ダブルデッカーの軌跡の感想(鉄道書籍レビュー)

記事上部注釈
弊サイトでは実際に利用したサービスなどをアフィリエイトリンク付きで紹介することがあります

2階建車両。鉄道には空間的制約があり、2階建車両は特にその制約が顕著に現れます。その制約ゆえに鉄道ファンには心をくすぐられる存在です。そんな2階建車両(ダブルデッカー)に的を絞った内容の書籍に出会いました。その書籍の内容を紹介しましょう。

写真1. 2階建ての新幹線が表紙を飾る

ダブルデッカーの軌跡の概要

まず、この書籍の概要を示します。

  • 書籍名:ダブルデッカーの軌跡
  • 発行所:イカロス出版株式会社
  • 分量:130ページ
  • 発行:2020年7月

イカロス出版は鉄道系のムック(雑誌と書籍の中間的存在)を出版している会社です。いろいろなテーマで出版されていますが、そのうちの1つです。今回紹介するのは、「ダブルデッカー」に焦点を当てたものです。

内容の概要

写真2. 京阪の2階建て特急車両

では、どのような内容でしょうか。目次より抜粋いたします(一部改変)。

  • 幻の食堂車
  • 新幹線のダブルデッカー
  • 2階建ての元祖!近鉄ビスタカー
  • 平屋から改造してダブルデッキを実現(京阪3000系・8000系)
  • ロマンスカーの革命児(小田急20000形)
  • もう1つの「あさぎり」(371系)
  • 寝台特急の末裔たち(E26系・285系)
  • ジョイフル時代の遺産(キハ183系)
  • 観光列車の模索(251系・JR5000系)
  • 通勤革命を起こした2階建てグリーン車
  • 通勤用オール2階建てにチャレンジ(215系・415系1900番台)
  • 元祖2階建て!大阪市電2階付き電車
  • 海外の事例1:通勤電車
  • 海外の事例2:高速列車
  • 海外の事例3:香港トラム

国内の2階建て車両を網羅しているラインナップです。個人的に感心したのが国内に留まらずに海外の事例を紹介していることです。ただし、海外の事例では「通勤電車」と書いているのは感心しません。ドイツ、スイスやフランスに2階建ての車両が多く運転されていますが、その大部分が客車列車です。通勤「列車」と表記するべきでした。

全部が全部とは言いませんが、車両設計側との対談も取り入れられており、車両設計の裏側を知ることができます。

個人的に印象に残った内容4選

写真3. 本章で取り上げなかったが、E4系の存在感は大きかった(浦佐で撮影)

先の章で15の項目を挙げていますが、その15全ての内容と感想を書いてもつまらないでしょう。そこで、個人的に印象に残った4つの項目を取り上げ、その内容と感想を書いてみましょう。

2階建ての元祖!近鉄ビスタカー

近鉄の2階建ての特急車はビスタカーシリーズやしまかぜなどがあります。その系列6つを大きな写真で紹介し、その後に設計者との対談が組み込まれています。

そもそも2階建て車両を目指した理由(名古屋線の改軌による直通運転の目玉という理由ではなく、そもそも観光目的であった)から聞いています。その後、2階建てで最も苦労する部分が「空調のダクトの配置」と説明されます。風量は開口部×風速で決定できますが、開口部と風速のバランスが最も苦労するポイントのようです(車両設計者はもっと語りたかったように見えました)。

インタビューはここで車両設計の哲学に入るわけですが、その中心はデザイナーに対しお客さま目線で意見すること、沿線の人たちの飽きに対して乗って楽しい車両にしなければならないという近鉄側の姿勢が示されます。

将来について聞かれたときに2階建ての技術を残したいとコメントしていたのが印象に残ります(広報としての言葉の巧みさで感じたのが「技術」という文言を入れたことです、これで2階建て車両でなくとも嘘ではなくなります)。

個人的な見解ですが、近鉄特急はひのとり、しまかぜ、伊勢志摩ライナーなどの個性的な車両が多く、ある意味あこがれの対象です。その裏にはこのようなこだわりがあることを改めて知りました。そして、(あっても)数百円の追加料金で利用できるという、良い意味で敷居が低いことも魅力と思います。これからもファンを驚かせる車両を作り続けて欲しいと思いました。

ロマンスカーの革命児

小田急ロマンスカー。そのイメージは前面展望席の付いた平屋の車両でしょうか。そのイメージと一線を画すのが20000形です。2階建ての車両に曲線的な前面。そして御殿場線との直通専用(間合い運用で別の路線にも運用されていたが)という点も異色でしょう。

その20000形の設計思想、そして後のロマンスカーの設計思想についても触れられています。

20000形の目玉の2階建ては意外なことに小田急からの発案でなく、JR東海からの発案のようです(車両設計の人が「と聞いています」と書いています)。車両設計の人であっても全知全能ではなく、ご自身の入社前の内容を全て記憶しているわけではないでしょう。

展望車は特殊構造ということがあり、他社に入るために難しいところが多かったと回顧しています。そこから20000形につながったと書かれています。20000形以降の車両にはダブルデッカーを採用していませんが、それは乗降時間やインテリアデザインをトータルで考えた結果と明言されています。また、考えなかったことと考えた結果採用しなかったことは設計アプローチがまったく異なるとも明言されています。

個人的な見解ですが、2階建ての苦労点は近鉄と似通っているように見受けられました。これは近鉄車であっても小田急車であっても、同じ「鉄道車両」である以上、似たところで苦労するのでしょう。

こちらの本もおすすめ

後継のロマンスカーの設計思想にも触れています。

通勤革命を起こした2階建てグリーン車

近鉄特急であれ、小田急ロマンスカーであれ、2階建て車は少数派だったり過去の物語だったりと、なかなかメジャーではありません。しかし、2階建てが当たり前に走っているところがあります。それは首都圏の普通列車グリーン車です。1989年にデビューして以来、新型車両の路線や形式問わず、グリーン車には必ず2階建て車両が使われています。

この車両群についてはJR東日本へのインタビューはありません。しかし、サロ212やサロ213の図面があり、貴重だと思い、思わず買ってしまいました(後継のE217系以降でも基本寸法は変わらないことでしょう)。ただし、残念なのはE231系から客用ドアの幅が720mmから810mmに広がっているという記述があるにもかかわらず、その図面がないことです。

なお、本書発売時点では中央線E233系グリーン車が完成していませんので、同線の写真はありません。

客室の写真があればより良い書籍になったのですが、残念ながらこの章については車内写真はありません。

海外の事例1:通勤電車

写真4. ベルリン近郊の2階建て車両(RE3で撮影)

このような書籍であれば、おおむね国内に限られた記述が予想されますが、ちゃんと海外の事例についても触れられています。海外、とりわけ欧州の場合は2階建て車両の乗降性はあまり問題になりません。(都市内鉄道は別として)日本と異なり、全員が着席することが前提で、多くの人が立っている中での乗り降りはそもそも想定されていないためです。

写真5. 1階から入る(スイスのチューリッヒ中央駅で撮影)

このような基本的内容が触れられています。ムック本という性質なのか、特定の車両について掘り下げるわけではなく、全体的な紹介にとどまっています。本書には書かれていませんが、欧州のホーム高さは低いことが日本の2階建て車両との大きな違いを産み出しています。日本の2階建て車両は1階と2階の中間の高さから車両に入りますが、欧州の場合は1階から車内に入ります。

ダブルデッカーの軌跡の感想を読んでみて

ダブルデッカーの軌跡の感想を読んでみて、改めて2階建て車両に対する興味が深まりました。そして、2階建て車両をあこがれの対象として生かす鉄道会社と、選択肢の1つとして生かす鉄道会社と2つの潮流を見ることができました。

2階建て車両は鉄道ファンのあこがれの対象でもあります。この書籍がこのようなあこがれの車両を産み出す1つのきっかけになれば良い、と鉄道ファンの端くれとして感じました。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする