東京と横浜。この2大都市の間には多くの路線が運行されており、その中にはライバル関係となっている路線もあります。ライバル関係ということは、サービスに差があるのでしょうか。実際はライバル関係のどちらが使いやすいのでしょうか。その点を探ってみましょう。
東京・新橋・品川~横浜:JRと京急
品川から横浜まではJRと京急が並走しています。ここでの特徴は、(後で述べる路線群とは異なり)ずっと並走していることです。両端だけがライバル関係にあるわけではないのです。しかし、途中駅すべてについて競合関係を考察することは大変です。そのため、ここでは両端のみの考察といたします。逆に、京急は都営浅草線に乗り入れて、新橋や日本橋に直結しています。この両駅についても比べてみましょう。
本数については、日中時間帯はJR(東海道線)、京急ともに同等です。ただし、日本橋や新橋から利用する場合は、2本に1本は途中の泉岳寺で乗り換えることになります。泉岳寺乗り換えの場合は、泉岳寺で座れるのでそのような意味ではプラスですね。ここまで文章で記しましたが、表にまとめましょう(表1)。明らかに優位な場合は太字で示しています。
表1. 都心から横浜までの比較(所要時間、本数、運賃)
※運賃はきっぷの運賃としています(以下同じ)
ここでは単純にするために、JRは東海道線のみで考えています。品川から横浜に向かう際はJRと京急が互角で、出発地が新橋、日本橋と都心になると徐々にJRの優位性が増します。ただし、都営~京急側は駅を多く抱えており、駅までのアクセスで優位に立つことができます。東京駅と日本橋駅は徒歩圏内ですが、日本橋駅に近いのにわざわざJRを使う必要はないでしょうし、丸の内側にいる場合は都営~京急ルートを使う必要もないでしょう。
京急は劣勢に立たないために、快特には専用の車両を導入して快適性を向上させたり、120km/h運転を行ってスピードアップを図っています。これでも優位に立てません。それでは、このような取り組みは無意味なのでしょうか?答えは否です。三浦半島方面から都心に向かう乗客を横浜で乗り換えさせないようにできているからです。事実、(JRはもちろんのこと)京急でもけっこう混雑しています。
写真1. 快適な京急の2100形(外観)
写真2. 京急2100形の車内
写真3. (専用の線路があることによる)速達性と広い直通性を武器に戦うJR東海道線
途中駅についても競合は見られますが、京急の駅勢圏はそこまで広くないことが予想されます。京急の普通電車は遅く(走りは速い)、品川以北の各駅に向かうには乗り換えが必要なためです。
新宿・渋谷~横浜:JRと東急
JRと東急がライバル関係にあるのは渋谷と横浜の両駅だけですが、相互直通運転している副都心線も含めてライバル関係にあると考えましょう。事実、湘南新宿ラインの新宿駅と、副都心線の新宿三丁目駅は隣接しています。そのため、ここではJR(湘南新宿ライン)と東急(東横線)が新宿から横浜まで並走しているとみなします。
ここも流動が多いドル箱です。そのため、本数も多く充実しています。これも実際に比較してみましょう(表2)。ここでは、池袋も対象にしました。
表2. 副都心地区-横浜までの比較(所要時間、本数、運賃)
ここからわかることは、列車に乗ってからの所要時間はJRの優勢、本数やトータルの所要時間(※)や運賃という面は東急の優勢であることです。しかし、新宿三丁目駅は新宿駅から微妙に離れており、池袋も(駅名こそ同じですが)両者の乗り場は離れています。そのため、新宿や池袋については真の目的地に応じて適切に使い分けがなされるというのが実情でしょう。
※東急は特急(地下鉄線内は急行)が15分間隔で運転されており、その隙間に急行(地下鉄線内は各駅停車)が15分間隔で運転されています。特急と湘南新宿ラインはほぼ同等の所要時間であり、それに乗れない場合は急行に乗ることで15分待たずに移動できます。
写真4. 元町・中華街に停車中の特急
東急の優位な点はもう1つあります。それはみなとみらい線に乗り入れて、横浜の著名なスポットに乗り換えなしで向かえる点です。これはみなとみらいや中華街などのような「横浜観光」の層には大変ありがたいことです。
ただし、JRに優位な点もあります。東急は雀の涙程度の座席指定列車を走らせていますが、本数はJRのグリーン車には及びません。JRのグリーン車は座席指定こそないものの、全ての湘南新宿ラインに連結されており、(日中時間帯は必ず空席があるので)必ず座りたい人や、上質な空間で移動したい人は湘南新宿ラインを利用することになりましょう。
写真5. 湘南新宿ラインに連結されているグリーン車
また、ターミナルの立地条件も重要です。現在、JRは渋谷で不利な位置にホームがありますが、これを便利な場所に移設する工事を行っています。このことにより、JRはさらに有利にはたらきます。このように、単純なダイヤや車両以外についてもさまざまな取り組みが進んでいるのです。
将来的な伏兵:相鉄の都心直結線からわかること
ここまでは、都内のターミナル駅から横浜のターミナルまで移動する場面を中心に取り上げました。しかし、真のニーズはターミナルからターミナルに限りません。その1例が横浜郊外の相鉄から都内に向かう場合です。現在は相鉄沿線から横浜まで向かった後に、しかるべき路線で都内に向かいます。もしも、相鉄から都内までダイレクトで行けたら?きっとその路線を利用することでしょう。現在、ダイレクトに都心に向かう路線が建設中です。この路線は相鉄沿線から都内への流動を変化させることでしょう。このように新たな直通ルートは既存の流動を変えるのです。
このように、2地点間の競合だけではなく、(鉄道会社は)多くの流動に対応できるようにすることが必要でしょう。現在の直通化というのは、そのような流れに沿っています。これからも鉄道側の事情(非効率な折り返しを避けたい)と乗客側の事情(乗り換えをしたくない)の利害が一致することで、従来では考えられなかった直通系統が増加することでしょう。直通化というのはターミナル駅で座れない可能性があるのですが、そもそも座れない=直通需要が大きいということですから、多くの乗客にとってはありがたい施策なのです。