2021年10月23日~24日。山手線渋谷駅の改良工事に伴い、内回りが区間運休するなど、影響が広範囲に及んでいます。その影響とフォローを観察してみました。
写真1. 臨時列車の表示は簡素なもの
復習:渋谷駅改良工事
渋谷駅周辺では再開発が進められており、そのコアに当たる渋谷駅そのものも例外ではありません。渋谷駅そのものの工事に当たっては線路の移設も含めた配置変更が行われています。
非常に大雑把な言いかたをすると、2013年3月まで地上に存在した東横線渋谷駅のスペースを活用し、JR線のホームを拡幅しています。その一環が埼京線・湘南新宿ラインのホーム移設です。
※変化する渋谷駅(銀座線と埼京線・湘南新宿ラインホーム移設)をご覧ください。
全部で5段階あり、2020年6月1日からの埼京線・湘南新宿ラインのホーム切り替えはその重要な1ステップでした。復習を兼ねて、5段階の切り替えを確認しましょう(JR東日本公式サイトから引用)。
図1. ステップ1 : 貨物線の高架切り替え
図2. ステップ2 : 貨物線ホームの移設
図3. ステップ3 : 山手線内回りの線路移設
図4. ステップ4 : 山手線外回りの線路移設、島式ホーム化
図5. ステップ5 : 山手線外回り・内回りの線路高さ調整
今回は、山手線内回りの線路移設がメインであり、内回りの線路で工事をします。そのため、渋谷駅山手線内回りの線路を通る列車を設定できません。この基本原理を把握すると、運休区間や代替ルートの整理に役立ちます。
そして、次のステップでは外回りでも同様の措置が行われるでしょう。本記事の外回りと内回りの単語を入れ替えると次のステップの運行形態の予測となりましょう!
運休区間と代替ルートの把握
では、実際にどの区間が運休し、どの代替ルートが使えるのでしょうか。簡単にまとめてみます。
山手線の運休区間一覧
まず、山手線の状況をまとめます。
図6. 運休区間一覧
まず、JRの公式発表の図を示しました(図6)。
山手線に着目すると、以下の要領です。
表1. 山手線の運転間隔一覧(概要)
区間 | 外回り | 内回り |
---|---|---|
大崎-新宿-池袋 | 10分に2本 | 運休 |
池袋-東京-大崎 | 10分に3本 | 10分間隔 |
上記では区間ごとでまとめましたが、運転系統で整理すると、以下の要領です。
- 外回りの周回電車は10分に2本の運転
- 大崎-東京-池袋の区間電車を10分間隔で運転
上記事情のため、内回り電車は大幅に本数が減っています。通常の山手線で10分間隔になるのは早朝くらいです。それほど本数が減っています。逆に、外回り電車は機能がある程度維持され、外回りに乗れば移動ができる、という状況です。
代替ルートの増強
とはいえ、運休区間を中心に輸送力が不足することは目に見えています。そのため、代替ルートも整備されています。主要な増便は以下の通りです。
- 埼京線の新宿-渋谷-大崎の大幅増便
- 新宿発着の相鉄線直通を池袋に延長
- 新宿-品川の臨時列車運転
今回、運休となる大崎-新宿-池袋は非常に輸送量が多い区間です。そのため、埼京線を中心として輸送力が大幅に増強されています。通常、埼京線の大崎-新宿は毎時3本ですが、これを毎時6本(に見えました)に増強しています。これで、大崎-新宿の輸送力は増強されます。さらに、新宿-相鉄線の系統を池袋に延長運転し、新宿-池袋を毎時2本増発しています。
ただし、これでは新宿・渋谷-品川の行き来が不便ですから、別途、新宿-品川の臨時列車を運転しています。ここまでの増発策をまとめると、以下の通りです(表2)。
表2. 山手貨物線の増発状況(概要)
区間 | 通常 | 特別措置 |
---|---|---|
品川-新宿 | 0本/時 | 2本/時 |
大崎-新宿 | 5本/時 | 8本/時 |
新宿-池袋 | 9本/時 | 11本/時 |
湘南新宿ライン | 4本/時 | 4本/時 |
これを眺めると、大崎-新宿-池袋を直通するのは毎時12本(湘南新宿ラインを含む)にまで増強されており、そこまで「待つ」必要がないくらいの素晴らしいフォローがなされています。
なお、具体的にはさらに増発されています(大崎-赤羽で毎時1本程度の増発のようです)。以下の時刻表をご覧ください。
明日明後日山手線内回りが工事のため池袋ー大崎が運休になるけど便数減らした外回りと湘南新宿ライン/埼京線がこれだけ動いていたら全く問題ない
てっきり1時間に数本とかに減便されると思い込んでいた… pic.twitter.com/0QTuXFVfZ9— ぷらりーぬ fully vaccinated (@chocolatganache) October 22, 2021
実際の様子を眺める
さて、実際の様子を眺めてみましょう!
新宿-品川の臨時列車に乗ってみる
今回の代替ルートの目玉は新宿-品川の臨時列車でしょう。その臨時列車に乗る機会に恵まれましたので、乗ってみました。
写真2. 臨時列車の時刻(新宿で撮影)
臨時列車の時刻が掲載されていました(写真2)。おおむね毎時1本から毎時2本の運転です。「待たずに乗れる」という代物ではなく、たまたま来たらラッキーという程度でしょう。
写真3. 品川からやってきた
新宿の2番線に列車がやってきました(写真3)。車両運用の関係か、品川方が1号車の湘南新宿ライン用車両を使っていました。なお、4号車と5号車のグリーン車は営業していません。これは、品川-大崎のグリーン料金の設定がないためでしょう。ただし、通路扱いということでグリーン車も車内は施錠されていませんでした(通路の移動に疲れた人が一時休憩されていたようです)。でも、普通車扱いでも良かった気がするよ!
この列車のハイライトは大崎-品川で普段は料金不要列車が通らない線路を通ることでしょう。
写真3. メディアが集中!
そんなこともあり、メディアが先頭部に集中していました。これは新宿発車直後のものですが、渋谷・恵比寿とさらに集結していました。メディアの取材意欲の高さを知ることができました(新宿で次の臨時列車を待っている人もいました)。
写真4. 車内の電光掲示板は表示されない
車内の電光掲示板は何も表示されず(写真4)、自動放送もありません。2日限りの臨時列車ですから、わざわざ自動放送や電光掲示板のパーツを用意することもありません。
写真5. 新宿の表示
一方、駅構内には詳細な表示がありました(写真5)。臨時列車用のデータを作成していたことがわかります。
写真6. 大崎に停車しないことも強調
大崎にとまらないことも強調されています(写真6)。通常の埼京線や湘南新宿ラインであれば、大崎に必ず停車します。一方、新宿から品川に向かうには、大崎ではホームのない線路を通ります。そのため、この臨時列車は大崎に停車できず、大崎通過の旨を案内しているのです。
列車は新宿を発車し、渋谷手前を通ります。
写真7. 渋谷で工事している
写真8. 渋谷で工事している
線路を工事しています。線路の位置をずらすということは、施工前と施工後で位置が異なるということです。施工前と施工後で位置が変わる場所すべてにおいて線路をずらしています。そのような大工事なのか、多くの人で作業しています。私たちの快適な暮らしの裏にはこのように支える人がいることを実感する瞬間です。
渋谷・恵比寿と停車し(ホーム端にはメディアが詰めかけていました)、いよいよ非日常の空間に入ります。
写真9. 大崎手前で分岐!
大崎手前で分岐します(写真9)。この分岐した先にあるのが、大崎のホームやりんかい線や横浜方面です。
写真10. 大崎陸橋の下を走る
大崎陸橋の下を走ります。湘南新宿ラインであれば、もうすぐ大崎という位置です。
写真11. 大崎を通過!
大崎を通過します(写真11)。山手線の車庫への線路と立体交差するため、ここは周囲より高い場所を通っています。
写真12. 西大井方面を眺める
大崎-西大井方面の線路を眺めます(写真12)。
写真13. 横須賀線(品鶴線)が近づいてくる
横須賀線(品鶴線)が近づいてきます(写真13)。線路もあり、需要も高そうなのに、通常から新宿-品川を運転しないのは、ひとえに横須賀線と湘南新宿ライン・埼京線との兼ね合いで本数を増やせないためでしょう。
写真14. 横須賀線と合流!
横須賀線と合流します(写真14)。
写真15. 品川に到着!
品川に到着です(写真15)。品川では横須賀線の線路を通りますので、横須賀線のホームの発着です。
この臨時列車はかなり空いており、後述の山手線の混雑とは別次元の世界でした。
埼京線の様子を眺める
埼京線が増発されています。その様子を眺めてみましょう!
写真16. 池袋の発車案内
池袋の発車案内です(写真16)。普段は11:53発の各駅停車は運転されていませんから、増発されていることがわかります。
写真17. 池袋に停車中の様子
池袋から新宿方面へは埼京線か湘南新宿ラインしか利用できません。そのため、池袋の1番線には多くの人が集結していました(写真17)。相鉄線直通も含めて増発されていることも納得できます。
写真18. 相鉄線からの池袋どまりがやってきた
相鉄線からの電車は池袋どまりです。その池袋どまりがやってきました(写真18)。池袋では3番線に入るようです。確かに4番線よりも発着本数が少ないですから、時刻調整には良いでしょう。
山手線の折り返しの様子を眺める
山手線では大崎と池袋で折り返し運転が行われています。その様子を見てみましょう!
写真19. 池袋どまりがやってきた
内回りの池袋どまりがやってきました。山手線の池袋どまりは5番線と6番線に入線します。ここからは発車する電車はありません。
写真20. 目白方の引上線に引き上げる
目白方の引上線にいったん格納します(写真20)。
写真21. 始発電車は8番線に入線
始発電車は8番線に入線します。外回りの周回電車は10分に2本程度の設定ですから、この隙間に8番線に入るのでしょう。
写真22. 外回り電車が大崎に入線
大崎では10分間隔で外回りが大崎に到着し、10分間隔で大崎から内回り電車として発車します。その外回り電車が大崎に到着しました。
写真23. ポイントは車庫に向いている
ポイントは右側に向いています(写真23)。こちらは車庫の方向ですね。
写真24. 側線から車両が入る
大崎の側線から内回りの線路に車両が入っていきます(写真24)。このときは2番線に入線しました。
なお、大崎からの山手線は本数が減っていたためか、けっこう混んでいました。
原宿の様子を眺める
今度は山手線に着目しましょう。今回の運休区間にあり、最もメジャーな場所原宿です。
写真25. 外回りのホーム
外回りのホームです(写真25)。ここはおおむね5分間隔でやってきますから、(多少本数が減るとはいえ)いつもの光景です。
写真26. 改札口周辺の様子
改札口周辺の様子です(写真26)。
写真27. 内回りホームには入れない
原宿では外回りと内回りが分離されています。当然、工事期間中は内回りに乗る用事も、内回り電車から降りる人もいません。そのため、ホームへ通じる通路は閉鎖されています(写真27)。
写真28. 別の通路も閉鎖される
別の通路も閉鎖されてました(写真28)。この付近にはコインロッカーがあり、ここまでは立ち入ることができました。
写真29. 工事用車両もとまっていた
工事用の車両もとまっていました(写真29)。架線切り替え用のものでしょうか。
大塚の様子
外回り・内回りともに動いている駅のうち、京浜東北線が並走していない駅から大塚を選択し、簡単に様子を確認しました。
写真29. 各駅への交通手段
池袋から大崎までの内回りは運転を取りやめています。その中の各駅への行きかたが記されていました(写真29)。各駅で各駅への行きかたがていねいに記されていました。
写真30. 工事のポスター
工事のポスターも貼られていました(写真30)。
写真31. 山手線の発車標
山手線の発車標です(写真31)。直近の電車とその次の電車の運転間隔が最低でも9分開いていることがわかります。
渋谷の様子
さて、最後に渋谷の様子を確認してみましょう!
写真32. 外回りホームから見た
写真33. エレベータ前が閉鎖されている
2番線(内回りホーム)前のエレベータは閉鎖されていました(写真33)。
写真34. 2番線への階段も閉鎖されている
エレベータだけではなく、階段も閉鎖されていました(写真34)。
写真35. 別の階段も閉鎖されている
別の階段も閉鎖されています(写真35)。10/23、10/24限りという行きかたが非日常感がありますね。
写真36. 3番線から眺めた工事の様子
NHKのような巨大メディアなら2番線から工事の様子を撮影できるのでしょうが、私のような個人ではその願望は叶いません。したがって、3番線から工事の様子を観察しました。巨大クレーンで工事するのではなく、人海戦術で工事している様子が伝わります。
車窓から眺めた渋谷駅前後のようすからも工事の大変さが(素人ながら)実感できます。
渋谷駅工事とイレギュラー対応を眺めてみて
今回、渋谷駅に大きな工事を行い、渋谷駅の機能は徐々に強化されます。過去にも埼京線や湘南新宿ラインのホームが繁華街に近い場所に移設されるなどの改良が加えらえています。今後も山手線の外回りの移設が伴う、島式ホーム化も控えています。このように、都市は常に生き続け、絶え間なく変化しています。
また、今回の工事ではJRになってから初めて計画的に山手線の運転が取りやめました。確かにこのことはとても不便な措置です。ただし、(実際に利用者にとって100%機能しているかはともかくとして)別の経路の増発などのフォローがなされていました。諸外国では長期間(1週間以上)運休し、代替ルートの増発などがないことを考えると、日本のきめ細かさが表れています。
写真37. パリでフォローなく運転を見合わせている様子(夏のバカンスシーズンで手抜きしたのか?)
余談ながら、このフォローの過程で根強い山手線信仰を確認することができました。その1つが新宿-品川の臨時列車が空いている一方で、本数が減らされていた山手線が混んでいたことです。とはいえ、今回のフォローで「山手線以外で目的地に行ける」という印象が根付き、今後の移動経路を変える人も出てくるかもしれません。これはこれで都市に住む人の意識の変化です。
このように、都市の変化は単なるインフラの変化だけではなく、そこに住む人の意識の変化でもあるのです。