かつては地下鉄でも有数の混雑だった地下鉄千代田線。つくばエクスプレスや日暮里舎人ライナーの開業で混雑が緩和されたとされていますが、実際にはどうなのでしょうか。実質的に二重戸籍区間ともいえ、実態が見えにくい北千住と綾瀬の間で実際に観察してみました。
写真1. 北綾瀬行きは比較的空いている
地下鉄千代田線の夕方ラッシュ時の混雑状況まとめ
以下、長い本文を読む気がない人のために、簡単にまとめます。
・ピーク1時間の混雑は平均すると混雑率115%であり、吊革が埋まる程度の混雑である。
・混雑のピークは北千住基準で18:00~19:00である。
・北綾瀬行きは空いているが、他は行先によって混雑率に差はない。
・先頭車両(10号車)が比較的ゆとりがあり、中ほどから後ろよりの車両が混んでいる。
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
弊サイトでは混雑ポイントという概念を導入しております。その概要を示します(表1)。
表1. 混雑ポイントの概要
せっかくなので、120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。
写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)
写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
今回の調査は北千住発車時(北千住→綾瀬)について行いました。私は別に常磐線(快速)の北千住発車時点の混雑状況を調べています。そのデータと比べるためです。
混雑状況の分析
混雑状況の生データから細かく分析することにします。
生データを見る
まずは、生データをさらしましょう(表2)。
表2. 夕方ラッシュ時の千代田線の混雑状況(北千住→綾瀬)
全体的に他の路線と比べるとそこまで混雑していないことがわかります。160ポイント(ドアに圧迫がみられる程度の混雑)の車両は数えるほどしかなく、北綾瀬行きはかなりの余裕が見られました。私も実際に現地に行って、(その直前に観察した)西武池袋線と比べて空いていることに驚いたものです。ただし、これは首都圏での話ですので、絶対的に混んでいることは確実です。
混雑状況の分析
では、混雑状況を分析しましょう。今回の調査時に遅れている電車もありましたので、調査データに狂いが生じる可能性があります。具体的には、遅れると前列車間隔が開き、多くの人が乗るためにその電車が混んでしまいます。一方、その次の電車は(遅れていないとすると)前列車間隔が詰まり、相対的に空きます。そこで、前列車間隔と混雑率についてまとめます(表3)。
表3. 前列車間隔と混雑状況の関係
このデータは北綾瀬行きを除いたものです。列車間隔が短いほど空いていることはわかりますが、比例関係にはありません。これは、特定の電車に遅れが生じて混雑するとその電車を避けて1本後に乗ることや、そもそもずっと遅れが一定ではない(大手町断面と北千住断面で遅れが異なる)ことから、遅れによる混雑の影響はそこまで大きくないと推定します。以後は、遅れによる電車の混雑状況への影響は(なくはないけど)そこまで大きくないと仮定してデータを処理します。ただし、データ処理の際には列車群で考察して、極力1本の電車の影響が反映されないようにしましょう。
さて、どの時間帯が一番混雑しているのでしょうか。15分ごとにまとめました(表4)。
表4. 時間帯と混雑状況の関係
このデータを眺めると、北千住断面で18:00~19:00の1時間が最混雑時間帯であることがわかります。ここの混雑率の平均は114.9%(だいたい混雑率115%)で、わかりやすく言葉に言い直すと「座席前の吊革が埋まり、ドア部分に立ちが生じる」というものです。私は17:00~17:14のような分けかたをしましたが、真の混雑時間帯はこの時間帯ではないかもしれません。そこで、別途7分後にずらした分析を行い、そこで算出された最混雑時間帯(17:52~18:51)の混雑率(113.2%)と比較しました。すると、17:52~18:51のほうが混雑率は低く、ピークタイムは18:00~19:00であるのが妥当と判断いたしました。17:52~18:00のどこかがスタートとする1時間で計算するとさらに精密に判定できるのでしょうが、そこまではしていません。
さて、どの車両が混んでいるのでしょうか。さきほど確定したピーク1時間で解析しましょう(表5)。
表5. 車両(号車番号)と混雑状況の関係(ピーク1時間)
明らかに先頭車(10号車)が空いています。逆に3~7号車が混んでいて、一番混んでいるのは4号車です。その状況によって変化するので、細かな号車番号を把握する必要はないでしょうが、先頭よりが空いていて、中ほど~やや後ろよりは混んでいることを把握していれば特に問題ないでしょう。
来る電車を見ていると、北綾瀬行きは明らかに空いています。では、ピーク1時間の行先別の混雑状況を分析してみましょう(表6)。
表6. 行先と混雑状況の関係(ピーク1時間)
念のため、始発駅を霞ケ関と代々木上原以遠で分けています。ただし、小田急線始発と代々木上原始発は区別していません。以下の理由で小田急線始発と代々木上原始発で混雑に大きな影響を与えないでしょう、という仮定をしたためです。
・代々木上原断面では座席が埋まらない程度しか混んでいない
・代々木上原あたりの乗客はほとんど北千住まで乗らない
・代々木上原始発であっても、小田急の急行や快速急行から乗りかえた人がそれなりにいる
北綾瀬行きが空いているほかはそこまで差はありません(当該の時間帯は松戸行きはありません)。柏からの常磐線各駅停車は比較的空いていることが多く(座席が埋まらない車両も多い!)、柏まで運んでしまえばおおむね役割を全うできるという側面が大きいです。柏より先は多くの駅で快速が停車するので(通過するのは北柏だけ)、むしろ快速を選ぶ傾向もあります。我孫子行きが空いていますが、柏行きと取手行きが同等の混雑であるということ、我孫子は両者の中間にあることから、我孫子行きが空いているのは行先によるものではないと解釈します(遠いほうが混むのであれば、取手行きは柏行きよりも混んでいるはず)。
常磐線快速との比較
松戸方面に向かうには常磐線の利用も考えられます(北千住-綾瀬はメトロ線のため、この区間は厳密には常磐線の各駅停車ではありません)。建前上はこの両線は全く別の路線ですが、歴史上の経緯からある程度柔軟に運用されています(※)。したがって、この区間はJR線の1区間という性質もあります。そこで、千代田線と常磐線の混雑を比べましょう。
※JRの車内の路線図を見てみると、北千住-綾瀬を自社線と扱っています(図1)。
図1. 北千住-綾瀬を自社の常磐線各駅停車として扱っている
千代田線のピーク1時間は114.9%の混雑率、常磐線快速は110%程度とそこまで差はありません。個々の列車で混雑に差がありますから、この程度の差はないものと扱うことができます。つまり、千代田線と常磐線、北千住発車時点の夕方ラッシュ時の混雑はどっちもどっちと結論づけられます。
夕方ラッシュ時のダイヤを考える
夕方ラッシュ時は115%程度で、首都圏としては空いている領域に入ります。しかし、絶対的な指標としては混んでいます。そのため、このままでOKとはならないでしょう。現在のダイヤでは3分間隔が基本となっていますが、4分の間隔が開くこともあります。また、北綾瀬行きが空いていて、その前後が混んでいる傾向もあります。だからといって、北綾瀬行きを松戸行きに振り替えるのも困難でしょう(北綾瀬直通がなくなれば北綾瀬の利用者の反感を招くでしょう)。
現在の朝の千代田線は2分台の間隔で運転しています。平均2分50秒間隔で20分に7本の運転であれば実現できましょう。そのうち1本を北綾瀬行き、他の6本が常磐線直通とすれば現在の混雑率115%が109%となり、少しは良くなります。さらに可能であれば、平均2分30分間隔で15分に6本の運転(うち1本は北綾瀬行き)とすれば現在の混雑率115%が96%となります。現在はそこまで混んでいませんが、快適乗車には程遠いものです。少しでも快適乗車に近づけるべく、努力を欠かさないでもらいたいものです。
また、ダイヤに比較的余裕のある快速を増発するのも手です。現在の快速(特急を除く)は1時間に11本しかありません。以前よりもピーク時間帯は増強されています(※)。さらに通勤快速の純増などで各駅停車からシフトさせるのも手でしょう。ただし、これは東京メトロは嫌がるかな?
※以前は18時台、19時台は各10本、20時台に12本でしたが、2017年10月のダイヤ改正で20時台を10本にするかわりに18時台と19時台は1本ずつ増強しています。これは適切な判断でしょう。
千代田線の混雑基本データ
千代田線の混雑に関する基本的なデータをコンパクトにまとめています。また、他の時間帯の混雑状況へのリンクも整備しています。