Q SEAT(東急)やAシート(JR西日本)にみる通勤輸送変化の潮流

東京では東急でQ SERTが2018年12月から導入されようとしています。また、大阪では2019年3月から新快速にAシートが導入されようとしています。これらの2つの事例から、大都市の通勤輸送に変化が見られようとしています。その変化の潮流を探ることにしましょう。



これら有料座席サービスの概要

潮流を探る前に、これらのサービスの概要をおさらいしましょう。

Q SERTの概要

まず、Q SEATの概要を見てみましょう。

区間:大井町-長津田
本数:夕方以降の下りのみ運転、5本
形態:7両編成の急行の3号車を利用、そのほかは従来通り利用可能
料金:400円

箇条書きにして示しましたが、本家のプレスリリースにわかりやすい図がありましたので、引用いたします。

Q SEATの概要

図1. Q SEATの概要(東急電鉄のプレスリリースより引用)

Q SEATの運転時刻

図2. Q SEATの運転時刻(東急電鉄のプレスリリースより引用)

座席定員は45名、1日5本ということですから、1日の座席定員はわずか225名しかありません。これでは需要が多いと判断したのか、販売は専用ページからの発売が中心となります。それを補足する意味合いで当日のみ係員による手売りが加わります。このように、販売ルートを限定的にすることで、需要の集中を避けているように見えます。

また、主流となる渋谷からではなく、サブルートとなる大井町からであることがミソでしょう。これは「大井町線からだと快適に帰宅できます」と大井町線ルートの快適性を前面に押し出して、田園都市線の乗客の一部を大井町線にシフトさせようという意図が見えます。

Aシートの概要

次に、Aシートの概要を見てみましょう。

区間:JR神戸線・JR京都線・琵琶湖線(区間は明示されず)
※湖西線、北陸線、山陽線や赤穂線という文言がないあたり、最長で米原-姫路と読み取れます
本数:4本(具体的には示されず、上下2本ずつと推定)
形態:12両編成の9号車
料金:500円

座席定員は46名と少なく、本数も少ないため、駅やインターネットでの事前販売は実施されず、車内での精算のみです。これは、座席予約のシステムを構築する手間を省いたためと判断できます。Aシートという名前は「ええシート」という関西弁でしょう(笑)。JR西日本のプレスリリースにわかりやすい図がありましたので、引用いたします。

Aシートの概要

図3. Aシートの各種イメージ(JR西日本のプレスリリースから引用)

通勤輸送変化の潮流を探る

2017年には、西武ではS-trainの運転が開始され、京阪ではプレミアムカーとライナーの運転が開始されました。

※S-trainの様子については土休日のS-trainに乗る(元町・中華街→池袋、2018年初夏)で収録、京阪のダイヤ改正前日の様子についてはダイヤ改正1日前の京阪電車(祇園四条から宇治までの前面展望)をご覧ください(それぞれ別ウィンドウで開きます)。

2018年には、京王で京王ライナーの運転が開始されました。これら3つと今回取り上げる2つの合計5つのサービスから、通勤輸送変化の潮流を探ることにします。

5つのサービスの分析

いずれも従来の座席指定(座席確保)サービスがない路線での導入です。この3つの事例と今回取り上げる2つの事例から通勤輸送変化の潮流を探ります。まず、簡単に分類します。分類の基準は「どのような車両を使うか」「編成全体のサービスか」という2点です(表1)。

表1. 座席指定サービスの分類

座席指定サービスの分類

※S-trainは西武から地下鉄に直通するサービスですが、主導が西武鉄道ですので西武ということにしています。

車両の項目を見ると、首都圏は4ドアの通勤電車をクロスシートモードで運転、大阪圏は専用の車両を用意という差があります。通勤電車をクロスシートモードで運転することは、座席定員の問題(座席定員が少なくなる)や居住性の問題で良い選択ではないと考えています。ただし、4ドアが前提のホームドアがあるという現実ゆえに朝ラッシュ時は純然たる通勤電車として運用する場合はしょうがない一面もあります。

S-trainの車内

写真1. 4ドアの通勤電車を座席指定制の列車として運転している例(S-trainで撮影、元町・中華街)

一方、大阪圏の場合は改造車ゆえの窓割の問題はありますが、専用車両がゆえに居住性は高いです。本当であれば特急車を用意することがベストですが、新造するほどではないという判断がゆえに仕方ないことでしょう。

運行形態の項目を見ると、首都圏の多くが1本の列車を設定することになっています。一方、大阪圏では有料車を1両だけ導入していることがわかります。ただし、東急の場合は有料車を1両だけ導入している形態です。これは、首都圏では一般車両を減車すると残りの車両が混雑してしまうという問題があり、1本まるまる座席指定車にしないと混乱するという判断があることでしょう。

なお、東急の場合は主流となる東横線や田園都市線での導入ではないこと、そして大井町線は2018年7月から7両化して日が浅いために実質的に単純な増結であることが、1本まるまる座席指定車にしないという判断でしょう。逆にいうと、7両全てを座席指定車にするほどの需要がないと判断しているということです。

通勤輸送の潮流を探る

現在の日本は人口が減少する社会になっています。そのため、鉄道利用者も減少することは明白です。そのような状態で売上を維持するにはどうしたら良いのでしょうか?その1つが客単価を上げることです。乗客が2割減少しても、客単価が2割増加すれば(厳密には異なりますが)売上は維持できます。では、どのように客単価を上げるのでしょうか?運賃や定期券の価格を値上げすることは難しいです。これらは国の認可が必要なためです。それであれば、運賃や定期券以外の収入の口を確保すれば良いのです。その収入の口が座席指定券(※サービスによって名称は異なります)です。そう、人口減少する中、座席指定券で客単価を確保して鉄道会社の売上を維持するのです。

では、座席指定サービスの理由は収入の維持だけでしょうか。それは異なるでしょう。今までの人口が増加する時代のほうがこのようなサービスへのニーズは高かったことでしょう。設定できる列車本数、連結できる車両数には限界があります。裏を返すと、このようなサービスを行うと一般車両で運行する数が減少します。人口が増加する時代にそのようなことはできません。一般車両の混雑が激しくなり、通勤輸送が破綻するリスクがありました。これが人口減少時代になると、一般車両の混雑が緩和して、一般車両を減らしても良くなりました。これが新たに座席指定サービスを導入する鉄道会社が増えている理由の1つでしょう。

また、乗客のニーズがあることも見逃せません。資本主義社会である以上、サービス(供給)は需要に従うべきです。乗客が1人も乗らなければ、このようなストーリーは絵に描いた餅です。誰も乗らなければ単に経費がかかるだけです。これらのサービスが好調なのはJRのグリーン車や東武のTJライナーを眺めれば明らかなことです。逆にいうと、需要があるか確定できない場合に全面的なサービス開始はリスクが大きいということです。

今回の事例(Q SEATとAシート)は明らかに小さくスタートしています。東急の事例では、大井町発の5本のみが対象、JR西日本では4本のみ対象(しかもシステム構築なし)、いずれも長い編成の1両のみ対象という形態です。これは全面的なサービス開始ではなく、試験的なサービス開始ととらえるのが自然です。どちらもうまくいかなかった場合には元に戻すことが可能(※)な設計です。このように、小さく始めて様子を探ることが可能になっています。

※東急は座席の変更だけ、JR西日本は座席の変更と扉の復帰だけです。

座席指定サービスの今後

当分は座席指定サービスが衰えることはないでしょう。今後も各路線でこのようなサービスが小さく開始されることでしょう。これは輸送力に余裕ができた後の収入の確保をもくろんで、多くの鉄道会社が考えることです。ただし、需要が本当にあるのか見極めるためにいきなり大々的なスタートで始まるのではなく、小さくスタートするのです。

これらのサービスは日中時間帯の需要に不安があるためか、中途半端な形態で実施していることが多いです。しかし、鉄道会社の収入を最大化するためには極力座席定員が多いほうが良いです。そうすれば、満席であるがゆえに座席指定サービスを受けられないという確率が減るため、乗客にもメリットがあります。座席指定サービスに多くの乗客が乗れるのであれば、それだけ一般車の混雑も緩和します。現在、小田急では日中時間帯でも専用の車両を使ったロマンスカーが頻繁に運転されています。また、JRのグリーン車も多くの路線で頻繁に運転されています。つまり、終日このようなサービスが展開することは全く自然です。現在、4ドア車両を使った各路線も座席指定サービスが定着した暁には、小田急のような専用車両を使用した運転形態に改めるべきでしょう。

また、このようなサービスを導入する際に、一般列車の減便や一般車両の減車を極力避ける必要があります。今回導入する2つの事例ともに長期的には車両の純増(JR西日本は8両主体の新快速を12両にしてきた、東急は大井町線の急行を6両から7両にした)であるため、そこまでの不満はありません。また、グリーン車が導入されようとしている中央線快速もグリーン車純増ですので、この点は高く評価できます。

このようなサービスを新規に導入する際は、中途半端なサービスではなくきちんとしたサービスにすること(導入当初は仕方のない一面はあります)、一般車両の快適性向上を忘れることなく実施すること、を鉄道会社には心がけていただくともに、私たち利用者も冷静に分析する必要があることでしょう。


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