鉄道と色彩②:配色の基本

記事上部注釈
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鉄道に限らず、色はそれ単体で存在しているわけではありません。複数の色が織りなす世界です。複数の色を使うことを配色といいますが、配色の基本についておさらいしましょう。

写真1. ダイアード配色を採用した仙台地区の車両(郡山で撮影)

備考

筆者は色彩検定2級を合格しており、ある程度の色彩学の基礎知識がある状態です。

※今回、色彩検定の知識を解説しましたが、詳しいことは以下のテキストに書いています。検定受験の有無に関わらず、読みものと読むのも面白いと思います。

配色の基本的な考えかた

配色の基本的な考えかたは以下の通りです。これはアメリカの色彩学者のジャッドによってまとめられました。

秩序の原理
色相環の中から規則的に選択した色は調和する
なじみの原理
日常で見慣れた色の配列は調和する
類似性の原理
同系色相、同系トーン(トーン:明度と彩度を組み合わせた概念)などの類似性の色は調和する
明瞭性の原理
明快なコントラストを持つ色は調和する

小難しいことが書いていますが、色彩調和には「似た色か対照的な色を採用すると美しく見えますよ」ということです。このようなに考えると簡単ですね!

また、アメリカの自然科学者のルードは美しい配色は少数の色の調和で実現するとも主張しており、この考えかたが欧米での配色理論の基本となっています。

ジャッドの4つの原理と実際

先に4つの原理を述べましたが、実際の鉄道においてどのように適用されているのでしょうか。色を選定する事業者側にもさまざまな意図があるのでしょうが、ここでは利用者側の立場から見てみましょう!

秩序の原理

秩序の原理とは、「色相環のなかかから規則的に選択した色は調和する」というものです。色相環とは、赤→黄→緑→青→紫→赤のような表現で示される色相の輪です。

色相環の中から規則的に選択する1つの例は補色です。鉄道車両において補色を積極的に採用する例はあまり見かけませんが、湘南色もその1つです。

写真2. 相模鉄道の塗装

相模鉄道の塗装は地の無彩色に対し、オレンジ系と青系の飾り帯を巻いています(写真2)。

E721系(仙台)

写真3. 東北本線の塗装

仙台地区で活躍する車両は形式が異なっていても、赤と緑の飾り帯を巻いています(写真3)。これはこれで色彩調和を考えている組み合わせです。同じく仙台地区で活躍する空港乗り入れ系統もオレンジと青系の飾り帯で、これも色彩調和を考えている組み合わせといえましょう。

「似た色ばかりを組み合わせるのが色彩調和」ではないのです(個人的な話ですが、色彩検定の勉強前には色彩調和は似た色を組み合わせることと誤解していました)。

写真4. 赤と青の飾り帯をまとう京成電車

色相が離れている(PCCSでいうと色相が12離れている)色を補色と言いますが、それなりに離れている色どうしの組み合わせを対照色といいます。この最も有名な組み合わせが赤と青です。その赤と青の組み合わせは鉄道車両においてメジャーな組み合わせです。その1つの例を示しました(写真4)。この赤が少し紫によると、京王電鉄の組み合わせになります。

なじみの原理

色彩検定の教科書を見ると、なじみの原理とはナチュラル配色のことを指しています。ナチュラル配色とは、葉に当たる太陽光のように黄色に近い色相の明度が高く、(黄色の対照色の)青紫に近い色相の明度が低いという組み合わせです。色彩検定の教科書には(PCCSにおける)色相差は3以内とされていますが、本記事ではそれにはこだわりません。

写真5. ナチュラル配色を採用したスカ色

その1つの例がナチュラル配色を採用したスカ色です。暗い青紫と明るい黄色の組み合わせで、まさになじみの原理に基づいた配色です。

写真6. 長野地区の標準塗装もなじみの原理に基づく配色

長野地区の現代の車両も、なじみの原理に基づく配色で、緑に近い青の明度が高く、紫に近い青の明度が低いです(写真6)。逆の配色をコンプレックス配色といいますが、そのような例は外国を含めても探すのが難しいです。

写真7. なじみの原理に反する配色が採用される

なじみの原理に反する配色が採用されている車両がありました(写真7)。221、223、225系で見かける配色です。黄色に近い色のほうが明度が低い部分があります。具体的には、茶色と青色の部分です。ただし、もっと明度の高い色(黄土色)があるので、「なじみの原理に反する」とはいいがたい部分があります。

もっとも、鉄道車両や路線カラーは長年の慣れで「なじみ」の色になります。221系の登場当時は斬新な色彩に驚いた沿線の人たちも223系や225系(配色は基本的に変わりません)の登場時にはさして驚かなくなったのでしょう。いわば221系カラーが「なじみ」の色となったのです。

写真8. 新潟地区のE129系電車

新潟地区のE129系電車はそのような意味でなじみの配色ではないといえます。黄色とピンク色の帯が採用され、黄色に近い色のほうが明度が低くなっています。とはいえ、明度差がそこまで大きくなく、明確なコンプレックス配色ではありません。

写真9. 仙石線の車両はどうだろう?

そのような視点で見てみると、仙石線の205系の一部もそのような塗装に見えます(写真9)。(赤色を基準にすると)ピンクに見えるほうはやや紫がかっており、茶色に見えるほうはやや黄色味があります。

類似性の原理

類似性の原理とは、似た色相や似たトーンのものが調和するというものです。これは多くの例があります。まさに鉄道車両においては、黄金の原理といえましょう。

ECの外観

写真10. 青系の色で統一されたチェコ国鉄車

この例でまっさきに思い浮かんだのは、チェコ国鉄車の塗装です(写真10)。地の白色を別とすると、明度の低い青と明度の高い青と同じ色相で統一されています。さきほど紹介した長野色(写真6)も似た色相、似た明度の色という類似性の原理が採用されています。

トーンで統一されている例はないのでしょうか。

図1. JR東日本の路線図

図2. JR西日本の路線図

路線図は識別性のために、あまり彩度を低くできません(黄色味のあるグレーとオレンジ味のあるグレーの識別は容易ではないことを考慮すると、彩度が高い必要性を理解できましょう)。その路線図でもJR東日本とJR西日本でも異なります。全体的にJR東日本のほうが彩度が高く、派手に見えます。JR西日本の路線図は彩度がやや低く、落ち着いたトーンに見えます。特に、嵯峨野線や奈良線の色彩はJR東日本の路線図にはないトーンです。

また、JR西日本の○○のはなしは2両の色こそ異なりますが、同じようなトーンを採用(写真11~写真13)しており、列車全体のイメージを統一しています。

写真11. ○○のはなしの片方は落ち着いた緑色

写真12. ○○のはなしの片方は落ち着いた赤色

写真13. ○○のはなしの編成中間は落ち着いた青色

明瞭性の原理

明瞭性の原理とは、はっきりとしたコントラストの配色もまた美しいというものです。これも鉄道車両には多く見られる例です。

写真14. 京急は赤と白とコントラストがはっきりする

コントラストで最も強くイメージされるのは、赤と白です。その有名な例は京急電車でしょう(写真12)。一時期採用されていたステンレス車の銀色を前面に出す配色パターンも廃止され、結局赤と白のコントラストに復帰しています。

写真15. 特急踊り子も白と青緑のコントラスト

特急踊り子も白と青緑のコントラストです(写真15)。以前の185系よりも落ち着いた色合いに変更されています。

フリードリヒ駅に停車中のS5系統のリヒテンベルク行き

写真16. ベルリンSバーンも明瞭な2色

明瞭な2色配色を採用している例がベルリンSバーンです(写真16)。赤と黄色の明瞭な2色を採用しています。赤と黄色を直接接するときつい印象になってしまいますから、間に黒色のセパレーションを入れています。

鉄道の配色のまとめ

鉄道の配色は多岐に渡りますが、それらの多くは配色の原理に従っています。そして、多くの車両が目に入る範囲で2~3色という少数精鋭の色を使用しています。また、路線図のように多色配色となる場合でも、「類似性の原理」を採用し、全体としてまとまるように考慮されています。

このように、鉄道での配色検討は色彩学のセオリーに従っているのです。

今回、色彩検定の知識を解説しましたが、詳しいことは以下のテキストに書いています。検定受験の有無に関わらず、読みものと読むのも面白いと思います。

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