客は急行に集中し、各駅停車は不動前の乗客しか乗りません。これではアンバランスです。
そこで、ラッシュ時ピークを中心に、武蔵小山で別系統の各駅停車が急行を待ち合わせることにしています。つまり、以下の待ち合わせが行われます。
(パターンA):(三田線直通急行)-(南北線直通各駅停車)
(パターンB):(南北線直通急行)-(三田線直通各駅停車)
こうすれば、パターンAの場合は、南北線に向かいたい人はそのまま各駅停車を利用し、急行への乗りかえは避けられます。パターンBも同様です。
とはいえ、どうしてもこの通りの待ち合わせにならない場合もあります。
混雑時間帯60分の推定
朝ラッシュ時の混雑は最も混んでいる60分を抽出することが基本です。では、まずは、最混雑時間帯60分を推定しましょう。
表3. 東急目黒線朝ラッシュ時の混雑状況(不動前→目黒、最混雑60分の推定)
ここでは7:40~7:49、7:50~7:59のように10分ごとの混雑状況を集計しています。7:40~8:49の間ではそこまで混雑状況に差はありませんが、8:50以降はやや混雑がゆるいです。そこで、最混雑60分間は、この間にあると推定できます。
7:40~8:39の混雑率が112.4%、7:50~8:49の混雑率が113.2%と大きな差はありません。正規分布に従うという仮定をベースとした統計学が教えるところによりますと、このような場合は、この中間の値を調べたほうが良いとされます。その教え:にしたがって、7:45~8:44の混雑率を算出すると113.0%でした。この3つの時間帯で特に差はありません。
つまり、7:40~8:49のどの60分で抽出しても同様の混雑であるということです。そこで、今回はその中間の7:45~8:44の60分間が混雑のピークと扱うことにしました。国土交通省発表の資料では7:50~8:50とされていますが、実情をみるとそう大きな違いはありません。
種別と直通先による混雑の差
東急目黒線は目黒から先、地下鉄南北線と都営三田線に直通し、永田町や大手町に直通します。素人目には、ビジネス街を通る都営三田線直通のほうが混みそうに思えますがどうなのでしょうか。
また、東急目黒線では急行と各駅停車が走っています。目黒に近い武蔵小山で各駅停車は急行に抜かされます。そのため、急行が混むようにも思えますが、どうなのでしょうか。
以上、2つの疑問が誰しも思い浮かべることでしょう。そこで、その疑問にしたがい、混雑状況を分析しました(表4)。
表4. 東急目黒線朝ラッシュ時の混雑状況(不動前→目黒、最混雑60分の種別と直通先混雑)
急行は各駅停車より混んでいます。混雑の均等化のために、武蔵小杉で接続する急行と各駅停車で直通先を変えているとはいえ、目黒まで急ぐ人はどうしても急行を選んでしまいます。また、ダイヤの都合で南北線直通どうしが接続する場面があります(7:50着の急行と7:53着の各駅停車)。このような場面では急行と各駅停車の混雑は大きく開いてしまいます。
また、急行に乗ると、白金高輪で始発に接続することもあります。例えば、8:20と8:26の急行はいずれも南北線直通ですが、白金高輪で始発の三田線に接続します。となると、三田線沿線に向かう人でも急ぐ人は南北線直通の急行に乗ることでしょう。いくら東急が配慮していても東京メトロや都営地下鉄のほうで接続電車を用意(※)してたら、利用客は急行に流れます。
※朝ラッシュ時の南北線や三田線は5分間隔では足りません。5分間隔では不足するぶんについては白金高輪始発が設定されることそのものはやむを得ません。
一方で、南北線直通と三田線直通では混雑がそれほど違いません。若干南北線直通が混んでいる程度ですが、その差は少ないです。この程度であれば、直通先の違いによる混雑の違いはほとんどないというレヴェルです。
直通本数をみると各駅停車は同等、急行は南北線直通のほうが多いのですが、それでいて混雑が均等化されているのであれば、直通比率は適正という感触です。
個人的な予想ではビジネス街を通る三田線直通のほうが混むというものでしたが、実際には(わずかながら)南北線直通が混んでいて、予想が覆されました。これは、東京メトロのほうが路線網が充実していて、両路線から乗りかえが必要なエリアに通勤する際には東京メトロが選択されるためでしょう。
車両別の混雑状況
では、車両ごとに混雑状況は違うのでしょうか。南北線と三田線で地下鉄内の駅で便利な車両が異なりますから、それぞれの直通先で分けて集計しました(表5)。
表5. 東急目黒線朝ラッシュ時の混雑状況(不動前→目黒、最混雑60分の車両別混雑)
全体的に4号車が空いていて、1号車が混んでいる印象です。特に三田線直通電車でその傾向が顕著です。とはいえ、直通先で混んでいる車両がそこまで違いませんから、目黒で便利な車両や目黒線内で乗るときの便利な車両で混雑が決まると考えても差しさわりがないでしょう。
また、車両による混雑の違いはそこまで大きくありません。これは乗るほうにとっては良い傾向でしょう。
混雑状況からダイヤを考える
写真6. 東急目黒線には埼玉高速鉄道車もやってくる(日中に撮影)
混雑率は113%程度とかなりゆるいです。2019年調査の国土交通省のデータによると、混雑率は178%とありました。実に37%の減少です。調査した10月中旬は新型肺炎ウィルスの脅威が語られる前の30%減少とあります(※)から、この程度のまで混雑が緩和するのでしょう。
※東京都コロナ対策サイトの「その他の指標」で都営地下鉄の改札通過人数が公表されています。グラフだけではわかりにくいという人は「テーブルを表示」というタブから表が開けます。
そのうちに相鉄直通が始まります。そのあかつきには8両編成化が進みます。相鉄直通ぶんだけ乗客が増えますから、6両編成では足らないという予想です。また、新横浜にも直結しますので、そのような意味でも乗客が増えます。全列車が8両編成になれば相鉄直通による乗客増加はじゅうぶんに吸収できます。
現在のダイヤでは三田線直通の本数がやや少ないですが、利用状況をみると納得できます。このような意味でも現状のダイヤは完成度が高いことがわかります。
ただし、現在は急行が武蔵小杉で各駅停車を追い抜いていて、利用にばらつきが生じています。この待ち合わせを奥沢とすれば、各駅停車もある程度の乗客を集めることができます。何よりも大岡山から目黒までの先着列車が5分に1本から5分に2本と倍増することは魅力です。こうすると奥沢、洗足、西小山の各駅利用者は急行を使えなくなりますが、それでも目黒までの所要時間は短縮します。
奥沢の上り線を改良している最中ですので、改良工事が終わったらこのようなダイヤに組み替えてもらいたいものです。こうして、地味ながら神奈川の中央部と都心部を結ぶ路線に脱皮しようとしているのです。
東急目黒線の混雑基本データ
ここまで特定の駅での調査とその結果という「狭くて深い」情報と考察を行いました。では、混雑の基本的なデータをまとめた「浅くて広い」情報はないのでしょうか。
そのような声にお応えして、以下の記事を作成しました。