小田急は16年の3月に主力を急行から快速急行に変更するという、ダイヤ改正を実施しました。それを見てみましょう。
小田急ダイヤの概要
新宿断面では20分サイクルのパターンダイヤとなっています。正確には、小田原方に行くに連れて特急の停車駅や行先の差(新宿発00分と21分は小田原行きではなく新松田行き)が生じておおむね60分サイクルダイヤになります。ただし、新百合ケ丘以東は特急の停車駅が同じであるので、今回は20分サイクルとみなして話を進めます。
表1. 20分サイクルのダイヤ
新宿断面では特急と快急、快急と急行が束になって発車し、その直後に各停が発車するという流れになっています(表1)。特急と快急が続行する箇所については、代々木上原から千代田線直通の急行がフォローする体制になっています。以前の多摩急行と区間準急のコンビが地下鉄直通急行と快急のコンビに変わったのですね。
ただし、上りについてはこのパターンではありません。これは新宿のホームのやりくりに起因しています。
実際に乗ってダイヤを解析する
これだけでは「時刻表をまとめました」というだけに過ぎません。そこで、現実の快速急行に乗車して実態も確認しました。
上りの快速急行に乗る
今回は湘南台から快速急行に乗車しました。運転席の後ろに貼り付いて主要ポイントで撮影しました。
※恥ずかしかったです…。
写真1. 湘南台に入線する8000形による快速急行
古参の8000形でした。運転席の仕切り窓が大きく、今回の目的には良い車両です(写真1)。
写真2. 大和停車直前の信号現示
湘南台の次の停車駅は大和です。大和停車時には減速→注意→停止の現示がなされています(写真2)。これが意味するのは、本来出せるはずの速度が出せずに、所要時間が増加してしまう、ということです。小田急は遅れがちと聞きますので、全て進行表示にして遅れ回復に充当できれば良いと感じてしまいました。
写真3. すれ違う快速急行
すれ違う列車が各停か快速急行ばかりになりました(写真3、何とか読み取れますよね?)。速達列車の主力が急行から快速急行に変化したのが見て取れる瞬間です。
写真4. 相模大野停車中
相模大野の上り方に引上線があります。これは、江ノ島線の各停が折り返すためです。ただ、外側に入った相模大野止まりが内側に存在する引上線に移動する間に、上り本線を横断します。これはダイヤ作成上の制約になってしまいます(下りについても同じです)。
写真5. 新松田からの急行が到着
新松田からの急行が到着し、先を急ぐ人たちが乗り込みます。急行はこの快速急行を待って発車し、町田では快速急行の直後を走ります。そのため、比較的空いた状態で走ります。この空いた状態の車内に近距離客を乗せるのです。
写真6. 新百合ケ丘で副本線に入る(ポイントが副本線側‐左側‐に向いているのがわかるでしょうか?)
相模大野を過ぎ、町田で各停を追い抜き、次の停車駅の新百合ケ丘では副本線に入ります(写真6)。そう、新百合ケ丘では各停を追い抜かないのです。本線ではなく副本線に入った理由は不明ですが…。
写真7. 生田付近(向ヶ丘遊園の1つ下り側の駅)で注意信号を受ける
写真8. 向ヶ丘遊園で各停と線路が分かれる
写真9. 向ヶ丘遊園→登戸で走行しながら各停を追い越す
新百合ケ丘で各停を追い越さないので(多摩線からの急行と快速急行を接続させたいためでしょう)、生田で各停に追いついてしまいます(写真7)。向ヶ丘遊園から上り線は2線になりますので、そこで追い抜けます(写真8-9)。下りはそのようなことができませんので、新百合ケ丘で各停を待避させて向ヶ丘遊園付近での待避を避けています。
写真10. 複々線区間の経堂で最後の各停を追い抜く
写真11. 内側から地下区間に入る
写真12. 外側から地上にあがる
向ヶ丘遊園付近で追い抜いた後は、前につかえる電車がないので、複々線区間は順調に走ります。経堂で最後の各停を追い抜いて(写真10)、複線区間に入ります。複々線化後は急行線となる線路を走行し、地下区間で急行線と緩行線の位置関係を逆転させ(※現在は将来急行線となる線路を複線として使用、写真11 vs 写真12)、代々木上原に到着します。下北沢付近から代々木上原までは先行の地下鉄直通急行に追いついたため、スピードを落とす場面も認められました。
新宿でのさばきを確認する
次に、新宿でのさばき方に着目しましょう。
写真13. 新宿付近の時刻
一般的に鉄道ダイヤを作成する際は、途中駅の待避関係を重視して作成します。しかし、ターミナル駅の折り返しも重要な作成条件(制約条件)です。この苦労が見えるのが上の時刻表です(写真13)。特急は別途18分、38分、58分に到着します。
新宿の構造ですが、速達列車が地上ホーム、各停が地下ホームと分離されているため、速達列車と各停の干渉を考慮する必要はありません。よって、各停どうし、速達列車どうしの干渉を考慮することにします。
各停どうしの干渉
各停は03分に発車、05分に到着という関係になっており、特に問題はありません。上りの各停1分程度遅れても発車に干渉しないため、それなりに考えられている形跡が認められます。
速達列車どうしの干渉
まずは、地上ホームの簡単な配線を確認していただきましょう(図1)。
図1. 地上ホームの配線(Excelで作成)
Excelで簡単に作成したので、図のクォリティ(このようなできばえのものをハイクソリティといいます)については触れないでください。一番上が特急用です。
写真14. 上り特急の到着
特急ロマンスカーとそれ以外に分離して考えます。特急ロマンスカーは専用の車両を使用しているので、上り特急は下り特急に折り返すように考えます。
例えば、38分に到着した特急は50分に発車します。配線上、下り特急は上り列車と干渉しません(1番ホームは下り側です)。上り特急は他の列車と干渉するように到着しますが(写真14)、38分ごろには下りの発車はありません(40分、41分と続きます)。なお、特急ロマンスカーは車内整備が必要ですので、10分ずらすことは不可能です(2分折り返しになってしまう)。
急行と快速急行の折り返し
次に、一般列車の折り返しを考えます。
・上り藤沢からの上り快速急行が14:28に着きます。これは折り返し14:40発の快速急行小田原行きになります。
・新松田からの上り急行が14:37に着きます。これは折り返し14:41発の急行小田原行きになります。
※この急行は代々木上原で2分停車していますが、35分着の各停に追いつかないようにするためです。
特急が到着する14:38になると、3線あるホームはいっぱいです(写真15)。
写真15. 3線とも埋まった状態
図2. 14:41ごろ:急行(赤い四角)待ちの上り快速急行(オレンジの四角)
これでは後続の小田原からの快速急行行が新宿に入線できません。14:40までホームが埋まっています。同じホームに入るためには2分の間合いが必要なので、14:42にようやく入線できます。しかし、14:41発は上り線側のホームから発車(写真3でいう手前)するため、上り到着と干渉してしまいます(図2)。これを回避するために、14:43まで到着できないのです。
図3. 15:01ごろ:急行(赤い四角)に関わらずに入線可能な上り快速急行(オレンジの四角)
このような干渉がない20分後の快速急行は03分ではなく、02分に到着しています(図3)。もう1つホームがあれば小田原からの快速急行が14:40ごろに着けるのですが、それはかなわない夢です。それはともかく、この快速急行は折り返し快速急行藤沢行きとなり、14:51に発車します。
以上をまとめると、
・28分着は40分発(快速急行→快速急行)
・37分着は41分発(急行→急行)
・43分着は51分発(快速急行→快速急行)※半分の確率で42分着
となります。
新宿のホームのやりくりの苦労を小田原(新松田)からの快速急行が背負っている印象ですね。
現行からの小改良
これを小細工で改良できないかを考えてみましょう。
小細工の前に折り返し間合いの確認
まず、新宿での折り返し間合いを確認しましょう(表2)。
表2. 現状の新宿折り返し間合い一覧
これをよく眺めると、地上ホームは忙しく、地下ホームはそこまで忙しくないことがわかります(だからといって地下ホームから急行を発車させるのは案内上問題があります)。
ということは、地上ホームを有効活用すれば良さそうと判断できます。机上の空論かもしれませんが、こんなやりくりはどうでしょう?02/03着の快速急行は物理的には00分に到着できると仮定しています(表3)。
表3. 折り返し改訂案
変更した箇所を斜字で表記していますが、00分に到着する快速急行は地下ホームに到着させ、折り返し13分発の各停として発車させるようにします。そのかわり05分着の各停は地上ホームに到着させ、11分発の快速急行として発車させます。列車の干渉とホーム割り当てが妥当か確認しましょう。妥当か確認するのはあくまでも変更箇所のみです。
干渉について
・上りの各停が地上ホームに到着する05分頃は下りの発車はありません。
・上りの快速急行が地下ホームに到着する00分頃は下りの各停の発車はありません。
・発車時刻は変更ありませんので、発車時の検証は不要です。
以上から、変更に伴う新たな干渉は生じないと判断できます。
ホーム割り当てについて
・地上ホームについては、02/03分着が05分着に変更になるのでホーム専有時間が短縮され、ホーム割り当てに問題が生じることがありません。
・地下ホームについては、各停→各停、快速急行→各停、を交互に8/9番ホームを使用すれば良いことから、問題が生じることがありません。
以上から、ホームのやりくりも問題ないと判断できます。
小細工を行わない理由
これによる問題点は現状では各停が8両編成までという制約があることから、自動的に快速急行も8両編成にせねばならないことです(※)。混雑する快速急行に10両編成を充当できないことです。現在は新宿-世田谷代田の各停のみ停車駅が10両編成に対応していないことから、各停の10両化は無理な相談です。ただし、これらの駅のホームも延伸工事が進んでいるため、そのうちこのような芸当は可能になります。現在は輸送力の減少(せっかく快速急行を増発したのに全て2両減車では本末転倒!)になってしまいますので、現実のダイヤのように一部の列車を3分余計に所要時間をかけることでつじつまを合わせているのでしょう
。
※上り快速急行→下り各停となる小田原方面からの快速急行は8両編成になります。逆に上り各停→下り快速急行となる藤沢方面への快速急行は8両編成になります。折り返しの(小田原方面や藤沢方面で折り返した)小田原方面への快速急行や藤沢方面からの快速急行も8両編成になります。つまり、全ての快速急行が8両編成になってしまいます。
小田急は長年の悲願である複々線化工事が完了し、2018年3月17日に複々線をフルに活用したダイヤに移行しました。この新ダイヤについてもダイヤ改正初日に観察しました。
休日昼間の小田急新ダイヤを観察して考察する(新ダイヤ初日)
この他に、2018年新ダイヤについてさまざまな角度から考察しています。
小田急新ダイヤの解析~ダイヤ改正の意図は?変化点は?