田園都市線は私鉄の路線の中でも混雑している路線として有名です。各種メディアは朝についての記述は多いですが、夕方に関する記述はありません。そこで、最も混雑する渋谷発車時点の混雑状況を実際に調査しました。この結果、メディアが取り上げない穴場的な列車や車両を導き出すことができました。
写真3. 最新2020系も使用される
実際の混雑状況
実際の混雑状況を示します(表1)。また、混雑ポイントの基準も示します(表2)。
表1. 田園都市線渋谷発車時点の混雑状況の生データ
表2. 混雑ポイントの概要
混雑の分析
まず、実際の混雑状況は、言葉にいいかえると、以下の通りです。
・急行は全車両ドア部分に圧迫が見られ、車両ごとの差はそこまでない
・各駅停車はドア部分に圧迫が見られる車両があるものの、1号車(押上寄り:進行方向後ろ側)は吊革が埋まる程度である
・急行の直前の各駅停車は吊革が埋まらない場合もある、混雑を避けたければ急行の直前の各駅停車の後ろの車両が狙い目
実際に混雑状況を見てみると、以下の傾向に気づきました。
・1号車(押上寄り)は空いている傾向がある
・急行は混雑が激しい一方、急行の直前の各駅停車は空いている
では、私が調査中に感じた感想は正しいのかを、データを分析しながら検証しましょう。
列車ごとの混雑の差
列車ごとの混雑状況がどれほど異なるのかということを、層別しながら分析しました(表3)。
表3. 列車ごとの混雑状況の分析
ここでは、急行、各駅停車、各駅停車(桜新町で待避)の3つに層別して、混雑状況を分析しました。やはり、急行が混雑しており、桜新町で急行の通過待ちを行う各駅停車の混雑がゆるいことがわかります。具体的には、急行が100の混雑としましたら、桜新町で待避する各駅停車の混雑が約7割、鷺沼で待避する各駅停車の混雑が約9割です。
では、なぜ急行が混雑するのでしょうか?その理由の1つに、急行は速達列車であるために利用が集中しやすいという側面があります。鷺沼より先に行く人は急行が先着するというダイヤになっています(鷺沼そのものは各駅停車が先着)。また、この急行の前の各駅停車が桜新町で抜かれることから、二子玉川より先に行く人はどうしても急行を選択せざるを得ません。さらに、急行の前の各駅停車との間隔が長いことから、多くの人が渋谷のホームで待っていることも見逃せません(写真1)。
写真1. 渋谷で急行を待つ人の列
これを改善する策はあるのでしょうか?まず、桜新町で待避する各駅停車の渋谷発車時刻を1分程度後にずらして、当該の急行の前列車間隔を狭くすることが考えられます。しかし、これを行うと当該の急行が、三軒茶屋あたりで前の各駅停車に追いついてしまい、急行の所要時間が伸びるという問題があります。もう1つの策として、全体的に増発することが考えられます。これを行ったのが、2018年春のダイヤ改正です。改正前は10分間隔だったのに対し、改正後は9-10分間隔と増発されています。
なお、各駅停車と急行の乗車率の差ですが、全体の混雑がひどくなるとこの差は小さくなります。急行が混雑すると、前後の各駅停車に乗客が流れることがその原因でしょう。急行に乗れないと判断した人が、後続の各駅停車に乗るのです。
号車ごとの混雑差
列車ごとの混雑を考えた後は、号車ごとの混雑を考えます。まずは、各号車の混雑状況を分析します(表4)。
表4. 号車ごとの混雑状況の分析
混雑ポイントから混雑率に換算して統計処理を行って、再び混雑ポイントに変換しています。この結果を見ると、1号車と2号車の混雑がゆるいことがわかります。ただし、混雑する急行だと混雑の差は小さいです。これも自分の乗車したい位置の車両の混雑が激しいと、他の号車に乗客がシフトする傾向が読み取れます。
乗客の行動分析:混雑が激しい場合の混雑分散
種別ごとによる分析と号車ごとの分析双方で、混雑が激しくなると乗客自身が混雑分散の動きをすることがわかりました。すなわち、乗客の行動パターンとして以下の傾向が読み取れます。
1) 自分の希望の号車や種別を選びたい
2) 空いている場合はそこに集中するが、混雑してくるとそこからあぶれる人が出る
3) あぶれた人は、人気のない号車や種別にシフトする
4) 結果として混雑が激しくなると、乗客は分散する
もしもダイヤ作成上のテクニックで急行の乗客集中を改善したとしても、すぐにはその効果は出ないでしょう。その理由として、急行が空いてくると、仕方なく各駅停車を利用していた乗客が急行に乗るだけなのです。ダイヤ作成上のテクニックを使おうとすると、速達性が犠牲になってしまいます。速達性を犠牲にしても急行の混雑が緩和しないのであれば、わざわざダイヤを変更する価値がないと東急側が判断している可能性を指摘できます。
田園都市線の混雑状況のまとめ
写真2. 未だに活躍する8590系
写真3. 最新2020系も使用される(ブーンという音が特徴的でした、E235系に似ています)
田園都市線の混雑は激しいことがわかりました。それでもまんべんなく混雑しているわけではなく、比較的混雑がマシな列車や号車もあることも事実です。それでも、このバランスを是正することは困難です。バランスを是正したところで、急行への乗客集中は変わらないことでしょう。この理由として仕方なく各駅停車を利用していた乗客が、再び急行を選択することになるだけです。なお、混雑が激しいといっても、車両中央部は人と人が触れ合うことはありませんでした。それでもドア部分が圧迫することが日常化している事態は感心しません。
この事態を改善する方法はあるのでしょうか?これは渋谷だけを見ていては難しいです。答えの1つはバイパス線にあります。田園都市線の乗客の一部を大井町線にシフトしようとしています。田園都市線沿線住民がお台場に向かう最短のルートは、大井町線利用ですし(夕方のりんかい線→大崎の混雑はそれなりに混雑します、つまりりんかい線沿線から帰宅する需要は大きいです)、品川地区へのチャンネルにもなります。現に東急は大井町線の重要性を理解していて、急行を6両編成から7両編成に増強しています。バイパス線が快適ではなければ、バイパス線を利用する価値がないためです。大井町線の価値を上げようとする施策です。また、大井町始発の座席指定列車を運転する計画があり、「座って帰りたい」というニーズを大井町経由にシフトしようとしています。これも大井町線の価値をあげようとする施策です。
他に施策はないでしょうか?この1つは東京の郊外どうしを結ぶ路線の建設です。現在は東京都心に用がない人でも都心を経由するようになっています。例えば、田園都市線沿線から三鷹の職場に通う人がいるとしましょう。この人は(職場にも自宅にも関係ない)渋谷を経由せざるを得ないのが現状です。仮に二子玉川から三鷹を通る路線があれば、この人は混雑する二子玉川-渋谷を利用する必要がありません(渋谷によく降りる人であれば、経路を変更しないかもしれませんが…)。ターミナル駅を利用する人を減らすのにこの考えは有効です。ただし、このような横断路線は私鉄の範疇を超えています。
物ごとの解決法は正攻法だけではありません。そして、特効薬はありません(あったらすでに実施されているでしょう)。朝ラッシュ時の混雑を緩和するための方策として、早朝に乗客をシフトさせる方策もそうです。さまざまな方策で少しの改善を積み重ねて、結果的に大幅な改善とするのが、現実的にできることでしょう。
田園都市線の混雑関連のデータ
ここまで特定の駅での混雑調査結果という「狭くて深い」情報を提供してきました。では、混雑関連のデータをまとめたページのような「広くて浅い」情報を提供しているページはないのでしょうか。そのような声にお応えして、以下のページを用意いたしました。