甲府と静岡を結ぶ特急ふじかわ。ローカル特急と思われながら2時間間隔運転を行うなど、意外と需要があることも読みとれます。では、実際はどうなのでしょうか?
写真1. 富士に停車中の特急ふじかわ
特急ふじかわの概要
まず、特急ふじかわの概要をまとめましょう。
特急ふじかわの概要をまとめます。まずは要点を箇条書きで記します。
・区間:静岡-甲府(身延線経由)
・所要時間:おおよそ2時間20分(列車によって若干異なります)
・運転本数:1日7往復(日中時間帯は2時間間隔で運転)
・車両:373系電車(次の章で紹介)
・停車駅:静岡、清水、富士、富士宮、内船、身延、下部温泉、甲斐岩間、鰍沢口、市川大門、東花輪、南甲府、甲府
特急ふじかわは身延線経由で静岡と甲府を結ぶ特急で、両者をおよそ2時間20分で結びます。時刻表を眺めると、すれ違いは富士-富士宮の複線区間と下部温泉で行っており、単線区間のすれ違い待ちによる時間的ロスはありません。静岡到着は56分か02分となっていて、静岡発毎時11分のひかり号に間に合います。また、静岡発車は39分~41分となっており、静岡着毎時32分のひかり号から間に合います。このことで、名古屋や新大阪から甲府方面へのチャンネルとしても機能しています。
身延線内の停車駅は統一されており、特別に一部の駅を通過するようなパターンはありません。比較的小さな駅にも停車するようになっています。内船、下部温泉、甲斐岩間、鰍沢口は無人駅です。無人駅のうち利用の多い駅にも特急を停車させている感じですね(市川大門は委託駅、東花輪は業務委託駅です)。
車両は軽特急用ともいわれる373系電車です。3両編成が1つの単位で、特急ふじかわには3両編成で運用されます。373系電車はムーンライトながらやその出入庫運用の東京-静岡の普通電車にも使われることを想定された設計されています。そのため、「何とか」普通電車にも使える設備となっています。そのため、両開きドアだったり、デッキの扉を省略されたりと特急用として納得できない部分があることも事実です。なお、車内販売はありません。
373系電車を眺める
では、その373系電車を眺めることにしましょう。
写真2. 373系電車のドア部分
373系のドア部分です(写真2)。通勤電車のような両開きドアであることや、何とか前面展望が可能なことがわかります。JR東日本の特急も前面展望に配慮して欲しいですね!
写真3. 373系の洗面台(1号車にあります)
洗面台は1号車にあります(写真3)。必要最低限の機能がきちんと備わっているように感じます。
写真4. 373系の普通車
これが373系の普通車です(写真4)。1号車~3号車で特段違いはありません。普通の車内という感じがします。デッキとの仕切り扉がなくて、走行音が聞こえるということ以外は、特段劣るようには思えません。
写真5. 373系の回転リクライニングシート
回転リクライニングシートがシートピッチ970mmで並んでいます。この数字もそこまで悪いものではありません。新幹線の標準1040mmや特急しなのの1000mmよりも劣りますが、JR東日本の960mmやヨーロッパ諸国よりも広いのです。ところで、前の座席にテーブルがありませんね(写真5)。
写真6. 373系の座席脇のひじかけ
そのような場合は座席脇のひじかけを見てみましょう。テーブルが付いています(写真6)。
写真7. ひじかけから出てきたテーブル
このように、テーブルが出てきます(写真7)。向かい合わせにしてもテーブルが使えるのは親切です。でも、4人で使うならもっと良い場所がありますよ…。
写真8. 足のせも完備!
このように足のせも完備しています(写真8)。完全にくつろいでいますね。
写真9. セミコンパートメント(という名のボックスシート)
さきほど、向かい合わせにしてもテーブルを使えるので親切、と述べました。しかし、2号車と3号車にはセミコンパートメントと呼ばれる設備があります(写真9)。この設備は指名買いが前提なのか、自由席車両の2号車と3号車にあっても指定席扱いです。
写真10. セミコンパートメント(という名のボックスシート)
このように大型テーブルがあります(写真10)。どうせなら、通路側の席にもテーブルが展開できるようになっていれば良いですよね。
写真11. セミコンパートメント(という名のボックスシート)
この他には取り立てての特徴はありません(写真11)。甲府時点では4人グループはこのような座席を活用していませんでした。
写真12. 373系の洗面台
373系には1号車に洗面台とトイレがあります。洗面台は通路に対して背を向けるタイプではありませんね(写真12)。軽特急用と言われながらも、このような設備はきちんと整っています。
写真13. 373系のお手洗い
写真14. 373系のお手洗い
90年代の清潔なお手洗いです(写真13-14)。同時期に登場した小田急30000形は和式トイレですが、この車両は洋式トイレです。全体として383系に似ています。383系については、特急しなのの乗車記(塩尻→千種、車内設備、景色、混雑は?)で触れています。
実際にふじかわに乗る
さて、実際に特急ふじかわに乗ってみましょう。
写真15. 甲府の市街地を走る
甲府を出た身延線は甲府の市街地の外側を沿うように走ります(写真15)。このため、甲府側の本数はそれなりに多いです。
写真16. 甲府側のJR東海の拠点、南甲府
甲府の次の停車駅は南甲府です。JR東海における甲府側の拠点です。確かに利用が多いのは甲府なのですが、甲府はJR東日本の管轄駅なので、JR東海の拠点にはならないのです。甲府市にとっては身延線がJR東海なのはあまり便利ではありません。なぜなら、身延線ではSuicaが使えないのです。中央線方面は松本までSuica利用が可能なことを考えると、大きな違いです。余談ですが、南甲府と甲府の間で回送列車が運転されることがあります。これを営業運転すれば、甲府市内の移動は便利になりますね。
写真17. 中央市の東花輪に停車
東花輪に停車します(写真17)。この駅は特急停車駅といえども、そう規模が大きいわけではありません。このような駅は続きます。
写真18. 甲府近郊の住宅街を抜けた
そうしているうちに、甲府近郊の住宅街を抜けました(写真18)。
写真19. 市川大門付近の住宅街
と思ったら、再び住宅街に入りました(写真19)。
写真20. 鰍沢口に停車
甲府側の住宅街はここ鰍沢口で終了です。ここから山あいに入ります。そのため、ここから普通列車の本数は2時間に1本という過疎ダイヤになります。このような無人駅に停車する場合、車掌さんは降りる人全員の乗車券や特急券を確認しています。これは普通列車でも同様です。そうして、正直者がバカを見ることがないようにしているのです(飯田線だと車掌さんは各駅の出口に近い場所に移動していました)。
写真21. 山あいを行く
写真22. 富士川沿いを行く
山あいを走ったり、富士川沿いを走ったりと、自然の中を走ります(写真21-22)。
写真23. 下部温泉に停車!
下部温泉は身延線の中では有名な観光地でしょうが、そのような駅でも無人駅です。
写真24. 下部温泉はホテルもある
写真25. 富士川沿いを行く
富士川沿いを行きます(写真25)。これほど富士川に沿って走るのであれば、「ふじかわ」という列車名も納得できます。
写真26. 波高島を通過!
はだかじまを通過します。何か期待させる響きですが、漢字にすると大したことはありません(写真26)。というより、通過駅でもここまで駅名標を撮影できるほどスピードが遅いということです。これは、ポイントがあり、それによってスピードが落ちるためです。もう少しスピードを出せるポイントに交換すべきでしょう。
写真27. まもなく身延!
身延線の拠点である身延が近づいてきました。観光地といった風情があります(写真27)。有名な寺社があると聞きます。
写真28. 身延では多くの乗客が乗り込む
やはり観光地です。多くの乗客が乗り込んできました。わが3号車はおおよそ60%以上の乗車率となりました。ただし、満席にはいたりません。
写真29. 身延に咲くしだれ桜
美しいしだれ桜もあります(写真29)。
写真30. 日本の山あいの里を走る
写真31. 富士川沿いを走る
写真32. 山並みも見える
身延を出ても相変わらず、日本の田舎という風景を走ります(写真30-32)。これでは普通列車が2時間に1本でも文句は言えません。ただし、同じように田舎であるドイツのコブレンツ-トリーアは快速、普通ともに毎時1本でしたが…。
写真33. 富士宮手前の最後の峠越え
芝川-西富士宮は最後の峠越えという感じがします(写真33)。
写真34. 富士宮の市街地が見えてきた
富士宮の市街地が見えてきました(写真34)。ここから再び人口が多い場所を走ります。
写真35. 西富士宮を通過!
西富士宮を通過します(写真35)。ここから富士まではおおむね1時間に3本が確保されています。どうせならこの列車を三島まで直通させれば面白そうです。富士での乗りかえが不要になり、新幹線駅まで直結になるのです。
写真36. 久しぶりの大型ショッピングセンター
大型ショッピングセンターもあります(写真36)。やはり、身延線は静岡県側のほうが市街地化が進んでいます。
写真37. 複線区間を走る
富士宮から富士までは複線区間です(写真37)。おおむね20分間隔の普通が走るには単線ではスムーズにいきません。
写真38. 身延線で数少ない高架区間
写真39. 複線区間の前面展望
富士近郊の複線区間は高架区間もあります(写真38-39)。
写真40. まもなく富士に到着
このように、富士に到着です(写真40)。本来であれば、東海道線上りと乗りかえがしやすいようにしたほうが、沼津方面への行き来が便利になります。それなのに、身延線ホームに到着です。これでは、利用者的には嫌がらせを受けているように感じてしまいます。鉄道の弱点は乗りかえがあることです。それでも、その乗りかえを便利にすることで少しでも弱点を感じさせないように運用すべきでしょう。
特急ふじかわの実態まとめ
乗る前は停車駅が多すぎと思ったのですが、小さな駅での利用もあったりと、実態に即した停車駅選定であることに気づかされました。また、2時間間隔というのは本数が少ないような気もしましたが、本数を増やしすぎると列車交換の回数が増えて、所要時間が増える可能性があることも理解できました。
ただし、スピードの遅さだけはいただけません。道中、何度も高速道路をみました。そう、身延線に並行するようにして高速道路が伸びているのです。高速道路に対抗するためにある程度のスピードアップが必要です。そうはいっても、身延線の線路規格からは最高速度130km/hは非現実的です。現実的には、平野部の最高速度を85km/hから95km/h(あるいは100km/h)に向上して、通過駅のポイント制限を緩和して減速ポイントをなくす程度でしょうか。そうすれば、身延線内を5分程度スピードアップできるでしょう。高速道路を眺めた感じでは、そもそも甲府と静岡の流動そのものが多くなさそうなので、この程度の設備投資で良いでしょう。