東京-大阪間夜行快速を構想する

ミュンヘンに佇む夜行列車

写真1. 海外には多く残る夜行列車(16年夏にミュンヘン中央駅で撮影)



夜行列車がなくなって久しい、東京-大阪間。では、本当に需要が少ないのでしょうか?興隆する夜行バス業界を見るとそうは思いません。では、何が問題で消滅して、復活させるには何が必要なのでしょうか?ここではそれを考えてみましょう。

私が夜間時間帯にバスタ新宿周辺を歩いていたときのことです。大荷物を抱えた人を多く見かけました。新幹線の最終便はもう出発した時間でしょうし、東京観光で夜間に大荷物を抱える必要もありません。「これはなぜだろう?」と悩むこと1分間、「夜行バスに乗車する人のためだ」と気づきを得ることができたのです。

試しにJR時刻表を開くと東京-大阪のバス便は多く見られます。それだけ夜間の需要があるのでしょう。それに引き換え、JRでは東京-大阪の夜行便は存在しません。これは非常にもったいないことです。急行銀河が廃止されたからやっても意味がない?そんなことを言わずに、現在のJRで夜行列車が生き残る方法を考えてみましょう。


現代の夜行列車に要求される条件

まずは顧客要望や設定上の制約を考えることにしましょう。それを顧みずに、「私(tc1151234)専用の列車を設定せよ」といったところで、絵空事に過ぎなくなります。

条件1. 安い

現代の夜行バスの設定料金を軽く見ますと、4列座席で4000円~8000円、3列座席で5000円~10000円というのが相場のようです(繁忙期はより高い価格設定となるでしょう)。これに対抗するには、バスと同等の価格設定というのが必須条件となるでしょう。東京-大阪ではJRの普通運賃が8750円とされていますから、急行料金を加算すると10570円(閑散期は10370円)となり、確実に惨敗することでしょう。これが急行銀河が廃れた原因の1つでしょう。

条件2. 汎用の電車ベース

急行銀河が廃止された理由の1つに現在では数少なくなった客車列車だということが挙げられます。少数派の車両を充当するということは、整備などに特別な配慮が必要ということを意味します。客室設備はともかく、機器面という意味では現代の通勤電車を流用することが望ましいでしょう。

条件3. 時間帯を考慮

東京から大阪(あるいは逆方向であっても)へは新幹線が通っています。このため、新幹線がカバーできない時間帯に運行することが必要でしょう。現在は東京発21:23が最終便であり、新大阪着が8:12(ただし新横浜発)というダイヤです。そのため、東京発は22時以降、大阪着は8時前というのが必須条件でしょう。この制約は逆方向でも同じと考えられます。

条件4. バスにないサービスも

夜行バスにないサービスが寝台(横になって寝られる)というものです。「走るホテル」(ホテルというワードに込められた意味の解釈は各自に委ねます)であれば、個室を確保することも重要でしょう。個室といっても豪華である必要はありません。とりあえず荷物を置くスペースを確保できて鍵がかかれば良いでしょう。上記の走行時間から考えると、「とりあえず寝る」ことが可能な設備であれば良いのです。

※深夜の10時から翌朝の8時であれば、豪華な設備は不要に思えるのです。

具体的な夜行列車構想

次に、上の条件を満たした夜行列車を具体的に考えてみましょう。

車両の選定

まずはどのような車両にするか考えてみましょう。

車両の概説

なるべく安くするということは、定員が多い車両である必要があります。また、この車両は特急列車の座席レベルである必要があります。それでいて比較的汎用的な車両。このような車両はあるのでしょうか?身近にE231系グリーン車というものがありました。これをベースとした車両が適切でしょう。これならば客車ではないため、運用もやりやすいでしょう。

東京-大阪ということは、大阪のホーム長さを考慮する必要があります。大阪地区は快速や新快速で12両編成を組んでいます。ということは、最長で12両編成ということです。閑散期の運用を考えれば、基本を6両編成として繁忙期には12両編成に増結するのが良いでしょう。E231系やE233系は4M6Tであることから、最低限が3M3Tである必要がありますが、この列車は定員乗車を基本に考えることが可能です。つまり、E231系のように乗車率200%を考慮する必要はないのです。このことも含めますと、2M4Tの6両編成でも可能と考えられるでしょう。つまり、6両編成中4両は2階建て車両で残りの2両は平屋構造ということです。

求められる設備は座席車、簡易寝台(ノビノビ座席のイメージ)、個室寝台でしょう。

座席車

E231系グリーン車車内

写真2. 座席車のイメージ

座席車はE231系(やE233系)のグリーン車のままと考えても差し障りはないでしょう(写真2)。ただし、長距離利用ということで荷物の格納方法を考えねばなりません。平屋部分は網棚があるので問題ありませんが、2階建ての部分は荷物置き場を設けなければなりません。出入り口に近い座席を各1列ずつ撤去して荷物置き場にすれば良いでしょう。これで定員は74名になります。E231系で2列しかないほうについては、4人用のセミコンパートメントにしても良いかもしれません。

座席車は中間の2両を充当させれば充分でしょう。定員の多い2両で収益を確保するのです。

簡易寝台車

サンライズ号のノビノビ座席

写真3. 簡易寝台車のイメージ

サンライズエクスプレスでいうノビノビ座席です(写真3)。寝台幅が70cmであれば理論上定員40名程度になります。ただし、シャワー室などを設けるともう少し減少して定員は34名程度になることでしょう。

この車両は2階建ての必要がありませんので、2両存在する電動車の片方に充当します。

1人用個室寝台

サンライズのシングル

写真4. 1人用個室のイメージ

サンライズエクスプレスでいうシングルに相当します(写真4)。最低限の設備だけれども室内で立つことが可能(=着替えも可能)、荷物を置くスペースも確保できるというものです。1F部分に10室、2F部分に12室(運転台のすぐ後ろ)、平屋部分に1室設置できます。この車両の定員は23人ということになります。なお、平屋部分の1室は車椅子対応でコンプライアンス対応ということにしましょう。

2人用個室寝台

サンライズエクスプレスでいうサンライズツインということも考えましたが、これでは階段部分のデッドスペースが大きくなってしまいます。そのため、ベッドは進行方向に向くのではなく、枕木方向に向くようにします。1Fの階段部分は2Fのベッド部分にはまるように、2Fの階段部分は1Fのベッド部分にはまるように、すなわち凹と凸の組み合わせというイメージです。1F部分に5室、2F部分に6室、平屋部分に2段ベッドのタイプ(サンライズのシングルツインに相当)を1室設置できます。この合計で定員は24人になります。

4人用個室寝台

4人用個室といいながら、中身は従来の2段式B寝台のままです。定員を増やすために、補助ベッドを活用すれば6人用個室も設置できるようにしましょう(パンタ下を除く)。8部屋設置できると思うので、定員は32人(補助ベッド利用で42人)程度でしょう。

この車両は2階建ての必要がありませんので、2両存在する電動車の片方に充当します。

ダイヤの設定

ダイヤ設定概要

ダイヤの設定条件で新幹線の最終よりも遅く出発して、新幹線の始発便よりも早く到着するというのが条件と述べました。理想は23時過ぎに出発して7時過ぎに到着するというものです。このためには8時間で結ばねばなりません。果たしてそれは可能でしょうか?

現在の標準的な電車の所要時間の合計は450分程度(※)です。つまり、7時間30分程度で結べます。これで、23:30出発、7:00到着ということが可能とわかりました。

※東京-熱海では快速アクティが100分程度、熱海-沼津では普通電車が20分程度、沼津-浜松ではホームライナーが100分程度、浜松-豊橋では普通電車が30分程度、豊橋-大垣では新快速が90分程度、大垣-米原が普通電車で30分程度、米原-大阪が新快速で80分程度です。これらの合計が450分です。実際には通過駅が多いのでもう少し早く結べるということです。

停車駅設定概要

深夜時間帯の途中駅停車は、冷たい(あるいは暑い)外気の侵入、車内の落ち着かなさというマイナス要因があるため、やめるべきでしょう。深夜0:15~早朝6:15までの停車は避けるということです。これは、高速バスと比較した際の弱点である「途中駅での乗り込みによる治安低下」を防ぐという側面もあります。

これは裏を返せば、大阪から45分圏内、東京から45分圏内以外の駅を相手にしないことを意味します。現在の標準的な所要時間から考えますと、東京側の停車駅は大船まで、大阪側の停車駅は石山までということです。これらの途中駅で利用の多い駅は、品川、横浜、戸塚、大船、石山、大津、京都、高槻、茨木となるでしょう。いいかえれば、大船から石山まで停車しないということです。もちろん、乗務員交代などでの停車はまた別の話です。

始発・終着駅の選定

さきほど、「東京から大阪まで」という前提でお話しましたが、始発駅や終着駅を「東京」や「大阪」に限定する必要はあるでしょうか?東京も大阪もスルー前提の駅ですから、延長運転すれば良いでしょう。大宮や西明石に車両基地がありますので、首都圏側の始発(終着)駅は大宮、近畿圏側の始発(終着)駅は西明石にすれば良いでしょう。東京以北や大阪以西ではそこまでスピードは求められませんから、東京以北は上野、赤羽、浦和に停車、大阪以西は尼崎、西宮、芦屋、三宮、神戸、須磨、明石に停車というのが1つのやりかたでしょう。神戸以西(山陽線内)は電車線を走行というのが必須となるでしょう。

東京や大阪で直前まで乗車できないことも問題でしょうから、所定では10分程度の停車時間を設けて、ある程度ゆっくり乗車できるようにしましょう。深夜や早朝であれば、東京や大阪で10分停車させてもダイヤ設定上は可能でしょう。つまり、大宮-西明石で設定して、東京と大阪では10分停車して両駅始発ではないデメリットを小さくするということです。

派生列車の設定

例えば、ディズニーランドやユニバーサルスタジオジャパンの来場客(朝早くから夜遅くまで遊びたいと想定される客層が多い)をターゲットにする方法もあります。繁忙期(=貨物列車の運行が少なくて深夜の線路が空いている)には、舞浜-新木場-新宿(ここで方向転換)-新大阪-西九条-ユニバーサルシティという系統を運転しても良いでしょう。新宿のホームが足りない?そこはバスタ新宿に近い5,6番線を活用しましょうよ。

停車駅は海浜幕張、舞浜、新宿、渋谷、横浜、京都、高槻、新大阪、西九条、ユニバーサルシティで良いでしょう。

料金の設定

座席車はバスとの競合を考慮して安めに設定(そのかわり定員が多いしね!)、その他の車両はオリジナルの付加価値を見積もって妥当な金額を設定するのがセオリーでしょう。

座席車

座席車は普通車指定席という形態で割安に設定しましょう。東京-大阪では9090円という価格です。これでは夜行バスと対抗しにくいので、閑散期を中心に早割や特割の企画乗車券を設定することで、競争力をつけましょう。例えば、閑散期は座席数限定で5000円~7000円の企画乗車券を、通常期は座席数限定で6000円~8000円の企画乗車券を発売するなどです。

※ヨーロッパの夜行列車(ナイトジェットなど)はこのように設定しています。

逆に、青春18きっぷでの乗車を禁止することで、現在のムーンライトながらよりも採算性を向上させることはじゅうぶん可能でしょう。

このあたりはバスなどの競合相手や乗客の流動を見極めながら慎重に設定することが望ましいでしょう。

簡易寝台車

簡易寝台車は夜行バスにない設備ですので、もう少し強気の価格設定で良いでしょう。具体的には、普通列車のグリーン車扱いにするのです。1950円(指定席も自由席も同額)という料金体系ですから、東京-大阪で合計10700円です。一般的な普通列車グリーン車と比べて設備が良いので、特別に3250円程度のグリーン料金(東京-大阪で合計12000円)としても良いかもしれません。これで利用が振るわなければ、閑散期のみグリーン料金を値下げするなどの方策もあるでしょう。ここでは、大幅な割引は実施しないことを想定しています。

個室寝台車

個室寝台車も夜行バスにない設備ですので、強気の価格設定で良いでしょう。それなりに居住性が高いサンライズ号のシングルですと寝台料金は7560円です。この価格を踏襲すれば間違いありません。個室は全て部屋単位で発売という形態とします。つまり、2人用は15120円、4人用は30240円です。4人用個室を6人で利用する際は補助ベッド使用料1000円/人として、なるべく2人用個室を2人組に使わせるように仕向けましょう。

いずれにせよ、東京-大阪で1人当たり16310円となります。4人用個室を6人で利用する場合は14124円で移動できることになります。

採算性の検討

採算性の検討として、車両に関わるものと列車運転の人件費のみ考えましょう。線路のメンテナンス費はこの列車の有無に関わらず必要なのでここでは考慮しません。

収入の試算

東京-大阪という需要が旺盛な区間ですので、年間乗車率は70%と仮定します。繁忙期は12両編成への増結でさらに収入が見込まれましょうが、ここでは通年6両編成という仮定とします。座席が148名、簡易寝台が34名、個室寝台が79名(合計261名)ということです。

運賃収入は150万円程度、料金収入は50万円程度です。すなわち、片道1回の運行で200万円の収入となります。1日の運行では400万円の収入です。

支出の計算

車両購入費用が1両1億円、その車両が15年持つと仮定します。また、12両編成が2日で1往復するので、車両は30両は必要です。臨時列車ぶんを含めて48両所有すると仮定しましょう。つまり、48億円の初期投資と考えられます。これを15年でペイすることになりますから、年間3.2億円の支出となります。1日当たりで考えると、90万円弱です。

人件費は時給3000円と仮定し、深夜業務のため25%増しと仮定すると時給3750円です。運転士1人、車掌1人(始発駅発車直後は改札要員を乗車させるでしょうが、それはカウントしません)の計2人、9.5時間の拘束時間ですので、1日片道当たり8万円程度のコストがかかります。1日当たりで考えますと、20万円弱です。

つまり、車両の減価償却に90万円弱、人件費に20万円弱ということですから、合計は110万円弱です。安全を見て1日当たりの費用は120万円弱としましょう。

トータルの採算性

1日当たりの収入が400万円程度、支出が120万円弱という試算となりました。実際には車両の整備費用や販売費用(割引ぶんもここに含める)などが余計にかかるでしょうが、繁忙期の混雑を考慮すると、赤字にはならないでしょう。

今回のまとめ

東京-大阪(実際は大宮-西明石)で夜行快速を運行するというアイディアを提案しました。実用的でかつ会社側も赤字を被らないというwin-winという結果が算出できました。ぜひとも日本の2大都市を結ぶ夜行列車を設定して、インバウンド需要にも応えてほしいものです。


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