全線通しの急行運転や終電繰り下げなどの革命的なダイヤ改正を実施する東武アーバンパークライン。では、実際にはどのようなダイヤになるのでしょうか。実際のダイヤを詳細に解析しました。
写真1. 今回のダイヤ改正の肝となる高柳駅(2018年夏に撮影)
2020年3月ダイヤ改正における東武アーバンパークラインの変化まとめ
図1. 東武アーバンパークライン(東武野田線)のダイヤ改正概要(公式ホームページより引用)
2019年12月に高柳付近の複線化が完了したことによって、東武アーバンパークラインは運河-船橋の完全複線化が完了しました。改良された設備を活用して、全線通しの急行運転を開始しました。主な変化点をまとめます。
・急行は新たに運河-船橋に通過駅を設定。停車駅は流山おおたかの森、柏、高柳、新鎌ヶ谷。
・従来の急行に準ずる停車駅の種別は「区間急行」と命名。
・急行の運転間隔は30分。原則として、同本数の普通を増発し、基本的には通過駅の減便はなし。
・柏-船橋の急行は朝と夕方も運転。大宮-船橋の急行は日中のみ運転。
急行の停車駅は、大宮、岩槻、春日部-運河の各駅、流山おおたかの森、柏、高柳、新鎌ヶ谷、船橋です。ダイヤ改正前の急行の停車駅は大宮、岩槻、春日部-船橋の各駅でしたから、運河-船橋で速達化が図られた格好です。
運河-船橋の停車駅に柏が含まれるのは当然でしょう。流山おおたかの森や新鎌ヶ谷が含まれるのは、他線との乗りかえ駅である以上、納得できます。高柳に停車するのは意外という反応もありました。確かに高柳は平成の大合併前は沼南町に所属し、柏-船橋で唯一「町」にある駅でした(現在は沼南町は柏市に吸収されています)。そんな場所にある駅が急行停車駅に選定されるのは意外と反応しても自然です。
では、なぜ高柳を急行停車駅に選んだのでしょうか。それは、高柳が2面4線と普通が急行の待ち合わせを行うことができるためです。同様の例は、せんげん台やふじみ野が該当します。これらの駅は新設された際に2面4線の配線で建設され、急行停車駅(せんげん台は準急停車駅)に選ばれています。そのようなことを行ってきた東武鉄道のことです。高柳を急行停車駅にしても不思議ではありません。
逆に、鎌ケ谷などの途中駅は急行通過駅とされました。これは、ある程度停車駅を絞らないと速達効果が見込めないためでしょう。私は古い脳みそしかないので、新鎌ヶ谷駅前は未開発、鎌ヶ谷駅前は既存市街地との記憶があります。しかし、脳みそをアップグレードせねばなりません。今や新鎌ヶ谷駅前が開発されていて、鎌ヶ谷より新鎌ヶ谷のほうが利用者が多いのです。
急行の運転間隔は30分とされています。つまり、1時間に2本の急行が運転されるということです。日中時間帯は大宮-船橋通しの急行を運転、朝と夕方は柏-船橋の急行を運転という運転体系です。
ダイヤの都合で大宮-春日部を急行運転、春日部-柏を各駅に停車という種別を運転(=運河-柏の各駅に停車する急行ということ)する必要があります。これに関しては、このタイプの種別を区間急行と命名することにしました。では、区間急行は柏-船橋では各駅に停車するのでしょうか。それとも停車駅を厳選させているのでしょうか。答えは、「区間急行の運転はない」というものです。東武アーバンパークラインはもともと(スイッチバックとなる)柏で多くの電車が運転系統が分かれていて、区間急行が直通しないのは特段不自然ではないのです。
では、新たに急行が通過する運河-船橋は停車本数が減るのでしょうか。朝ラッシュなどの例外はありますが、急行通過駅であっても基本的に停車本数が減ることはありません。運河-船橋については、急行の本数ぶんだけ普通が増発されるのです。「急行設定によって、急行通過駅を見捨てた」などということはないのです。これが可能になったのは完全なる複線化が完成して、本数設定に制約がなくなったためです。
今回のダイヤ改正でも春日部-運河については全ての電車が各駅に停まる事態は解消していません。これは、部分複線化が完成しながらも、単線が主体でダイヤに余裕がないためです。野田市内高架化の工事を機に、野田市は2面4線に変化します。一般に、このような配線にするには理由があるはずです(※)。野田市の2面4線化後のダイヤにも期待しましょう。
※南武線の稲城長沼は高架化を機に2面4線に変わりました。当時は南武線は快速の設定がありませんでした。しかし、2面4線化が完成した後に、南武線には快速が設定されました。また、小田急の経堂も2面5線という豪華な設備に変貌しました。当初はこの設備を充分に活用していませんでしたが、現在は朝ラッシュ時に設定されている通勤準急はこの設備抜きでは成立しません。
主な変化点は上の通りですが、以下、各時間帯のダイヤについて細かく解析いたします。そう、他のサイトさんではこれで記事が終わりでしょうが、弊サイトはこれでは終わらないのです。
朝ラッシュ時のダイヤを見る
今回、朝ラッシュ時のダイヤが大きく変化するのは、柏-船橋です。ラッシュ時であっても、急行が運転されるのです。大宮-柏では(日中時間帯への移行時間帯を除いて)区間急行が設定されない点とは大きな違いです。
さきほど、「原則として」急行通過駅の減便はないと記しましたが、本当にそうなのでしょうか。朝ラッシュ時の順方向で解析します。東武アーバンパークラインの柏-船橋は大まかにいうと、柏に流れる向きと船橋に流れる向きがあります。柏に流れる向きの駅の例として高柳(柏から7.3km、船橋から12.5km)を、船橋に流れる向きの駅として新鎌ヶ谷(柏から10.4km、船橋から9.4km)を、それぞれ取り上げます。
東武アーバンパークラインから都心に通う人は比較的早い時間帯に利用します(柏なり船橋なりで各線に乗りかえるため)。一方、沿線に通う人はそれなりに遅い時間帯に利用します。そこで、ここでは6時台~8時台について解析することにします。
まずは、新鎌ヶ谷の発車時刻表です(表1)。
表1. 朝ラッシュ時の新鎌ヶ谷発車時刻表(ダイヤ改正前後比較)
急行は赤字で記しています(以下同じ)。ここでは始発駅情報は省略しています。
ダイヤ改正前も後も新鎌ヶ谷-船橋の途中駅始発の設定はありません。つまり、新鎌ヶ谷で比較しようと、船橋で比較しようと増減のカウントには影響しません。
6時台は増発なしで急行が1本設定となっており、急行通過駅は1本の減便です。
7時台は1本増発で急行が2本設定となっており、急行通過駅は1本の減便です。
8時台は3本増発で急行が2本設定となっており、急行通過駅でも1本の増発です。
トータルで急行通過駅は1本の減便とカウントできますが、ダイヤ改正で5時台の電車が増発されています。そのため、5時台も含めると(そして6時台の減便は前半です)、ラッシュ時間帯は急行通過駅でも減便はなく、急行の設定ぶんだけ全体として増発になっていると解釈できます。2018年度の新船橋→船橋の混雑率は139%(11本運転)です。ラッシュ時に2本増発されているので、単純計算で混雑率は118%とかなり緩和されます。
とはいえ、ラッシュ時間帯のダイヤは細部に宿ります。特定の弱点となる電車があるとそれでダイヤが乱れます。急行をはさむ普通の運転間隔が8分あることがリスク要因として考えられます。ただし、実際にはリスクはそこまで高くないでしょう。それは、以下の通りです(ダイヤを眺めた私の推定です)。
・混雑率が平均で118%と混雑が緩和される方向であること
・8分開いたあとの普通は高柳で急行を待避するので、柏-高柳の各駅から船橋に向かう人は急行に乗っており、当該の普通は高柳発車時点では他の普通よりも空いていること
・乗客の多い新鎌ヶ谷では急行が多くの乗客を乗せるから
まとめると、「当該の普通は新鎌ヶ谷時点では他の普通よりも空いている」から「鎌ヶ谷から新船橋で多くの乗客を乗せてもキャパシティは足りる」ということです。
柏から船橋の所要時間はダイヤ改正前の33分前後から、高柳での待避のない普通が31~32分とわずかながらにスピードアップしています。高柳での単線行き違い待ちが解消されたためです。また、急行で23分と劇的にスピードアップしています。全体的に見ると、普通は1分程度のスピードアップ、急行に当たるとスピードアップの効果は高い、というものです。
では、逆方向の高柳の時刻表です(表2)。
表2. 朝ラッシュ時の高柳発車時刻表(ダイヤ改正前後比較)
6時台は普通が1本増発されています(急行の設定なし)。
7時台は3本が増発されており、うち2本が急行です。
8時台は2本が増発されており、2本とも急行です。
つまり、急行停車駅だけではなく、急行通過駅も増発されています。これは、従来は船橋-六実運転の普通を船橋-柏運転に延長したことが大きいです。また、8:45~8:57の12分のダイヤホールがなくなったことも大きいです。ダイヤ改正後は普通については8:51~9:04の13分のダイヤホールが生じていますが、間に9:02の急行が設定されているので、まだマシでしょう。
普通の所要時間は32~33分前後から31~32分前後とわずかながらスピードアップしており、急行は24分で結んでいます。所要時間という側面でも改善されています。
日中時間帯のダイヤを見る
朝ラッシュ時の柏-船橋では(急行通過駅であっても)大きな改悪が見られず、急行停車駅どうしの移動では大幅に改善されるという面を確認しました。では、日中時間帯はどうでしょうか。
急行の運転の概要
急行については、以下の概要で運転されます。
大宮発9:41、10:11、10:44~(30分間隔)~15:44
船橋発10:13~(30分間隔)~15:43(ただし15:43発は柏乗りかえ)
※休日ダイヤの場合はもう少し設定時間帯が拡大
所要時間:大宮→船橋が78分、船橋→大宮が80分
このように、両方向とも80分以内の所要時間で結んでいます。武蔵野線の南浦和-西船橋が所要時間44分、大宮-南浦和が13分、西船橋-船橋が3分ということを考えると、武蔵野線経由よりも理論上20分程度余計にかかっています。それでも、2回の乗りかえが解消されるとなると選ぶ人もいることでしょう。
春日部-運河が各駅に停車して27分(船橋行きの場合、大宮行きは30分)かかるのはまだるっこしいです。同区間で清水公園と野田市のみ停車とすると6分短縮できます。ただし、単線区間なのでこのようなことを行うと、普通に大きなしわ寄せがきてしまいます。したがって、急行といえども春日部-運河で各駅に停車することはいたしかたありません。
では、所要時間短縮は不可能でしょうか。船橋行きは柏で5分、大宮行きは柏で6分停車しています。いくら柏で多くの乗客が入れ替わるとはいえ、停車時間は長すぎです。2分程度でじゅうぶんです。では、そのようなダイヤは組めるのでしょうか。単線区間の制約があるので、大宮-運河の時刻を変えないことを前提に考えます。
まずは、船橋方面行きの私案です(表3)。上段は現実のダイヤ、下段は私案を示しています。
表3. 日中時間帯急行所要時間短縮案(船橋方面)
ダイヤ改正後の時刻を見ると、急行の直前の普通船橋行きが高柳まで逃げ切れるようにするために、後の急行が柏で6分停車していると読み取れます。ところで、急行の直前の普通柏行きが運河で3分停車しています。運河じたいの乗り降りはさして多くありませんので、運河での時刻調整は迷惑以外の何ものでもありません。当該の普通柏行き(表3でいう1240発と1250発)を3分発車時間を早めます。そうすると、柏で接続する普通船橋行きの発車時刻も繰り上げできます。すると、急行の直前の普通船橋行きが高柳まで逃げ切れます。これで、急行が柏で2分停車というダイヤでも成立しそうです。
ただし、このようなダイヤにすると普通どうしの間隔は7~13分となってしまいます。13分開く箇所に急行が挿入されることと、急行の通過駅が3駅だけなので、この程度は許容いただけると思います(大宮方面行きは13分開く箇所がある)。
では、大宮方面行きの私案です(表4)。
表4. 日中時間帯急行所要時間短縮案(大宮方面)
こちらのダイヤはやや厳しいです。というのも、急行大宮行きの直後の普通柏行きが、高柳で急行発車1分後に発車しないと柏での乗りかえ時間が1分になってしまい、多少の遅延でも乗りかえが間に合わないというリスクがあるためです。
とはいえ、これを解決する良い方法があります。原則として柏を通し運転することです。そうであれば、柏での乗りかえを考慮する必要はなくなります。ただし、柏で使えるのが2番線と3番線だけになるというリスクはあります(柏は2面4線ですが、1番線は大宮方面のみにしか向かえず、4番線は船橋方面にしか向かえません)。いくら多くの人が乗り降りする駅とはいえ、直通したほうが良いでしょう。ダイヤが大幅に乱れて1番線や4番線を使用したい場合は、(どちらにせよ乗りかえの利便性は二の次でしょうから)柏で分断すれば良いだけです。
急行運転開始直後でどのような状態になるかわからないので、まずは柏での停車時間を多めにとってダイヤ乱れに備えたのでしょう。私案通りに改善する必要はありませんが、運河や柏でのロスタイムを解消する方向の修正に期待したいです。
主要駅の発車間隔の考察
東武アーバンパークラインは大宮、柏、船橋にそれぞれ流れる流動があります。そこで、ここでは以下の駅について列車間隔の考察をいたします。
・大宮より:大宮発(船橋方面行き)と春日部発(大宮方面行き):表5
・柏より(大宮側):運河発(船橋方面行き)と柏(大宮方面行き):表6
・柏より(船橋側):柏発(船橋方面行き)と高柳(大宮方面行き):表7
・船橋より:船橋発(大宮方面行き)と新鎌ヶ谷(船橋方面行き):表8
表5. 大宮よりの発車時刻表
大宮よりのダイヤは大きくは変化していません。ただし、細かな時刻は変更されており、春日部発の急行大宮行きの時刻は10分繰り下げられています。従来は大宮発の普通の運転間隔は最大14分開いていましたが、13分に縮まっており、その点は改善されています。春日部で時刻調整しても良いので、13分開いた直後の普通を1分繰り上げて、最大12分待ちとすればさらに良かったでしょう。
表6. 柏より(大宮側)の発車時刻表
柏付近は急行の初設定(従来の急行は柏付近では普通と同格なので「急行」とは言えないでしょう)です。そのため、ダイヤは大きく変わっています。先の節で触れた通り、普通柏行きは運河で3分停車している関係で10分間隔を実現していますが、梅郷(運河の1駅大宮より)以遠から江戸川台以遠(運河の1駅船橋より)の移動には不便になっています。可能であれば、当該の普通柏行きは運河での時刻調整を中止すべきでしょう。これは先の節の柏での急行の停車時間削減の実施有無にかかわらずです。
表7. 柏より(船橋側)の発車時刻表
柏-高柳では比較的バランスの良いダイヤを実現しています。普通の最大運転間隔は11分と、ダイヤ改正前の10分等間隔と比べてもそう悪くありません。
表8. 船橋よりの発車時刻表
しかし、高柳-船橋では両方向ともに普通の最大運転間隔が13分も開いています。高柳で急行の1分後に普通が出発すれば、最大運転間隔は12分に短縮します。このようなダイヤもぜひ考えてもらいたいものです。
日中時間帯の所要時間の比較
運転間隔がわかったところで、所要時間について簡単に考えてみましょう。
・大宮-春日部:15分(急行)~21分(普通)でダイヤ改正前後で変化なし
・春日部-野田市:22分(船橋方面行き)~23分(大宮方面行き)から20分(船橋方面行き)~23分(大宮方面行き)と、若干スピードアップ
※急行大宮行きの春日部停車時間が4分から1分に短縮
・野田市-柏:19分~20分から16分~23分(普通船橋方面行き)と差が生じる
※当該の普通は運河で時刻調整。急行利用だと2分程度スピードアップ
・柏-船橋:29分~30分から19分(急行)~29分(普通)にスピードアップ
このように、野田市→柏の普通以外はスピードアップしています。それだけに、普通柏行きの運河での時刻調整は残念です。特に、全線複線化が完了した柏-船橋は大幅にスピードアップしています。
深夜時間帯の充実
深夜時間帯についても終電延長がなされています。
・大宮発:岩槻までの終電が0:17から0:46に繰り下げ、春日部までの終電が0:10から0:37に繰り下げ
・柏発:七光台までの終電が0:37から0:50に繰り下げ、高柳までの終電が0:22から0:56に繰り下げ
・船橋発:高柳までの終電が0:13(ただし六実行き)から0:44に繰り下げ
岩槻まで帰宅する人は東京を23:47に出発すれば間に合いますし、高柳や七光台まで帰宅する人は上野を0:12(東京0:00の京浜東北線で間に合う)に出発すれば間に合います。また、総武線経由であれば、東京を0:01に出発すれば高柳まで帰れます。つまり、終電の延長で七光台-船橋の各駅は東京を0:00まで滞在できることになったのです。
大宮-岩槻に間に合うための東京発の終電が早いことが気になりますが、これはひとえに宇都宮・高崎線の終電が早くて東京から大宮までの時間がかかることが諸悪の根源です。例えば、東京0:03→上野0:09→大宮0:39の宇都宮線(ただし大宮行き)があればだいぶ違います。
東武アーバンパークラインのダイヤ改正のまとめ
複線化が進行し、それを活かした急行運転を開始した今回のダイヤ改正。朝ラッシュ時の増発による混雑緩和も期待できるダイヤ改正です。また、終電の繰り下げにより、七光台-船橋の各駅では東京駅に0:00まで滞在できることにもなりました。日中時間帯の時刻調整や、普通の13分待ちなど欠点も見られますが、全体として増発基調のダイヤです。将来的には、8000系電車の駆逐によるスピードアップや、細かな欠点の是正などのさらなるブラッシュアップを望みたいです。
また、東京の外側を通る路線のスピードアップは間接的に都心部の混雑をも緩和します(道路でいうと外環道や圏央道の発想です)。沿線だけではなく、首都圏全体の輸送改善となる今回のダイヤ改正。せっかくの設備投資です。今後はその果実を首都圏全体で享受したいものです。
写真2. 東武鉄道が満を持して投入した新製車両60000系
コメント
急行の運転時間が大宮9時41分、10時11分、10時14分となっていますが10時14分ではなく44分では無いでしょうか?
2020年の時刻表は持っていないので分かりませんが3分間隔で急行が発車することはないと思うので。
拝島さま、コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、10:44の誤りでした。さっそく修正させていただきました。今後ともよろしくお願いいたします。