品川から横浜方面に伸びる京急。その根幹をなすのが京急本線です。近年は三浦半島への輸送だけではなく、羽田空港アクセスの役割も担っています。地域輸送、都市間輸送、空港輸送という3つの異なる需要を満たすためのダイヤの工夫は何でしょうか。そんなダイヤの工夫を探ってみました。
写真1. 品川に到着した2ドアの快特
ダイヤパターンとは?
都市鉄道のパターンダイヤを簡単にまとめたものです。都市鉄道ではダイヤは繰り返し単位になっており、そのようになっているダイヤをパターンダイヤと称します。また、パターンダイヤの周期をサイクルと呼びます。本記事はダイヤの繰り返しの単位とその内訳から、その路線のダイヤの骨格を理解することを目的としています。
例えば、20分に急行1本と各駅停車2本ならば、「20分サイクルのパターンダイヤでその内訳は急行1本と各駅停車2本」と表現できます。原則をつかむために、基本的には朝ラッシュ時上り、日中時間帯、夕方ラッシュ時下りについて述べます。
なお、厳密には大きいサイクルで論じるべき部分もありますが、厳密さを無視すると小さなサイクルで論じることができる場合もあります。この場合、小さなサイクルを疑似サイクルと称します。先の例だと、実は急行が1時間間隔で遠方に向かう場合、厳密には60分サイクルです。しかし、遠方に直通するか否かがあまり重要視されない場面だと、20分サイクルと考察することも可能です。このような場合、疑似20分サイクルと称するということです。
本記事でも用語へのリンクは用意いたしますが、以下の記事で鉄道ダイヤに関する用語をまとめています。
京急本線の停車駅
京急線の停車駅を示します(直通先の京成電鉄から引用、図1)。
図1. 京急電鉄の停車駅一覧
京急本線にはウィング号(モーニングウィング、イブニングウィング)、快特、特急、急行、普通が運転されています。
快特の停車駅が基本で、特急は数駅追加、急行はさらに追加されたパターンです。急行は多くが羽田空港への直通が目的とされます。
ウィングは上下方向で停車駅が異なります。下りは品川から上大岡までノンストップで、上大岡から快特と同じ停車駅です。上りはさらに停車駅が絞られており、三浦海岸、横須賀中央、金沢文庫、上大岡のみの停車です。着席ニーズの強い郊外側の駅と品川を快適に結ぶために停車駅が絞られているのです。
都営浅草線側の発着駅について
京急本線は都営浅草線と相互直通運転を行っています。都営浅草線は反対側で京成電鉄などに直通している関係で行先は多くありますが、都営浅草線まで向かえば京急利用者の多くにとっては関係ないでしょう。そこで、本記事では都営浅草線側の行先について特に触れることはせずに、都営浅草線方面などと記すこととします。
京急本線の朝ラッシュ時上りのダイヤパターン
写真2. 特急青砥行きの前4両は品川どまり
横浜方面から品川に向かう列車、横浜方面から羽田空港に向かう列車、羽田空港から品川に向かう列車が混じります。それをすべて述べるのは複雑でしょう。そこで、ここでは、横浜断面と品川断面の2面から解析することにします。
横浜断面でのダイヤ
横浜断面ではおおよそ20分サイクルのパターンダイヤで運転されています。1サイクルあたりの内訳は以下の通りです。
- 快特:三崎口-品川2本(浦賀始発もあり、特急での運転もあり)
-
特急:京急久里浜-品川2本、逗子・葉山-羽田空港1本
※浦賀-羽田空港1本加わる時間もあり(ただし、2022年11月ダイヤ改正以降は羽田空港行きはピーク時のみ設定) - 普通:京急久里浜-品川1本、浦賀-品川1本、逗子・葉山-京急川崎1本
京急の最混雑区間は、品川手前(北品川→品川)ではなく、横浜手前(戸部→横浜)です。横浜から品川までJRと並走しますが、JR東海道線のほうが所要時間が短く、横浜から乗る人が少ないためです。また、京急沿線に住んでいても、JR京浜東北線の駅のほうが便利だからそちらを利用する人も多いでしょう。
そのような背景があってか、横浜手前で最も輸送力を確保するダイヤになっています。基本的には20分に5本の速達列車、3本の普通という陣営ですが、ピーク時に合わせて速達列車を1本増やしたり、普通を1本増やしたりという工夫が見られます。
横浜手前が最も混むということは、横浜行きがあっても良さそうですが、現実にはそのような設定はありません。以前は横浜行きがありましたが、これを羽田空港に延長したためです。横浜から輸送力に空きが見られた電車に荷物の多い空港利用客を乗せる発想は上手です。
快特と特急の多くは金沢文庫から品川まで12両編成で運転します(品川着7:06~9:10と9:20が該当)。特急羽田空港行きは8両編成で運転され、12両編成で運転される区間はありません。都営線直通は前4両が品川どまりで品川降車客(前方車両が便利)と都営線直通客を分離しています。また、品川行きは後ろ4両を増結し、金沢文庫で都営線直通と増結車の位置を分け、ホームの特定箇所に乗客が溜まらないようにしています。
品川断面
品川断面では混雑はピークではありませんので、複雑なダイヤにはなっていません。基本的に10分サイクルのパターンダイヤで運転されており、1サイクルあたりの内訳は以下の通りです。
- 快特:三崎口-品川1本(特急のことも多い)
- 特急:京急久里浜-都営浅草線1本(浦賀など始発もある)
- 急行:羽田空港-都営浅草線1本
- 普通:逗子・葉山-品川1本(始発は浦賀など多様)
横浜断面で設定されていた普通京急川崎行きや特急羽田空港行きがなくなり、そのかわりに羽田空港からの急行が設定されている格好です。京急蒲田から品川の特急停車駅と急行の違いは立会川だけですので、多くの駅では10分に2本の速達列車が停車します。普通が10分以上の間隔が開くこともありますが、利用の多い駅には10分に1本以上の速達列車が停車するので、普通が少ないことによる問題はそこまで大きくないでしょう。
都営浅草線直通の特急は12両編成ですが、都営浅草線には8両編成しか入れません。そこで、品川で4両編成を切り離します。急行は8両編成なので、品川での切り離しはありません。
平和島での普通との緩急結合は急行が担い、特急への乗客集中を防いでいます。
品川までの所要時間は以下の通りです。
- 横浜:29分
- 金沢文庫:50分
- 横須賀中央:65分
- 京急久里浜:75分
- 三崎口:90分
京急本線の日中時間帯(昼間)のダイヤパターン
写真3. 多くの人がお世話になるだろう品川から羽田空港に向かう系統
日中時間帯は40分サイクルのパターンダイヤで運転されています。1サイクルあたりの内訳は以下の通りです。
- 快特:泉岳寺-京急久里浜2本(休日は泉岳寺-三崎口、20分間隔)、都営浅草線-羽田空港1本
- 特急:都営浅草線-三崎口2本(20分間隔)、都営浅草線-羽田空港2本(20分間隔)
- エアポート快特:都営浅草線-羽田空港1本(都営浅草線-羽田空港の快特と合わせ20分間隔)
- 急行:羽田空港-逗子・葉山2本(20分間隔)
- 普通:品川-浦賀4本(基本的に10分間隔)
厳密には40分サイクルですが、エアポート快特と羽田空港発着の快特を同じとみなすと、20分サイクルです。20分あたり、横浜方面の快特、特急が1本ずつ(合わせて平均10分間隔)、羽田空港方面の快特と特急が1本ずつ、そして普通が平均10分間隔で運転されます。そして、京急蒲田以南は快特と特急の間隔が開いた箇所に急行が挿入されます。
2022年11月ダイヤ改正以前は品川-羽田空港の特急停車駅と品川の行き来が不便で、それを是正した格好です。ただし、羽田空港への速達性も維持したく、特急・快特ともに2方向に分散するダイヤになったと理解できます。これを両立するのであれば、品川-横浜方面は快特に統一、品川-羽田空港は特急に統一、ただし羽田空港特急の半数は空港線内各駅と青物横丁を通過する(従来の快特を平和島停車にするだけ)手もありましたが、複雑なので避けたのでしょう。
2022年11月ダイヤ改正以前は急行が上大岡で快特を待っていましたが、金沢文庫まで逃げ切ることになりました。そのため、金沢文庫-横浜・京急川崎の有効列車は20分に2本から20分に3本に増えています。京急の最混雑区間は横浜以南ですから、横浜以南で有効列車が増えたことは喜ばしいことです。
普通の待避駅は以下の通りです。簡単のためにエアポート快特も快特と記します。
- 普通(品川発06分):鮫洲(特急)、平和島(空港線特急と快特)、京急蒲田(空港線快特)、京急川崎(特急)、生麦(快特)、神奈川新町(急行)、南太田(特急)、上大岡(急行と特急)、金沢八景(特急)、堀ノ内(快特)
- 普通(品川発16分):鮫洲(快特)、平和島(空港線快特と特急)、京急川崎(快特と急行)、神奈川新町(特急)、南太田(快特)、上大岡(特急)、金沢八景(快特)、堀ノ内(特急)
- 普通(品川着06分):堀ノ内(特急)、金沢文庫(快特)、上大岡(特急と急行)、南太田(快特)、神奈川新町(特急)、京急川崎(急行と快特)、京急蒲田(空港線特急)、平和島(特急と空港線快特)、鮫洲(快特)
- 普通(品川着16分):堀ノ内(快特)、金沢文庫(特急と急行)、上大岡(快特)、南太田(特急)、神奈川新町(急行)、京急川崎(特急)、京急蒲田(空港線快特)、平和島(快特と空港線特急)、鮫洲(特急)
巧みに見えるのが、神奈川新町での接続です。神奈川新町には快特がとまりませんので、品川-京急東神奈川・神奈川の有効列車が20分間隔になるように見えます。しかし、現実には快特に抜かれる普通は急行に接続し、その急行は京急川崎で快特と連絡します。よって、品川から京急川崎まで快特で向かい、京急川崎から急行を活用することで、ある意味特急と同等の役割を担っているのです。
このほか、10分間隔からずれる速達列車との接続を取りつつ、普通の運転間隔をずらさないために長い時間停車していることがあります。これは拠点駅から小駅への利用には便利な一方、小駅から小駅へは不便を強いられます。また、普通の運転時間が増え(乗務員の労働時間が増えることから)コストアップとなってしまいます。
京急本線の夕方ラッシュ時下りのダイヤパターン
写真3. 夕方の12両編成は快特に限定される
基本的には20分サイクルのパターンダイヤで運転されています。1サイクルあたりの内訳は以下の通りです。
- 快特(品川始発):品川-京急久里浜2本(10分間隔)
※ピークを過ぎると半数はイブニング・ウィングとして運転されます。 - 特急(都営線始発):都営線-三崎口2本(10分間隔)
- 急行:都営線-羽田空港2本(10分間隔)、羽田空港-逗子・葉山2本(10分間隔)
- 普通:品川-浦賀2本(10分間隔)
基本は10分に快特系1本、特急1本、急行1本、普通1本の毎時24本運転です。日中時間帯は品川-羽田空港は快特として運転されていますが、夕方ラッシュ時は急行です。これは品川-京急蒲田の快特通過駅利用者もそれなりにいる証拠でしょう。
そして、特急が運転されているのも見どころです。以前に夜間に羽田空港に向かったことがあるのですが、青物横丁などの特急停車駅から下り方向に向かう人が意外と多いことに気づかされました。夜間の速達列車をすべて快特にしない理由にはこのようなニーズがあるからかもしれません。
羽田空港から逗子・葉山への急行はさすがに京急蒲田-上大岡逃げ切りというわけにもいきません。神奈川新町で快特の通過待ち、上大岡で特急を待ち合せます。
朝ラッシュ時上りとは異なり、特急の12両編成はありません。神奈川新町の下りホームが12両編成に対応していないためです。そのことを考えると、品川始発の快特は12両編成を確保するには重要であることがわかります。特急を12両編成にして、後ろ4両を締切扱いにするのも手ですが、これを行うと神奈川新町で降りる人が混乱してしまいます。そのため、8両編成としています。
京急本線のダイヤパターンまとめ
駅が多いにも関わらず、JRと並行していて速達性も求められる京急本線。近年では羽田アクセスという新たな役割も期待されています。そのすべての機能を両立することは難しい課題です。これに対して、京急では多くの種別を運転し、多様なニーズに応えるという解決方法を見い出しました。
これまでもこれからも制約条件の多い中で、少しでも良い輸送体系を模索するという試みは続くのでしょう。そして、世の中のニーズは常に動いていくものです。そのような変化にも対応していくことでしょう。
京急の過去のダイヤ改正に関する記事
京急に関する過去のダイヤ改正に関する記事は以下の通りです。
京急の過去のダイヤパターン
京急の過去のダイヤパターンを簡単にまとめました。