スイスを鉄道で乗ることを考えた場合、スイストラベルパスとユーレイルパス(グローバルパス)の2つが考えられます。では、どちらがよりコストパフォーマンスが良いのでしょうか。比較してみました。
注意スイストラベルパスはスイス国内での販売のため、スイスフランでの支払いです。ユーレイルパス(グローバルパス)はEU圏での取り扱いが主流のため、ユーロでの支払いです。そのため、通貨が異なり、為替レート次第で価格の差異が変わります。したがって、厳密な意味で同一条件で比較できませんが、ここでは1ユーロ=1スイスフランとして取り扱います(2022年12月~2023年1月までおおむね0.99スイスフラン/ユーロ~1.01スイスフラン/ユーロで推移しています)。
写真1. スイストラベルパスでベルンの路面電車に乗る
わかりやすい結論
詳細は以下で述べますが、おおむね以下の通りです。
- 1等利用あるいは短期間利用であれば、ユーレイルパス(グローバルパス)が有利
- 2等利用かつある程度の期間の利用であれば、スイストラベルパスが有利
- ただし、登山鉄道に乗る場合は、スイストラベルパスが20~100ユーロ(スイスフラン)程度有利なので、その点の吟味が必要
- 一方で2か国をまたにかけた旅行であれば、個別でパスを買うよりも一括してユーレイルパス(グローバルパス)が有利
詳細は以下に記します。
コスト比較
では、価格を紹介します(表1)。スイストラベルパスはスイスフラン、ユーレイルパスはユーロで表記しています。本記事執筆時点では、1ユーロと1スイスフランはほぼ同じ価値ですので、単純に数値の大小で比較して問題ありません。
表1. スイストラベルパスとユーレイルパス(グローバルパス)の価格比較
有効期間 | 通用期間 | 2等利用 | 1等利用 | ||
---|---|---|---|---|---|
ユーレイル | スイス | ユーレイル | スイス | ||
3日 | 3日 | 246 | 232 | 328 | 369 |
3日 | 1か月 | 246 | 267 | 328 | 424 |
4日 | 4日 | 246 | 281 | 328 | 447 |
4日 | 1か月 | 246 | 323 | 328 | 514 |
5日 | 1か月 | 282 | 384 | 376 | 610 |
6日 | 6日 | 335 | 359 | 446 | 570 |
6日 | 1か月 | 335 | 384 | 446 | 610 |
7日 | 1か月 | 335 | 409 | 446 | 649 |
8日 | 8日 | 401 | 389 | 534 | 617 |
8日 | 1か月 | 401 | 409 | 534 | 649 |
10日 | 2か月 | 401 | 534 | ||
15日 | 1か月 | 493 | 449 | 657 | 706 |
15日 | 2か月 | 493 | 657 | ||
22日 | 22日 | 518 | 690 | ||
1か月 | 1か月 | 670 | 893 | ||
2か月 | 2か月 | 731 | 975 | ||
3か月 | 3か月 | 902 | 1202 |
※斜字で示した数値はその条件の上位互換で最も安いもの
(例)有効期間3日、通用期間3日のユーレイルパス(グローバル)の設定はないので、その場合は有効期間4日、通用期間1か月の価格を示す
詳細な価格差は上で計算するとして、おおむね次の傾向が読み取れます。
- 1等利用を前提とするのであれば、ユーレイルパス(グローバル)のほうが安い
- 短期間利用であれば、2等であってもユーレイルパス(グローバル)のほうが安い
- 8日や15日間の2等利用であれば、スイストラベルパスのほうが安い ※登山鉄道を考慮すると、このパターンではスイストラベルパスのほうがトータルで有利
とはいえ、これで簡単に解決とはいきません。追加で考慮するべき内容を以下の章で記します。
スイストラベルパスの有利な点
写真2. リギへの登山鉄道は魅力的(近年新車に変わったと聞きます)
スイストラベルパスはスイスで使うことに特化しているため、以下の点でユーレイルパスより有利です。
- 登山鉄道の割引率が高いことがある
- 都市内交通で使用可能
それぞれについて簡単にまとめましょう。
登山鉄道の割引率の考察
スイストラベルパス、ユーレイルパス(グローバルパス)ともに登山鉄道は基本的に適用範囲に含まれておらず、路線によって割引の対象に含まれています。
では、主な登山鉄道の割引率を比べます(表2)。
表2. 主な登山鉄道の割引率
地区 | 鉄道 | ユーレイル | スイス | 備考 |
---|---|---|---|---|
ルツェルン | リギ鉄道 | 50% | 100% | 往復53スイスフラン |
ルツェルン | ピラトゥス鉄道 | 50% | 50% | |
ユングフラウ | BOB | 25% | 100% | インターラーケンからの移動 |
ユングフラウ | WAB | 25% | 25% | BOBから乗りかえる |
ユングフラウ | JB | 25% | 25% | WABから乗りかえる |
ユングフラウ | BLM | 25% | 25% | BOBから乗りかえる |
マッターホルン | GGB | 0% | 50% | ツェルマットからの移動 |
目立つのは、リギ山に向かうときとユングフラウに向かうときでしょうか。
リギ山への往復は53スイスフランかかりますから、ユーレイルパス利用の際は26.5スイスフラン余計にかかります。
ユングフラウヨッホに向かう際、インターラーケンからの登山鉄道は片道10.8スイスフランかかります。ユーレイルパス利用の際は往復でおおむね15スイスフラン余計にかかります。その先は両者ともに割引率が同じですから、どちらが有利かという意味では差異はありません。
ツェルマットからマッターホルン方面に向かう際にはユーレイルパスでは割引はありません。一方、スイストラベルパスでは50%引です。往復で100スイスフラン程度しますから、ユーレイルパスよりスイストラベルパスのほうが約50スイスフラン有利です。
簡単にまとめると、登山鉄道に乗る場合はスイストラベルパスのほうが20~100スイスフラン(1つの山に対し)割安になります。つまり、登山鉄道に乗る場合、スイストラベルパスがユーレイルパスより20スイスフラン程度高くても、スイストラベルパスのほうが結果として安くなるということです。
都市交通の適用
スイストラベルパスは都市内交通(バス、路面電車)などにも有効です。多くの国では都市内交通にはレイルパスで都市内交通を使えない(厳密には国鉄系の都市内交通は使えるが、そのほかは使えない)ことが多いのですが、スイスでは国鉄系以外の都市内交通を使えます。
とはいえ、これが適用されるのはスイストラベルパスのみであり、ユーレイルパス(グローバルパス)では使えません。この差は大きいように見えますが、多くの都市で宿泊時にトラベルカードをもらえたり、多くの都市では1日券なり24時間券を使えば、費用もかさみません。
そのような意味で、都市内交通での適用可否はスイストラベルパスとユーレイルパス(グローバルパス)の実用的な価格差にはならないでしょう(そもそも都市内交通だけを使うと想定される日は、スイストラベルパスを使わないでしょう)。
他国との出入りがある場合
写真3. チューリッヒ中央駅にやってくるスイス車とオーストリア車連結の列車
スイスは他国との行き来も可能であり、他国から入ることもありましょう。スイスに出入りする日に、スイス国内をある程度移動する場合、ユーレイルパスはまとめて使えます。一方、スイストラベルパスは他国では単なる紙切れに過ぎません。
また、他国でもそれなりに移動し、スイスでもそれなりに移動するとした場合を考えてみましょう。ドイツで3日、スイスで3日使いたい場合、以下の計算式で求められます(2等利用で計算)。
(個別で買う場合)ジャーマンレイルパス269ユーロ+スイストラベルパス267スイスフラン=536ユーロ
(まとめて買う場合)ユーレイルパス(グローバルパス)335ユーロ(7日有効)または282ユーロ(5日有効)
このように200ユーロ(200スイスフラン)安くなります。これは、7日有効のパスが3日有効のパスよりも1日当たりの価格が安いためです。
スイストラベルパスとユーレイルパスの比較
今回、スイストラベルパスとユーレイルパス(グローバルパス)を比較してみました。登山鉄道に乗らない場合はおおむねユーレイルパス(グローバルパス)のほうがコストパフォーマンスは良いことがわかりました。さらに、1回の旅行で2か国以上を周遊する場合、(長期間のほうが1日当たりの価格が安いので)ユーレイルパス(グローバルパス)のほうが有利です。
有名な観光列車を除き、スイスの列車は任意指定制で事前の予約は不要です(どうしても席を確保したい場合に座席を事前に予約しても良いのですが)。スイスの観光は自然相手ですので、天候によって機動的に動きたいことでしょう。そのような意味で、鉄道パスの機動性が充分に生きる場所でもあります(同じく任意指定制の国としてドイツやオーストリアがあります)。
それぞれのパスの有効範囲を確認する!
それぞれのパスのスイス国内での有効範囲を詳しく確認したい場合は、以下の記事をご覧ください。