爆速で走行し、京阪神を高頻度で結ぶ新快速電車。終日15分間隔で時速130kmで運転され、その本数の多さと所要時間の早さは魅力ですが、唯一の欠点は混雑するということです。それの対策となる車両に乗ってみました。
写真1. Aシートがやってきた!
復習:京阪神間の新快速の魅力と混雑
写真2. 新快速の車内のイメージ(223系6000番台の車内なので、この車両が新快速に運用されることはありませんが…)
京阪神の移動で新快速がどれくらい魅力的かをまとめましょう(表1)。
表1. 京阪神間の移動概要
着駅 | ||||
京都 | 大阪 | 三ノ宮 | ||
発駅 | 京都 | - |
28分 570円 |
52分 1100円 |
大阪 |
29分 570円 |
- |
21分 410円 |
|
三ノ宮 |
52分 1100円 |
22分 410円 |
- |
※所要時間は日中時間帯のもの。朝や夕方などはこれより多少遅くなる
大阪から京都、三ノ宮(神戸市の中心部は神戸駅周辺でなく、三ノ宮駅周辺)への所要時間と運賃をまとめました。また、大阪を超えて京都と三ノ宮の移動についても収録しています。大阪-京都は30分を切り、大阪-三ノ宮は25分を切る所要時間です。大阪と京都の間は40kmを超え、大阪と三ノ宮の間が30kmを超えることを考慮すると、その速度に驚くことでしょう。
列車間隔については以下の通りです。
- 早朝・深夜と以下の時間帯の「本数が多くなる」時間帯を除き、基本は15分間隔
- 平日朝ラッシュ時は10分間隔
- 平日夕方ラッシュ時のピークは大阪→三ノ宮(大阪発17:45~18:45)、大阪→京都(大阪発18:15~18:45)は7~8分間隔
- 休日の10時台、11時台の京都→大阪は7~8分間隔の時間帯あり(京都発10:00~10:15、11:00~11:15)
平日朝ラッシュ時を除き、大阪の発車時刻は毎時00・15・30・45分に統一され、日中時間帯に限れば京都の発車時刻も毎時00・15・30・45分に統一されています。
なお、列車そのものは京都-三ノ宮で完結せず、滋賀県や福井県から兵庫県西部(多くは姫路)まで結んでおり、長距離輸送も担っています。
分かりやすい発車時刻、そして速達料金不要の列車としてはピカいちの速度、そして速達料金不要の車両では上位の車内、と文句はありません(もう少し本数が多くても良いと思いますが)。
これほどの魅力があるとどうでしょうか?京阪神を行く人の多くが新快速を活用し、新快速への乗客の集中、すなわち新快速の混雑が問題視されます。JR西日本としても問題視していたようで、2011年以降に8両編成(混雑時間帯は12両編成)だった新快速を基本的に12両編成に統一し、座席数を増やしています。例外は夕方ラッシュ時に設定される、大阪始発の新快速です。大阪始発で大阪の手前の乗客は乗らず、前列車間隔が短いという要因があり、8両編成のままでも良いという判断がなされたのでしょう(車両運用の関係とも聞いたことがあります)。
とはいえ、確実に座れる座席指定を求める声もあったことは事実です。
Aシートの概要
その新快速の一部には指定席、Aシートが連結されています。ただし、1日2往復しかありません。そのため、首都圏の普通列車グリーン車のように「いつでも乗れる」存在ではありません。それらの時刻をまとめます。
表2. 平日下りのAシート連結列車
始発 | 京都 | 大阪 | 三ノ宮 | 終着 |
野洲 | 11:30 | 12:00 | 12:22 | 姫路 |
野洲 | 21:29 | 22:00 | 22:23 | 網干 |
表3. 土曜・休日下りのAシート連結列車
始発 | 京都 | 大阪 | 三ノ宮 | 終着 |
野洲 | 12:15 | 12:45 | 13:07 | 姫路 |
野洲 | 19:59 | 20:30 | 20:53 | 姫路 |
表4. 平日上りのAシート連結列車
始発 | 三ノ宮 | 大阪 | 京都 | 終着 |
網干 | 8:17 | 8:46 | 9:15 | 野洲 |
姫路 | 18:52 | 19:15 | 19:44 | 野洲 |
表5. 土曜・休日上りのAシート連結列車
始発 | 三ノ宮 | 大阪 | 京都 | 終着 |
姫路 | 9:21 | 9:45 | 10:14 | 野洲 |
姫路 | 16:52 | 17:15 | 17:44 | 野洲 |
全般的に下りの設定時刻が中途半端な時刻に設定されているように見えます。どのダイヤであっても昼間と夜間に大阪駅を通る電車に連結されています。
一方、上りの設定時刻はある程度「座席指定」のニーズに合致しているように見えます。平日は朝の通勤時間帯に合致しているように見え(ピークよりやや遅いように見えるが)、休日は大阪10時前到着と、サービス業の出勤時間帯や商業施設のオープンに合わせているように見えます。また、大阪から京都観光にも適切に見えます。また、夕方についても帰宅時間にある程度合わせています。
Aシートは座席指定であり、乗車距離によらず座席指定席券は840円です。ただし、e5489ネット(JR西日本のインターネットによる予約サービス、利用料金はかからない)からであれば、450円~600円の割引料金で利用できます。それ以外の場合は駅のみどりの窓口や自動券売機で発券します。車内精算はできません。
Aシートの内装
では、そのAシートの内装を見てみましょう。
写真3. Aシートの全体像
Aシートの全体です(写真3)。中ほどの9号車に連結されており、10号車よりには荷物入れがあります。新快速は8号車と9号車に運転席がありますから、9号車の8号車よりは客室スペースはありません(そして9号車から8号車に通り抜けられません)。
写真4. Aシートの出入口
Aシートの出入口です(写真4)。もともとAシート用に製造された車両ではなく、通常の223系1000番台を改造したものです。そのため、通常の両開きドアです。入口に人が立っていますが、客室外は指定席券なしでも利用可能ということです。
9号車にはトイレがあり、9~12号車では唯一の存在です。そのため、9号車全体を指定席車両として運用するのは難しいのでしょう。
写真5. 車内の様子
車内の様子を別の角度からも撮影しました(写真5)。撮影機材のホワイトバランスが上の写真と異なり、照明の色が白っぽく映っています。もともと3ドア車だったのを無理やり2ドアに改造していますので、窓割に無理が生じています。
写真6. 車両中央のドアだった部分
その部分を外から撮影してみました(写真6)。
写真7. 着座視点での様子
着座視点での様子です(写真7)。これは大阪停車中に撮影したと記憶していますが、やはり立っている人がいます。そして、客室とデッキ部分は完全には仕切られていません。
写真8. 8番席は窓割的には外れではない
私の割り当てられた座席は8番席ですが、窓割との乖離はありません(写真8)。本来であれば、中央扉だった場所と、次の場所の間に窓を設置するべきでしょう。
写真9. 座席背面の様子
座席背面の様子です(写真9)。大型のテーブルが設置され、食事や読書などには問題ないと思います。
写真10. チケットホルダもある
チケットホルダも備わっています。私は情弱なので、正規料金の840円で利用しています。
写真11. 電源も備わる
2019年に登場した設備のためか、電源も備わっています。携帯電話の充電にはぴったりです。
写真12. 客室を眺める
客室を眺めます(写真12)。濃い茶色の化粧板が重厚感を演出しています。青系の座席とカラースキームが合わない気もしますが、座席の彩度が低く、そこまでの違和感はありません。
写真13. 床の様子
床の様子です(写真13)。床も暖色系が採用され、壁との調和があります。
写真14. 側面の壁もイカしたデザイン!
側面の壁もイカした色合いです(写真14)。そしてダウンライトなのもイカしています!
実際にAシートに乗る!
さて、実際にAシートに乗ってみましょう!
写真15. Aシートの表示
大阪駅に立ちます。すると、8番のりばの新快速野洲行きの表示が普段と異なることに気づかされます。乗車位置から△4が除かれ、△4は有料座席と表示されています。
写真16. 新快速が入ってきた
新快速野洲行きが入ってきました(写真16)。先頭12号車は普通車ですので(厳密には9号車も普通車なのですが)、「通常の新快速」です。
写真17. 9号車はAシート
9号車はAシートで、車両の色が異なります(写真17)。新快速は青で表示されていますので、それに合わせたのでしょうか。車内の青系の座席もそれに合わせたのでしょう。
3人ほど隣に並んでいますが、そこに出入口はありません!
写真18. Aシートの出入口はごった返す
出入口はごった返しています(写真18)。「何かこの車両変!でも乗れるから良いか!」というのが多くの人の感想でしょう。急いで10号車に向かっている人もいました。
私の周囲にも座席指定なことを知らずに座っている人がいて、正規の座席指定券を持っている人に、この車両の制度を説明されていました。
写真19. 淀川を渡る
そのような混乱も含みつつ、電車は大阪を発車します。淀川を渡ります(写真19)。
写真20. まもなく新大阪に停車!
まもなく新大阪に停車します(写真20)。大阪と新大阪の間は1駅ですが、この間は意外と距離があり、新快速もスピードを出します。
写真21. 新大阪に停車!
新大阪に停車しました(写真21)。向こうに普通電車が到着しています。複々線ならではの運転オペレーションです。
写真22. 新快速とすれ違う
新大阪を出発しました(写真22)。大阪・神戸方面の新快速とすれ違います。225系と223系の併結ですね。
写真23. おおさか東線が分岐する
おおさか東線が分岐します(写真23)。2019年におおさか東線が開業するまでは、新大阪は在来線の分岐駅ではなかったですが、2019年からは分岐駅になっています。2023年からは交差駅になります。
写真24. 東淀川を通過!
東淀川を通過します(写真24)。大阪を出て初の通過駅です。
写真25. 複々線区間を爆走する
複々線区間を爆走します(写真25)。
写真26. 複々線を爆走する
複々線を爆走します(写真26)。都市鉄道として花形とされる新快速ですが、その道中の風景は意外と単調だったりします。
写真27. 千里丘を通過!
千里丘を通過します(写真27)。駅周辺に住宅が広がり、郊外という風景が広がります。
写真28. ホーム柵が確認できる
千里丘のような外側線に停車列車がない駅は、外側線ホーム柵が設置されています(写真28)。
写真29. 普通を追い抜かす
普通を追い抜かします(写真29)。複々線ならではの光景です。以前は高槻で同じホームで乗りかえできましたが、現在は別のホームになってしまっています。
写真30. 大阪貨物ターミナルへの線路が分岐
高架線が分岐します(写真30)。これは大阪貨物ターミナルへの連絡線です。
写真31. 都市が近づく
都市が近づきます(写真31)。
写真32. 茨木を通過
茨木を通過します(写真32)。外側線でも快速が運転されていますので、快速停車駅の茨木には外側線に柵がありません。
写真33. 都市らしい風景
都市らしい風景が広がります(写真33)。茨木は大阪-京都の主要都市です。ただし、新快速は通過します。
写真34. 住宅街を走る
住宅街を走ります(写真34)。
写真35. 線路が増える
線路が増えてきました。大阪と京都の間の都市で最も人口の多い、高槻の中心駅である高槻に接近してきました(写真35)。
写真36. 高槻に停車!
高槻に停車します(写真36)。新快速は快速や普通が停車するホームとは別の場所にとまります。これは、高槻のホームが狭いためとされています。それならば、外側線までホーム幅を広げ、新快速と普通の乗りかえを同じホームでできるようにすれば良さそうなものです。ただ、そうするとダイヤ編成が困難になるという事情があるのでしょう。
写真37. 高槻の電光掲示板
高槻の電光掲示板です(写真37)。新快速の案内もちゃんと表示されています。ここから京都までは新快速と普通(高槻以西は快速)がそれぞれ15分間隔で設定されています。
写真38. 高槻を発車!
高槻を発車しました(写真38)。4ドアの普通電車が引上線に待避しています。日中時間帯は高槻から京都まではこの車両は運転されません。
写真39. マンションがある
新快速は高槻から京都まではノンストップです。とはいえ、大阪と京都という2大都市の間だけあり、住宅化も進んでいます(写真39)。
写真40. 複々線を爆走する
複々線を爆走します(写真40)。
写真41. 普通を追い抜く
普通を追い抜きます(写真41)。このため、大阪と京都の間の先着列車は1時間に4本の新快速しかありません。なお、大阪と神戸の間は快速も先着します。新快速と快速の所要時間差がある以上、どこかで追い抜きが発生し、新快速しか先着列車がない区間が生じるのはやむを得ません。乗客集中に対応するための新快速12両編成化なのです。快速の快速運転区間を京都-明石に延長し、京都-神戸間を快速が先着するのも良いとは思いますが、こうすると琵琶湖線区間で追い抜きが発生してしまいます。
写真42. 車両基地が見える
車両基地が姿を現しました(写真42)。このときは117系電車がとまっていました。JR発足後しばらくは新快速に117系も使用されていましたが、乗客増加にともない3ドア車に変更されました。223系Aシートはある意味、117系以来の2ドア新快速の復帰と評することもできます。
写真43. 他の車両もとまっている
他の車両もとまっています(写真43)。
写真44. 特急車両の姿も見える
特急車両の姿も見えます(写真44)。北陸特急と南紀特急と山陰特急。いずれも形が同じに見え、私のような情弱には同じ車両に見えてしまいます。
写真45. 221系電車もとまっている
221系電車もとまっています(写真45)。225系電車の増投入でいずれ大和路線方面に転属されるのでしょうか。
写真46. 桂川を渡る
桂川を渡ります(写真46)。
写真47. 下りとすれ違う
下りとすれ違います(写真47)。外側線を走っているように見えますから、新快速かな?
写真48. 新幹線が寄り添ってきた
新幹線が寄り添ってきました(写真48)。京都までそう遠くありません。
写真49. 線路が増えてきた
京都が近づき、線路が増えてきました(写真49)。
写真50. 北陸特急の特急サンダーバードとすれ違う
特急サンダーバードとすれ違います(写真50)。リニューアル後の塗装ですが、いまだにこの塗装パターンには慣れません。
写真51. 京都に到着!
京都に到着しました(写真51)。ここから乗りこむ人もいました。指定席利用なのか、間違えて乗ってしまったのか…。
新快速Aシートに乗ってみて
写真52. 7割程度埋まっていた車内
今回、大阪から京都の移動にAシートを選択しました。旅行中ということもあり、確実に座れるAシートを選択したという側面もあります。旅行者にとってみては、確実に座れるのは魅力的です(先発の快速でも座れるのでしょうが)。大阪を9:45出発という時間は、大阪から京都への観光客にとってもちょうど良い時間帯でしょう。
そのような好条件もあったのでしょう。車内は7割程度埋まっていました(参考までに30分前に購入した際は29席/46席-63.7%-が埋まっていました)。では、なぜAシート連結列車が増えないのでしょうか。
まず、車両数が少ないという理由が考えられます。Aシートを連結した車両は2編成あります。野洲-姫路の片道が2時間5分、4時間30分で1往復できます。2編成あるということは4時間30分に2本運転できます(実際はラッシュ時での所要時間増加などを踏まえ5時間に2本でしょうか)。姫路発7:00、9:30、12:00、14:30、17:00、19:30、22:00というあんばいで7往復運転できます。車両の点検を考慮しても、その時期だけは1日3~4往復とすれば良いだけです。
それを踏まえると1日2往復というのは少なすぎです。Aシートというサービスが定着せず、乗り間違いが多発するのも仕方ありません。
その答えは車掌という人件費にあるように感じられます。仮に46席のうち30席が利用されるとすると、(割引ぶんも考慮し)売上は500円/人×30人=15000円です。その15000円の収入を得るために車掌さんの人件費を2時間5分ぶんを割くことになります。これでは儲けも少なくなります。雇用形態を工夫し、車掌さん以外の人がやるにしても、人件費くらいしか稼げません。
Aシートが2両連結されるくらいに利用されれば、売上も倍増し、人件費はすぐにペイできます。しかし、そうすると残りの一般車の混雑が増し、指定席以外のサービス水準が低下してしまいます。幸いなことに、神戸線方面は通勤時間帯に特急が運転され、うめきた新駅が開業すれば(特急はるか号が停車するようになるので)京都線・琵琶湖線方面にも特急が運転されることになります。
これからはこのような特急列車が着席需要を満たし、これからもAシートは細々と運転されるのでしょう。