比較的混雑がゆるいといわれている東武東上線。その東上線は2023年に朝ラッシュ時ダイヤが変革し、2025年に再度変更されています。そのダイヤでの混雑状況を確認しました。

写真1. ラッシュ時ピークを外した時間帯に有料列車が走る
東武東上線の朝ラッシュ時の混雑状況のまとめ
東武東上線の朝ラッシュ時の混雑状況の概要は以下の通りです。
- 池袋断面での混雑のピークは7:43~8:42の60分間である
- その混雑率は119%と見積もられ、座席前の吊革が埋まる状況である
- 急行が最も混み、準急は同程度、普通はやや空いている傾向である
- 中央よりの車両が混雑し、両端の車両、特に1号車が空いている
詳細は以下に示します。
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
表1. 混雑ポイントの基本的な概念と混雑率

120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。

写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)

写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)

写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
今回は池袋到着直前の北池袋→池袋を調査しました。
東武東上線(平日朝ラッシュ時)の混雑状況の生データ

写真5. 北池袋に到着する普通池袋行き
最初に生データを示します(表2)。また、各列車の混雑率を視覚化した表も別に記載します。
表2. 東武東上線の混雑状況(朝ラッシュ時、現場調査結果、北池袋→池袋、生データ)

表3. 東武東上線の混雑状況(朝ラッシュ時、現場調査結果、北池袋→池袋、各列車混雑率視覚化)

普通がやや空いており、急行が混んでいることがわかります。また、8:00すぎがピークであることもわかります。
東武東上線(平日朝ラッシュ時)の混雑状況の解析

写真6. 1号車付近から階段まで歩く
生データだけ示しても不親切でしょう。そこで、人格者の私は混雑状況を解析します(やさしー)。
Step0. 東上線のダイヤパターン
一般に混雑状況はダイヤに左右されます(逆にダイヤを作成する際には混雑状況も考慮されます)。そこで、東上線のダイヤパターンを簡単に紹介します。
東上線の朝ラッシュ時は11分サイクルで運転されます。1サイクルは急行1本、準急1本、普通2本です。特筆すべき点は、池袋断面で速達列車と普通がそれぞれ連続していることです。準急の直後に急行が走り、その直後は普通が2本連続します。成増始発の普通は上板橋で準急と緩急結合した後に、中板橋で急行を待ちます。志木始発の普通は上板橋で急行だけ待ち、その後は池袋まで先着します。
和光市以北は約15分サイクルのため、約11分間隔の急行と間隔が一致せず、ややランダム感のあるダイヤです。
ただし、8:00すぎは速達列車の比率を上げるためか、変則的なパターンです。
Step1. 最混雑60分間の推定
最初に最混雑60分間を推定します(表4)。
表4. 東武東上線の混雑状況(朝ラッシュ時、現場調査結果、北池袋→池袋、最混雑60分間推定)

7:41からの60分間、7:51、8:01と当たりを付け、この中から2.5分間隔で推定した結果、7:43~8:42の60分間が最混雑60分間と推定しました。以下、この60分間を解析の対象にします。
Step2. 種別と号車ごとの混雑状況
次に、この時間帯の種別と号車ごとの混雑状況を分析します(表5、図1)。
表5. 東武東上線の混雑状況(朝ラッシュ時、現場調査結果、北池袋→池袋、種別ごと)

これを視覚化しました(図1)。

図1. 東武東上線の混雑状況(朝ラッシュ時、現場調査結果、北池袋→池袋、種別/号車ごと)
視覚化すると、5号車と6号車の混雑が激しいことがわかります(図1)。逆に1号車が空いている傾向にあり、10号車も近い混雑状況ともわかります。
1号車は乗りかえにも便利ではなく、選ばれない傾向なのでしょう。逆に、中央付近は池袋でJR線や地下鉄丸ノ内線への乗りかえに便利であり、選ばれるのでしょう。10号車は改札こそ近いですが、南改札だと乗りかえがやや不便です。このような事情が積み重なり、現実の混雑分布となっているのでしょう。

図2. 東武東上線の混雑状況(朝ラッシュ時、現場調査結果、北池袋→池袋、種別ごと)
急行より準急が空いています。この要因の1つがふじみ野での緩急結合にありましょう。すなわち、急行はふじみ野で準急を追い抜き、新河岸や上福岡から池袋に急ぐ人はふじみ野以南で急行を使ってしまいます。同様に川越から池袋への有効列車が急行に限定されます。そして、普通が空いています。この要因の1つが準急の上板橋停車にありましょう。上板橋以遠の準急通過駅利用者も準急を利用し、普通の利用ゾーンがときわ台、中板橋、大山、下板橋、北池袋に限定されるということです。
Step3. 時間帯ごとの混雑状況
ここでは、15分ごとに区切ることにします。
表5. 東武東上線の混雑状況(朝ラッシュ時、現場調査結果、北池袋→池袋、時間帯別)

そして、このデータを視覚化しました(図3)。

図3. 東武東上線の混雑状況(朝ラッシュ時、現場調査結果、北池袋→池袋、時間帯別)
8:00ごろが最も混雑し、8:40を過ぎるとやや空くことがわかります(図3)。
東武東上線の混雑状況からダイヤを考える

写真7. 古豪による急行
では、このような混雑状況からダイヤを考えます。普通の本数が多いためか、急行と準急の速度が抑えられています。そして、普通は空いている傾向にあります。さらに、和光市以北の地下鉄直通電車の15分サイクルとも相性が悪いです。
これらをいっぺんに考えると、15分に3本の速達列車と15分に2本の普通のほうが良さそうです。速達列車は5.5分間隔から5分間隔に増え、わずかながら混雑緩和も期待できます。
とはいえ、普通が混雑するのは明白ですので、15分に2本は上板橋停車とし、普通と緩急結合します。こうすると急行が15分間隔というのは利用が集中することは明白です。そうであれば、上板橋停車の速達列車のうち半数は通勤急行とし、川越から志木も速達列車とします。可能であれば、当該の通勤急行を半数とし、もう半数は準急として存続、さらに副都心線直通の速達列車として運転することも手です。
中板橋→下板橋の上り線が2線あれば普通を5分間隔で運転しても、速達列車と普通を各5分間隔で走らせても速度低下は免れたと思いますが、なかなかそのような改良はしずらいです。結局、鉄道の混雑やダイヤの問題はインフラにあるのです。
資料:2020年度の混雑状況
以下、参考に2020年度の混雑状況を示します。

写真8. 北池袋を通過する急行
東武東上線の混雑状況のまとめ
詳細は以下の章で示しますが、東武東上線の混雑状況の概要は以下の通りです。
・最混雑区間の北池袋→池袋であっても、ラッシュ時ピーク時間帯であっても、混雑率は106%程度である。
※新型肺炎ウィルスの脅威が語られる前は、公式発表で135%でした。
・最も混む60分間は、池袋着で7:31~8:30である。
※ただし、最混雑列車は池袋8:43着の急行です。
・急行と準急はだいたい同程度の混雑、普通は空いている
※細かくいうと、急行の直前の準急はやや混んでいて、急行の直後の準急はやや空いています。
・5号車、6号車と8号車が混んでおり、1号車と2号車が空いている
※上りでいうと、前より~中ほどが混んでいて、後ろよりは空いているということです。
平日朝ラッシュ時の東武東上線の混雑状況の生データ
まずは、生データを示します(表2-1)。
表2-1. 東武東上線朝ラッシュ時混雑調査(北池袋→池袋、生データ)

7:30ごろから混み始め、8:45ごろまで混んでいることがわかります。最混雑列車は8:43着の急行です。明らかに普通が空いていて、準急と急行が混んでいます。そのため、種別ごとに混雑状況を解析するのが良さそうです。
詳細な解析は次の章で示します。
平日朝ラッシュ時の東武東上線の混雑状況の解析

写真9. 準急の通過速度はゆっくりなので撮影が容易
単に生データだけさらしても不親切です。そのため、私なりに混雑状況を分析します。
最混雑60分間の抽出
一般的に、ラッシュ時の解析はピーク60分間になされます。そのため、最混雑時間を抽出します。東上線は普通と速達列車の混雑差がありますから、単純に10分ごとに区切るのではなく、急行~次の急行の約15分間で区切るのが得策です(表2-2)。
表2-2. 東武東上線朝ラッシュ時混雑調査(北池袋→池袋、ダイヤサイクルごとの集計)

このように抽出すると、最混雑時間帯は7:31~8:30が適切(7:29着の急行を含まず、8:30着の急行を含む1時間)で、その混雑率は106.2%です。念のため、7:35~8:34の混雑率も計算しましたが、106.1%とわずかに空いていました。このことからも、この時間帯が最混雑60分と推定するのが正しい材料となります。
8:01~8:14のサイクルより、8:15~8:30のサイクルが混んでおり、本当に混む時間帯は8:15~8:30ごろと推定できます。
なお、8:43着の急行が最も混んでいますが、これはこの時間帯の準急が15分間隔であり、その前の15分に2本よりも少ないために、急行に乗客が集中しているためです。
種別ごとの分析
先ほど、最混雑時間帯は7:31~8:30と述べました。その60分間にしぼって、種別ごとに混雑状況を分析します(表2-3)。
表2-3. 東武東上線朝ラッシュ時混雑調査(北池袋→池袋、60分間、種別ごと)

みごとに、急行と準急の混雑がほぼ一致しています。ただし、よく見ると、準急の混雑にばらつきがあることがわかります。東上線の速達列車は急行→準急→準急→急行の順に運転されています。このうち、急行の次にくる準急は空いていて、急行の前にくる準急が混んでいます。
これは、急行の直後の準急がふじみ野で急行の待ち合わせをするのに対し、急行の直前の準急は急行に抜かれないためです。このことは、ふじみ野-成増の急行通過駅の利用者が無視できないほど多いことを示しています。もしも、急行通過駅の利用者が少ないのであれば、急行だけ混んでいるでしょうから。
号車ごとの分析

写真10. 10号車よりにも改札口がある(ただし乗りかえにはやや不便)
では、空いている車両と混んでいる車両はあるのでしょうか。種別ごとで違いはなさそうなので、全種別で集計しました(表2-4)。
表2-4. 東武東上線朝ラッシュ時混雑調査(北池袋→池袋、60分間車両ごと集計)

5号車、6号車と8号車が混んでおり、1号車と2号車が空いている傾向がわかります。池袋での乗りかえは後ろよりの車両はやや不便(1号車に対応する階段はなく、2号車に対応する階段から地下鉄の乗りかえには便利ではない)なことがよく表れています。特に、5号車、6号車と8号車付近は池袋でJRに乗りかえるのがラクな中央南改札に近いです。
そして、興味深いことは、混んでいる車両の隣の車両が混んでいない、という現象が見られる点です。これは、ある程度混雑していない路線で見られる現象です。混雑が激しくなると、特定の車両にあぶれた人が隣の車両に乗りこみます。しかし、東上線はそこまで混んでいませんので、特定の車両にあぶれる人が出てきません。
池袋で素早く乗りかえの階段に着けるか、着けないかで乗りかえ時間に差が出てしまいます。そのため、乗客が特定の車両に集中する行動形態であることはやむをえないです。それでも、池袋の乗りかえ階段は複数あるだけ分散(※)されています。
※乗りかえ口が東武東上線より限られている西武池袋線の混雑は先頭車に偏っていることからも、このことは類推できましょう。
新型肺炎ウィルスの脅威が語られて以来、通勤ラッシュ時に電車に乗る人は減少しました。東武東上線の場合はどの程度なのでしょうか。新型肺炎ウィルスの脅威が語られる前の公式データと、現在の調査結果を比べてみましょう。
現在の混雑率は(私の見立てでは)106%です。一方、2019年の公式データでは135%でした。これは減少率はおおむね21.5%です。だいたい利用減は2割程度ということです。都営地下鉄の減少率が30%程度ですから、これよりも少ないです。
これは、インバウンド需要がほぼ消失した点が関係ありましょう。都営地下鉄沿線はホテルも多く、通常の通勤ラッシュ輸送のほかに、インバウンド需要も担っていました。しかし、東武東上線沿線は住宅地が多く、ホテルはそこまで多くありません。そのため、都営地下鉄よりもインバウンド需要の減少が少ないのです。
混雑状況からダイヤ案を考える

写真11. 普通の速度向上はダイヤ作成の1つのキモ
混雑状況からダイヤ案を考えてみましょう。朝ラッシュ時の東上線の急行の所要時間は39分(川越→池袋)です。ラッシュ時後半は38分なり37分ですが、これは郊外側で追い抜く普通が少ないためでしょう。いずれにせよ、日中時間帯の31分よりはかかっています。また、速達列車も日中時間帯の毎時6本よりも少ないです。
このようなことを考えると、15分に2本設定されている準急の半数を急行か快速に変更するのも手です。現在、川越市→志木は15分間に急行1本、準急2本、普通2本(副都心線直通、有楽町線直通が1本ずつ)運転されています。このうち準急1本を速達列車に変更しても、通過になる各駅の乗車チャンス減少による実害は低いでしょう。
また、池袋よりでは15分に3本の普通が設定されていますが、普通の停車時間削減も重要です。現在、利用が減少しており、過剰な停車時間は不要です。1駅5秒の短縮であっても、成増から池袋では合計45秒も短縮できます。さらに、駅間の走りを改善すれば、成増から池袋まで1分も短縮できます。そのぶん速達列車もスピードアップできます。
東上線の混雑が緩和してきたのが事実ですし(普通の最後尾車両は空席のある列車もあった)、他の民鉄よりはラッシュ時の所要時間増加が少ないという強みもあります。そうであれば、これからはさらなる所要時間短縮が望まれます。所要時間短縮は、労働時間や所要車両数の削減という会社側にとってのメリットもあります。これからはこのような輸送改善にシフトしてもらいたいものです。
東武東上線の混雑データ
ここまで、特定の駅での調査結果という「狭くて深い」情報をお届けしました。では、東上線全体の混雑傾向について触れた記事はないのでしょうか。そのような声にお応えして、以下の記事を用意いたしました。そして、他の時間帯に関する記事へのリンクもあります。
コメント
とても参考になりました。沿線住民なら常識なのでしょうが、県外から一時的に沿線に滞在しているので助かります。
一時的に志木在住さま、コメントありがとうございます。
一般的なサイトさんでは、一般的な情報しか書かれておらず、種別、号車、細かな時間帯による違いによる違いが考察されていないように見受けられます。日常利用者にとっては常識であっても、意外とそのような情報は転がっていないものです。そんな情報をこれからもお伝えできればと思います。これからもよろしくお願いいたします。
現在の混雑はどうでしょうか?コロナが落ち着いてきて、また激混みでしょうか?ふじみ野から秋葉原まで行きたいのですが、ふじみ野から池袋は激混みでしょうか?
ゆうりんさま、コメントありがとうございます。
細かな点はダイヤ状況などで異なりますが、一般的な傾向で考察します。
東京都コロナ対策サイトでは都営地下鉄の改札通過数を公開しています。これによると、
・2020年12月:コロナ前よりも30%程度減少(利用者数は70%程度)
・2022年10月:コロナ前よりも22%程度減少(利用者数は78%程度)
この傾向が東武東上線にも適用されたとすると、このときよりも1割程度増えています。このときの混雑率は106.2%ですから、現在は116~117%程度と推定できます。