品川駅線路切替工事と山手線(2019年11月16日)




2019年11月16日。これは歴史に残る1日となることでしょう。そう、JR化後初めて、山手線で運休が発生した日(天災や事故を除く)です。その様子を探るとともに、代替輸送についても考察しています。そして、さらに深いところにも視点を向けています。

京浜東北線田町行きE233系

写真1. イレギュラーな姿の典型例、田町行きの表示(田端で撮影)


品川駅線路切替工事の意味

多くのファンが「京浜東北線の田町行きが珍しい」「山手線の上野行きを見た」と書くことでしょう。では、なぜ手間をかけてまでも、このようなイレギュラーな対応が必要なのでしょうか。背景も含めて丁寧に解説しましょう。

高輪ゲートウェイ駅の駅名だけが話題になっていますが、もう少し本質的な内容に注目しましょう。昔、品川駅の北側には田町電車区(※)がありました。ここに東海道線の車両を置いていました。でも、品川駅の北側は(本当の意味では「都心」ではありませんが)都心の1角であり、車両基地を置くより有効活用できる土地の活用方法は多いです。そのことは国鉄なりJRは知っていましたが、なかなか田町電車区の設備を手放すことができません。その理由は単純です。東海道線の都心側の車両基地はここにしかなかったからです。

※呼び名は時代により変化しますが、ここでは簡単のために「田町電車区」で統一して記します。

一方、山手線・京浜東北線の東京-上野は非常に混んでいました。これはこの区間に中距離電車(東海道線などのような路線)がなく、ある程度長距離を移動する人もこの2路線を利用します。ならば、東京-上野にもう1路線を建設すれば良い話です。ただし、東京駅に専用のホームを建設すると費用がかさんでしまいます。それであれば、既存の東海道線ホームを活用し、東海道線と直通すれば費用は小さく済みます。この発想が上野東京ラインです。

この事業にはもう1つの利点があります。それが田町電車区を縮小できることです。東海道線と直通する東北線(宇都宮線)には尾久に車両センターがあります。直通してしまえば田町電車区の機能を尾久車両センターにとってかわることができます。そのような発想で田町電車区の機能を縮小しました。残った土地を再開発するのです。

ただし、これには1つの問題があります。田町電車区の東側に東海道新幹線、西側に山手線と京浜東北線が通っています。単純に田町電車区を縮小した土地を再開発したところで、線路に囲まれた使い勝手の悪い場所ができるだけです(道路交通が不便なことは目に見えています)。道路交通が悪ければ、素敵な高級レストランの食材の搬入がしにくい、などの不都合は容易に想像できます。そのため、西側の山手線と京浜東北線の線路を東側に寄せる必要があるのです。

写真2. 切替前の線路(写真奥側)と切替前の線路(写真手前側)(品川で撮影)

今回の線路切替工事は山手線と京浜東北線の線路を東側に寄せて、再開発するスペースを産みだすことが目的です。

JR発表品川駅線路切替概要

(参考)図1. JR発表の線路切替工事の概要(JRの公式発表より引用)

山手線への影響

今回の工事は品川と田町の間で行うことです。そのため、この両駅間は運転できません。実際には以下のような運転計画が立てられました(写真3、写真4)。

写真3. 始発~16時ごろの計画

写真4. 16時以降の計画

この工事は山手線の切替が16時まで、京浜東北線の切替が終電までかかるのでしょう(京浜東北線は品川で北行のホームが3番線から4番線にかわるため作業量が多いためと推定します)。では、山手線が田町-大崎の運休ではなく、上野-田町-大崎の運休なのでしょうか。それには実際にポイントとなる駅を観察するのがベストです。

実際の様子を眺める

大崎と上野で折り返し運転を行っています。大崎は車庫もあるので、何となく予想できそうです。そこで上野の様子を眺めることにしました。そして田町で折り返しできない理由も探ることも必要です。したがって、これら2駅の様子を確認することにしました。

上野での様子

ということで、実際に上野に向かいました。

写真5. 上野行きの表示はなく山手線の表示

車両の行先表示機は「上野」ではなく「山手線」の表示でした(写真5)。また、車内の液晶モニターはJR表示で自動放送も使われません(車掌さんが案内)。

写真6. 上野で引き上げる

上野に着いた電車はホームの鶯谷寄りの引上線に引き上げます(写真6)。3番線から発車する電車は通常このアングルでは前照灯が点灯しますが、このときは尾灯が点灯していることが読み取れます。

写真7. 引上線に引き上げた(ジャーナリストが多いのでこの角度で失礼!)

こうして引上線に引き上げました(写真7)。ここでネックとなるのが、引上時のオペレーションです。引上線が御徒町寄りにあれば上野で進行方向を変える必要がありません。いいかたを変えると、引上線に引き上げ始めた瞬間に次の電車がホームに入れます。しかし、今回のケースだと、引上線に格納されるまで次の電車がホームに入れません。

上野始発となる場面ではこれと逆の手順で行われます。

田町での観察

では、田町ではどのようなオペレーションで折り返しているのでしょうか。

写真8. 浜松町寄りの引上線に引き上げた(今回はジャーナリストの隙間から撮れた!)
※有力ジャーナリストの後ろから撮影しました(たまたま人と人の隙間から撮れた!)

こちらも上野と同じで、いったん進行方向を変えて浜松町寄りの引上線に格納されます(写真8)。ここでのポイントは山手線の線路を渡ることです。写真8で2本の京浜東北線の車両が写っていますが、その間の線路は山手線のものです。また、引上線が1本しかないこともわかります。仮に田町で山手線と京浜東北線の両方を折り返そうとすると、引上線が足らないわ、京浜東北線が引上線に出入りする際はわちゃわちゃするわで混乱するのは目に見えています。そのため、田町で両線を折り返すことは物理的に不可能なのです。また、上野と田町の間に引上線がないので、山手線を上野で折り返すしかありません。

では、山手線を田町折り返し、京浜東北線を上野折り返しではダメなのでしょうか。そうすると、京浜東北線が折り返す際に山手線の線路を渡ります。これを避けるために、今回の組み合わせとなったのです。本当であれば、東京あたりに渡り線があれば、山手線の運休区間が東京-大崎で済みました。

代替輸送の実態を確認する

今回の工事に伴う運休に対して、JR側が提示したのが「上野東京ラインの増発」と「埼京線-りんかい線の増発」です。この実態を見てみましょう。

上野東京ラインの実態

今回の工事で田町-品川を直接結ぶJR線はなくなっています。この経路を代替するのは東海道線の列車です。JRの都合で運休というのに代替経路はそのままというのは芸がありません。そこで、上野東京ラインの増発がなされました。

写真9. 約30分間隔でシャトル列車が増発される

上野の電光掲示板を眺めると、約30分間隔で上野始発の品川行きが増発されています(写真9)。15両グリーン車なしということは常磐線の車両ですね。

写真10. 東海道線表示

上野のホームに立つと、東海道線表示をしている常磐線の電車が停車しています(写真10)。私見ですが、いまだにこの車両が「東海道線」と表示していることに違和感があります。

写真11. 新橋に入る電車

列車番号の末尾がHです(写真11)。これはまさに常磐線快速の1つとして運転上取り扱われている証拠です。ただし、車内は空いていました。山手線の拠点駅で利用率を眺めたときにも実感しましたが、短距離利用が多いので停車駅が少ないと完全な代替にならないのです。

埼京線の増発の様子

埼京線は新木場-赤羽で臨時に増発されています。これは、山手線の大崎-池袋は運転されているものの、通常よりも本数が少ないために、この区間の輸送力を少しでも上積みしたいという意図です。また、りんかい線-京浜東北線の経路で品川-新宿方面のチャンネルを確保するという意味もあります。当日の山手線は5-6分間隔でした。

写真12. 池袋で見かけた臨時電車の新木場行き(列車番号の最初の1桁が9なので臨時列車です)

実際の線路切替工事を眺める

では、実際に線路切替工事の様子を軽く眺めましょう。

写真13. 田町を通過した際の切替工事の様子

写真14. 田町を通過した際の切替工事の様子

上野東京ラインで田町を通過した際の様子です(写真13-14)。多くの作業員が線路切替工事に携わっていることがわかります。これだけの人員を確保するためには夜間の工事だと難しいという事情もあるでしょう。それが昼間の工事につながっているのです。ただし、大手民鉄では昼間に運休することはありません。もう少し何とかならないかという利用者の感覚はあります。

写真15. 品川の4番線も切替工事中!

品川駅では4番線も切替工事をしています(写真15)。このため、品川では京浜東北線は5番線しか使えません。

写真16. 品川の北側も作業員が工事に携わっている

品川でも線路を切り替えています。その一端を6番線ホームから確認できました(写真16)。

写真17. 品川の山手線ホームは立入禁止!

品川の山手線ホームは立入禁止です。そのため、ホームに入る階段は封鎖されていました。今回の運休では山手線の各駅は(京浜東北線の電車も含めれば)、品川を除く各駅にはアクセスできます。品川からは山手線でアクセスできません。逆にいうと、品川から山手線の各駅にはアクセスできません。そこで、各駅へのアクセスが明示されていました。品川駅線路切替工事ですが、品川の山手線ホームそのものは使えるはずです。品川の大崎寄りに渡り線があれば(半数は大崎折り返しにするとしても)品川-大崎の運転が確保されるでしょうが、渡り線がない以上、大崎-品川を運休せざるを得ません。今回の運休で最も不便だったのが、大崎-品川の運休でしょう。

ここまでポイントとなる駅ではジャーナリストの姿を見かけていましたが、品川では本物のジャーナリストも来ていました。山手線運休で影響を受ける人々の様子を撮影して(インタビューもしていました)、テレビジョンで流すのでしょう。

今回の線路切替工事から思うこと

線路切替工事は高輪ゲートウェイの再開発(ひいては上野東京ラインの開業に伴う各線の混雑緩和)には必要なものです。そして、現状の設備で可能な限り動かせる区間は動かそうという意図も感じました。パリのように意味もなく運休するのを目の当たりにした私には、JR東日本のモチベーションの高さを感じました。また、英語のポスターを作成するなど、訪問外国人への配慮も見られたことも記します(パリはフランス語だけの案内でした…)。さらに、山手線全駅から全駅への輸送ルートも確保されていて(上野-田町は京浜東北線、品川は迂回する各線)、山手線の駅に全く列車が来なくて途方に暮れる場面もありませんでした。このことはJR東日本の最大限の配慮といえます。

でも、(工事を昼間に行う是非を別としても)工夫の余地がなかったわけではありません。例えば、品川と東京に山手線の渡り線があれば、運休区間を大崎-東京-上野ではなく、品川-東京で済ませることができました。

逆に、現状の設備でも5-6分間隔で一部区間を運転することが可能であることも示されました。今回は上野と大崎で折り返していましたが、同様のことは田町や池袋でも可能です。これを人身事故等の輸送障害の際に応用できないでしょうか。大崎、池袋、上野、田町の適切な場所で折り返すのです。例えば、新宿で輸送障害があれば、池袋-新宿-大崎の運転見合わせはしょうがないとして、大崎-東京-池袋の区間運転とするのです。

今回の線路切替で多くのファンが集結(私もその1人です!)しました。でも、都市鉄道の役割はファンを引き付けるようなイレギュラーなオペレーションで運営することなく、淡々と人々を運ぶことです。都市鉄道は意識されずに使われることが一番の役割なのです。私を含めたファンも、事業者もその事実を改めて実感したいものです。そして、人々の気づくところ、気づかないところで少しずつ変化を続ける、これが都市の姿であり、都市の1つの装置である都市鉄道もその例外ではないのです。

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『品川駅線路切替工事と山手線(2019年11月16日)』へのコメント

  1. 名前:よみよみ電鉄 投稿日:2019/11/23(土) 23:22:05 ID:022f4a784 返信

    ただ、銀座線渋谷駅改良工事の際に外苑前のためだけに青山一丁目~表参道間で単線並列のピストン輸送を行っているので、
    山手線でも品川~大崎間で単線並列のピストン輸送をやっても良かったのではないかと思う。
    大崎駅2面4線あるから大崎~上野で運転してても品川ピストン輸送はできるし
    JR東日本も非常時とはいえ中央本線高尾~相模湖間でつい最近やったばかりだし

    • 名前:tc1151234 投稿日:2019/11/28(木) 21:03:48 ID:49c652bc3 返信

      よみよみ電鉄さま、コメントありがとうございます。

      確かにピストン輸送で品川と新宿方面のチャンネルを開くこともできました。諸外国の例を考えると非常に努力していることはわかりますが、このように工夫の余地はありましたね。