青春18きっぷを妄想する

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青春18きっぷ。格安きっぷの代名詞的存在です。2024年冬からルールが改正されました。このルールは大変な議論を引き起こしています。それを踏まえ、個人的に考える最強のきっぷを妄想しました。

写真1. 18きっぷで乗客集中する区間の一例(2024年4月に醒ヶ井で撮影)

重要

本記事は現行の青春18きっぷの制度を解説したものではありません。こんなルールにしたら?という提言です。その点をお含みおきください。

新・18きっぷの妄想まとめ

写真2. 混雑する平日朝ラッシュ時の様子(2019年に品川で撮影)

18きっぷの妄想を簡単にまとめます。

  • 通年で発売し、「18きっぷシーズン」特有の混雑を分散
  • 1人1枚から発売し、連続旅程に限らないようにする
  • 全国版と地域版に分け、地域版は全国版より割安にする
  • 朝の通勤通学ラッシュを悪化させないようにするため、平日ダイヤ朝は利用不可とする

以下、背景と詳細を記します。

青春18きっぷのルール

18きっぷのルールを簡単にまとめます(表1)。

従来ルール改定ルール
適用路線JR線全線JR線全線
適用列車普通・快速列車普通・快速列車
価格(3日用)設定なし10,000円
価格(5日用)12,050円12,050円
期間学生の長期休み(春、夏、冬)学生の長期休み(春、夏、冬)
備考連続使用に限らない連続使用に限定

もともとの設定意図は、学生の長期休みに空いた輸送力を有効活用するように、格安のチケットを販売したことです。

したがって、長期休みのある時期に限定されます。また、学生の長期休みの時期は長距離移動が増える時期ですので、長距離移動の主力の特急や新幹線にそれらの乗客を乗せないように考慮され、普通・快速列車限定とされました。

会社・事業所側の立場から考えると、この点は納得できます。新幹線や特急列車は割引なしでも多くの乗客が乗る時期です。そんな新幹線や特急列車に大幅に割り引いた乗客を乗せるわけにはいきません。あくまでも空いた輸送力の利用だったのです。

いちおう、同一団体の5日人という建前で制度を設計したのでしょう。しかし、(当初設計では考慮されていない)非同一団体で使いまわすという行動が横行し(例えば、私が3日人ぶん使い、私と面識のないあなたが残り2日人ぶんを使うということ)たためか、連続使用に限るという制限も加えられました。

青春18きっぷの問題点

写真3. 乗りつぎの良好な列車には乗客が大きく流れ込む(2022年12月に静岡で撮影)

青春18きっぷの問題点は以下の通りです。

  • 特定の経路の列車が一時期だけ顕著に混雑する
  • 新幹線開業にともなう、第3セクター鉄道転換にともない、ルールが複雑化した

多くの問題点が挙げられますが、2点にしぼりました。

特定の列車が一時期だけ顕著に混雑する

多くの人が移動するのは、東京-大阪や東京-仙台という大都市間でしょう。普段利用が多い大都市圏ならともかく、普段の利用が少ない地方都市圏ではその利用の差が大きく響きます。

東京地区や大阪地区は大都市であり、その外縁部でも大都市圏にふさわしい輸送力を保っています。そのため、多少乗客が増えたところで余剰の輸送力はあります。しかし、地方都市圏であれば輸送力のゆとりはすくなく、多少なりとも乗客が増えたら、輸送力を上回ってしまいます。

とりわけ、1980年代後半以降は地方都市圏の短編成高頻度化政策により、1列車あたりの輸送力は減らされ、乗りつぎの良い列車が顕著に混雑するようになってしまいました。もちろん、乗りつぎの悪い列車であればそこまで混んでいないので、全体としては輸送力はじゅうぶんに足りているのですが…。

第3セクター鉄道転換によるルール複雑化

新幹線が開業し、並行する在来線が第3セクター鉄道に転換されました。軽井沢-敦賀(篠ノ井-長野を除く)、盛岡-五稜郭、八代-川内という国家の軸となる路線がJRの運営でなくなったのです。

青春18きっぷはJR線全線を利用可能という建前です。そのため、飛び地となったJR線に乗れるよう、一部区間だけ第3セクター鉄道を利用可能というルールになっています。これはJR線全線に乗れるという建前を守りつつ、第3セクター鉄道単独では利用不可という建前、2つの相反する建前を両立させる内容ですが、現実の乗客を正確に区別することは難しいと想定でき、ルールが複雑となった一例です。

青春18きっぷの改善案

写真3. 直江津に停車中の第3セクター鉄道車両(2022年に撮影)

このような問題点を踏まえ、個人的に改善案を提案します。

  1. 学生の長期休みに限定せず、1日用から通年で販売する
  2. 定期券的な利用を防ぐために、平日ダイヤの朝9時までは利用不可能とする
  3. 第3セクター鉄道でも利用可能とする
  4. 1日用は地域限定版を作り、費用負担を低くする

通年での販売に切替

学生の長期休みだから特定時期の列車が混むわけです。それであれば、通年利用可能とすれば、「特定の時期だけ混雑する」という現象は改善されます。これは単純な理論です。

また、複数人数での短期間旅行の需要喚起を考慮し、1日用から設定します。

そうすると、平日朝ラッシュ時にも旅行者があふれ、輸送量が輸送力を大幅に上回る事態になってしまいます。この対応策は後述します。

平日ダイヤ時は朝9時までは利用不可能とする

利用者が集中するのは朝9時までです。高等学校は通常は8時台に授業開始、多くの職場は9時までに始業します。その時間帯は青春18きっぷの利用は不可能とすれば良いのです。朝9時まで利用の場合は普通乗車券を利用するわけです。

これは定期券的利用を防ぎ、需要喚起のために設計する意図もあります。

土曜・休日ダイヤの朝9時前は比較的空いているので、従前どおりに始発列車から利用開始とします。平日ダイヤであっても、4月末~5月上旬のいわゆるゴールデンウィークや8月中旬のいわゆるお盆休みは朝9時ルールを解除しても良いでしょう(この期間は朝ラッシュ時にゆとりがあり、旅行客を受け入れる容量があると想定されるためです)。

なお、夕方は学生の帰宅時間と社会人の帰宅時間が重なることは少ないので、このような制限は導入しません。

補足

例えば、普通乗車券の初乗りきっぷを購入し、朝5時に改札口から列車に乗車。4時間ぶん乗ったところでこの青春18きっぷを使うという不正乗車が想定できます。

  • 正当例. 赤羽8:55→(同区間の普通乗車券購入)→浦和9:04→高崎10:32
  • 不正例. 国府津7:07→(国府津から初乗りで入場)→浦和9:04→高崎10:32

そこで、改札に入場した形跡のない場合は自動改札出場不可ということにします(普通乗車券でも多くある取り扱いです)。この場合、普通乗車券の入場時刻で不正乗車かどうかがわかります。どちらの例であっても高崎で途中下車するときに自動改札を通過不可能、有人改札を通る必要があります。有人改札で駅員が判断するということです。

さらにドライな判断をするならば、朝9時までは改札に入場不可という運用もありかもしれません。上記の例は不可能で、いったん浦和で下車する必要があるということです(この場合は赤羽で下車し、9:00になった瞬間に改札に入りなおすほうが賢明かもしれません)。

第3セクター鉄道でも利用可能とする

ルールが複雑化しています。これはひとえに第3セクター鉄道で利用不可能という大前提があるためです。そうならば、第3セクター鉄道でも利用可能とすれば、このような問題は解消します。

第3セクター鉄道といっても多々あります。ここでは、旧国鉄系の第3セクター鉄道に限定しています。ただし、えちごトキめき鉄道のような「並行在来線」に限定するのか、伊勢鉄道のような「幹線軸」の第3セクター鉄道まで広めるのか、さらに真岡鉄道のような「国鉄~JRが見放した路線」まで広げるのか、これは悩ましいところです。

制度設計をある意味単純にするには、新幹線の並行在来線と両方向で普通・快速列車が直通する路線でじゅうぶんと思います。

地域限定版の発行

これだけの内容を組み込むと、1日用の価格は高くなります。並行在来線を組みことによる営業キロは約3%増加(約20,000kmに600kmが加算される)、それだけ本体価格にも反映される必要があります。また、1日用の場合は単価を上昇することになり、(朝9時まで利用不可という制約を加味しても)下記の価格とせざるを得ないでしょう。

表2. 新・18きっぷの価格想定

有効日価格
1日用5,000円
3日用10,500円
5日用12,500円

これでは気軽に移動するという目的にはそぐわないかもしれません。そこで、地域限定版を設定し、各地方で4,000円で利用できるようにするのです。地方というのは、日本の区分で習う、北海道、東北、関東、中部(三重を含まない)、近畿(三重を含む)、中国、四国、九州というものです。

2つの地方にまたがる場合は、全国版でカバーできるという算段です。

補足

例えば、東海道線は東京-湯河原は関東地方、熱海-関ヶ原は中部地方、柏原-神戸は近畿地方に区分されます。では、境界の湯河原-熱海、関ヶ原-柏原はどうするのでしょうか。1つは、境界区間はどちらかの区分とすることです。湯河原-熱海は関東地区との結びつきが強いので関東用に含めるという考えです。もう1つの考えは、両方に属するという考えです。湯河原-熱海は関東用と中部用の双方の有効範囲に含ませるという考えです。

さらに、主要駅で区切る方法や境界付近の主要駅を重複させる方法もあります。

補足. このアイディアのきっかけ

写真4. ドイツの地域パスでもDB以外運営の鉄道も利用可能(クヴェードリンブルクで撮影)

このアイディアは私の独断ではありません。実は先例が存在します。それは、ドイツ連邦共和国です。ドイツでは普通列車のみ利用の1日乗車券が通年で販売されており、平日は朝9時以前には利用不可能です。そして、州ごとに販売されており(都市州は周辺の州でカバーされる)、特急相当や新幹線相当は利用不可能です。

このように安い乗車券で利用客を通年で確保し、(ある程度の頻度をカバーしなければならない)日中時間帯の乗車率を確保しているのです(複数人数での割引を日本の自動改札システムに組み込むの脳みそがなく、そこだけは悩んでいます)。

このようにして、自動車から鉄道へのシフトを多少なりとも狙い、鉄道利用者の維持・拡大に向けて1つの提言をさせていただいた次第です。