東急東横線のバイパス路線として認識されている東急目黒線。どちらかというと地味な印象ですが、それでも地下鉄2路線と直通し、それなりに利用がある路線でもあります。相鉄直通開後、利用が定着した段階で、朝ラッシュ時の混雑を現地で確認しました。
写真1. 目黒に着いた6両編成(全列車が8両というわけではない)
東急目黒線の朝ラッシュ時の混雑状況まとめ
朝ラッシュ時の東急目黒線の混雑状況は以下の通りです。
- 朝ラッシュ時の最混雑時間帯は7:40~8:39の60分間で、8:10~8:39が最ピーク時間帯である
- 種別や直通先による混雑のかたよりは少ない
- ただし、急行でいうと武蔵小杉始発が空いている傾向にある。
詳細は以下に示します。
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
弊サイトでは混雑ポイントという概念を導入しております。その概要を示します(表1)。
表1. 混雑ポイントの概要
せっかくなので、120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。
写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
今回は目黒手前の不動前→目黒の実態を確認しました。
東急目黒線の混雑状況の生データ
写真5. 目黒でラインカラーが変わる
ます、東急目黒線の混雑状況の生データを示します。列車ごとの混雑率については、計算のしやすさ(混雑ポイントは序列指標であり、足し算ができない)から、混雑率で示しています。
表2. 東急目黒線の混雑状況(生データ)
また、混雑率を可視化しました(表3)。
表3. 東急目黒線の混雑状況(各列車の混雑率の可視化)
詳細な解析を以下に示します。
東急目黒線の朝ラッシュの混雑状況の解析
写真6. 目黒に到着した南北線直通電車
上で生データを示しました。しかし、それだけではわかりにくいかもしれません。そこで、以下の章で詳細に解析いたします(やさしー)。なお、列車ごとの混雑を分析するに当たり、弊サイトの指標である混雑ポイントから、一般的な混雑率に変換しています。これにより、序列指標から定量的な指標に変換され、計算などが便利になるためです。
東急目黒線の朝ラッシュ時のダイヤパターン
鉄道ダイヤと混雑は密接な関係にあります。そこで、東急目黒線の朝ラッシュ時のダイヤについて簡単に触れます。
東急目黒線のダイヤは単純で急行と各駅停車が各5分間隔で運転され、奥沢において急行が各駅停車を追い抜きます。以前の武蔵小山での追い抜きより適正化された印象です。
都心側では南北線直通と三田線直通に分岐しますが、これは一筋縄ではいかず、ある程度ランダムで入り乱れている格好です。交互に運転すると種別と行先が固定され不具合が大きいためでしょう。2本連続で運転(南北線各駅停車→南北線急行→三田線各駅停車→三田線急行)するとダイヤ上すっきりしますが、利用実態に合わせた調整がなされた印象です。
始発駅は急行は相鉄線や新横浜始発、各駅停車は日吉が基本ですが、急行で武蔵小杉始発が混ざり、そのぶん各駅停車の新横浜始発が混在する印象です。日中以降は東急目黒線を通る相鉄直通電車の始発は海老名が基本ですが、ラッシュ時は湘南台始発も混ざり、これも相鉄線内の事情があるかもしれません。
時間帯ごとの解析
東急目黒線内は5分サイクルですので、その2倍の10分ごとに混雑率を集計しました(表4、図1)。
表4. 東急目黒線の時間帯ごとの混雑状況
図1. 東急目黒線の時間帯ごとの混雑状況
これを集計すると、最混雑時間帯は7:40~8:39の60分間です。この間の混雑率は121%です。相鉄直通前の2022年の調査結果では120%と、直通による乗客が増加していないように見えます。しかし、2022年は平均6.3両、調査時点では7.25両と輸送力は1.15倍に増強されています。単純に考えると、相鉄直通で15%乗客が増加したということです。
種別と行先による混雑状況の解析
では、種別と行先による混雑状況はどうでしょうか。簡単のため、ここでは始発駅の差を考慮しないことにしました(表5、図2)。
表5. 最混雑60分間の種別と直通先による混雑状況の状態
図2. 最混雑60分間の種別と直通先による混雑状況の状態
みごとに種別や行先(直通先)による混雑状況の違いはありません。これは各駅停車が急行を待ち合わせる駅を奥沢に変更したことによる各駅停車の先着駅が武蔵小山→目黒から奥沢→目黒に伸びたこと(4駅ぶんの分担率が上がった)、そして混雑する急行が6両編成から8両編成に増結されたことに由来するでしょう。もしも急行が6両編成のままであれば、(他の条件が変わらないとして)混雑率は120%程度でなく160%程度となったでしょう。
直通先で混雑率が異ならないのは2020年の調査結果と同じです。三田線直通と南北線直通がすっきりとしたパターンでないのは、混雑均等化という観点もありましょう。
始発駅による混雑状況
次に、始発駅による混雑状況を分析します。各駅停車の始発駅はほとんどが日吉で、少数の新横浜始発が加わるくらいで、そこまで異ならないでしょう。そこで、急行にしぼって考察します。念のため、直通先による違いも分けました(表6、図3)。
表6. 始発駅による混雑状況の違い(急行)
図3. 始発駅による混雑状況の違い(急行)
相鉄直通と新横浜始発ではそこまで混雑に違いはなく、武蔵小杉始発が空いていることがわかります。裏を返すと、武蔵小杉より目黒寄りの駅で全体の2/3程度集客し、新横浜-日吉での集客が1/3近くに及ぶことがわかります。この混雑データを見る限り、相鉄から目黒への通し利用はそこまで多くないと推定できます。ただし、この状況は2023年12月現在であり、今後は相鉄線から目黒線に直通することが前提として沿線に人が定住し、徐々に増えるでしょう。
東急目黒線の混雑状況からダイヤを考える
写真7. 海老名行きはかなり空いていた
混雑状況からダイヤ改善の可能性を探ります。
まず、混雑均等化のために急行の武蔵小杉始発を日吉または新横浜始発にすることが考えつきます。ただし、これは武蔵小杉始発の狙い客を犠牲にする方策です。急行ではなく、各駅停車を武蔵小杉始発にするのも手です。ただし、これにより新丸子で10分のダイヤホールが生じ、得策ではないでしょう。やるとすれば、各駅停車を武蔵小杉始発・急行を日吉始発に振り替えたうえで、武蔵小杉始発各駅停車の近傍の急行を新丸子に特別に停車させることです。これは複雑であり、東急はやりたがらないでしょう。
急行と各駅停車の本数が1:1というのは利用実態に即していると考えられ、これを変えるのは得策ではありません。特に各駅停車の待ち合わせが奥沢であることは武蔵小山だった時代よりも混雑が均等になり(急行のほうが編成長が長いこともありますが)、変えることは得策でないでしょう。
総じて現在のダイヤで問題ないと考えられ、これ以上の輸送力増強が必要になったら武蔵小杉始発を新横浜(または相鉄線始発)に変更し、「空いた電車に乗客を乗せる」という作戦をとるくらいです。これでも輸送上の問題が生じた場合は各駅停車の8両編成化を進め、一部の急行を武蔵小山通過にする程度でしょう。
東急目黒線の過去の調査結果
以下、2020年の混雑調査結果です。
東急目黒線の朝ラッシュ時の混雑状況のまとめ(2020年秋)
以下、本文の要約です。詳細は次以降の章をご覧ください。
・混雑率はだいたい113%である
※新型肺炎ウィルスの脅威が語られる前より37%程度減少している
・混雑のピークは7:45~8:44であるが、この前後5分も同様の混雑である
・急行は各駅停車より格段に混んでいる
※目黒に近い武蔵小山で待ち合わせるためでしょう
・南北線直通と三田線直通でそう混雑は変わらない
・4号車がやや空いていて、1号車(先頭車両)がやや混んでいる。三田線直通のほうがこの傾向が強い
東急目黒線の混雑状況の生データ
写真5. 目黒の隣は不動前
まず、対象時間帯の全列車の各車両の混雑状況の生データを示します(表2)。
表2. 東急目黒線朝ラッシュ時の混雑状況(不動前→目黒、生データ)
単純には混雑率110%程度で、そこまで混んでいません。そして、急行が混んでいて、各駅停車が空いている傾向が読み取れます。
次の章で、混雑状況を分析します。
東急目黒線の混雑状況の分析
生データだけ示しておしまい、というのは不親切です。優しい人格者である私はそれでは終わらせません。そこで、私なりに混雑状況を分析します。
写真6. ホームの端部は工事が実施中(8両編成対応工事)
確認:朝ラッシュ時の東急目黒線ダイヤ
鉄道の混雑は鉄道ダイヤに密接に関わっています。そこで、朝ラッシュ時の東急目黒線のダイヤについて簡単に紹介します。
東急目黒線は目黒-日吉の運転系統を指すものですが、都心側は目黒発着ではありません。その先の地下鉄南北線と都営三田線に直通します。地下鉄側は目黒から都心側2つめの白金高輪まで線路を共有しています(※)。白金高輪から永田町方面の地下鉄南北線と、大手町方面の都営三田線に分かれます。このようにして、東急目黒線は地下鉄2路線と直通しているのです。
※難しく考えると、東京メトロが施設を所有していて、都営地下鉄は第2種鉄道事業者です。しかし、利用者的にはここが東京メトロか都営地下鉄かは「都合良い」ほうに解釈するだけです。(三田以遠の)三田線の各駅を利用する際は、都営地下鉄として、(麻布十番以遠の)南北線の各駅を利用する際は、東京メトロとしてとらえれば良いだけです。
東急目黒線は基本的には2分30秒間隔で運転されています。2分30秒というと中途半端に見えますが、2倍すると5分です。いいかえると、5分に2本の運転です。そのうち1本は急行で、もう1本は各駅停車です。その2分30秒間隔の電車は(だいたい)半数が地下鉄南北線に、もう(だいたい)半数は都営三田線に直通します。
東急目黒線は急行が各駅停車を追い抜きますが、この追い抜き駅は武蔵小山しかありません。武蔵小山は目黒から2つしか離れていません。目黒に近いところで追い抜くと、理論上は不動前以外の乗客は急行に集中し、各駅停車は不動前の乗客しか乗りません。これではアンバランスです。
そこで、ラッシュ時ピークを中心に、武蔵小山で別系統の各駅停車が急行を待ち合わせることにしています。つまり、以下の待ち合わせが行われます。
(パターンA):(三田線直通急行)-(南北線直通各駅停車)
(パターンB):(南北線直通急行)-(三田線直通各駅停車)
こうすれば、パターンAの場合は、南北線に向かいたい人はそのまま各駅停車を利用し、急行への乗りかえは避けられます。パターンBも同様です。
とはいえ、どうしてもこの通りの待ち合わせにならない場合もあります。
混雑時間帯60分の推定
朝ラッシュ時の混雑は最も混んでいる60分を抽出することが基本です。では、まずは、最混雑時間帯60分を推定しましょう。
表3. 東急目黒線朝ラッシュ時の混雑状況(不動前→目黒、最混雑60分の推定)
ここでは7:40~7:49、7:50~7:59のように10分ごとの混雑状況を集計しています。7:40~8:49の間ではそこまで混雑状況に差はありませんが、8:50以降はやや混雑がゆるいです。そこで、最混雑60分間は、この間にあると推定できます。
7:40~8:39の混雑率が112.4%、7:50~8:49の混雑率が113.2%と大きな差はありません。正規分布に従うという仮定をベースとした統計学が教えるところによりますと、このような場合は、この中間の値を調べたほうが良いとされます。その教え:にしたがって、7:45~8:44の混雑率を算出すると113.0%でした。この3つの時間帯で特に差はありません。
つまり、7:40~8:49のどの60分で抽出しても同様の混雑であるということです。そこで、今回はその中間の7:45~8:44の60分間が混雑のピークと扱うことにしました。国土交通省発表の資料では7:50~8:50とされていますが、実情をみるとそう大きな違いはありません。
種別と直通先による混雑の差
東急目黒線は目黒から先、地下鉄南北線と都営三田線に直通し、永田町や大手町に直通します。素人目には、ビジネス街を通る都営三田線直通のほうが混みそうに思えますがどうなのでしょうか。
また、東急目黒線では急行と各駅停車が走っています。目黒に近い武蔵小山で各駅停車は急行に抜かされます。そのため、急行が混むようにも思えますが、どうなのでしょうか。
以上、2つの疑問が誰しも思い浮かべることでしょう。そこで、その疑問にしたがい、混雑状況を分析しました(表4)。
表4. 東急目黒線朝ラッシュ時の混雑状況(不動前→目黒、最混雑60分の種別と直通先混雑)
急行は各駅停車より混んでいます。混雑の均等化のために、武蔵小杉で接続する急行と各駅停車で直通先を変えているとはいえ、目黒まで急ぐ人はどうしても急行を選んでしまいます。また、ダイヤの都合で南北線直通どうしが接続する場面があります(7:50着の急行と7:53着の各駅停車)。このような場面では急行と各駅停車の混雑は大きく開いてしまいます。
また、急行に乗ると、白金高輪で始発に接続することもあります。例えば、8:20と8:26の急行はいずれも南北線直通ですが、白金高輪で始発の三田線に接続します。となると、三田線沿線に向かう人でも急ぐ人は南北線直通の急行に乗ることでしょう。いくら東急が配慮していても東京メトロや都営地下鉄のほうで接続電車を用意(※)してたら、利用客は急行に流れます。
※朝ラッシュ時の南北線や三田線は5分間隔では足りません。5分間隔では不足するぶんについては白金高輪始発が設定されることそのものはやむを得ません。
一方で、南北線直通と三田線直通では混雑がそれほど違いません。若干南北線直通が混んでいる程度ですが、その差は少ないです。この程度であれば、直通先の違いによる混雑の違いはほとんどないというレヴェルです。
直通本数をみると各駅停車は同等、急行は南北線直通のほうが多いのですが、それでいて混雑が均等化されているのであれば、直通比率は適正という感触です。
個人的な予想ではビジネス街を通る三田線直通のほうが混むというものでしたが、実際には(わずかながら)南北線直通が混んでいて、予想が覆されました。これは、東京メトロのほうが路線網が充実していて、両路線から乗りかえが必要なエリアに通勤する際には東京メトロが選択されるためでしょう。
車両別の混雑状況
では、車両ごとに混雑状況は違うのでしょうか。南北線と三田線で地下鉄内の駅で便利な車両が異なりますから、それぞれの直通先で分けて集計しました(表5)。
表5. 東急目黒線朝ラッシュ時の混雑状況(不動前→目黒、最混雑60分の車両別混雑)
全体的に4号車が空いていて、1号車が混んでいる印象です。特に三田線直通電車でその傾向が顕著です。とはいえ、直通先で混んでいる車両がそこまで違いませんから、目黒で便利な車両や目黒線内で乗るときの便利な車両で混雑が決まると考えても差しさわりがないでしょう。
また、車両による混雑の違いはそこまで大きくありません。これは乗るほうにとっては良い傾向でしょう。
混雑状況からダイヤを考える
写真6. 東急目黒線には埼玉高速鉄道車もやってくる(日中に撮影)
混雑率は113%程度とかなりゆるいです。2019年調査の国土交通省のデータによると、混雑率は178%とありました。実に37%の減少です。調査した10月中旬は新型肺炎ウィルスの脅威が語られる前の30%減少とあります(※)から、この程度のまで混雑が緩和するのでしょう。
※東京都コロナ対策サイトの「その他の指標」で都営地下鉄の改札通過人数が公表されています。グラフだけではわかりにくいという人は「テーブルを表示」というタブから表が開けます。
そのうちに相鉄直通が始まります。そのあかつきには8両編成化が進みます。相鉄直通ぶんだけ乗客が増えますから、6両編成では足らないという予想です。また、新横浜にも直結しますので、そのような意味でも乗客が増えます。全列車が8両編成になれば相鉄直通による乗客増加はじゅうぶんに吸収できます。
現在のダイヤでは三田線直通の本数がやや少ないですが、利用状況をみると納得できます。このような意味でも現状のダイヤは完成度が高いことがわかります。
ただし、現在は急行が武蔵小杉で各駅停車を追い抜いていて、利用にばらつきが生じています。この待ち合わせを奥沢とすれば、各駅停車もある程度の乗客を集めることができます。何よりも大岡山から目黒までの先着列車が5分に1本から5分に2本と倍増することは魅力です。こうすると奥沢、洗足、西小山の各駅利用者は急行を使えなくなりますが、それでも目黒までの所要時間は短縮します。
奥沢の上り線を改良している最中ですので、改良工事が終わったらこのようなダイヤに組み替えてもらいたいものです。こうして、地味ながら神奈川の中央部と都心部を結ぶ路線に脱皮しようとしているのです。
東急目黒線の混雑基本データ
ここまで特定の駅での調査とその結果という「狭くて深い」情報と考察を行いました。では、混雑の基本的なデータをまとめた「浅くて広い」情報はないのでしょうか。
そのような声にお応えして、以下の記事を作成しました。