小田急電鉄で最も混雑する下北沢-世田谷代田。休日の日中時間帯の混雑状況を確認しました。

写真1. 各駅停車も利用が多い
小田急線最混雑区間の休日日中の混雑状況
小田急線の最混雑区間(下北沢-世田谷代田)の混雑状況は以下の通りです。
- 最混雑している種別は快速急行であり、急行と各駅停車はそれより空いている
- 全体的な混雑率は60%程度であり、ドア付近に立ちが生じるレベルである
- 全般的に1号車よりは空いている傾向にあり、中間の車両が混雑する
詳細は以下に記します。
混雑調査の概要
今回の混雑調査の方法を紹介しましょう。この記事では、定点観測を行い、一定時間の全列車を対象にして各車両の混雑を目視で確認しています。これはプロも行っている調査方法です。
簡単に調査方法を紹介しましょう。一部の個人サイトでは混雑状況を書いているところもありますが、調査方法や混雑指標の言及がないのでう~んと考えてしまうところがあります。そのようなことを踏まえて、弊サイトではきちんと方法を示します(さすがー)。
表1. 混雑ポイントの基本的な概念と混雑率

120ポイント~160ポイントの様子をご覧いただきましょう(写真2-4)。いずれも個人情報を守ることを目的に、画質を落としています。

写真2. 混雑ポイント120ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)

写真3. 混雑ポイント140ポイントの様子(右上に私の指が写っていますね…)

写真4. 混雑ポイント160ポイントの様子(写真3と異なり、ドア部分が圧迫されていることがわかります)
今回は最混雑区間とされる下北沢-世田谷代田で調査しました。
休日日中時間帯の小田急小田原線の最混雑区間の混雑状況の生データ

写真5. 下北沢は街もにぎわう
まず、生データを示します(表2)。
表2. 小田急小田原線の混雑状況の生データ

また、列車ごとの混雑率を視覚化しました(表3)。
表3. 小田急小田原線の混雑状況の生データ(混雑率視覚化)

時間帯の影響か、上り方向が全般として混んでいます。とりわけ快速急行が混んでいます。
休日日中時間帯の小田急小田原線の最混雑区間の混雑状況の生データ

写真6. 快速急行の発着
上で生データを示しました。では、混雑の傾向はどうでしょうか。簡単に解析します。データの解析では一般的な指標である混雑率に変換して計算します(混雑ポイントは順序尺度で計算ができませんが、混雑率は比率尺度なので計算できるためです)。
復習:小田急小田原線のダイヤパターン
混雑はダイヤに左右されてます(逆にダイヤを考える際には混雑も含めて考えます)。そこで、小田急小田原線のダイヤパターンを簡単に紹介します。
日中時間帯は20分サイクルのパターンダイヤと表現できます。1つのサイクルの内訳は以下の通りです。
- 特急:1本または設定なし
- 快速急行:新宿-小田原、新宿-藤沢(両方が重なる新宿-相模大野は約10分間隔)
- 急行:新宿-唐木田、千代田線-向ヶ丘遊園(両者が重なる代々木上原-向ヶ丘遊園は約10分間隔)
- 各駅停車:新宿-本厚木2本(約10分間隔)
下北沢断面では快速急行、急行、各駅停車が10分間隔で設定され、急行の半数が千代田線直通です。町田方面に向かう速達列車は快速急行が10分間隔であり、その半数は藤沢に向かいます。本厚木方面への速達列車は快速急行だけですが、藤沢に向かう快速急行は相模大野で別系統の急行に連絡します。したがって、本厚木方面への乗車チャンスは約10分間隔が確保されています。
各駅停車はその間をぬう形で10分間隔で設定されます。また、特急は20分間隔で設定されます。特急が入る関係で完全な10分間隔にならないのです。
種別ごとの解析
まず、種別ごとに混雑状況を解析します。ここで分担率という概念が登場しますが、全体の利用者のうち特定の種別に乗っている人の割合を示したものです(表4)。
表4. 種別ごとの混雑率と分担率


図1. 種別ごとの混雑率(視覚化)
このように視覚化すると、快速急行が混んでいることがわかります(図1)。

図2. 種別ごとの分担率(視覚化)
分担率も示しました(図2)。本数が同等であるにもかかわらず、快速急行の分担率が高いことがわかります。
急行の分担率が下りのほうが低いのは、集客ポイントの新宿、代々木上原、下北沢で快速急行の直後を走り、多くの人が直前の快速急行に乗るためでしょう。
興味深いのは、下りだと千代田線からの急行が顕著に空いている一方、上りでは千代田線直通の急行を避ける傾向がないことです。千代田線からの急行は経堂で各駅停車に接続しない(成城学園前で接続する)ためでしょうか(上りは急行と各駅停車は経堂で連絡)。上りのほうが各駅停車の分担率が小さい点も納得できます。
号車ごとの解析
次に号車ごとに混雑のようすを解析します(表5)。
表5. 号車ごとの混雑状況


図3. 号車ごとの混雑状況(視覚化)
上下ともに中央よりの車両が混んでいることがわかります(図3)。10号車は新宿のメインの改札に近い場所で利用が集中するように思えますが、意外と混雑していません。これは南口方面の地位が上がったことや、千代田線利用客が10号車を選ばないという事情もありましょう。
利用状況からダイヤを考える

写真7. 多摩川を越える複々線の線路
現在の平均的な混雑率は約60%です。これは、座席が埋まりドア付近に数人の立ちが発生するレベルです。したがって、全般でみるとこの混雑はさして問題ではないでしょう(時間帯によって上りの混雑が問題になりますが、20分間隔で輸送力が増強されています)。
では、現在のダイヤで問題ないのでしょうか。それはまた別の問題です。
快速急行に乗客が集中しています。これを是正する方策はあるのでしょうか。その1つの方策が千代田線直通急行の発着駅を向ヶ丘遊園から新百合ヶ丘方面に延長することです。これにより、千代田線~下北沢-新百合ヶ丘の乗客の一部が千代田線発着急行に分散します。その乗客が1人でもいれば、それだけ快速急行は空きます。
この方策は2025年3月に実行されます。すなわち、向ヶ丘遊園発着から唐木田発着に延長(多摩線内は線内運転の各駅停車を置き換え、多摩線内は本数維持)されます。
さらに踏み込むならば、急行を利用の多い町田方面に運転し、混雑する快速急行から急行に利用をシフトさせます。あるいは上り新百合ヶ丘での快速急行と急行の接続を放棄し、急行を多摩線から下北沢方面への有効列車とすることです。
2018年ダイヤ改正では準急が設定され、千代田線と世田谷区を直結させるという意欲的なダイヤでした。しかし、意欲的なダイヤは放棄され、現在のようなダイヤになりました。2022年は利用が減少している中でのダイヤ設定でしたが、このような意欲的なダイヤの復活もご考慮いただきたいです(とりわけ千代田線からの急行に経堂で連絡する各駅停車を設定するという意味でも)。
過去データ:2019年調査データ

写真7. 2019年の様子
以下、2019年調査データ(準急が20分間隔に半減する前)を示します。
小田急線最混雑区間の休日日中の混雑状況
以下、長い文章を読みたくない人のために、簡単に結論をまとめます。
・全体の混雑率は40%程度で、座席が埋まる程度である
・快速急行が混んでいて、一部車両ではそれなりに(吊革がある程度埋まる)混雑する
・小田原よりの2両が空いていて、快速急行でも空席がある
混雑状況の生データ
まずは、各列車の各号車ごとの調査結果を示します(表6、表7)。各列車の混雑率も示します。
表6. 小田急線最混雑区間の休日日中の混雑状況(下北沢-世田谷代田、下り)

表7. 小田急線最混雑区間の休日日中の混雑状況(下北沢-世田谷代田、上り)

小田急線の下北沢は急行線と緩行線でホームの場所が異なります。そのため、速達列車とそうでない列車の調査時間帯が異なりますが、もともと抜き取りで確認するもの、20分の違いで混雑傾向が大きく変わるわけでもありませんから、これでヨシとします。小田急線のダイヤは20分サイクルのダイヤですので、急行線ホームに20分間、緩行線ホームに20分間滞在しました。
なお、全体の混雑率は40%程度で、座席が埋まる程度の混雑で快適性に問題はありません。
混雑状況の分析
では、混雑状況を分析します。混雑ポイントは実は定性的評価です。定量的評価ではありません。もっと簡単にいうと、混雑ポイントは、数字と実際の乗車人数が比例関係にはありません。そのため、比例関係にある混雑率に換算して評価することにします。その後、再度混雑率に換算して定性的(わかりやすい言葉)に表現することにします。
※大手サイトを見ると、簡単に述べられていることが多いです。しかし、実際には始発駅、行先、種別、前列車間隔などで混雑がばらついています。この記事では安易に簡単に述べることはせずに、要因を詳しく分析します。
種別ごとの層別
層別というのは、データ分析の一番メジャーな手法です。たくさんのものを、ある特徴によって、いくつかのグループに分けることですね。
わかりやすいのが、混雑状況を種別ごとに層別することでしょう。上下でダイヤパターンが異なるので、上下それぞれのデータを示します(表4-5)。
表4. 下りの種別ごとの混雑状況(下北沢→世田谷代田)

下りは快速急行が混んでいることは変わりませんが、行先によってその程度は大きく異なります。具体的には小田原行きのほうが混雑しています。行先による乗客の集客度が異なるという側面もあるでしょう(片瀬江ノ島方面は小田原方面よりも利用客が少ない)。しかし、片瀬江ノ島行きに乗ると相模大野で小田原方面行きに接続するので、ダイヤ上は同等の機能です。それでも、最初から乗りかえを避けようという流れがあるのも事実です。この他に、町田や相模大野の乗客の動向も、混雑状況に差が生じる原因です。片瀬江ノ島行きの直前の急行は新松田行きです。新松田行きであれば、町田や相模大野の乗客はこちらに分散します。そのため、直前の急行が露払いしてくれる快速急行片瀬江ノ島行きはやや混雑が和らぐのでしょう。
急行はそれなりに混雑しています。特に、急行新松田行きは立ちが発生しています。これは、町田や相模大野への乗客がそれなりに多いことを示しています。逆に、急行唐木田行きは空いています。これは、多摩線への乗客が町田や相模大野方面への乗客よりも少ないことを示しています。
各駅停車は座席が埋まるか埋まらないかという程度です。これであれば6両編成でも良さそうですね。これ以上に空いているのが準急です。準急は向ヶ丘遊園か成城学園前行きで、守備範囲が狭いです。もともと、各駅停車の混雑を緩和するための種別と考えることができます。各駅停車が空いているといっても、準急を減便したら混雑率が54%程度に上昇して、「日中にも関わらず立ちが生じている」という状況になってしまいます。急行通過駅の中で利用の多い駅と千代田線の流動を担い、各駅停車の混雑を緩和する、という役割であれば現在の準急もじゅうぶんに機能しています。
表8. 上りの種別ごとの混雑状況(世田谷代田→下北沢)

私が観察した時間帯は唐木田始発が連続していますが、これは本来(のパターンであれば)新松田始発である15:17発の急行新宿行きが唐木田始発になっているためです。
下りと傾向が異なる点だけ考察します。上りは快速急行が一様に混雑しています。具体的には、若干の立ちが目立ち始めているということです。これは唐木田始発の急行が多かったのもその原因でしょうが、上りの急行は新百合ケ丘で快速急行の待ち合わせをすることも一因です。多くの乗客を乗せる町田からの乗客が、快速急行に集中してしまうのです。このようなことを考えると、上りの急行の新百合ケ丘での快速急行待ち合わせを廃止して、快速急行一極集中をなくすほうが良いでしょう。
新百合ケ丘で急行を空かせることで、成城学園前や経堂からの利用の快適性を確保していることは指摘できます。もしも新百合ケ丘で接続解除すると、新百合ケ丘である程度混雑した状態となり、成城学園前や経堂からの利用の快適性が落ちることは否定できません。それでも2本に1本は唐木田始発で容易に座れる(下りの実績からすると席は埋まらない)、特に混雑する区間である経堂からは準急という選択肢が与えられていることから、そこまで問題とならないでしょう。快速急行の混雑緩和というメリットのほうが大きいです。
号車ごとの混雑
号車ごとの混雑も層別しました。一応、生データには記載していますが、不親切でしょうから、集約した表をお見せします(表9)。
表9. 号車ごとの混雑状況

下りは1号車と2号車(小田原より2両)以外はそれなりに混雑が分散している状況、上りは両端各2両以外が混雑している状況であることが読み取れます。基本は各駅の階段などが中央にあって中央の車両が混雑するのですが、下りは新宿のホームの位置関係で9号車と10号車にも乗客が乗るのでその2両にも乗るのが読み取れます。つまり、(降りる駅ではなくて)乗る駅の階段の位置関係で混んだ車両が決まるということです。空いている車両がよければ1号車か2号車が良さそうですね!
日中時間帯のダイヤを考える
平均的な混雑率は40%と座席が埋まる程度で、全く問題ありません。小田急の本数確保の姿勢に頭が下がります。唯一の課題は(特に上りの)快速急行の混雑と準急のがら空きという種別ごとの混雑のアンバランスさです。これについては、快速急行の守備範囲を狭めることと準急の守備範囲の拡大が解決策です。
快速急行の守備範囲の減少は、上りであれば比較的簡単です。新百合ケ丘で急行が快速急行の待ち合わせをしていますが、これをなくせば可能です。そのようにすれば、利用客の多い町田から新宿までの先着列車が(特急を除いて)毎時6本から毎時9本に増えて、快速急行の混雑も緩和します。同様に、唐木田始発の急行も新百合ケ丘で快速急行に接続しなければ、多摩線からの乗客も快速急行に流入しないです。
準急の守備範囲を広げるのは難しいです。唯一できることといえば、代々木上原での接続をきっちりすること、代々木上原-経堂で急行と同等のタイムで走ることで、急行の乗客の一部を準急に流すことくらいです。準急を向ヶ丘遊園以遠に延長するといっても、複線区間ではダイヤが詰まるだけです。狛江での準急の乗降しだいですが、成城学園前発着でも良いくらいです。この根拠は成城学園前発着でも向ヶ丘遊園発着でも混雑が大して変わらないためです。(成城学園前と登戸の間の準急停車駅である)狛江と新宿の行き来であれば成城学園前で急行と各駅停車を乗りかえたほうが所要時間が短く、対新宿・千代田線で準急の存在意義があるのが成城学園前だけという性質が大いに表れているためです。
あとは、駅進入時の速度が制限されている、最高速度が100km/hに過ぎない(両隣の京王も東急も最高速度は110km/h!)ため、意外と所要時間がかかっている現状があります。これらを他社並にすることで、もう少し所要時間も短縮されましょう。この点も少しでも進歩させてもらいたいものです。せっかく、民鉄で恵まれた複々線があるのですから。
小田急小田原線の混雑基本情報
ここまで現場での調査という「狭くて深い」内容を示しました。では、基本的な混雑データなどの「広くて浅い」情報はないのでしょうか。そのような声にお応えして、以下のページを作成いたしました。